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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【第二幕】
81/124

Aqua Hand in Joker: Trust and Valor(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:トラスト・アンド・ヴァラー)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。


一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——

二人の青年が、大きな賭けに出る。


《Death of the Academia》をお楽しみください

そっか……ここで「はい」と答えれば、きっと生き延びることは……出来る。

だけど、その時点で……僕は”僕”じゃなくなり、ただの操り人形として、生かされるだけ……


「復活ですか……いいお話ですが、僕には分かりません」


第三の選択肢——

僕が選んだのは、「“はい”」でも「“いいえ”」でもない。

曖昧にして、相手の思考を探ること。


きっとこの人は、自分の思い通りに行かないなら殺す手段を取ってくる。


だから敢えて僕は、こう問うんだ――

そこに入れば、僕に利益はあるのかと。


「どういう意味だ……?」


「そのままの意味です。だけど、もし貴方達に寝返るとするなら、それに見合った”対価”が僕に支払われるんですよね?」


これでもう……後には引けない。

あの二人が助けに来るまで、時間を稼ぐことしか出来なくなった。


「もちろん、貴方達の活動が”世界”の為、”人々”の為と言うのなら喜んで協力します」


グランの問いに、ネリカは真っすぐ全力で、今の想いをぶつけた。


「――でも、貴方達のやろうとしていることは、絶対に間違ってる! 人々を選別するくらいなら、どんな属性持ちも住みやすい環境を作れ!」


刹那――

胸の奥で、熱が暴れるようにうねった。


「うっ……」


それは“記憶持ち”の誰もが通る、呪いの代償。

闇の魔力が内側から暴走を始める。


しかし、その時だった。

自分とは別の、水属性魔力が、闇の魔力を押し返しているようだった。


「これは……あの時の属性魔力? 誰かが、助けてくれたの……?」


その瞬間――

目の前に鋼の牙が振り下ろされる。


「ネリカ! 伏せろ!」


後ろから聞こえるその声に、反射したネリカ。

彼は、答えるように姿勢を屈める。


すると二つの爆炎玉が、グランの握っていた剣を制止した。


小さな爆発音が監獄に響くと、声の正体を確かめるべく、ネリカは振り返った。



――そこには、裏切ったと言われたヴェイルとストリクス。

二人が剣を持って、自分を助けようとする姿が視界に映った。


「チッ……小細工を」


ネリカは、自分の信じた結果が間違っていなかったことへ安堵する。


しかし、その安堵も一瞬。

床に淡く広がる白い魔法陣が、ネリカとグランを包み込む。


「まさか……っあいつ!」


ストリクスが真意に気付く——


グランは、唇の端を吊り上げる。

まるで全てを見透かしていたかのように、勝ち誇った“狐の笑み”を浮かべていた。


ポータル……! また誤算だった……これじゃあ、どう足掻いてもネリカに届かない……


徐々にネリカとグランの体が消えかける。

それはどこかへ転移されることが示唆されていたからだ。


その光景に、ヴェイルが必死に叫んで、声を届けた。


「負けるな、ネリカ! 剣を取って戦え! もしも、本当にこの世界が、間違っていると思うなら……!」


そして、白く輝く光柱の中心で、空間が悲鳴のように軋む。

その歪みの中で、ネリカとグランの輪郭が、溶けるように姿を消した。


間もなくして、地下監獄で耳を劈くような咆哮が響き渡る。


「やっぱり、道中何も仕掛けなかったのは……これがあるからか……!」


獄中を蹴って、ケルベロスの魔獣が目を光らせて、ヴェイル達を見る。


黒曜石のような体に、濁ったような白い角が二本。

牙の隙間から滴るよだれは、白い息を吐きながら狩りを待ち望んでいるようだった。


「しかも厄介だ……こいつら、僕達を挟み撃ちにして、完全に仕留めるつもりでいる」


後ろを振り向けば、もう一体のケルベロスが、獄中の扉を切り裂いて迫る。

二人は、互いに背中を合わせて言葉を交わす。


「足手まといになるなよ、相棒!」


「そっちこそ、下手なことして僕を巻き込まないでね。三下!」


皮肉混じりに、互いが罵っている。

しかしその言葉の感情の中には、信頼あっての物しかなかった。



転移の光が消えた次の瞬間、ネリカは再び”あのデスゲームが始まったコロシアム”を目にした。


「凄い自信ですね。まさか元の場所に転移するなんて……」


普通なら、僕を学園じゃないどこかへ連れ去って、人目につかない場所で殺すはず……

でも、それをしないってことは、選別の一環なのか……?


「あの程度の魔獣に、絶対的信頼を置いているのは……何故ですか?」


選別をやる意味も、真意も分からないまま、ネリカは自身の中で考えるしかなかった。

不思議と体が楽になっていく感覚――コロシアムは、深い静寂に包まれる。



「貴様は、”対価が無ければ、俺達の組織には入らない”と言ったな……」


緊張が入り浸る空間で、グランは静かに呟く。

そして、続けて彼はネリカに条件を持ちかける。


「では、貴様がこちらへ来た暁には、今この学園で縛り付けている生徒全員を解放する……悪い案では無かろう」


「そうすれば、今魔獣に襲われてるヴェイル達も、解放してくださるんですね?」


首を縦に振るグラン。

しかしネリカの中では、ヴェイル達が駆けつけてくれた瞬間に答えはひとつしか決まってなかった。


「お断りします! 貴方との口約束など、信用できません。なら、一部の望みを賭けて僕は戦う!」


思い切り剣を構えて、グランに向ける。

今までの騙してきた怒りと、仲間への信頼を勝ち取る為に——


グランは大きくため息を吐く。

彼にも思惑があるように、呆れや軽蔑のような目を向けた。


「残念だ……リノ・ネリカ」


そして手を高くあげて、指を鳴らす。

それが、第二幕の戦いの合図を呼ぶように——


グランの合図に呼応するように、ストリクス達を狙う魔獣も動き始める。

自分達をめがけて突進するケルベロスに対し、高く飛躍して宙に舞う。


勢い余った二匹の頭が衝突した瞬間——

ヴェイルが爆炎玉を打ち込む。


「喰らえ……!」


しかし、術は一瞬にして、原型を無くす。

ケルベロスの右の首が、まるで飴玉を噛み砕くように爆炎玉を丸呑みする。


——そして次の瞬間、喉奥から逆流するように、灼熱の閃光となってヴェイルへと吐き返した。



「……っ。危ねぇな!」


華麗に回避した衝撃で、カルテットデスゲームに受けた古傷が痛む。

監獄の天井が破壊され、隙間から夜空の光が差し込んだ。


「大丈夫か……! ヴェイル」


「あぁ、問題ねぇ!」


でもやっぱり痛てぇな……あのダイナマイトは、自分の”寿命”と引き換えに高威力を叩き出す。

——万一、共倒れの危険を感じたら迷わず……もう一発お見舞いしてやるぜ……!


リノ・ネリカの決意。

そして遂に、記憶持ちの人間による新しい仲間の奪還作戦が幕を開ける——

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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