Memory and Time: Rifted Reunion(メモリー・アンド・タイム:リフテッド・リユニオン)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。
リオライズが母親との幸せな日常、復讐に人生を捧げた六年間。
そして目指すべき新たな目標を見つけた——
そして明かされるアラリックの過去。
感情を表に出すことが少ない、青年の人生とは——
《Death of the Academia》をお楽しみください
真っ暗な記憶の中で、アラリックが一人佇んでいた。
師であるヴァルロスの優しさとあの時の温もりを思い出す。
壊れてしまった日常、——いや、自ら壊してしまったあの日の出来事。
やがて、アラリックは黒く濁った海の中へ身を沈めた――
僕は、誰なのだろう……
感情を表に出すことなく、周りを見下して這い上がるのが“本当の僕”なのか。
本当は仮面を着けて、見せかけの強さを晒しているだけなのかもしれない……
左頬で「パキッ」と何かが割れる音が聞こえた気がした――
【追憶の海底:鍛錬の日常】
属性魔力を手に入れて以来、戦い方も戦術も、——全てが進化し、変わっていくのを感じていた。
草木が複雑に絡む森では、相手に間合いを詰められても、地を踏みしめて魔力を送り込むだけで足元に魔法陣が現れ、アラリックの小さな体を覆う、土の刃がせり上がった。
その隙に視界を奪い、背後へと回り込む剣技を覚えた。
ヴァルロスの目すら欺く、その動きは日々鋭さを増していった。
丘の上では、体格差に押されて正面からでは敵わないと悟った彼が、土柱を立てて高所を奪い、上からの斬撃を仕掛ける戦法を試みるようになった。
魔力の扱いも、最初はまるで覚束なかった。
ヴァルロスの動きを真似て、軌道の正確さを意識しながら術を放つ練習を幾度と繰り返す。
何日も、何時間も、魔力が底を尽きるその瞬間まで——
やがて、独自の魔法を創り出すようになり、止まっていた剣の稽古も、再び始まった。
季節は巡り、桜がほころび、風も少しずつ春の匂いを帯び始めた頃。
“過去の”アラリックの元に、一通の手紙が届く——
久々に、ルエヴァ―ラの自宅で寝泊まりをした時のこと。
北東区域の郵便を運ぶ鳥から、手紙を渡された。
宛名は書かれていなかった。
それでも“過去の”アラリックは、「きっと弟達からだろう」と確信し、目を輝かせて開けようとした時、ふとヴァルロスの気配が近づいた。
『誰からだ……』
親の声より聞いた低い声。
最初は怖かった印象も、今は尊敬して安心感もある師匠の存在だった。
“過去の”アラリックも驚くことなく、手紙を渡して確認を強請る。
『きっと母さんからだ……春になったし、帰ってくるひづけが《日付》が分かったのかもしれない……』
手紙を開いて、無言でヴァルロスが中身を読む。
師の顔しか見れず、内容が気になってソワソワする彼は、少し緊張していた。
一息置いて、ヴァルロスが手紙に書かれた内容を話始めた。
『――明日には、こちらに帰って来れるそうだ……』
『ほ、本当ですか……?』
帰る日付が書かれた場所を指差して、手紙の内容を見せてくれる。
“過去の”アラリックは、手に取ってしっかりと文字を追っていく。
すると、一段と表情が明るくなり口元が緩んだようだった。
しかし、“今の”アラリックは、ヴァルロスが当時の自分に【ある隠し事】をしているのを、言動だけで理解した。
『あの時、帰ってきたのは母とエルリックだけだった。父の帰還も当然のように信じていた僕は、弟と遊んだ翌日、あの人に問い詰めた――二年前の、あの日と同じ顔で』
【ルエヴァ―ラの自宅で、家族の帰還】
朝早く家の前で、ソワソワしながら二人の帰りを待つ“過去の”アラリック。
