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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【アラリック編】
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Memory and Time: Lesson of Master and Disciple(メモリー・アンド・タイム:レッスン・オブ・マスター・アンド・ディサイプル)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。


リオライズが母親との幸せな日常、復讐に人生を捧げた六年間。

そして目指すべき新たな目標を見つけた——


そして明かされるアラリックの過去。

感情を表に出すことが少ない、青年の人生とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

秘密基地に攻め入った男との、約束の一週間が過ぎた。

朝早くに目を覚まして、父が読み聞かせてくれた親子同盟ペアレント・チャイルド・アライアンスを手に取りページをめくっていた。


返すと言った拳銃も、万一に備えてなの木製で出来たテーブルの上に、異様な存在感を放ってぽつりと置かれている。



小さく、難しい文字を目でしっかりと追いながら読み進める。

すると、何かに気付いたように扉に視線を向けた。


革靴で歩く音と、杖が地を叩く「コツコツ」という音が、微かに外から聞こえてくる。


あの時と、全く同じ靴音と杖を突く音。


しかしその気配は、あの早朝のような殺気に満ちたものではなく、どこか穏やかで、まるで戻ってくるのを待っていたような柔らかさを帯びていた。


彼は再び本に目を落とし、気付かぬふりを続ける。

やがて、扉が開く音。


視線を横に流して、男の存在を確認する。

しかし、双方口を開くことがなく、緊張の空気が基地を張り詰めた。


ふと何かを見つけたかのように、”過去の”アラリックの瞳が閃いた。

丁度読んでいたページには、老人と対比するかのような主人公の師の敬意が素晴らしかったのだ。


『この本の中の師は、主人公である弟子に対して敬意を払っているのに、あなたは大人としてどうなのですか?』


彼は本を閉じ、静かに、しかし皮肉を込めて言った。


『ノックくらいはした方が良いと思いますよ』


クスクスっと笑って、まるであの時の恨みを晴らしたかのように楽しげだった。


だが、男はその挑発には乗らなかった。

表情一つ変えず、言葉を返す。


『貴様も、礼儀作法から叩き込んでおくべきか……』


それは、アラリックが“最初の課題”を果たした証でもあった。

そして、約束されていた報酬――男の名前が、ようやく語られる。


『ヴァルロス・ガートリス。これから両親が帰ってくるまでの間、貴様には引き続き地獄を見てもらうとしよう』


右手で杖を突き、彼に差し出された左手は、これからの未来を指し示すような大きな手だった。


アラリックは、一瞬拳銃に手を伸ばしかける。

だが、再び基地が壊れることを思いとどまったのか――

静かにその左手を取る。


『アラリック・オーレル。いつかあなたを、超える存在になる者です……』


ヴァルロスに握られた左手――

その大きな手は、幼い“過去の”アラリックにとって、まだ包まれることしかできなかった。



“今の”アラリックは、そんな自分の姿を見ながら、両手を眺める。

十八にもなれば、体も能力も成長して大きくなる。


白い革手袋をはめた左手が、かすかに震えていた。

なぜ震えているのか、自分でもわからない。


それでも、遠い記憶の片隅で良くないことが起きると告げているようだった。

左手を強く握りしめ、目の前に広がる記憶の中へと、再び向かっていった。



『剣のけいこ?』


丘の上で、木剣を握る“過去の”アラリックは、意外な一言に思わず目を見開いて、問い返した。


『貴様は、瞬時の判断力と適応能力が優れている……属性を手に入れるまでの二年間で、己の技術を磨けば更なる高みを目指せるだろう……』


ヴァルロスは、彼の能力を的確に分析し、今後の成長に向けた言葉を綴る。

右手で突いていた杖を、“過去の”アラリックに構えを取った。


師匠自ら、稽古相手になってくれることに彼は少しだけ驚いていた。

