表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
57/124

Memory and Time: My Friend(メモリー・アンド・タイム:マイ・フレンド)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

『風の属性魔力を貰ったあの日から、僕は下層で苦しんでいる人達の手助けと、強くなろうとする特訓を始めたんだ』


『俺が愛用している武器、見覚えがあると思ったんです。……やっぱりベルティリナさんが、くれた物で間違いなかった……』


自分の腰に携えている籠手を取り出して、懐かしむように眺めた。

あの日、六歳の時この籠手が無かったら“今の”リオライズは存在しないのだろうと……

ベルティリナがくれた籠手は、悪夢の始まりであり、救いでもある一品だった。


名残惜しげに視線を上げた瞬間、過去の情景が静かに浮かび上がる——


下層で朝から働くように、人助けをする過去のリオライズ。

貰った属性魔力を巧みに使って手伝いをしている。


おじいちゃんくらいの年齢の老人が、大きく重たそうな丸太を持ち上げようとする姿を見て走り出す。


『どこまで運ぶんですか?』


『そこの青い建物まで、運ぼうと思って……』


老人が、指差した場所は、かなり危ない坂道を渡った先にある建物。

坂を登らなければ、数ミリしか確認できないほど小さかった。


『じゃあ任せてください!』


満面の笑みで、返すと丸太に手をかざして魔力を込める。

すると、丸太は徐々に宙を舞い、そのまま束になるように自分の肩に乗せた。


またある時は――


『ただいま~』


ラフィーリスが、愛する子供が待つ家へ帰宅する。

いつもみたいに、二階から降りてくるのかと思いきや、一階の机に置手紙が書かれていた。


今日も下層の人達をお手伝いしました。

今は変って思われるかもしれないですけど、いつかは下層も上層も分け隔てなく、幸せに暮らせる未来を願って、ベルティリナおばさんの裏庭を借りて、訓練に行って参ります。


ラフィーリスは、そっと手紙を胸に当て、くすくすと微笑んだ。―― 上層の人達の温かい優しさに、再び包まれたのだった。



そして、風景は裏庭に移り変わる。

一人の青年と、もう一人知らない青年が、拳で語り合うように特訓していた。


リオライズが華麗なステップを踏むように、相手の攻撃を回避しつつ、高く跳ね上がり、上から助走をつけて拳を振り下ろした。



『ところで。あの誕生日から何年経ってるか、分かる?』


“別世界線の”リオライズが、ちゃんと時系列が分かっているかの確認を施すように、問いかけた。


身長は六歳の時よりも、一回り大きくなっていた。

服装も前より豪勢で、特訓相手になっていた青年も、誰かを思わせる赤髪だった。


『二年、もっと三年くらいでしょうか……?』


『正解、あれから二年は経ってる。一応聞くけど、今のは勘?』


『いいえ。段々思い出してきたっす……この青年とは、一緒に旅をする仲間に……』



こうして、“今の”リオライズが、断片的に記憶を取り戻しながら、本当の記憶を取り入れていく。

そして、懐かしの声と話し方、赤髪の青年が記憶の中で動き始めた。


『じゃあ、シルヴェレンは跡継ぎの為に武闘家にはならないの?』


{シルヴェレン・シュマロ}

ケーキ屋【ガトー・デ・リーヴ】の店長ベルティリナの一人息子。

リオライズとは、母親繋がりで知り合い、拳同士の特訓をシュマロ家の裏庭でよく行っている。


母親譲りの赤い小さな一つ結びの髪に、黒を基調としたカンフーな服を身に纏い、一目で武闘家と分かるほどだった。

そして、リオライズの問いにシルヴェレンは答えた。


『そうっすね。今だけ、武闘家みたいなかっこいい戦える人になりたくて……別に母さんに、跡継ぎを強制された訳じゃねぇですけど、やっぱり先のことを考えると、継いであげたいから』



