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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【第二幕】
82/124

Aqua Hand in Joker: Alliance for a New (アクア・ハンド・イン・ジョーカー:アライアンス・フォー・ア・ニュー・バトル)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


カルテットデスゲームを利用し、脱落者を助ける作戦に乗り出したヴェイルとストリクス。


その中で選ばれたネリカは——

仲間を信じて、自分の信じた道を歩む為に、剣を向ける。


《Death of the Academia》をお楽しみください

「アラリックさん……これは……」


森を抜けた先、月光が差し込む開けた空間に、重い空気が入り浸っていた。


白銀の毛並みに、赤い瞳。

一見愛らしい子犬——だが、それは数匹ではない。

百を超える群れとなり、溢れ出した。


彼等を囲むと、最前列の一匹が飛びかかった瞬間——

リオライズの拳が、子犬の体を骨ごと貫いた。


同時に奔った風属性の斬撃が群れをまとめて裂き、飛び散る血は、夜光のように赤く輝いていた。


アラリックは地を踏み締め、魔力を送る。

次の瞬間、地面から土柱が幾本も突き上がり、串刺しになった子犬達が空中で揺れる。


——その光景は、彼の辿った記憶と酷似していた。

師を殺めてしまった、あの時と。


「一気に全員倒さないと……ジリ貧っすね……!」


こいつらから、微かに火属性の魔力を帯びている……

親玉はフラーナか……? 


いや、違う……もう一匹いる。


アラリックの分析に、呼応するように茂みの奥から、地響きが近づく。

赤い触手が、地を引きずりながら蠢いている。

それはタコの脚だ。


そしてそれは、スカートのように下半身を纏い、その奥に人間の形をした二本の長い脚を隠している。


首を大きく傾けて、ようやく月明かりが照らされて全身が映る。

肌には吸盤を携え、クラゲめいた透明な水色のビキニをまとっていた。


「生臭い……」


アラリックの直球すぎる言葉に、思わずリオライズは即座に、突っ込む。


「今、気にするとこ絶対そこじゃねぇ……!」


すると――

周囲を囲んでいた子犬達が、まるで水に吸い込まれるように触手の吸盤へと消えていく。


唖然としながらも、二人は肩を並べて再び武器を構えた。


「じゃあ。この生臭野郎をぶっ飛ばして、ヴェイルさん達と合流しましょう!」


「時間は掛けない……秒で終わらせる」


過去を超えた力を宿し、二人は化け物へ向かって一歩踏み出した——



「良いのか? 今ならまだ……」


「何度問われても、答えが変わることはありませんよ。僕は仲間を……信じていますからっ!」


背景は、コロシアムへ移る。


ネリカの牙が閃き、グランの頬をかすめる。

倒れかけた瞬間、空を裂いた剣先から氷が咲いた。


澄んだ水色が、コロシアムの空気を切り裂き、無数の結晶へと砕けて一斉に放たれる。


「どういうことなの……? 君は、誰なの」


氷は意思を持ったように、軌道を変えながら、グランと剣を交えていく。


ネリカは徐々に、その結晶が人のように見え始めた。

青い髪に、紫水晶の瞳。まるで、彼も何かに抗って戦っているようだった。


ネリカは、その姿に目を光らせる。

誰とも知らない自分を助けてくれるその姿に——


一方グランは、もうひとつの属性魔力の正体を既に理解していた。


アーサーの奴め……余計な真似を。

ティオル達は、何をやっているのだ……!


じっとしている自分が、段々と申し訳なさで押しつぶされそうになる。

その時、自然と右足が動いた。


あの人も、ヴェイル達の仲間なのかな……? だったら――

僕も戦わなきゃ……! あの人に、任せっきりじゃ絶対に勝てない!


駆け出そうとした瞬間、ひとつの記憶が蘇る。

それは、この学園へ入学までに至る一部の記憶――


リノ・ネリカ。

ごく普通の学生で、普通の学校で属性魔力の勉強をしていた。


選別もなく、呆れるほど平和な世界で、彼は生きていた。

しかし、そんな日々は突如壊れ始める。


リノ・ネリカが十七歳のとき――

夜が更けたある日。ふと目を覚ますと、衝撃な光景が映った。


赤く染まる夜空と人々の悲鳴で、ネリカは飛び起きる。

逃げ惑う住民を、迷わず腕を振り下ろすのは——

狐色の頑丈なレンガでできた体に、肩や足の甲にはかがり火を携えてたゴーレムだった。


一振りごとに、必ず舞い散る灰と骨。

動揺しながらも、ネリカは声を張る。


「落ち着いて! 戦える者は僕に続いて、戦えない者は安全な場所に避難を!」



そうだ……僕は知りたかったんだ。あれだけ平和だった故郷がなぜ襲われたのか。

なのに——今は守られる存在に成り下がってしまった。


でも、もう迷わない。

この人がなぜ選別に執着するのか……その答えを、この目で知るために。

必ず勝つ。そして、皆でここを出るんだ――!


そして、ネリカは駆け出す。

その時、幻覚で見えていたアーサーの影と目が合った。

「一緒に戦おう」そう言って腕を伸ばしてくれる手を取るように――


「はぁぁ!」


氷をまとった剣を薙ぎ払うように、首筋へ螺旋描く。

同時に、背後に回った結晶化アーサーが、空中で結晶片を弾丸のように放ち、背後からグランの背中を撃ち抜いた。


グランの傷口は淡く結露し、瞬時に凍りつく。

ネリカが振り抜いた剣も、首筋から頬にかけて大きく斬り裂いた。

砕けたメガネの破片が地面を跳ね、グランは片膝をついた。


不思議だ……まだ名前も知らない貴方と、息ぴったりで戦えるのは、僕に属性魔力を譲渡してくれたお陰なの……?


「もう、降参してください! このままでは、貴方は死んでしまう。僕も、貴方を殺す為じゃない……真実を知りたくて戦っているんです!」


ネリカの声に、グランは低く笑い始めた。

次第に、大きな嗤いに変わり不気味な眼差しでネリカに言い放つ。


「愚かよ……! 貴様の、貴様等の慈悲深い救済など……こちらから願い下げよっ!」


次の瞬間、背後から焼け付くような魔力が迫る。

結晶化アーサーが押し倒すようにネリカを地面に伏せさせ、爆炎の閃光が目の前を駆け抜けた。


「――なっ……」


「遅くなりました……グラン先生」


冷ややかで、落ち着きのある女性の声。

振り返ると、赤髪にセーラー服をまとうフラーナだった。


「……狙いは、これか!」


「フフフフ……! それでは始めよう――貴様の願いが押し通るか、俺達の選別が優先されるかを賭けて!」


新たな救いの手と、新たな刺客。

ネリカと結晶化アーサー、グランとフラーナの戦いの結末は――

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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