Memory and Time: Defeat of the Vengeful(メモリー・アンド・タイム:ディフィート・オブ・ザ・ヴェンジフル)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。
三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。
彼等が向き合うべき、真実とは——
《Death of the Academia》をお楽しみください
目を覆う悪魔に、一切の容赦なく拳を叩き込んだ。
緑の旋風を纏った籠手が靡き、宙を裂くように跳躍するリオライズ。
強く握った左拳が、悪魔の胸部を正確に貫いた。
『喰らえっ!』
白い衝撃波が周囲を包み、悪魔が吹き飛ぶと同時に、耳を裂くような甲高い音が夜空に響いた。
『アッアァァァァ……』
吹き飛ばされた悪魔は宙を舞い、待ち構えていた村人たちの魔法で、火柱の檻へと閉じ込められた。
弱点である光、それを全身に浴びた悪魔は唸る声も、弱弱しく泣き声のように変わっていく。
リオライズが打ち込んだ胸元の一撃は、大きな空洞のように穴が空いていた。
そこから赤く濁った黒い血が、滴っていた。
微動だにせず、静かに終わりを待つような姿に、リオライズは静かに風魔法を向けた。
『さようなら……』
その声は怒りでも勝利の喜びでもなかった。
ただ、終わりを告げるような、悲しみに沈んだ祈りの声だった。
それが、六年前と同じように母との別れを重ねたのか、悪魔の正体に気付いたからなのか、本人さえも分かることはなかった。
灰のように、消えていく悪魔。
風が火花と一緒に舞う灰を連れて行くように、夜空へと流れて行った。
その光景を、見守るリオライズ。
静寂の夜の中に、作戦終了の合図で、緑色に輝く風魔法を空に打ち放つ。
しかし、討伐完了の合図の魔法ではなかった。
『討伐した際は、光を帯びた風魔法を放つと、先に村長に話していた……絶対に殺してやる……“ティオル・マキリス”』
殺意の瞳、気配、構え。
リオライズは、村の木陰からかつての仇、ティオルの気配を感じ取った。
そして、奴がまだ黒装束の男として優しさを演じていた時の、柔らかい声で話始める。
『へぇ……案外分かっちゃうんだね。僕って意外と人気者なのかな?』
月明かりの下、笑みを浮かべたその顔は、優しさよりも不気味さを孕んでいた。
青色を基調とする袴。古風を思わせる格好は、長年生きてきたことを示唆しているかもしれない
怒りが限界まで達していたリオライズも、冷静を保ちながら言葉を返していく。
『スパイごっこなら、もっとうまくやれ……お前が村の連中を殺してから来たことくらい、容易に分かる話だ』
リオライズが、ティオルの瞳を見据えた。
両拳が震え、血管が浮き上がる。
肌は熱を帯び、怒りが全身を脈打っていた。
改めて、仇に向けて怒りの宣戦布告を叩きつけた。
『お前の気持ち悪い声も……顔も四肢も……全部全部切り裂いて、地獄を味合わせてやる……! 覚悟しろ』
握り込んだ爪が掌を裂き、血が籠手の刃を伝って滴り落ちる。
リオライズの意識からは、痛みも、自分という存在すらも消えていた。
ただ、仇の息遣いだけが世界のすべてだった。
そして、我を忘れた人間のように、ティオルに向かって喰らいつく――
瞬時に自分を薙ぎ払うように迫る剣も、諸共しない。
首に迫る刃を華麗に飛んで避けると、そのまま肩を掴んで縛るように地面に叩きつける。
『ウゥゥゥゥゥ……』
リオライズは、まるで獣のように呻き声を上げる。
倒れたティオルに跨るように、剣を持っていた右腕を切り裂いた。
切断した右腕を無造作に放り捨て、獣のように吠えながら、ティオルの顔面に容赦のない拳を叩き込んだ。骨が砕け、皮膚が裂け、血が跳ねた。
『ヒッヒヒヒヒヒ……』
足元のタイルが震え、分け目から噴き上がるように放たれた無数の風の刃が、ティオルの全身を余すところなく引き裂いていった。
【追憶の海底にて】
『第三者目線として見る、自分の姿はどう映ってる?』
“別世界線の“リオライズが、”今の“リオライズに問いかける。
惨く残酷に見える光景でも、同情なんてものは“今の”リオライズに存在するはずもなかった。
『俺は間違ってない……正しいことした。……何十回、何百回記憶を消されても何度でも思い出して、過ちを繰り返す極悪人を殺しに行ってやる』
【ティオルとの対峙、全てを切り裂かれた仇の目的】
四肢を切断して、心臓を貫き、顔は刃で引っかかれたように傷を負っていた。
ようやく、死体になったティオルを見たリオライズは我に返る。
『終わり……ました。お母様、シルヴェレン、ベルティリナおばさん……そして、ゼリアトーレで生きた者達よ……“敵を取りましたよ……』
青い袴は、真っ赤に変わり変色し始めていた。
最後、首を切り落とす為に籠手の刃を喉元へ突き刺そうとした
その瞬間――
前方から、ティオルの剣がリオライズの腹部を襲った。
理解が追いつかない彼は、そのまま持ち上げられるように宙に浮く。
『な、何が……』
貫通する剣を抜こうとした時、続けて切断したはずの右腕がリオライズの首を、強く締めた。
『………うっ………く………あっ………』
右腕の力が徐々に強くなり、呼吸は完全に止められてしまった。
必死に剥がそうとしても、腹部の激痛と息苦しさで、到底勝つことは出来なかった。
意識が遠のきそうになる中、故郷を襲ったあの低い声が耳に届いた。
『二千年以上生きている俺と、たった十二年の歳月しか、生きていないお前が勝てるわけがなかろう……』
リオライズの返り血と、そしてティオルの周りに飛び散った出血が、水で洗い流されるように、離れ離れになった四肢を繋いでいく。
『貴様は、我等代行者に牙を向け、神の意向を否定した……例え殺さなくとも、ただ生かすのは生ぬるい』
そして、ティオルはリオライズの判決を言い渡す。
『十二年間の思い出も、記憶も、名前も全て消し去ってくれる……! せいぜい、もがき苦しむ人生を送ることだな』
朝焼けが姿を現しつつあった。
太陽が昇り青空が覗く。すずめ小さな鳴き声とともに、リオライズは最後の力を振り絞る。
『こ……殺して……やる。お前がどれだけ人を殺し、騙して……奪おうとも……何万回でも、例え命が尽きようと……必ず殺しにきてやる……!』
伸びる左腕。最後の魔力を振り絞り、風魔法を放つと同時に、黒く禍々しい爆発に飲まれて、リオライズは遥か遠くへ身を飛ばされたのだった。
体が宙を飛んでいた時、微かに何かが割れる音が聞こえた。
復讐に失敗して、敗北した”今の”リオライズが下す決断と、
母親の声とは——
次回は、リオライズ編の追憶の海底エピローグを公開です!
よろしくお願いします




