Death Game: Abyss Memory(デスゲーム:アビス・メモリー)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。
三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、自分達の過去と向き合っていく——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「取り敢えず、聞きたいこと、知りたいことは分かって良かったね」
図書館を後にしたストリクスが、外の風に当たりながら最初に口を開いた。
二人はスズランの約束通り、他の五属性の神と代行者についての記憶が、ぽっかり穴が開いてしまったように消えていた。
それでも、彼等が抗おうとする熱、それぞれが掲げる想いは決して消えてはいなかった。
「ストリクス、貴様はここの近くに故郷があるのだろう……? 寄っていかなくて平気なのか」
学園への帰路へ足を踏み出した瞬間に、アラリックが気にかけるように問う。
その言葉に、名残惜しそうな瞳で故郷の方角を見た。
「……うん。でも、今は会わない。全部の使命を終わらせて、生きて帰れた時に取っておくよ」
生きて帰れる保証など無い……死んでしまえば全てが終わる。
それを理解して、覚悟を持って発言をしているストリクスに、アラリックは、それ以上言及することはなかった。
学園までは、数時間程度で到着した。
そして、二人の帰りを待つように、目元を赤く染めて活力を無くしたヴェイルを、連れるようにリオライズが昇降口で待機していた。
目線が合うと、小走りでアラリック達を迎えた。
「お疲れ様っす。御二人とも」
安堵、少し不安にも思える二種の混じったリオライズの声。
ヴェイルの瞳に光が宿らず、手首を引っ張られている時点で二人はある程度予想は出来た。
「そちらも何かあったようだな……まぁ大方、逆に奴等に脅された。と言ったところか……」
「仕方……ねぇだろ。だって、また……」
鼻を啜って、必死に言葉を紡ぐヴェイル。
同じクラスだった二人は、“誰かが死ぬ“ということが彼の中で、最大の絶望だと認識するようになったのを知っていたから……
「ここで話してると、まずいかもしれないんで、一度俺の寮で話をさせてくださいっす」
そして招かれた、初めてのⅡ組の寮の部屋。しかし内装は、自分達の部屋と変わらず、最低限の物しか置かれていなかった。
扉をしっかりと閉めて、リオライズが早速本題へ入る。
「アラリックさん達が、図書館へ行っている間にマリーナ先生と対峙しました。彼女等の言い分では、対人戦二戦目をやらなくても、いずれかのⅡ組の生徒の誰かを脱落させると……」
「なるほど……それで、落ち込んでいたという訳か……」
ゆっくり「うん……」と頷いてヴェイルは、目を伏せる。
その姿を見かねたリオライズが、希望を生み出すように前を向く。
「確かに、Ⅱ組の誰かが脱落して、最悪死に至るのは俺も嫌っす……。でも、逆手に取って狙われた人を、記憶持ちに戻すチャンスでもあると思うんすよ」
「そんなこと……出来るはずがない。残されているのは、奴等を永遠に見張ることくらいしか……」
再び絶望へ堕ちるヴェイル。情けない声、弱弱しい瞳。
リオライズも励ましの意味を込めていたが、無駄だと理解した瞬間、声を大きく低くして喝を入れる。
「やることすら放棄して、出来ないと決めつけるのは、死んでいるのと同じっすよ!」
膝を抱えていたヴェイルが、リオライズの声に肩がびくっと動く。
恐る恐る、少し顔を上げて覗き込むように、静かに言葉を聞き続ける。
「最初は誰しも、出来なくて当たり前です。自分の苦手なこと……嫌いなことを毎日挑戦して、段々出来るようになっていく。それもしないと言うのなら——ヴェイルさんは死人と同じです!」
強い言葉に、思わずヴェイルは涙がこぼれた。
