Aqua Hand in Joker: Dynamite and Step(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:ダイナマイト・アンド・ステップ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。
一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——
二人の青年が、大きな賭けに出る。
《Death of the Academia》をお楽しみください
あれから何時間経っただろう。
まだ誰も、脱落する気配なく、剣を振り杖をかざして術を放つ。
唯一ヴェイルだけが、レンリーに入れられた蹴りによって、大怪我を負いながら戦っているくらいだった。
ストリクス……もうネリカの説得が終わったのか!?
ヴェイルはレンリーとの応酬の中で、チラリと視線を送る。
ストリクスが強く頷き、そこから繰り出されるネリカとの戦闘は、明らかに歪み始めていた。
……クソ。俺も早く、レンリーの隙を作らないと
ヴェイルは防戦一方。
痛みに叫び出しそうな体を必死に操り、剣撃を読み、防ぎ、受け流す。
その時だった。
ふとした攻防の合間に、レンリーの動きに既視感を覚える。
こいつ、さっきから行動パターンが——同じだ。
最初は、五連撃の後に鎖の鞭。
次は土柱を盾にして……蹴りだ。
最後は、剣と体術の応用からの……また空中からの蹴り技。
三つ……たった三つの、行動パターンだ。
今まで気付かなかったけど、分かってしまえば三つに絞られる……!
ヴェイルの口が、ニヤリと笑みを描いた。
「数に限りがありゃ、簡単だぜ!」
ネリカとストリクスは、ヴェイルが再び立ち上がり、明らかに生き生きとした彼の動きを横目に、対話を始める。
「ねっ。ヴェイルは、何度も壊れて何度も復活する最強のカードだ。
今、目の前にいるレンリーの動きの意図に気付いて、一度壊された体なんて無かったみたいに美しいでしょ」
剣を交えながら、度々見えるヴェイルの奮闘する姿を目視する。
あれだけ絶望な状況に置かれても尚、自分の為に仲間の為に剣を振る姿は、ネリカの心を激しく震わせた。
「……凄い。絶望が前提のこの舞台で、あれほど立ち向かえるなんて……”逃げる”なんて言葉、あの人の辞書にはきっと無いんだ」
僕もなってみたい……何にも恐れず前だけを向いて挑戦し続けられる戦士に――
行ける……! レンリー、お前の行動パターンが分かった今……怖い物は何もない。例えアドリブで誘い込もうとしても……!
防戦一方から、一変。
ヴェイルは相手の動きと、それに生じる隙を正確に分析し、攻撃を放つ。
レンリーの行動二パターン目に発動される、土の柱。
“待っていた”と言うように、剣にまとう炎が更に燃え上がる。
最初の一本を、炎を纏った剣で斜めに断ち割る。
二本目は、既に崩れかけた形を的確に突き、熱とともに砕いた。
三本目――レンリーが隠れようとした瞬間を狙い、剣が突き刺さるように真っ直ぐに貫いた。
燃え上がる剣の光に、レンリーの瞳が揺れる。自分が見誤った――
そう理解した時にはもう遅かった。
咄嗟に剣で身を守ろうとするも、ヴェイルの熱は負ける訳がなかった。
「行っけぇぇぇぇぇ!」
燃える炎が、レンリーの体を振り抜いた。
返り血がヴェイルの顔に飛んでくる。
激しく吐血し、地が割れるほどの衝撃音とともに、レンリーは叩きつけられた。
全員の視線が、ヴェイル達に向けられる。
一瞬の隙を逃さず、全速力でストリクスの元へ駆けていく。
作戦の始まりは、もう間もなくだった――
あと少しで、作戦が開始される。
刹那――大怪我を負ったレンリーがまだ、最後の力を振り絞って立ち上がっていた。
そして、鎖鞭がヴェイルの足に直撃する。衝撃と痛みで、ヴェイルは転んでしまった。
でも彼は笑っていた。
“そうなることも想定内かのように”――
体を起こし、剣を地面に突き刺して、ヴェイルは叫んだ。
「ダイナマイト・イグニッション!」
刺した切れ目から、大噴火のような爆発がコロシアムを巻き込んだ。
世界が、熱と音に呑み込まれた。
鼓膜が焼き切れそうな轟音、視界を真っ白にする閃光、肌を刺す熱気。
ネリカとストリクス以外の生徒達は、全員爆風で吹き飛ばされていく。
爆発から数分が経ち、周りの景色が見えるようになってきた頃――
目の前には、血を流しながら倒れているネリカ。
だが、何かを訴えるように——ヴェイルを真っ直ぐ見つめていた。
重症を負いながらも、立ち続けるストリクス。
後悔と決意が入り混じる表情でネリカをじっと見据えていた。
そして、同じチームの生徒達からは軽蔑の瞳。
ストリクスと同じチームの生徒達からは、化け物をみるような瞳だった。
これが俺の、諸刃の剣……
良いんだ……俺がどんな目で見られても、この世界が元の平和を取り戻せるなら、何者にだってなる覚悟はあったから……
「そこまで! 脱落者は――“リノ・ネリカ”に決定する!」
グランの声が響くと同時に、ゼオンがヴェイルに向かって歩み寄ると、拳を彼の顔に振り下ろした。
「何を……何をしている! ネリカは……あんなにお前を信じてたのに……!」
何度も振り下ろされる拳、頬と頭を殴られ続ける。
反撃は一切しなかった。傍から見れば、有り得ないことをしたのだから。
ゼオンの指先が、段々と赤く染まっていく。
それを見たストリクスは手首を握って、殴るのを止めた。
「辞めてゼオン。これ以上、ヴェイルを殴っても仕方ないよ」
握られた手首を振り払って、ゼオンは声を荒げる。
「こいつは、裏切り者だ! ネリカや俺達を裏切って、お前等のチームについたんだ!」
「違う。――あの爆発がネリカに当たったのは、僕が原因だ」
ゼオンは突如、困惑した表情を浮かべる。
ストリクスは、あの爆発の瞬間を語る。
「あの爆発が起きる直前、ヴェイルは僕に向かって爆発を起こそうとした。それを理解した僕は、目の前にいるネリカを盾にして、自分の傷を最小限に抑えた……」
「じゃあ、最初から……お前を狙って……?」
「そう……だから、ヴェイルに手を上げるのは辞めてあげて」
ゼオンは、殴った手を強く握る。
血が滴りながら、唇を噛みしめながらコロシアムを後にした。
これで良い……ありがとうヴェイル。
ここからは、実力だけで希望の道を開かなくては……
ヴェイルとストリクスの作戦により、ネリカを記憶持ちの人間として覚醒させる道を開いた。
そして、カルテットデスゲームの幕は降りる。
二人は新たな戦場の扉へ、足を踏み入れるのだ――
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