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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【アラリック編】
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Memory and Time: Fall Cry Gate(メモリー・アンド・タイム:フォール・クライ・ゲート)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。


リオライズが母親との幸せな日常、復讐に人生を捧げた六年間。

そして目指すべき新たな目標を見つけた——


そして明かされるアラリックの過去。

感情を表に出すことが少ない、青年の人生とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

『…………え?』


“過去の”アラリックも、“今の”アラリックも、目を見開いてその言葉に驚きを隠せないようだった。


“過去の”アラリックは、冷たい涙が頬を伝うのを感じながら――殺気が完全に消え去った。

“今の“アラリックは、ルキウスの姿を思い浮かべた瞬間、再び左頬から――何かが割れる音を聞いた気がした。



【追憶の海底:丘の上にて】


『私の意思で、貴様の父を消した訳じゃない……』


“過去の”アラリックの憶測を静かに否定して、思い出すようにあの日の真実を語る。


『貴様の父は、私が昔率いていた騎士団の部下だった。“団を受け継ぐ代わりに……もしも自分に何かあった時、貴様を助けてあげてほしい”とな……』


捨てられたと、早とちりした“過去の”アラリックは、膝から崩れ落ち、頭を抱えて泣き喚く。


『ウソだ……ウソだ……! だって、父さんはそんなこと一言も言わなかった……!』


現実を教えるように、ヴァルロスは構わず続ける。


『そして、貴様が産まれ、四歳になった頃――隣国で起きた、代行者による魔獣襲撃の救援に、あやつは団員を率いて向かったのだ……』



“今の”アラリックは、何故、父を送り出し家族を優先させなかったのか、分かった気がした。

“きっと父と師は、団長と部下という関係だけじゃなく、何か別の深い絆で強く結ばれていたのかもしれない”と――



『どうして止めなかった……? どうして受け入れた……? 父さんは……いつ帰ってくるの?』


『分からない……何年、何十年かもしれない。人と人が編み出した魔獣との戦争は……大規模になってもおかしくはない……』


そして次の瞬間――空気が裂けた。

土の刃が風を引き裂き、ヴァルロスの頬を容赦なく掠めた。


再び殺気に満ち溢れる“過去の”アラリック。

発狂にも近い、その声はヴァルロスの心を深く抉るようだった。


『返して……返せ、僕の父さんをっ、返して……!』


こうして、幾度も放たれる無数の土の刃。

ヴァルロスの黒衣と、顔に傷が付き、血を流しながらもゆっくりと、“過去の”アラリックがいる秘密基地の方へ、歩みを進めた。


やがて、“過去の”アラリックの土属性の魔力は尽き果て、彼は震えながらただ静かに涙をこぼしていた。


そして、ヴァルロスは今までの二年間をしっかり思い出せるように、“過去の”アラリックの前で、言葉を紡ぐ。


『では何故……二年前のあの日、私の下で鍛える道を選んだ……?』


ヴァルロスの薄っすらとした影が、“過去の”アラリックを覆う。

その問いに答えるように顔を上げると、緊張が張り詰める風が靡き、精一杯の怒りを込め、拳を握りしめながら反抗する。


『そ、それは……と、父さんだってすぐ帰ってくると思って引き受けた……! あの人が約束の時間まで帰ってこないことなんて……有りえなかったからだ。なのに……現実はいつも、“不平等だ”――』


