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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【第二幕】
85/124

Aqua Hand in Joker: Rise of the Heroes(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:ライズ・オブ・ザ・ヒーローズ)〈後編〉

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


カルテットデスゲームを利用し、脱落者を助ける作戦に乗り出したヴェイルとストリクス。


その中で選ばれたネリカは——

仲間を信じて、自分の信じた道を歩む為に、剣を向ける。


《Death of the Academia》をお楽しみください

リオライズは、腰のポーチから二本の小瓶に入ったポーションを引き抜いた。

風魔法を撫でるようにひと息吹きかけると、瀕死の二人の唇へそっと運んだ。


「それ、アラリックさんが作ってくれた、“キズグスリ“っす。ただ、効く保証はないがな。とのことでした」


ゴクゴクと、喉を鳴らしながらポーションを飲み干し、小瓶はあっという間に殻になる。


だがその中で、“アラリック”という名前に疑問を覚えた。


「そういえば、アラリックは……どうしたんだ? 一緒じゃないのか?」


二人の体が温かい光に包まれる。

ストリクスは抉れた肩と、切り裂かれた腹が、徐々に元に戻っていった。

ヴェイルは、目立った傷は無かったが、体に力が入るようになっていた。


「アラリックさんは、ここよりも大きい舞台——コロシアムで、ネリカさんと肩を並べて戦っています」


その言葉を聞いた二人。

ストリクスはより一層、目を輝かせ、ヴェイルは堪えていたはずの涙が静かに溢れ出た。


その様子を見たリオライズは、少しムッとした表情で苦言を口にする。


「ちょっ……! 俺が助けに来た時より感動してません!? 地味にショックなんすけど!」


そう言われた瞬間、慌てふためいた顔で二人は、顔を合わせる。


「悪い! そういう訳じゃなくてよ。アラリックが来てくれたのは、正直言って一番嬉しい……」


ヴェイルが焦って弁明するも、最初に出てきた言葉は、信頼と友情が紡いだ絆を喜ぶものだった。


「でも何より、ネリカが生きてたことと、お前のお陰で俺達が生き延びれたことに、感謝してたんだ……」


ストリクスが、同情するように何度も大きく頷く。

そんな二人の仕草に、「ありがとう」と心の中でお礼を言うと、前を向いた。


「じゃっ。こっちも早く終わらせて、ネリカさんの勇姿を見に行きましょう!」


首を二つ失ったケルベロスが、滝のように流れる血を出しながら、立ち上がる。

リオライズは、拳を固めて風を裂くように駆け出した——



コロシアムでは、ネリカ達もまた絶体絶命の窮地に、立たされていた。


フラーナの魔術は、燃え盛る太陽そのものだった。

視界は歪み痛みさえ伴い、肌の奥まで熱が染み込む。

全身の水分が一瞬で奪われるような灼熱。


ネリカは必死に水魔法を放つが、炎を消すどころか、その水は触れた瞬間に蒸気へと変わっていく。


“もう無理だ……”

そう悟ったネリカは、背を合わせていた結晶化アーサーに静かに告げる。


「もし……僕が死んでも、貴方は絶対逃げてくださいね……」


フラーナの炎がこれ以上ないほど膨れ上がる。

頭が霧に覆われたように、霞む。

目眩が襲い、立っているのも限界だった。


その光景に、グランが剣先を向けると、重い一歩を踏み出した。


ネリカは、強く目を瞑る。

——その一瞬で、結界の向こうから何者かが飛び込んでくる気配を感じた。


轟音とともに、コロシアムの屋根を突き破り、鋭い土の刃がグランの足元へ円を描く。


続けざまに、洪水のような水流が降り注ぎ、フラーナを一瞬で呑み込むと、アリーナ全体が湖へと化した。


「厄介だ……まだ生きていたのか――アラリック・オーレル!」


グランは、怒りと屈辱にまみれる低い声で叫ぶ。


ネリカは驚きで、湖面に身を投げ出すように浮かび、ただ困惑していた。

その時、彼の肩を叩くように結晶化アーサーが、天を見上げた。


「アーサー……」


アラリックは、ネリカよりも先に、結晶化となったアーサーを、見据える。


彼にも見えていた。

かつてネリカが見たような、人間の姿をしたアーサーの幻影を——


「グラン、貴様は、僕が記憶を遡ったことで、”自害する”とでも思っていたようだが……残念でしたね」


恩人を失った悔しさは、胸の奥で疼き続けている。

自分の犯した罪も許したわけじゃない。

それでも彼は、前を向いて自分の信じた道を、歩き続ける男だった。


屋根を貫いた破片の間から、アラリックは湖のアリーナへ身を投じる。

足を着く湖の一部を氷結させ、「カァン」という美しい音が響く。

細やかな水飛沫が舞うと、ネリカの目は一瞬で釘付けた。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとう」


まだ、動揺は隠しきれない。

だけど、この人は僕だけじゃなくて……結晶化さんのことも守ったんだ。


「……フラーナの相手は、僕がしてあげるので。貴方はグランの相手をお願いします」


久々の再会で、早速無視されて……というか、会話になってなくない?

でも不思議と分かる。この人が、一番に学園の謎に気付いてあの三人を救ってくれた英雄だと……


僕は湖に腕を沈め、揺らめく水面を凍らせる。

氷はやがて一筋の槍となり、僕の手に宿った。


体内の水分が回復すると、グラン先生に向けて、切先を向ける。


「君の名前……聞いても良い?」


一度、対人戦で会ったことはあったけど、すっかり忘れてしまっていた。


大きくため息を吐く彼。

そりゃそうだ……天才にとって、一度顔を合わせた人の名前を忘れるなんて、失礼どころの話じゃない。

だけど、案外すぐに教えてくれた。


「アラリック……アラリック・オーレル。無駄口は良いから、早く終わらせましょう」


「うん! ありがとうアラリック。必ず勝とう」


その時、結晶化さんが天に帰っていくように、舞い上がった。

まるで、役目を果たしたかのように……


「ありがとう……結晶化さん。僕達、必ずこの試練を乗り越えますから」


二人の救世主に守られ、ネリカ達は再び胸に光が灯る。

記憶持ち(リノ・ネリカ)奪還作戦、遂にクライマックスへ――

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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