ヴァルロスからは、「今日の稽古は休んで、弟と羽をのばすと良い」という置手紙の指示に従っていた。
『アラリック~』
サティカが遠くから、自分の名前を呼んでいる。
その声に振り向くと、街の入り口から荷物の持ち運びを手伝うサティカと、子供を抱いて歩く母親の姿があった。
しかし――彼は一歩を踏み出そうとした瞬間、待ち望んだもう一人の姿が無いことに、彼は深く絶望した。
すぐに我に返って「きっと、今日中には仕事を終わらせて後から帰ってくる」と自分に言い聞かせて首を振り、走っていく。
『おかえりなさいっ、母さん!』
母の元へ駆けつけて、元気に笑顔で「おかえり」と言うと、少し涙ぐんだように、彼女も返してくれた。
『ただいまアラリック。暫く見ないうちに頼もしく成長したわね!』
実の親から撫でられる頭は、師であるヴァルロスに撫でられた時と、少し違う感覚だった。
父のことが気になりながらも、自分の思っていることは胸の内に秘めて、手術に成功したお祝いを自分なりに実行した。
二年間、エルリックを支えてくれて、これからも心臓の病と向き合うことになる母に応援と感謝を込めて全力で尽くした。
お茶を淹れ、入院中の話を聞きながら、肩を叩いて「お疲れさま」と伝えるように――細やかだけど、子供なりの労わりだった。
その時は、父のことをすっかり忘れていた。
けれど、昼になって目を覚ました弟と遊んでいるうちに――ふと、思い出してしまったのだ。
眠っていた時は、顔をしっかりと見れなかったが、目覚めたエルリックの顔や髪もアラリックと瓜二つだった。
額を覗かせるように左へとかき上げられた前髪は、光を受けて柔らかなブラウン色に揺れていた。
目元は、アラリックよりもどこか優しげで、柔らかい印象を与えて、ふと口にした一言も、まだ幼かった頃の自分の勝気な話し方にどこか似ていた。
エルリックは、自分の兄{アラリック}の姿を見るなり、小さな歩幅で歩み寄る。
そして、机の上から絵本を引きずるように、持ってくると彼の元に差し出して、初めて声を聞く。
『おにい。ほんよむ!』
自分より四つ年下の弟。
顔も声も、全てが似ていて、改めて血の繋がった兄弟なのだと認識させられた。
母のサポートのお陰で、特に問題もなく遊んでいた。
絵本を読んだり、絵を書いたり、おもちゃで劇をやってみたり。
けれど、どれだけ遊んでも、どれだけ笑っても、何度時計の針を確認しても、待ち続けた父の姿は、どこにも現れなかった。
寝息を立てる母と弟をそっと残し、アラリックは静かに秘密基地へ向かった。
まだ完全に夜が明けていない、薄暗い空の下で一つの近づく足音が聞こえた。
ゆっくりと振り返る“過去の”アラリック。
目つきは二年前と同じように、敵意を向ける鋭い瞳だった。
『あの手紙……何度も読み返した。でも、どこにも、何も書いてなかった……!』
二日前に届いた一通の手紙。
彼が読んだ内容は、「翌日エルリック達が帰ってくる」という文だけだった。
徐々に“過去の”アラリックからは殺気に近いものになっていく。
やがて、涙を流しながら声を張って、ヴァルロスに告ぐ。
『なにか……なにか父から聞いているなら、全部答えろ……!』
今にも、攻撃が飛んできそうなほど、弟子であるアラリックが、精神が限界を迎えそうになっているのを一目で理解したヴァルロスは、静かに答え始める。
『貴様は、”守るべき対象”と伝えたな……?』
その言葉、基地を襲い幼かったアラリックを追い詰めた時に放った言葉。
『そして、その守護者として私に頭を下げたのは――“貴様の父親だ”』
明かされる衝撃な事実。
そして、彼の愛する父は、何処で何をしているのか……
いよいよ、【追憶の海底:アラリック編】クライマックスへ――
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