徐々に萎んだ花のように、声の活力が消えていく。

気付けば、ヴァルロスは“過去の”アラリックに対し、左頬へ平手打ちをしていた。


剣術以外で、手を出すことが一度も無かったヴァルロス。

叩かれた頬を抑えながら見つめる瞳は、まるで化け物を見るような目をしていた。


『アラリック・オーレル。世界も人も皆、不平等だ……“平等”という二文字は存在するだけで、実現するには時間がかかりすぎる……』


『だったら……』


“過去の”アラリックに、言葉は話させない。

今はただ、正面から伝えたいことを被せるように、全てを吐き出していく。


『その不平等に、貴様の父は今も戦っているのだ。泣いても良い、弱音も吐き出して構わない。今みたいに本気でぶつかってこそ、人間は生きていると……戦っていると言える』


再び大粒の涙が溢れ始める。

父の現実を知り怖くなったのか、師の存在が、別の角度から映り始めたことで恐怖したのかは、分からない。


それでも、幼い彼にとっては重すぎる現実だったのかもしれない——



その光景を真っすぐに見ていた“今の”アラリックも、瞳を揺らして言葉を一つ一つ心にしまっていた。



『時間は、有限だ。人生もいつか死が訪れる。――その限られた時間で、一秒一秒に何を見出して、何を為すのかを考えろ。挫折は何度繰り返しても良い……それで、諦めさえしなければ……再び道は開かれるのだ』



その情景を見届ける“今の”アラリックは、少し涙ぐみながら静かに感謝と別れを告げた。


『ありがとう……マスター。貴方に言われたこと、貴方から授かった物……全部は分からないけど、出来ている気がします』


過去の映像に左腕を伸ばす。

名残惜しくも、自分の為すべきことを為すために、決意の声で別れを告げる。


『でも……僕が本当に向き合わなきゃいけないのは、十年後の貴方との未来です。だから、六歳の僕と貴方とは――ここでお別れです』


      さようなら――


そして、十二年前の光景が徐々に霧のように遠のいていくと、再び静寂に包まれた暗闇が、彼を冷たく包み込んだ。


十年後……エルリックも成長して、他者と口を動かさず心の声で通じ合える、水属性の使い手だった。

あの事件が起きたのは――夏に季節が変わる少し前のことだ。



【追憶の海底:六歳の嘆きから十年後の姿へ】


真っ暗な空間から、霧が晴れるように風景が映り出す。

十年前と変わらない、丘の上の秘密基地。


そして――


そこにいたのは、”今の”アラリックと然程変わらない未来の姿だった。

整った顔立ちに、細身でありながら鍛えられた体。

制服のような、白いワイシャツには稽古に打ち込んでいると一目で分かる痕跡を残していた。


視線を交わす“大人の”アラリックの先には、山のように大きく見えていた師のヴァルロスも、今は少し目線を上げれば顔がはっきり見えるくらいまで成長していた。


『何年経っても、貴方の強さは十年間変わっていないので、稽古も飽きませんね』


風が吹き抜て、全てをぶつけた十年前の、あの日の朝のようだった。

優しく、されど少し怖い一面を持ち合わせるヴァルロスの声が聞こえる。


『貴様も、十年で大分皮肉が言えるようになったな。誰かに似た話し方だ……』


逆に、皮肉を返されたように感じた“大人の”アラリックは、空を見上げる。

その時、丘へ上がる階段から、高らかな元気な声が聞こえた。


『おにい! アラリックおにい! 剣の稽古お疲れ様。さっき手紙届けてきたよ』


走って来たのは、弟のエルリックだった。

本来なら、心臓に負担がかかるだけで命に関わる――そんな身体のままなのに。


——瞬間的に、アラリックは大声で叫ぶ。


『走るな! 止まれ……』


一瞬肩を跳ねて、すぐに足を止めた。

しかし、みるみるエルリックの顔色が悪くなり、アラリックは急いで【ルエヴァ―ラ】の自宅へ送り届けた――


『ごめんなさい……少しでも早く帰ってきたくて』


呼吸が荒く、顔を真っ青にしながらベッドに横たわるエルリック。

アラリックが、慰めるようにエルリックのおでこに左手を伸ばそうとする。


『いつもありがとう……だけど、今日はもう休んで』


その瞬間――

“今の“アラリックにも理解できるほど、強大な属性魔力が”大人の“アラリックの左手から流れたのを感じた。


正直、この記憶も作り物と言われても、遜色無いほどの完成度だ……それでも、このあとすぐだった。


あの後に全部——終わったんだ。



そして、遂にアラリックの命運が決まる記憶へ降り立つ。

“今の”アラリックに繋がる、最後の結末とは――

アラリック編の過去回想編も、いよいよクライマックスに一気に近づきました。

この調子で、どんどん書いていきますので、皆様も彼の生き様を見届けてあげてください。

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