また、弱くて絶望する自分に、立ち直らせようとしてくれる行動に申し訳なさと、有り難さが入り混じり、大粒の涙を流して、リオライズの声を聞き続ける。
「貴方と同じクラスの人間にもいたでしょう……? 今目の前にいるアラリックさんは、一生見つかるか分からない記憶持ちの人間を探して、辛いことも、苦しいことも乗り越えて、戦い続けた結果、頼れて信頼が出来る仲間がいるんです」
「確かに、お前の言っていることは……一理ある。だけど、失敗したら怒られて、責められて、死んでいった奴に顔向け出来ねぇんだよ……」
頭をくしゃっと手で掴み、食いしばるように懸念を吐き出す。
「失敗だって、人間である以上数えきれないほど繰り返します。逆に失敗を経験して強くなる人もいる。
それに貴方には、失敗を補える仲間も……いるんじゃないんですか?」
ヴェイルが目線を変えて、アラリックとストリクスの顔が涙で滲みながらも、しっかりと分かった。
「別に一喜一憂するなとは言わないっす。それでもアーサーさん達の意思や、ソニントさんの分まで戦うことを諦めるのは、俺が許さないっす」
ソニントの人生を自分が終わらせて、グラン達の意図に気付き、烏滸がましくても立ち上がろうとした自分を、今の自分へ必死に持ってこようとする。
「最終的には、助けたい奴等の中から大量の死人が出るかもしれない。誰も残らないかもしれない。でもやらないで野垂れ死ぬくらいなら、挑戦してみてもいいかもしれない……」
呆れながらも、安堵のため息を吐くアラリック。それに顔を合わせてストリクスが微笑んだ。
リオライズは、自分の言葉をしっかり受け取ってくれたヴェイルに対して、最後の問いかけを投げた。
「じゃあ。マリーナ先生達の蛮行を上手く使って、賭けに出ますか?」
滲む瞳を、ゴシゴシと袖で拭い、鼻を啜って三人としっかりと向き合う。
「おう……かっこ悪い姿ばっかりで、周りの慰めが無いと、指一本で折れちまうくらい弱い心でも……ちゃんと戦うよ」
細い枝にしがみついて、握る力が弱まり崖に落ちても、何十回、何百回、何千回だってしがみつく為に、立ち向かっていく。
そんな風に彼は、再び登っていくのだ。
「それで、そっちは何か収穫はあったのか?」
ヴェイルが、立ち直って数分が経った頃、アラリック達の図書館での出来事を積極的に聞き出す姿勢を見せていた。
「かつて、想い人を失った男が、彼女の記憶の全てを見たいと懇願した時、追憶の海底の扉が開き、強請った通りの記憶が見れたとか……」
「追憶の海底……そこに行けば、全部思い出せるんすね……」
何かを懐かしむように、遠い昔を見るような目で、リオライズは譫言を口にした。
「北の海底にあるという風に伝えられている。人によって扉の出現場所が違っていることと、自分の見たい記憶の中に……既に息を引き取った者との接触が必要。と綴られていた」
アラリックは、本に書かれていた内容を、二人にそのまま伝授するように話す。
「まぁ、それに関しては行ってみないと分からないっすね……」
微かな記憶を辿っても、リオライズの中で思い出されるのは、学園の面接とトライアウトを受けた時の記憶からだった。
“死者”その言葉を聞いた瞬間、ヴェイルが徐に立ち上がった。
「死者ってことはよ……ソニントが、どうして死んだのか分かるってことか……?」
ヴェイルの考えに、時が止まったように静寂が訪れる。
彼の言う通り、伝承の条件なら有り得ない話ではなかったのだ。
「分かった……最悪、どちらかが昔の記憶を見れなかった場合、ソニントの死の真相についても探りを入れてみる」
無意識に息を止めてたヴェイルは、“代わりに見てくれる“という言葉に、深く安堵した。
「頼んだぜ……! 二人とも」
こうして、アラリックとリオライズは、“各クラス一位としての特別試験”という体にして、グランへ交渉を持ちかける。
アラリック達が直談判へ職員に赴き、数週間という時間をかけて行くという覚悟も決めて、追憶の海底について話始める。
そして、グランの返答は如何に——
最後までご覧頂きありがとうございました




