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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
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Memory and Time: Mother’s Love and Happiness(メモリー・アンド・タイム:マザーズ・ラブ・アンド・ハピネス)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

「ドボン」と音を立てて、海の中へ身を投じたリオライズ。

海の中に一匹の魚影の姿も無く、果てしなく美しい青色が広がっていた。

潜るたびに、浜辺で感じた微かな魔力も、段々近づいてきているのを肌で感じ取った。


次の瞬間――


海底の砂浜を軋むように割れ、鈍く重い音が鳴り響いた。

そこから現れたのは、王城の門のように大きな扉。黒く染まり、威圧的な気配を放っていた。

リオライズは数十メートル離れた場所から、その扉をじっくりと、観察する。


「何かを祀ってる……?」


扉には、ヒマティオンをまとい、両腕を掲げる二人の男が刻まれていた。

まるで、見えない何かに祈りを捧げているかのように。


もっと近くで見ようとしたその時——

扉は静かに開き、手招きするかのようにリオライズを引き寄せる。


「う、うわっ――」


暗闇が彼を呑み込んだ。

終わりのない闇の中、彼は必死に開いた扉の奥、青く光る出口に手を伸ばす。

だが、扉は無情に、重く音を立てて閉ざされた。


やがて、眠りに落ちるように、意識を失った――


次に目が覚めた時、リオライズは苔がむした神殿のような中で、横になっていた。


「なんです……? ここは」


扉を潜った先には、不気味な笑い声と、空間が歪むような景色が視界全体を覆った。

重い体を何とか起こして、周りを見渡すと、奥の扉に白い光が覗き込んでいた。リオライズは、道の続くままに歩みを進めた。


『初めまして。今生きているリオライズ・ニイタ。よくいらしてくれました』


扉に足を踏み入れた瞬間、真っ白な空間の中で自分と全く同じな声が聞こえた。

眩しさと驚きで、目を伏せる。

そして、恐る恐る顔を上げると、白い空間から霧がかかり、モヤのように誰かが立っているのが、リオライズには見えた。


『だ、誰……?』


霧が晴れ、もう一人のリオライズが、姿を現した。

茶色の整えられた小さな一つ結びの髪。首には緑色に輝く宝石の首飾りを着けていた。


――そう、あの夢の少年が大人になった姿。

つまりは、“リオライズが本来行くはずだった未来の姿“という暗示だったのだ。


『さっき、アラリックさんから夢の話を聞いといて良かったっす。……俺の過去を、一緒に見てくれるってことで良いんすよね?』


『察しが良いですね。大正解です』


驚かない“今の”リオライズに、“別世界線の“リオライズは、どこか皮肉そうな笑みを浮かべた。

その表情の意味も、“今の“リオライズには簡単に理解できた。


『恨んで良いっすよ……俺が君を、行くはずの未来を殺したから。……ちゃんと向き合わせてほしい』


軽蔑、偽善、醜い塊を見るように“別世界の“リオライズが鋭く睨みを利かせた。しかし、頭を下げ続ける”今の“リオライズを見た彼は、振り返ることなく「僕に着いてきて下さい」とだけ言い残し、真っ白な空間の奥へ歩き始めた。



そして情景が、途切れているビデオテープのように映り変わる――


『ここは……夢で見た場所?』


夢の中では、じっくりと見れなかった小さな街並み。

外には奴隷のように働かされている者や、貧しくお腹を空かせた子供達が、路地裏で肩を震わせて、蹲っていた。


商人は、破れた布で屋根を作り、黒く汚れた台に商品を並べて客が立ち止まるのを待ち続ける姿しかなかった。


そして、“別世界線の”リオライズが説明を施す。


『ここは、ゼリアトーレ城下町の下層。僕の母親、ラフィーリスは上層の一番金が貰える仕事場に行って、女手一つで僕を育ててくれた』


『下層は貧しい人達が暮らす場所……俺達も貧しかったってことっすか?』


『そうだね。基本下層に集まる人間は、負け組の象徴。……だけど、そんな状況でも僕達は、小さな幸せを噛みしめながら生きてきた』


歩きながら、街並みを見ていると、確かに場所によっては下層であっても、幸せそうな家族もいた。


『一度、僕達の家庭も見てもらおうかな……?』


そう“別世界線の”リオライズが話すと、見ていた風景は徐々に白く包まれて、戸惑っている暇もなく小さな家の中に辿り着いた。


木造の小さな家。玄関を入ってすぐの居間には、丸い木のテーブルが一つ。

そこには、水色と緑の爽やかなチェックの布が、十字にクロスするように掛けられていた。


『二階があるはずだ……昔、俺は二階で誰かの帰りを待ってたっす』


一部の記憶が思い出されるように、“今の”リオライズが呟いた。

そして、その記憶に呼応するかのように、家の扉が開かれた。


『ただいま~』


後ろから、優しく柔らかい声が響いてくる。咄嗟に“今の”リオライズ身を屈めた。


『安心して。心配しなくても、ここは精神世界みたいなもので、向こうから僕達の姿は見ることは出来ない』


それでも、暫く屈んだ状態で待っていると、右手側から、ドタドタと足音を鳴らして、何かが降りてくる音が近づいてきた。


『お母さま! おかえりなさい』


階段から出てきたのは予想通り、幼少時代のリオライズで夢と見たままの姿で登場した。

少し豪華そうな、子供用の服。茶色のワイシャツに、グレーのラインが特徴的な黒いジーンズを履いて、ラフィーリスに飛びついた。


『ただいま、リオ。ちゃんと良い子で待っていましたか?』


『うん! 今日はこの前ご褒美で買ってくれた服を着て、お母さまの出した問題、ぜんぶ解いたんだよ! 十ページも!』


自慢げに渡された問題文の紙を広げて、見せつける。

そして、ラフィーリスがリオライズの頭を優しく撫でる。


『よく頑張りました。私は手を洗うので、食材を一緒に持ってきてくれる?』


『はーい!』


問題用紙を一度机に置いて、ラタンバスケットを受け取ると、小さな歩幅で慎重にキッチンまで運んで行った。


その光景に、“今と別世界線の”リオライズは絶望的な顔に変化する。

傍から見たら、普通の日常と幸せなやり取り。

しかし、この記憶が見れるということは、即ち“母親であるラフィーリスが、死ぬという未来が待ち受けているのだ”――


追憶の海底の話を聞いている時に、アラリックは一つの言葉を言っていた。


「自分の見たい記憶の中に……既に息を引き取った者との接触が必要。と綴られていた」


それでも、“今の“リオライズは前を向く。

自分で殺してしまった世界線のリオライズの為。

そして、必ず真の平和となった世界を母親に見せる為に……


『それじゃあ、次の記憶を見に行こう』


『次はどんな記憶を……?』


『僕が……お母さまから授かる”大切な物を”目覚めさせる儀だ』


再び白い世界へと変わり、今度は見たことの無い場所で、ラフィーリスとリオライズが、親子で手を繋いで散歩する姿が目に映った――

最後まで読んで頂きありがとうございました

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