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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【アラリック編】
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Memory and Time: Epilogue(メモリー・アンド・タイム:エピローグ)アラリック・オーレル編

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。


リオライズが母親との幸せな日常、復讐に人生を捧げた六年間。

そして目指すべき新たな目標を見つけた——


そして明かされるアラリックの過去。

感情を表に出すことが少ない、青年の人生とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

忘れもしない、決定的な罪の瞬間。


自分が魔力暴走に侵され、自らの手で師を殺してしまった光景を——“今の”アラリックは、目の当たりにした。


足元がふらついた、その時――

目の前の風景が、色とりどりの花畑に映り変わり、目の前には自分を陰から支える存在――ルキウスが立っていた。


「迎えが貴方になるなんて……予想外なことも起こるものですね」


アラリックは、平然を装う。

自分が、精神世界と言えど、涙をひとすじ流してしまったことは、誰にも知られたくなかったのだ。


「どうだった……? 十四年前の自分の姿は」


柔らかい、優しい光のような声。

不思議と、いつも以上に心が落ち着いた。


「そうですね……非常に、滑稽でした。自分が、あれほど醜く愚かだったとは、想像もしていなかったので……」


「そ、そっかぁ……それは、災難……だったね」


反応に困るような回答に、ルキウスは苦笑いする。

しかし、アラリックは静かに続けた。


「本当にあの頃の自分は、情けなかった。過去を知れたことで、僅かですが肩の荷が降りた気がします」


「どういうこと?」


色鮮やかな花たちが風に靡かれ、大きくアラリックは深呼吸をする。

花の香りが、彼の嗅覚を優しく撫でると、再び問いに答え始める。


「今まで、何が”善”で何が”悪”なのか分からなかった。今、目の前にしている世界の謎も……人を自ら殺した人間が、暴き救うというのが、周りからどう思われるか——」


彼は、ストリクス達の記憶が戻る前に、何人もの命を見殺しにしていた。


そんな自分が、彼等が”間違っている”と胸を張って言えるのか。

時折、自問自答を繰り返していた。


「あの過去を見て、まだ悔いすら残っている。——それでも、殺してしまった時に……あの人が遺した言葉は、ずっと自分の中にいてくれたから」


『”何度挫折しても、泣いても良い。願いが叶い、勝利するまで戦い続けろ”』


——例え、悩み苦しみ躓いても、何度でも立ち上がって、勝利の扉を探し続ける。


あの時、命を賭けてアラリックを庇い、自ら属性魔力の暴走を受けたのは、これ以上の地獄を経験しないと確信して踏み出したのかもしれない。


実際、学園に来てからも冷静に物事を対処することが多かったアラリック。


ひとつの紐が、結びつく。


「勿論、過去を知ったからと言って、帰ってきて欲しい人は誰一人帰ってこない。マスターも、”父さん”も」


その瞬間——

『父さんも』という言葉に、ルキウスの瞳が一瞬だけ揺れた。

それは、妙に鋭い反応だった——


「誰に何と言われようと、僕は自分の夢の為に、自分の信じた道を歩きます。ヴェイル達と——仲間達とすれ違うことになったしても」


アラリックの真っすぐな瞳が、ルキウスの心の奥を蝕んでいく。

やがて、その瞳に射抜かれたように、ルキウスの目から光が消え、悲しみの色が滲んだ。


「私はね……アラリック。もう全部、投げ出してしまってもいいんじゃないかって、思ってる。命を懸けてまで、この世界と向き合わなくても……きっと誰かが、代わりに何とかしてくれるから」


