Cursewalker: Aria of Hope(カースウォーカー:アリア・オブ・ホープ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、戦う生徒達と対峙する冒険者達。
アーサー達の視点から語られる、”あの日の真相”とは……
そして、記憶持ちの生徒が懸念している、事態の真実も明かされる――
《Death of the Academia》をお楽しみください
アーサーの心の変化によって、ティオル達の動きが一瞬止まった――
砂埃が起きるのと同時に、アーサーとルルナは全速力で、森の出口へ駆けていく。
土が舞い上がった、その瞬間——
その煙幕を切り裂くように、リゼルドの身体が空を駆け、ティオル達の前へと飛び出した。
名前を呼ばれた刹那、彼は鋭く牙を剥く。
「リゼルド!」
「任せておきなさいっ!」
ティオルの青黒いブレイドと激しく火花を散らしながら、剣がぶつかり合う。
その間に、クレヴァスはアーサー達を追って森の出口へと駆けていった。
「貴様の能力を、少し見誤っていたようだが……扉を作らなければ、あいつらは犬死にだぞ?」
「ご忠告どうも。でも別に、二人だけ逃がすつもりは、毛頭ないから」
剣を交えながらも余裕を崩さず、どこかに策を秘めたような声音で、リゼルドはティオルを挑発する。
「君達こそ、僕等に好き放題暴露されてたみたいだけど……大丈夫なの? あっ……でもそっか。――君はあんまり、呪いかけるの得意じゃないんだっけ?」
そう。こいつは、グラン達が学園を創設した際に行われた、呪術の譲渡――
死者の声を通じて、それを知っていた。
その時から、僕はずっと逆転の一手を探し続けていたのだ。
「見くびったな。お前にかけられた呪いなんて、実際何の影響も及ばない……それは、アーサーやルルナも同様に」
静かに、それでいて確かに届く、希望を帯びた声。
リゼルドは、宣戦布告のように続けた。
「“神に選ばれた人間の割には、大したことがなくて助かったよ。”
最初は痛かった呪いも、譲渡のお陰で緩和され、外部の人間である僕達が、犠牲となる生徒達と接触させてくれた」
一度、剣を弾いて間合いを取る。
そして最後の一言を、深く刺すように言い放つ。
「でも感謝してる。“だから――もう死んでくれ“」
瞬間、光が閃く。
爆発音と共に巻き上がる土埃の柱が、空高くまで吹き上がった。
「僕達は君等の、犬じゃない。仮に犬であっても反抗するのは当たり前でしょ?」
やがて土埃が晴れていき――
そこに、無傷のままブレイドを構えて立つティオルの姿があった。
まるで、それ自体が“厄災”を告げているかのように――
そしてティオルが、空へ向かってブライドを振ると、空全体が軋む音と、怒号のような音が地を揺らした。
「貴様が、我々に宣戦布告をするというのは、“こういうことだ」
空を見上げると、一つの小さな裂け目から、黒く禍々しい巨大な岩が、出てこようと降下していた。
「なるほど……これが君達の“本気”ってわけか」
異様なまでに落ち着いた声で、リゼルドは呟いた。だがその刹那、ティオルが追い打ちの呪術を発動する。
ブライドを地に突き刺すと、魔力が流れ込み、リゼルドの足元に闇を象徴とする紫色の魔法陣を、発動させた。
重力に押しつぶされるような鈍い音と、腕や足を縛る鎖の音を響かせながら、リゼルドは、膝をついた。
しかし、岩は無慈悲にリゼルドめがけて墜ちていった。
「これで分かっただろう……我々に挑み、勝利することが、如何に愚かな思想で、行動かが……」
全身を叩き潰すような、骨の軋む音が響いた。次の瞬間、リゼルドを押し潰して巨大な岩が大地を揺らす。
「我々も、貴様の言う通り未熟な点は確かにあった……」
岩の下から、流れ出れる出血……しかし、ティオルは構わず言葉を紡ぐ。
「貴様等がどれだけ戦力を上げようと、俺達には、“全てを凌駕する、術を持っていることを忘れるな”」
直後――背後から牙が、向けられる。
額から血が流れ、足も腕も有り得ない方向に曲がるのを、無理に直したような姿で、リゼルドはブレイドを振るった。
「瀕死な状態のお前が……俺に勝てると思うな!」
リゼルドの決死の反撃は乏しく、読んでいたティオルは胸ぐらを掴んで、森の出口へ投げ飛ばした。
そして、アーサー達がクレヴァスと対峙していた地点まで吹き飛ばされた。
その威力は凄まじく、地面に激突した瞬間に、空前絶後の激しい痛みが襲った。
「リゼルド……? っまさか!」
