Cursewalker: Symphony of Bonds(カースウォーカー:シンフォニー・オブ・ボンズ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、戦う生徒達と対峙する冒険者達。
アーサー達の視点から語られる、”あの日の真相”とは……
そして、記憶持ちの生徒が懸念している、事態の真実も明かされる――
《Death of the Academia》をお楽しみください
異空間の扉をくぐると、そこは歪んだ空気が静かに渦巻く、小さな木造の小屋だった。
「ここが……リゼルドが作り出した空間?」
窓から見える景色は、先程まで見ていた夜空ではなく、闇と闇が絡みつくような、歪んだ空間だった。
「ここにくれば、暫くは安心だ。流石にティオル達も、ここまで追ってくることは、あるまい」
「なんか、怪しい感じ……」
リゼルドが安心させるように諭すも、ルルナはあれだけの執着心を持つ人間が諦めるとは到底思えなかったのだ。
「少しでも奴等の攻撃から身を隠せるなら、ここに居ても問題はなさそうかな?」
アーサーもリゼルドをフォローするように、空間の安全を促した。
すると、何かに気付いたようにリゼルドが辺りを見渡し始めた。
「どうした? リゼルド」
「ううん……なんでもない。ただ、あの子達が呼んでるから少し席を外れても良いかな?」
「“あの子達“っていうのは、アラリック君のこと?」
「そうみたい。……安心して、もしティオル達が何かしてきても、身代わりの術で、必ず二人も別の異空間に転移するから」
二人の懸念していることを読み取り、安心させる言葉を紡いだ。
そして、二人が顔を見合わせると納得したように、頬を緩めた。
「分かった。くれぐれも無茶がないように……」
「気を付けて! 皆のことお願いね!」
「うん――!」
こうして、学園への扉が開かれ、リゼルドは一人、旅立っていった。
突如、重苦しい雰囲気が、アーサー達の空間を襲った。
「……ねぇ、何か……聞きたいこと、あるんでしょ?」
ルルナが、震える声をぎゅっと押さえつけて、怯えるようにアーサーに問いかける。
「そうだね……君に限って隠し事なんてないと、信じたい。だけど、何か言ってないことがあるなら言ってほしい」
ベッドに腰を掛けていたルルナの隣に、アーサーは優しく包み込むように、ルルナを腕に抱くと、静かに呟いた。
「大丈夫だよ……君に、どんな過去や、秘密があろうと絶対受け入れる。……約束するから、話してくれる?」
ルルナは、深く考えた。そこで浮かび上がる昔の情景……
涙が出そうになるのを堪えて、そっとアーサーの胸を押し返した。
「ごめん……なさい。少し、心の準備をさせてほしい…… 良いかな?」
「分かった……ここを見回って待ってる。それで、話したくなったら声を掛けてね」
アーサーは、部屋の扉に手をかけた時、ルルナの顔を見るように振り返る。
無理やり聞き出そうとしてしまっている罪悪感と、真実を知っておきたい。という気持ちが混ざり合いながら、静かに部屋を後にした――
そして、ルルナは静寂の悲しみが訪れるように、呟いた。
「言え……ないわ。だって、私は――」
そして、アーサーはリゼルドの作った異空間を探索していると、体のあちこちが痺れているのを感じた。
急いで、ルルナの入った部屋の隣に入り、その場に座り込んで深呼吸をした。
「あの一撃……クレヴァスの《風神羅刹斬》。ただの攻撃じゃなかったのか……“呪い”に近い術……?」
思い当たる節はあった。クレヴァスと対峙した時に、放たれた《風神羅刹斬》。
おそらく、アーサーを斬る為に放ったのではなく、逃げても一生苦しむ為の術だったのだ。
「寒い……痛い……っ。回復魔法で……どうにか……」
アーサーは、自分の用いる水属性の魔力を使って全身に淡い青色が体を包み込む。
しかし――
体の内側から、噛みつかれるような痛みが、奔る。
すぐに、回復を解くも、噛みつかれる感覚と連動するように痺れが止まらなかった。
「駄目だ……一度休まないと」