「いいえ。そうやって、“誰かがやってくれる”と、誰もが他者に託し続けた結果——世界は、何百年、何千年と、何一つ変わらなかったんです」


世界が創られ、かすかな平穏を目指していたその最中——

神々の暴走が始まった。


あの日を境に、人々は永遠に、“選別”という名の恐怖と共に生きることを強いられた。


「それで結局、君が死ねば……君を大事に思ってくれる人は、ずっと悲しむ」


「僕は、死にません。無駄死にも、犬死にもなるつもりはない。あの連中に殺される程度の人間なら……とっくに死んでいますよ」


アラリックには自信があった。

しかし、ルキウスの顔は険しくなる一方で、「違うんだ」と言うように首を振った。


「貴方には、感謝もしてます。あの日、マスターが死んだことで、自害しようとした僕を、助けてくれた」


「違う……! あの術は、自分じゃない誰かに、代償を背負わせるものだった……!」


ヴァルロスが命を落とした直後、“大人の”アラリックは、大木の根元で自らを爆発に巻き込み、後を追おうとした。


だがその刹那——何者かの転移術により、間一髪で見知らぬ大地へと放たれた。


自分だけが生き残ってしまったという現実を、呪わずにはいられなかった。

十六年間の記憶は、次第に霧の中へと沈んでいき……途方に暮れる旅路の果て、ようやく、今の学園と出会った。


「良いんですよ。こうして追憶の海底で、真実を再び知ることが出来た。それだけで十分です」


「……っ。これから、あの学園に戻るの?」


ルキウスの心の奥底で、「行かないでほしい」と必死な声がこだましていた。

けれど、一度”やる”と決めたことを決して翻さないアラリックに、その想いが届くことはない。


「えぇ……外で待っている仲間と合流して、この歪んだ世界を正す為に、戦いを続けます」


かつて感じたことのない、胸を締めつけるような痛み。

それは、ルキウスが背負ってきた過去の苛烈さを、何よりも雄弁に物語っていた。


徐々に、精神内の世界から薄れゆくアラリックの姿。

無我夢中で、自分が伝えたいことを吐き出した。


「アラリック……! ……お願いだ……どうか……どうか、絶対に死なないで……っ!」


やがて、霧に包まれるようにして――アラリックは、花畑から静かに姿を消した。


その瞬間、ルキウスの全身から力が抜け、白いガーデニングテーブルに、ぐったりと身を預ける。


目の前に広がる、何通にもわたる手紙。

ぼんやりと、見つめながら彼は小さく呟いた。


「ずっと、答えてあげられなくてごめんなさい……でも、君が死ぬのだけは――絶対に嫌だ」



白い霧の中で、ゆっくりと瞼を開けるアラリック。


静かに上体を起こし、左手へ目を落とす。

そこには、しっかりと嵌められた白い革手袋。


「大丈夫……必ず、帰ってきますから」


言葉とともに、追憶の海底が眠る海が、静かに光を帯びはじめた。

円を描くように青く輝き、中心から現れる人影に、リオライズは目を見開く。


「アラリックさん……?」


水面が裂け、砂浜に足を踏み出した人影――

それは、記憶の旅路を終えたアラリックだった。


「アラリックさん! 本当に帰ってきたんですねっ!」


喜びの感情が膨れるように、リオライズが駆け寄る。

その声はまるで、死人が生き返った瞬間を目撃したような、明るさを感じた。


「別に、普通だったよ。そんなに慌てて……そちらで何かあったのか?」


アラリックは首を傾げながら、リオライズを観察する。

すると彼は、ぽつりと、意外な一言を漏らした。


「……なんか、アラリックさん。雰囲気変わりました?」


「は……? 喧嘩売ってんの? 早く質問に答えて」


低い声とともに、鋭い眼差しを向けるアラリック。

無意識に滲むその威圧感に、リオライズが苦笑いする。


「えぇ……褒めたつもりだったんすけど……」


肩をすくめながら、空を見上げる。

到着時に晴れ渡っていた空は、既に薄闇に染まりつつあった。


「急がないと。学園がどうなってるか分からない……ヴェイルさん達が危険な目に遭っていたら……」


リオライズの懸念の声を聞いたアラリックは、前を向いた。

追憶の海底という深層の記憶を経て、再び現実に立ち上がる二人。


余韻に浸る暇もなく、彼らは学園へと帰還の道を歩き出す。


一方その頃、学園に残されたヴェイルとストリクスは、新たな“記憶持ち”の仲間を得るため、激しい戦いの最中にいた――

第八章『追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編』は、第二幕まで描きました。

今回で完結となり次回から、新章『水属性と記憶持ちの賭けバトル』を開幕です!

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