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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
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Memory and Time: Conviction of the Vengeful(メモリー・アンド・タイム:コンヴィクション・オブ・ザ・ヴェンジフル)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

町の襲撃を受けて、一人転々と世界を回っていた。


リオライズは昔の元気だった自分を捨てて、復讐の為に人生を捧げるようになっていた。

それでも、周りからは悟られないよう、ただの武闘家冒険者として接していた。


本当の自分を隠さないと、皆殺してしまう気がしていたからだ……

憎しみの感情を、無関係の人々に、ぶつけてはならない。

リオライズは、本当の感情を六年間押し殺し続けた。


それが当たり前の感覚に変わるまで、ずっと——


髪を結んで、話し方を変えた。

服は、赤と緑が混ざり合う半袖のカンフーな服。

まるで、かつての親友シルヴェレンのように――


案内所でクエストを受けたようと赴いた時、自分のかつての故郷ゼリアトーレの町の近くにあるホトリス村が、毎晩悪魔の襲撃を受けているから、討伐を依頼したいという物だった。


【ホトリス村にて】


村長に悪魔と呼ばれる化け物の詳細を、リオライズはしっかりと聞いていた。


『初めまして、この度は依頼を受けてくださり感謝致します』


白髪で背は小さく、緑のポンチョを羽織った男の村長。

わざわざ、自宅に招いて情報を提供してくれた。


『その悪魔って奴は夜だけに現れるんすか?』


『えぇ……どうやら灯りが苦手のようで、夜にしか出歩かないと見ています。何故ホトリス村が狙われるのかは、定かではありませんが……』


村長は、狙われる理由が分かっていなかった。

しかしリオライズは、憶測だがゼリアトーレの町が廃墟と化し、そこに住み着いた化け物達がうろついているのだろうと……


『灯りが苦手ってなると、松明の火とか、ランタンの灯を当てたりしたんすか?』


ゆっくり村長が一度頷くと、そのまま当時の状況を話してくれる。


『本当に一瞬だけですが、持っている大鎌で目を隠す素振りを見せていました。しかし、効力は長く続かない為、大鎌を振られると火が消し飛んだり、ランタンが割れた衝撃で火移りしてしまうこともございます』


