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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
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Memory and Time: Cloaked Name(メモリー・アンド・タイム:クロークト・ネーム)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

ゼリアトーレまで帰った彼等は、慎重に様子を伺いながら町に踏み入れる。


『まだ、敵はいないみたいだ……さっきの爆発も遠隔で、起こしたのか』


黒き爆発で、隣町のように沢山の人々が命を落としていた。

しかし、死体の数と、殺された人の属性が妙にしっかりしているようにも、リオライズには見えていた。


『とにかく、お母さまを探そう……! ベルティリナおばさんも、一緒かもしれないし』


小さく輝く涙の粒を拭きとり、シルヴェレンは、強く頷いた――


シルヴェレンは、母親がいる場所を推測しながら、リオライズに手を引かれて全力で走っていく。


その道中で、特定の場所での爆発だったとはいえ、大勢の人間が重傷を負い泣き叫ぶ子供の声と、助けを呼ぶ大人達の声が、彼等の心を罪悪感で満たしていった。


そして、ひたすら無事を祈りながら、ベルティリナが営むケーキ屋へ辿り着いた。


『母さん!』


そこには、瓦礫の下敷きになり苦しむ呻き声をあげる、ベルティリナだった。


リオライズは即座に、風魔法で瓦礫をどけて助けると、彼女の腹部に何か刺さったような傷跡があった。


『シルヴェレン、なるべく綺麗な布を持ってきて』


動揺しながらも、ラフィーリスが心配で倒れそうになるのを我慢しながら、シルヴェレンに的確な指示を出して、ベルティリナに手当てを施す。


奥の調理場らしき場所へ布を取りに行ったシルヴェレンが帰ってくる。


『持ってきました……! ここの地下にある設備は被害が無かったみたいっす』


シルヴェレンは、言われた布を数枚と、一つの箱を持ってきていた。


『この箱は、緊急で人を治療する時の物資が入ってました……! きっと、母さんの役に立つと思うっす』


奴等がいつ来てもおかしくはない。

タイムリミットが迫る中、冷静に落ち着いたリオライズは、母親に教わった「応急処置」と呼ばれる類をこなしていく。


布を傷跡に優しく押し当てるが、一枚では血が滲んでしまう。少しでも多く布を当て、その上から箱に入っていた、太い包帯で布を固定するようにぎゅっと縛った。


『どうですか……楽になりましたか……?』


手当てをする前と比べると、ベルティリナの顔色と呼吸が元に戻っている気がしていた。


『助かったよ……ありがとう……二人とも』


ほっと胸を撫でおろすシルヴェレンとリオライズ。

しかし、今は一切の油断を許さない。


『シルヴェレン。確か“地下は被害が無かった”と言っていただろ。ベルティリナおばさんを連れて、僕がお母さまを連れてくるまでの間、そこで身を隠して待っていてくれないか……?』