呼吸が乱れ、足を引きずるようにしながら、何とかベッドに体を預ける。
「リゼルドが帰って来るまでは、安静にしてないと……」
瞼が重くなり、やがて意識を失った――
一体、何時間が経ったのだろう……暗闇の中で俺の呼ぶ声が聞こえる……
でも不思議と、さっきまで痛かった体が楽になっている気がする。
そして、現実空間での夜が明けるまで、ぐっすりと眠りに落ちたのだった。
「……サー……アーサー……アーサー!」
次第に大きく聞こえてくる、ルルナの声。アーサーは、驚くように飛び起きた。
「……! ル、ルルナ」
椅子に腰をかけて、心配そうな表情でこちらを見つめていた。
「大丈夫?」
首を傾げて、ルルナがアーサーに不安に溢れる声で問いかける。
「だ、大丈夫。心配かけて……ごめん」
その日、初めての声を聞かせると、一気に安心したように立ち上がった。
「そう、なら良かった。下でリゼルドが朝ごはんの準備をしてくれてるから、お手伝いに行きましょう」
「分かった。すぐに行くよ」
異空間でも、完成度の高い部屋。
少し体が浮いている感覚はあったが、気にもならない普通に過ごせるレベルの建物だった。
そして、フライパンを片手に料理をしているリゼルドが、鼻歌を歌いながら、起きて来たのに気付いてくれた。
「おはよう。アーサー」
「お、おはよう……」
フライパンの中は、パンケーキを焼いており、フライ返しもお手の物だった。
「……母親かよ、ってツッコミたくなるくらい手慣れてるな……」
呆れなのか、尊敬なのか分からない気持ちのまま、ふっと横入りするように、眠っていた時の体の回復と声について思い出した。
リゼルドが立っている台所まで足を運び、静かに聞き出す。
「昨日帰った後、クレヴァスの術を解いてくれたのって、もしかして……」
横目で、アーサーを見ると、出来上がったパンケーキをお皿に移しながら、リゼルドは答える。
「……ご名答。でも危なかったよ。もう少し帰りが遅れてたら、どうなってたか……」
「ありがとう……それで、アラリック達は……!」
「それについても、安心して。あの子達も動き始めた……今朝、契約の証人として立ち会ったしね」
誇らしげに宣言すると、状況が上手く理解できないアーサーに、詳しく説明を施す。
「“選別を一時的に辞めて、記憶持ちの三人に真実を全て打ち明けること“」
「さ、三人……?」
「ヴェイルの記憶も戻ったみたいだ。おそらく、ストリクスの姿が引き金になったんだろうね」
「何から何まで、頼ってしまってごめん……そして、ありがとう」
「よろしい……それじゃあ、次は君の番だよ。ルルナ」
出来上がった料理を持ち運び、ずっと棒立ちだったルルナに、鋭い視線を送りながら見据えた。
「うん。覚悟……決まったから朝ごはん食べたら、全部話します」
――朝食の時間は、かなり重苦しい空気の中、時間は進んだ。
口に運ぶご飯は、あまり味を感じることが出来ずに、完食した。
そして、食器を片付け改めて俺達はルルナと向き合うように、視線を交わす。
体をブルブルと恐怖に満ち溢れるように震えながらも、決意の目つきに徐々に変わっていった。
「これを話せば、またティオル達に狙われるかもしれない……それでも、私の味方でいてくれる?」
決意の中にも、不安そうな瞳を揺らしながら、俺達に懇願するルルナの姿に、答えは勿論YESだった――
「絶対約束する……あの時も言ったけど、どんな過去を持っていようが、俺は仲間として、そして家族として……君を信じて尊重するよ」
その愛という名の宣言に、もう恐怖は消え去っていた。
大きく空気を吸って、吐く。私の愛する人、そして、私を仲間だと大事にしてくれる人……今、全てを伝えるね。
「私は……“六属性の神々”の一柱。光属性を司る存在――それが、私の正体なの」
“打ち明けられる、衝撃な真実”
そして、その告白とともに、再びティオル達の魔の手が伸びるのだ――
そして次回から、新章『全ての歴史と三百年前の真実』編
開幕です!
ルルナに関しては、冒頭にしっかりと回収し、次回からはアラリック視点(学園視点)へ戻ってストーリーを展開していきます




