Aqua Hand in Joker: Two Pair Light Rope(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:ツー・ペア・ライト・ロープ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。
一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——
二人の青年が、大きな賭けに出る。
《Death of the Academia》をお楽しみください
暗闇に漂う、星屑のような光と、幾千の声。
怒りと悲しみ、温もりと慈しみ——誰の記憶なのかも分からない。
しかし、その全てが渦巻き、耳の奥に直接流れ込んでくる。
ここがどこなのか、なぜ声が聞こえるのかも分からない。
ただ、何かが確かに届いていた。
「じゃあ始めようぜ! 二期生イベントを……!」
——そして、目が覚める。
重い瞼をゆっくりと上げて、辺りを見渡す。
そこは、自分の寮の部屋だった。
隣には、ストリクスが静かに座り、心配そうにこちらを見ている。
包帯で巻かれた体。
俺はすぐに、状況を理解した。
「ネリカは、どうなった……! あれから、何日経ったんだ!?」
焦るヴェイルの手を、そっと押さえるようにして、ストリクスが言った。
「落ち着いて……ヴェイル。あの授業が終わってから、数十分しか経ってないから……」
その声色には、確かな安堵と疲労が入り混じっていた。
「ヴェイルには悪いけど、もう時間は残されてない……ネリカを助けるなら、その体を無理矢理でも動かして、作戦に移らないと」
窓の外は、日が落ちかけていた。
薄暗く、不穏な空気が漂い始める。
「あぁ……大丈夫だ。“アラリック達がいなくても、出来るんだぞ”って分からせてやるチャンスだしな!」
待ってろ……クソ教師ども。
俺等が必ず、目にもの見せてやる!
一方その頃――
追憶の海底にて、自身の過去と向き合い、前に進んだ二人の青年。
アラリックとリオライズ。
彼等は、学園で待つヴェイルとストリクスの元へ、駆け出していた。
「そういえば、アラリックさん。故郷はここの近くでしたよね?」
複雑な森の一本道を、華麗にくぐり抜けながら、リオライズが問いかける。
そう――アラリックも、北の大地で生まれ育った者。
追憶の海底の存在を知った時から、微かにも意識してしまっていた。
「もちろん、あの二人の現状が、この場で知れるなら行きたいけど……今は問題ない」
……この人、気を遣ってくれたのか? 他人の故郷を差し置いて、自分だけみたいな。
――分かんない。だけど、きっとそれが……今のアラリックさんにとって、最善手なんだろうな。
「そうですか……じゃあ帰りましょう。学校へ……二人が待つ戦場へ――」
***** ****** ******
やっぱり僕が間違ってたのかな……
あの二人は、利害が一致していなくてあんなことに。
ネリカは、爆発に飲まれ意識を手放した後――一枚の置手紙で全てを悟った。
ヴェイルとストリクスが意気投合して、この世界の謎に踏み込もうとする僕を、助けようとしたんだと思ってた……
でも、実際には違ったんだ。
その手紙には、グランからこう書かれていた。
ストリクスは、何かの目的のために動いている。
そしてその達成のために、貴様を助けたに過ぎん。
一方でヴェイルは、貴様の邪魔が入らぬよう始末しようとした。
どうやら、自分以外の仲間が増えることに、突如として嫌悪感を覚えたらしい。
もしも、自分を貶めた人間が憎いなら、我々に協力し敵を討て。
なんで、ただの先生が……こんなことまで知ってるんだろ。
本人たちに直接聞いたのかな……?
でもいいや、別にそこまで憎んでないし……“僕はもう死ぬ覚悟が出来ているんだから”
だが心のどこかで、この手紙の内容を否定していた。
「妄言であってほしい」と願いながら、彼は扉がノックされる音を聞いた。
「ここが……?」
遂に、作戦実行に移るヴェイルとストリクス。
彼等は、ネリカが終わりを迎え、かつての犠牲者も足を踏み入れたであろう地《地下監獄》に続く道を、ストリクスが見つけていた。
「あぁ……正直盲点だった。まさか職員室に、“隠し通路”が存在するなんて……」
「よく分かったな、ストリクス。でも、こんだけセキュリティが甘いってことはよ……」
二人が顔を見合わせた。
互いに通じ合うように、ゆっくりと頷いた。
「用意周到で、ここへ僕達を導くつもりだ。きっとこの先に……ネリカも」
「罠がどんだけあろうと知ったことじゃねぇ。何があっても必ず勝つ……!」
互いに拳を合わせてグータッチを交わす。
そして——
隠し通路へ、二人は身を投じた。
そして、ネリカは一足先にグランに連れられ、地下監獄を歩いていた。
錆びつき、腐敗した匂いが鼻を刺激する。
彼は悟った。
そうか……アイレンも、この人たちの思惑通りに殺されたのか。
Ⅰ組の最初に脱落した人も、きっと――
そしてグランは、ネリカに対し一つの質問を投げかける。
「リノ・ネリカ。――貴様も、我々の組織で復活するつもりはないか?」
その問いかけに、ネリカの心は揺れる。
相手に寝返り、生を続けるか。寝返ることなく、死を受け入れるか。
それとも――
一か八か、仲間を信じて戦うか。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