アーサーは、驚異的な存在感を放つ、ティオルの登場で酷く動揺していた。
僕は死なない……あの時、二人を守ると……決めたから。そして、アラリックや他の子達の為にも、どんな絶望も痛みも…………耐えるのは“光属性の特権だ”――
暗闇の中で意識が朦朧とする中、リゼルドは事切れそうになりながら決意した。そして、誰の耳にも届かない、消えてしまいそうな声で詠唱を唱える。
「光は呪い……光属性に生まれし者は、皆不幸者という運命からは……逃れられない。……死んでしまったほうが、ずっと楽だった。それでも選べない、我のような愚か者に……どうか、慈悲を……」
リゼルドの胸元から、じわりと光が漏れ始める。それを目にした瞬間、ティオル達の身体が本能的に動いた。剣が、一斉に振り上げられる――
「――させない!」
そのティオルに向けて、ルルナが巨大な火の玉を放ち、リゼルドを守る。アーサーはクレヴァスの剣を押さえた。
そして、最後の詠唱が唱え終わる――
「アル・パーフェクト・ヒール……」
小さかった光が、突如大きく照らして、リゼルドを包み込むように、体の傷と骨が治っていく。
骨が体内で元の位置に戻っていく様子は、まるで聖なる光が舞うかのように、外からでもはっきりと視えた。
その姿に圧倒された四人の前で、リゼルドは完全なる復活を遂げる。
ひょいっと、横になっている体制からジャンプするように、起き上がった。
あまりにも、元通りになったリゼルドに、アーサー達は疑惑の目を向ける。
「リ、リゼルド?」
暗闇のような瞳は、どこか遠くを見つめていたが、アーサー達を見た途端、光が戻り、元気に復活したことを告げる。
「ごめんね二人共。心配かけちゃって……でも、もう大丈夫だから安心しなさい」
いつもの頼もしい時のリゼルドが戻って来たと、安堵するアーサーとルルナ。
続けて、リゼルドは衝撃的な言動に走る。
「まぁ……気になることはちゃんと話すよ。今は取り敢えず――」
ルルナを担ぎ、アーサーの手首を、左手の小さな魔力を使って包帯で巻き上げて掴むと、ティオル達に背を向けて、足が少し浮くと流れ星のように、飛んで行った。
「ちょ、ちょっと!」
あまりにも破滅的行動に、ルルナ達が聞き出そうとしても、風を切る音が声を遮る。
アーサーは、後ろを振り返ると、小さくも確実にティオル達が追ってきているのが分かった。
「リゼルド……! 一度スピードを落として話を聞かせてくれ!」
必死な叫びが届いたのか、ゆっくりと足が地に着くと、そのままの体制でスピードを落として対話する。
「あの時、酷い怪我を負っていたのに、一体何をしたの?」
アーサーの質問に、きょとんとした表情を浮かべた後、誇らしげにリゼルドは語る。
「回復は光属性の特権。そして、ティオルとの決闘に関しては、身代わりの術。――簡単に言えば、自分の分身を使って、本体に受けるダメージを緩和する力を使ったんだよ」
「でも、重症だったでしょう? あれで本当に緩和されていたの?」
「勿論。もしも、身代わりの術を使わなかったら、確実に岩の下敷きになって死んでいたからね」
「呪い、……呪いはどうなったの!?」
身代わりの術に関しては、リゼルドの能力を持ってさえすれば、容易なことであるのは、想像がついた。
そして、アーサーはもう一つ。呪いについて、思い出したかのように問いかける。
風を切る音だけが、世界を包んだ――
「呪いに関しても、《パーフェクト・ヒール》で完全に解けたよ……」
その瞬間――アーサーの頬を涙が伝った。今まで、戦闘中は幼児退行を見せていなかったこともあり、希望を胸に過ごしてきた。
そして今、その夢が現実となったのだ――
「だから大丈夫だよ。君達の知ってる、昔のリゼルド・グレイアスが帰って来たから、新しい使命を抱えて、二人を全力で守るから……」
こうして、元に戻ったリゼルド。試練は続くも、再び希望を見出したアーサーとルルナ。
暫くして、日は完全に暮れ、夜空に輝く草原が視界全てを独り占めした。
「さぁ、ここから安全な所へ!」
リゼルドが、異空間への扉を開き、一斉に足を踏み入れた。
ティオル、君の言う通り、今の状態では勝てないと思った。
だから今日は、君の勝ちだけど、次会うときは僕らが勝たせてもらうから……
こうして、異空間へ繋がる扉は閉ざされた。初めてティオル達に反抗し、光を見つけた冒険者一行。
しかし、更なる疑惑と試練が三人を試していく――
最後までご覧頂きありがとうございました!
まだまだ深まる謎を追求していきますので、引き続き応援よろしくお願いします




