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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【第一幕】
79/124

Aqua Hand in Joker: Dynamite and Step(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:ダイナマイト・アンド・ステップ)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。


一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——

二人の青年が、大きな賭けに出る。


《Death of the Academia》をお楽しみください

あれから何時間経っただろう。

まだ誰も、脱落する気配なく、剣を振り杖をかざして術を放つ。

唯一ヴェイルだけが、レンリーに入れられた蹴りによって、大怪我を負いながら戦っているくらいだった。


ストリクス……もうネリカの説得が終わったのか!?


ヴェイルはレンリーとの応酬の中で、チラリと視線を送る。

ストリクスが強く頷き、そこから繰り出されるネリカとの戦闘は、明らかに歪み始めていた。


……クソ。俺も早く、レンリーの隙を作らないと


ヴェイルは防戦一方。

痛みに叫び出しそうな体を必死に操り、剣撃を読み、防ぎ、受け流す。


その時だった。

ふとした攻防の合間に、レンリーの動きに既視感を覚える。


こいつ、さっきから行動パターンが——同じだ。


最初は、五連撃の後に鎖の鞭。

次は土柱を盾にして……蹴りだ。

最後は、剣と体術の応用からの……また空中からの蹴り技。


三つ……たった三つの、行動パターンだ。

今まで気付かなかったけど、分かってしまえば三つに絞られる……!


ヴェイルの口が、ニヤリと笑みを描いた。


「数に限りがありゃ、簡単だぜ!」



ネリカとストリクスは、ヴェイルが再び立ち上がり、明らかに生き生きとした彼の動きを横目に、対話を始める。


「ねっ。ヴェイルは、何度も壊れて何度も復活する最強のカードだ。

今、目の前にいるレンリーの動きの意図に気付いて、一度壊された体なんて無かったみたいに美しいでしょ」


剣を交えながら、度々見えるヴェイルの奮闘する姿を目視する。

あれだけ絶望な状況に置かれても尚、自分の為に仲間の為に剣を振る姿は、ネリカの心を激しく震わせた。


「……凄い。絶望が前提のこの舞台で、あれほど立ち向かえるなんて……”逃げる”なんて言葉、あの人の辞書にはきっと無いんだ」


僕もなってみたい……何にも恐れず前だけを向いて挑戦し続けられる戦士に――


行ける……! レンリー、お前の行動パターンが分かった今……怖い物は何もない。例えアドリブで誘い込もうとしても……!


防戦一方から、一変。

ヴェイルは相手の動きと、それに生じる隙を正確に分析し、攻撃を放つ。

レンリーの行動二パターン目に発動される、土の柱。

“待っていた”と言うように、剣にまとう炎が更に燃え上がる。


最初の一本を、炎を纏った剣で斜めに断ち割る。

二本目は、既に崩れかけた形を的確に突き、熱とともに砕いた。

三本目――レンリーが隠れようとした瞬間を狙い、剣が突き刺さるように真っ直ぐに貫いた。


燃え上がる剣の光に、レンリーの瞳が揺れる。自分が見誤った――


そう理解した時にはもう遅かった。


咄嗟に剣で身を守ろうとするも、ヴェイルの熱は負ける訳がなかった。


「行っけぇぇぇぇぇ!」


燃える炎が、レンリーの体を振り抜いた。

返り血がヴェイルの顔に飛んでくる。

激しく吐血し、地が割れるほどの衝撃音とともに、レンリーは叩きつけられた。


全員の視線が、ヴェイル達に向けられる。

一瞬の隙を逃さず、全速力でストリクスの元へ駆けていく。


作戦の始まりは、もう間もなくだった――


あと少しで、作戦が開始される。

刹那――大怪我を負ったレンリーがまだ、最後の力を振り絞って立ち上がっていた。


そして、鎖鞭がヴェイルの足に直撃する。衝撃と痛みで、ヴェイルは転んでしまった。


でも彼は笑っていた。

“そうなることも想定内かのように”――


体を起こし、剣を地面に突き刺して、ヴェイルは叫んだ。


「ダイナマイト・イグニッション!」


刺した切れ目から、大噴火のような爆発がコロシアムを巻き込んだ。


世界が、熱と音に呑み込まれた。

鼓膜が焼き切れそうな轟音、視界を真っ白にする閃光、肌を刺す熱気。

ネリカとストリクス以外の生徒達は、全員爆風で吹き飛ばされていく。




爆発から数分が経ち、周りの景色が見えるようになってきた頃――


目の前には、血を流しながら倒れているネリカ。

だが、何かを訴えるように——ヴェイルを真っ直ぐ見つめていた。


重症を負いながらも、立ち続けるストリクス。

後悔と決意が入り混じる表情でネリカをじっと見据えていた。


そして、同じチームの生徒達からは軽蔑の瞳。

ストリクスと同じチームの生徒達からは、化け物をみるような瞳だった。


これが俺の、諸刃の剣……

良いんだ……俺がどんな目で見られても、この世界が元の平和を取り戻せるなら、何者にだってなる覚悟はあったから……


「そこまで! 脱落者は――“リノ・ネリカ”に決定する!」


グランの声が響くと同時に、ゼオンがヴェイルに向かって歩み寄ると、拳を彼の顔に振り下ろした。


「何を……何をしている! ネリカは……あんなにお前を信じてたのに……!」


何度も振り下ろされる拳、頬と頭を殴られ続ける。

反撃は一切しなかった。傍から見れば、有り得ないことをしたのだから。


ゼオンの指先が、段々と赤く染まっていく。

それを見たストリクスは手首を握って、殴るのを止めた。


「辞めてゼオン。これ以上、ヴェイルを殴っても仕方ないよ」


握られた手首を振り払って、ゼオンは声を荒げる。


「こいつは、裏切り者だ! ネリカや俺達を裏切って、お前等のチームについたんだ!」


「違う。――あの爆発がネリカに当たったのは、僕が原因だ」


ゼオンは突如、困惑した表情を浮かべる。

ストリクスは、あの爆発の瞬間を語る。


「あの爆発が起きる直前、ヴェイルは僕に向かって爆発を起こそうとした。それを理解した僕は、目の前にいるネリカを盾にして、自分の傷を最小限に抑えた……」


「じゃあ、最初から……お前を狙って……?」


「そう……だから、ヴェイルに手を上げるのは辞めてあげて」


ゼオンは、殴った手を強く握る。

血が滴りながら、唇を噛みしめながらコロシアムを後にした。


これで良い……ありがとうヴェイル。

ここからは、実力だけで希望の道を開かなくては……


ヴェイルとストリクスの作戦により、ネリカを記憶持ちの人間として覚醒させる道を開いた。


そして、カルテットデスゲームの幕は降りる。

二人は新たな戦場の扉へ、足を踏み入れるのだ――

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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