Aqua Hand in Joker: Iced Realization(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:アイスト・リアリゼイション)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。
一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——
二人の青年が、大きな賭けに出る。
《Death of the Academia》をお楽しみください
「もらった!」
ストリクスと、ルルナから学んだ俊敏さを活かした剣撃。
背後に周り、炎をまとう剣をレンリーに向けて剣を振るった。
刹那――
レンリーは体を屈めて、ヴェイルの剣撃を回避する。
剣が空を裂いた。
そのまま無防備となった彼の脇腹に、レンリーは強烈な蹴りを入れて、凄まじい衝撃とともに、ヴェイルの体は右翼の壁へ叩きつけられた。
「か……っは……っ!」
吐き出した血と同時に、背後の岩壁が崩れ落ち――ズシリと、体が地面に縫い止められた。
「あぁ……っ!」
声にならない痛みが、全身を襲う。
激痛のあまり、その場で歯を食いしばることしか出来なかった。
クッソ……いてぇ。
重すぎる……あいつの蹴りがアラリックからの授かり物だとするなら、そう何度も簡単には受けられない……!
体をゆっくり持ち上げるように起こすと、目の前に鎖鞭が再び迫ってくるのを目撃する。
当たれば死ぬ……という絶対絶命な状況の中で、ヴェイルは自身のプライドを守る為、アラリックの記憶持ち達との約束を果たす為、軋む骨の音とともに体を起こし、剣を突き出した。
「同じ手を、何度も……!」
剣先から、爆炎玉が放たれ鎖鞭は再び溶ける。
この時のヴェイルは、明らかに人知を超え、叫びたくなる体の痛みを堪えながら、レンリーと剣を交差させる。
その動きも、アラリックを彷彿とさせるほど、素早く、的確に一撃一撃を打ち込んでくる。
速さと重さも備えたレンリーの剣撃は、防ぎ切るのが精一杯だった。
魔法使い組も、上空で互いに練度の高い術を放ち、Ⅱ組同士のゼオンとサイラスも、まだ互角の状態で戦っていた。
頼む……! 俺が、こいつらが倒れる前に……ストリクス、お前がネリカを……
希望を託すように、ストリクスを見る。
ヴェイルは、レンリーの放たれる一撃を受け流し逆転の一手を探す。
ヴェイルとレンリーの激戦をちらりと見ると、ストリクスもまたネリカに牙を向けた。
氷の粒を纏ったレイピアと、熱を帯びた鉄の剣がぶつかり合い、乾いた金属音が周囲に響く。
ネリカは、何か聞いてほしそうな不思議な表情を浮かべて、ストリクスの剣を受ける。
瞬きすら許さぬ速度で、四方八方から刃が襲いかかる。
その度に、氷を纏ったネリカのレイピアが閃き、水飛沫を散らして剣撃を弾き返す。
相手の剣を受け流しながらも、ネリカの瞳は一瞬、揺れた。静かに、しかし確かに問いが投げられる。
「ねぇ……一つ聞きたいことがあるんだ。……君は、君達は何を隠して戦ってるの?」
思わぬ問いに、ストリクスは一瞬だけ心の奥を揺らがせた。
一瞬、刃の軌道が鈍ったかと思えば、次の瞬間には、火花とともに剣が激突し、空気が鋭く震えた。
「質問を質問で返すようだけど、どこまで知ってるの?」
ストリクスは赤く染まった瞳から、無属性を象徴する青い瞳に変わり、熱を帯びた剣はどこか冷たさを放っていた。
「分かんない……だけど、僕とは違う同じ属性魔力が一つ。もう一つは、凄く禍々しかったから……!」
この瞬間、ストリクスはネリカへ感じていた違和感が、確信へと変化する。
小さな声でも、必死で訴えようとする気持ちを、真っすぐに受け止めた。
「君の感覚は、間違ってない。……けど今は、何も教えられないんだ。それでも、信じて。僕が必ず、君を助ける」
その時だった。左翼の斜め前から、うなりを上げながら大剣が回転し、ストリクスめがけて一直線に迫る。
その瞬間にネリカの剣を弾き、身を引いた。
通り過ぎた大剣は、地を抉るような爆発音とともに、白煙を巻き上げ、意思を持つように主人の元へ戻った。
「ぼーっとすんなよ! 今目の前に敵がいるんだぜ!」
威勢の良い声が、コロシアムに響く。
叫んだのはゼオン・ルーゼ。
記憶持ちではないが、同じチームで戦う仲間として、誰よりも早くネリカの異変に勘付いた。
「ごめん……! でも大丈夫、こっちは任せて!」
「頼むぜ! ネリカ」
その場で力強く返事をして、再びレイピアをストリクスに向ける。
一瞬にして、ネリカの表情は険しくなる。
冷静に考えれば、普通の反応だ。
もしも、今までの仲間とは決別し、同じ記憶持ちの仲間と行動を共にして後悔はないかと——
揺れ動く心。
ネリカの一撃一撃には、力がこもっている。
しかし、迷いがある彼の剣撃は、溶けかけた雪のように、脆く消えていくように見えた。
ねぇ……分からないよ。
どうしてこんな世界になったの?
どうして、君たちはそんなに命懸けで戦えるの?
——僕は、まだ怖いけど君達と肩を並べたい。
ネリカの心の叫び。
声に出さなくとも、その剣の震えがすべてを物語っていた。
段々荒くなり始めてる。
さっきまで、あんなに冷静だったのに……でも、まだ駄目だ。
真実に近づいた者には、入学前にかけられた呪いが必ず発動する。
それに、アラリックが帰ってこない以上、助けることは出来ない……
頼む、ネリカ。もう少しだけ辛抱してくれ……
かつて、自分も味わった痛み。
真実に気付き、呪いに侵された日々。
ストリクスには、“他の仲間に同じ思いは絶対にさせたくない“という信念があった。
そして、コロシアム上段の観客席で、悪魔のような笑みで――必死に戦う生徒達の姿をグランは見ていた。
「滑稽だなぁ……まともに授業もクリアしていない、火属性ごときに何が出来ると言うのだ」
まるで大声で笑いたくなる衝動を抑えるように、彼等を見下し嘲笑っていた。
「まぁ、ここまで舞台を整えてやったのだ。せいぜい俺を楽しませてみせろ……記憶持ちを賭けた、授業をな」
核心に迫るネリカ、それに応える為に奮闘し続けるストリクス。
一方ヴェイルも、ネリカの剣撃に違和感を覚え、対レンリーの逆転の一手を思いつく――
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