クールで落ち着いた声に、語尾が特徴的な喋り方。

少ししか使わなかったが、その光景を目にした“今の”リオライズは確信した。


今の俺の話し方も性格も、全部この人の物だったんだと……



『優しいんだな。僕はお母さんのことが好きです。……命懸けで産んでくれて八年間、一日も休まず育ててくれた。シルヴェレンはどう思う?』


『俺も同感っす。跡継ぎ以外で、何か恩返しをしたいって思ってるけど、何が良いとか分からなくて……』


長い沈黙。腕を組んで首を傾げて、必死に思考を巡らせる。


そしてその言葉に、何か思いついたような煌びやかな瞳で、リオライズはシルヴェレンに一つの提案をする。


『だったら、旅に出ましょう!』


『……はい?』


唐突な提案に、思わず困惑するシルヴェレン。

リオライズは続けて、自分の考えを伝える。


『旅って言っても、本とかで描かれるような冒険じゃなくて。日帰りくらいのイメージで外に出て、二人を育ててくれたあの人達に、笑顔を届けるというのは、魅力的だと思わない?』


『サプライズって具体的には?』


リオライズの提案に、興味が湧いたのか深堀りするように会話を続ける。


『きっとお母さまなら、どんなことでも喜んでくれると思います。怖い物とか汚れた物は良くないけど、手作りの料理でも、洋服でも、アクセサリーでも、お花なんかも喜んでくれると思うな』


指を折りながら、数えるように喜びそうな物を、ひとつひとつ出していく。

リオライズも、日頃から感謝は空っぽにも近い言葉でしか渡してなかった。


物をあげたら良いのかと言われれば、勿論違う。

それでも、未来が少しでも幸せになるような行動をしたいと思っていたのは事実だった。


『じゃあ、作戦会議でもするっすか……?』


シルヴェレンが、心を開いたかのように、自ら声を掛けてくれた。

そして、作戦会議という名にリオライズは目を見開く。


『――旅のサプライズ、賛成してくれるってこと?』


驚きと感動が入り混じるような声で、シルヴェレンを一点に見つめた。

じっと見られるのが慣れてなかった彼は、頬を赤らめながら強がりを言った。


『……俺が行きたいだけっすから! あんたに付き合ってるとか、勘違いしないでくださいっすよ!』


リオライズが小さく笑うと、不器用にそっぽを向いたその横顔は、素直になれない心とは裏腹に、どこか嬉しそうでもあった。



遠くなる笑い声、白い空間に身を包まれた“今と別世界線の”リオライズが、再び絶望に近づく幸せを見届けていた。


『八歳の少年二人が、母親に申告して町を後にする。“遠くには行きすぎない”というのを約束に、町が目視できる距離でサプライズを用意した』


“今のリオライズが思い出すように、ブツブツと呟く。


『しかし、外でサプライズを作っている最中に、第二幕の絶望の糸が姿を現した……』


その瞬間、黒装束の男とぶつかってしまった記憶が脳裏を過ると、トンカチで殴られたような痛みが頭を襲った。


『――っ。今のは……』


頭を痛みで、思わず膝をついた。

その姿を見た“別世界線の”リオライズが衝撃な一言を告げる。


『そろそろ、僕の過去に分岐点が近づいてきた合図かもしれないね』


『分岐って……今の黒装束の男が……?』


膝をついたまま“別世界線の”リオライズを見上げながら問いかけると、小さく頷いて絶望を見据える瞳に変わった。


『あの時に、今の君と、別世界線としての僕が決別した瞬間だったと思う……

取り敢えず、口で説明するより見てもらった方が確実だ。準備は良い?』


“今の”リオライズが立ち上がり、“別世界線の”リオライズと視線を交差させて決意の声で返事をする。


『はい! いつでも向き合う覚悟も準備も出来ていますから』


時を遡った場所で、“今の”リオライズと瓜二つな青年。

どうして、そうなったのか、黒装束の男の正体も明らかになる。

二人のリオライズが辿り着く絶望と、これからの生き方について。


追憶の海底リオライズ編、クライマックスへ――

最後まで読んで頂きありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