『所々、村に焦げ跡があったのは、そういう理由だったんすね……』


リオライズが目を瞑って必死に頭を回転させる。

灯りが苦手で夜行性の悪魔、松明やランタンの火では効果は一瞬。


長い沈黙が続く中、リオライズが重い口を開いた。


『村長さん、一か八かやってみたいことがあります……』


リオライズの作戦は、村中に火薬をばら撒いて、火属性の人間に着火してもらうのが狙いだった。


悪魔を必ず討伐することを条件に、リオライズは村の人々の力を借りて火薬の材料をかき集める。


硝石ナイトレート木炭チャーコール硫黄サルファーの三つの素材で火薬を作れることは、物心ついた頃には知っていたリオライズ。


万が一に備えて、クエストを受ける際に、護衛を頼んでいた騎士団の下、ナイトレート班は、森に隠れた蒸した洞窟の奥に眠る白い結晶を、見つけた。


『綺麗な結晶……宝石みたい』


『これで、鎌の悪魔をやっつけるのか……』


まだ想像すらつかない子供達が歓喜しながら、小さな手で一つ一つ丁寧に袋に詰めていった。


サルファー班も同じく、洞窟の最下層に眠る熱帯地に足を踏み入れた。


赤々と燃え上がる最下層は、一瞬で滝のように汗が流れてくる。

子供達には任せられないと判断したリオライズの指示の下、大人達が暑さに耐えながら、黄色い鉱石をかき集める。


『温泉が近くにありゃ、このまま汗を流せたんだがね』


『今は我慢しましょう。きっとこれで生き延びたら、好きな温泉も探せますよ』


ふくよかな女将と、若い母親のような細身の女性が対話しながら、拾っていった。



村で二つの班が出発したのを見届けたリオライズは、一人呟く。


『後は、チャーコールだけか……』


その時、ガタイの良い男組二人が、リオライズに声を掛ける。


『木炭の収穫に困ってるんなら、俺達を使ってくれても良いぜ?』


『……そうすっね。じゃあ、木を切って来るのでその後の焼く作業に関して、お願いしても良いですか?』


中央にだけ、狐の尻尾のような赤い髪を生やしている男。

リオライズは一瞬で、火属性なのではと考えて提案する。


『俺は、風属性なんで切るのも得意っす。なので、その後の作業を頼みます』


『任せときな!』


『もう一人、水色のお兄さんは、切った木材を運ぶ力仕事をお願いするので同行してくれると助かるっす』


こうして、洞窟とは離れた木々の場所へ赴き、リオライズが早速地面を踏み締めると、吹き飛ぶように、木々が切断された。


一瞬の風が吹く音と、ガラガラと転がる木材達。

半径十メートルほどの木々が倒れ、見える限りでは切り株しか残されていなかった。


『あんた、すげぇな! これなら悪魔もぶっ飛ばせそうだな!』


『ありがとうございます。じゃあ早速運んで作業を進めましょう』


『おう!』


木材を集め、赤髪の(レッド)が持ってきていたロープで、何個かに分けて村に持ち帰っていった——


そこから何時間が経っただろう……

木材を火属性の男に燃やしてもらい、日の入りが近づいてきた頃に、二つの班が村へと帰還した。


騎士団と共に、帰還した村人達を見たリオライズは、早速作業順へ移る。


三つの素材を粉末に変えて、風魔法で徹底的に乾燥させる。

分量は昔、絵本で見たことがある文を思い出し、五:四:一の比率で慎重に混ぜ合わせる。


混合後は、木々を一緒に運んだ水色の(ブルー)に、魔力を使って数滴垂らしてもらい、ゆっくりと練り込んでいく。


最後は再び風で飛ばすように乾かし、黒砂のような細粒へと砕き上げると――


『……やっと完成しました。 対悪魔用の火薬っす!』


底の浅い器に、溢れそうになる程の黒い火薬の小さな山。

「すげぇ」「おお……!」「これで村も……」周りで見ていた村人達が、それぞれ歓喜の言葉を挙げた。


『でもこれで、どうやって倒すんだ?』


日の出が落ちかけている。いつ現れてもおかしくない時間帯まで、かかってしまっていた。

しかし、リオライズは落ち着いて村人に指示を施す。


『火属性、及び十八歳以上の方は村に残ってください。他の方々は、騎士団の指示に従って安全な場所へ避難をお願いするっす』


その言葉で、騎士団が動き出す。

リーダーと目が合うと静かに頷いて、十八の火属性の班がリオライズをリーダーに並んでいった。


『リオライズ殿。わしも一緒に戦いを見届けさせてくだされ』


村長が、リオライズの服の裾を引っ張って懇願するように、頼み込む。


『分かりました。一緒に村の平和を届けましょう』


村長と、短く対話をしていると、騎士団の掛け声が響く。


『こちらは、十八歳以下と火属性に該当しない者達の招集が終わった。これより馬車で、避難所へ向かう!』


『では頼みました!』


小さく敬礼すると、騎士団のリーダーも返しながら、避難する村人を全員馬車に乗せて走っていった。


その遠くなる背中を見届けながら、村に残った火属性の大人達は六人。

彼等とともに火薬を撒きながら、作戦を話す。

村を囲むように二つまみ程、一か所ずつ、幅の感覚を開けて振っていく。


『村長の聞いた話では、灯りを苦手としている。火薬は、火を着けると爆発するのを利用して、灯り代わりにするんです』


『でもよ、そんな遠くからの火じゃ、嫌がらない可能性も捨てきれねぇよ?』


質問したのは、チャーコール班で、木材を燃やしたくれたレッドだった。


『確かにその考えは正論っす。《灯りが苦手=燃やされるのが嫌》という考えにも辿り着くことが出来る。俺の風魔法で、火の海に放り込めばもしかしたら……という作戦です』


『なるほどな……とにかく早くぶっ倒して、最高の睡眠を手に入れようぜ!』


最終的に、村の中心まで撒けるほどの火薬が出来上がっていた。

火属性の六人と、村長とリオライズは目を合わせて最後の指示を出す。


『では、俺の合図通りに着火してください』


間もなくして、日は完全に落ちた。

村の外に出て、両翼に火の魔力を宿した村人が三人ずつ待機している。


影が動き、静寂の中で風が吹き抜ける。

その瞬間を見逃さなかったリオライズは、合図を出す。


『十一時、三時! 打ち放て!』


その掛け声とともに、十一時と、三時の方向からリオライズを囲むように、火薬に触れた火が何回にも渡って爆ぜる。


一瞬で赤く燃え上がる景色、次の瞬間――


動く影が火に触れると、甲高い声を響かせて村人の言っていた、鎌を目に当てた悪魔が姿を現した。


『ヴァァァァァァァ!』


自分よりずっと大きい体に、足の無い浮遊した体。

黒いローブの裾を靡かせながら、骸骨の仮面を被った悪魔と対峙する。

そして、リオライズは迷うことなく一撃を入れるのだ――

最後まで読んで頂きありがとうございました

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