心の中では、嬉しさもあったのだろう。


あの時の父のように、自分と接してくれる。

自分を見つけて、自分を見てくれようと稽古をつけてくれると分かった“過去の”アラリックは、笑みを漏らした。


もう言葉は要らない。

木剣を強く握って腰を落として、下半身に力を入れる。


刹那――二人の剣は激しく音を鳴らしてぶつかった。


交差する剣。

しかし圧倒的な力の差に、“過去の”アラリックは早々と、押され始める。


なんとか受け流し、体を回転させながら間合いを取る。

その直後、ヴァルロスの杖が振り上げられ、土煙が激しく舞い上がった。


間一髪のところで、後ろに飛躍して回避。

距離を取り、ヴァルロスの次の攻撃に備えて、じっと見据えた。



記憶が戻らなくても、体は、あるいは本能は、あの時の戦いを忘れていなかった。

ふと、自然と口をついて出た言葉がある――


『左に重心がかかってる。次のワンステップは……”フェイク”だ』



ヴァルロスが一歩踏み出した瞬間、光のような速さで、左脇腹に杖が奔る。


“過去の”アラリックの視線が、左脇へと引き寄せられたのを確認したヴァルロスは、回転するように、右脇腹に軌道を変えた。


しかし、当時の彼もその軌道が読めていた。


無意識に左足へ力が入り、防御に備えた反応が走る。

だがその一瞬で、右脇へ振られる杖を、木剣で受け止めた。


その威力は凄まじく、木剣は粉々に割れ、衝撃で“過去の”アラリックは地面に転がるように、倒れてしまった。


『今の攻撃……最初から、分かっていたのか?』


残った柄を、呆然と見つめることしか出来ない“過去の”アラリックに、ヴァルロスが、真意を聞き出した。


まだ、低い声に慣れていない彼は、肩が一瞬跳ねて柄を握りしめる。

そして、臨戦態勢に入りながら答えた。


『本で見た……ことがあったから。行商人を装ったばけものが、初めて姿を現した時の一撃目が、似ている気がして……』


“過去の”アラリックは読んだことがあった。


狐族の行商人――

表情豊かで、言い値で次々と品物を売り捌き、たまたま訪れた主人公の信頼も、徐々に勝ち取っていった。


だがその裏で、彼は善意に付け入る機会を伺っていた。

そしてある夜、油断した主人公の寝首をかこうとしたことが、ついに露見する。


その時、彼は右手を振り上げ、爪で切り裂く構えを見せた――

……ように思えた刹那、大きくしなやかな尻尾を、胸元に鋭く突き出してきたのだ。


『敵がいつまでも同じ手を繰り返すほど、甘いと思うな。対峙している間は、脳と体の全てを使い、十手先、いや百手先の未来まで読み続けろ』



その言葉は、“今の”アラリックが無意識化の中でやっていることだった。

常に相手の行動を先読みして、それに見合った技を繰り出していく。

仮に予想が外れても、臨機応変に対応出来る技術も身に着けていた。


“今の”アラリックは、精神力には元々自信があり、肉体的な鍛練と剣術の稽古が主に進められることが多かった。


海に落とされて、服が濡れたままの状態で剣を交えたり。

森の中に一人で帰ってくるよう夜中に置いていかれたり。


最初は、正気の沙汰とは思えなかった。

だが、家族が帰ってきた時に「喜んでもらいたい」「褒められたい」──その気持ちが、幼い彼を突き動かした。


『……二年間で、三万六千四十回。毎日休まず、一度も逃げずに積み上げた回数……か』


正確に当時の鍛錬の回数を計算して、答えを導き出す。

アラリックの中で、忘れていたかに思われたヴァルロスとの稽古も、ずっと心の中で生きていたのだ。



そして、記憶の情景の中から声が聞こえる——


『……しかし良い反応だった。そして、武器が壊れても尚戦おうとする姿勢。及第点程度には合格と言ったところだ』


その言葉が、褒めとしての言葉なのか、幼き者に対しての皮肉なのかは、分からなかった。

ヴァルロスがそう言った瞬間の顔を、アラリックは覚えていない。


咄嗟に顔を上げた瞬間——


無情にも過去の情景は、三万六千四十六回の鍛錬で、属性を手に入れ、弟達が帰ってくる情景に移り変わってしまった。


弟と家族の再会。

身に付ける初めての属性、そしてヴァルロスとの師匠と弟子の関係の行く末は——

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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