いつもとは低い声で、リオライズはシルヴェレンの目を真っすぐ見据えて訴える。


『自分の身も守り、今まで守ってくれた母親を自分が守るんだ』


『――っ。大丈夫っす、早くお母さまの所へ行ってあげてください。必ず俺達も生き延びますから……』


『すぐに、戻る――!』


こうして、ケーキ屋を飛び出し、リオライズは一人下層へ続く階段を真っ先に目指して駆けて行く。


迷路みたいに、小さな階段や大きな柵も構わず身軽に飛び越えて、右の曲がり角にある下層の階段を駆け下りた――


最初に目に飛び込んできたのは、上層同様の荒れた町並み。

自分の家が爆破されたと思われたが、隣の家の飛び火で燃えていただけだった。


リオライズは、思いっきり自分の家の扉を開けてラフィーリスを探し出した。


黒い煙が立ち込める中、必死に叫ぶ。


『お母さま! お母さまどこにいるの……!?』


一階のキッチンが炎に包まれ、母親の姿はない。


その瞬間――


二階から自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。


『リオ……! 戻っていたの? 早くこちらへ!』


火花が散る音で、小さく聞こえる声でも、無我夢中で二階の母の自室を開ける。


『お母さま!』


『リオ!』


「ドン」っと強く扉を開けると、そこには正真正銘ラフィーリスの姿があった。

母親の生きている姿に安堵して、リオライズは飛びついて抱きしめた。


『無事で……本当に良かった』


いつも撫でられている頭も、今はようやく撫でられている不思議な感覚だった。


『お母さま……隣町の人達が皆死んでて……』


息が上がる。心臓の鼓動が酷くうるさい。

それでも、必死にシルヴェレン達の状況を伝える。


『上層には怪我をしたベルティリナおばさんと、シルヴェレンがケーキ屋の地下で僕達の合流を待ってます……! 早く行きましょう』


全部言い切った。

目を見開いたラフィーリスは、優しい瞳かでリオライズを、褒めた。


『偉いわね、リオライズ。悪い人達が来る前に、二人と……』


ラフィーリスが立ち上がった、その瞬間――


再びあの時と同じ、爆発音が耳を劈く。

窓から覗くと、一回目の時より大規模な崩壊を起こしていた。


そして、リオライズが目を見開いたのは、黒装束の男が他の仲間を大勢連れて、禍々しい雰囲気を放ちながら、不気味に立っていたことだった。


男は、まだ生きている人々に対して高らかに宣言する。


『私の名はティオル・マキリス! 寛大な闇属性の神《ノクトヴァ―ル神》に選ばれし代行者である。我々に逆らう者は、ここが貴様達の墓場と思え!』


フードが風に靡かれて、ティオルの顔が明らかになる。


紫のような黒い髪に、左肩に伸びる一つ結びのおさげヘア。釣り目の瞳は、全てを消し去ろうとして、何かを過信しているようなものだった。


その姿を、ただ恐怖としてしか見れないリオライズに、ラフィーリスはそっと頬にキスを落とす。


『お、お母さま?』


ラフィーリスの瞳は、「ごめんなさい」と謝るように、物悲しい瞳をしていた。

そして、衝撃な一言が彼を凍らせた。


『リオライズ……ここでお別れです。私があの悪い集団を引き付けている間に、ベルティリナおばさま達と合流して、遠くへ避難するのです』




突然告げられる別れ。時が止まったように静寂が訪れると、数分後、話を理解できなかったリオライズは、首を横に振る。


『出来ません……お母さまが残るくらいなら、僕も残ります……!』


『リオ……!』


強い口調で名前を呼ばれた。この時の声は、怒っている時。

だけど……どこか優しさも感じる声だった。


『大丈夫。あの人達と戦うからと言って死ぬことが決まった訳ではありません。……もし生きて帰れたら、必ず成長した貴方を見つけますから』


大粒の涙が、声にならない泣き声が頬を伝う。

母に差し出された、ベルティリナからのプレゼントの籠手を受け取り一緒に、手を繋いで、家を出た。


顔を見合わせて笑みを浮かべる母、強く握られている手は嬉しさや楽しさ、幸せなんて物じゃ無くなっていた。



『……まさか、自分達から姿を現すとは……しかもガキが一人か』


リオライズ達に気付いたティオル。

一気に緊張が走る中、ラフィーリスが立ち向かった。


『貴方達の蛮行は、ここで私が必ず食い止めて見せましょう!』


『女一人で、何が出来る……!』


ティオルが剣を抜くと、紫色に脈動しながら闇の魔力を解き放つ。

そして、周りの仲間を取り込むように剣に集約させると、龍のように螺旋を描き、禍々しい斬撃がラフィーリスめがけて、迫っていく。


その瞬間、後ろを向いて、全力で上層の階段を目指して走っていく。


振り返って母の顔を見たい、最後に「ありがとう」と言いたかった。

それでも振り向いたら、きっと怒ると思うから、枯れるほどの涙を流して、前が滲んで見えなくても、何度も何度も拭ってひたすら進み続けるのだった。



【追憶の海底にて】


『結局、背を向けて逃げることしか出来なかった俺は、シルヴェレンの元へ帰った時、ベルティリナおばさんも見捨てる決断を強いた』


母親と離別した後の記憶を、“今の”リオライズが語り始める。


『でもシルヴェレンは、自分の命より、最後まで母親と一緒にいることを選んだ。……俺には足りなかった家族愛を優先したんだ』


自分の言うことを、聞かなかったから腹が立ったとか、羨ましいなんて感情もない。

ただ、芽生えた殺意はたった一人の男に向けるのだ。


『俺とあんたの分岐点は、あの時ティオルと接触するか否かの差に過ぎなかった。町から出ない世界線もあったんすかね……』


まるで罪悪感に押しつぶされそうになる瞳で、“別世界線の”リオライズに訴える。

自分を殺した“今の”リオライズを見ると、少し胸が痛くなる感覚が走った。


『結局俺は全員を見捨てて、ティオルへの復讐の為に、生きてる人々の力を借りながら、一日たりとも休むことなく、鍛錬し続けた』


肩を震わせて、日々の苦悩を思い出す。


危険を承知で、本名で沢山の大会に出場して、優勝すれば知りたい情報は何でも貰えた。

その中に、ティオルの情報も入っていることは珍しくなかった。

討伐依頼を出されたモンスターを排除して、更に強くなり、各地を転々としながら、六年の時を経て――再開が果たされた。


『あいつに負けた時に、記憶を全部消されたんだ……』


思い出されるのは、ティオルとの再会の過程。

六年間の月日で溜め込んだ怒りと、強さをぶつける光景が映し出される――

最後まで読んで頂きありがとうございました

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