Cursewalker Innocence: The Heart Memory(カースウォーカー・イノセンス:ザ・ハートメモリー)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、戦う生徒達と対峙する冒険者達。
アーサー達の視点から語られる、”あの日の真相”とは……
そして、記憶持ちの生徒が懸念している、事態の真実も明かされる――
《Death of the Academia》をお楽しみください
時計の針は、再び第二授業へと遡る――
アラリックとの、剣術の稽古を終えて少し経った頃。リゼルドの最後の斬撃を受けて、気を失っていた彼が、目を覚ました。
「リゼルド……?」
ゆっくりと体を起こして、いつもの冷たそうな声で名前を呼んだ。
「あぁ、起きたんだね。おはよう」
声に気付いて目を合わせると、アラリックが何か言いたそうな瞳で、僕を見据えていた。
「何か悩みがあるなら、全部吐き出した方が良いよ。
悩みがあると、人はストレスが溜まって、どんなことも最大限の力が出せなくなる……なんか悩みがあるなら聞いてあげるよ〜」
少し軽く言いすぎたかもしれない……そう思いながらも、リゼルドはそっと彼の隣に腰を下ろした。
「確かに、外部の人間と対話が出来る機会なんて、もう訪れないかもしれない……」
迷いながら、決断したような瞳。そして、左手をゆっくりと握って、一呼吸置くとアラリックは、リゼルドの目を見て話した。
「”学園の闇と対人戦に向けた指揮の取り方について”、教えて下さい」
あぁ……やっぱり、この子は初めから気付いていたのかもしれない。話し方も、立ち振る舞いも、全て冷徹に見えて、もの凄く他人のことを考えて戦ってくれる優しい子。
嬉しさのあまり、頬が緩んだ。そして、全てを吐き出させて、少しでも楽にさせてあげられる瞬間だと確信した。
「じゃあ。詳しく話してくれる? まずは、君が思う学園の闇について教えてほしい」
目を見開いたアラリック。本当に聞いてくれると思っていなかったような顔を浮かべて、ゆっくりと話し始める。
「最初、この学園のデスゲームについて、違和感を覚えたのはオリエンテーションの時でした」
アラリックの中で思い出される、過去の情景をリゼルドは真剣に耳を傾ける。
「ストリクスが、“成績下位の人間にペナルティはあるか”と聞いたんです。でも、結局グランは答えなかった。それに対して、誰も言及せずそのまま、次の説明へと流れたことで、可笑しいと感じました」
次に呼び起こされる情景は、第一授業の時――
「結局、そのまま第一授業が始まり、内容は“モンスターの群れに現れた都市アズローラを救え“というものでした」
その瞬間、リゼルドの目つきが険しくなる。何か知っているかのように――
「長老の話では、何人かの少年少女が消え、グランからは――救援に来た騎士団が壊滅したと告げられました」
“騎士団“という単語を聞いて、一気に青ざめるリゼルド。それでも、アラリックの全てを吐き出したい瞳を、気持ちを妨害することは出来なかった。
「聞き覚えがありました。僕も、騎士団という言葉に何か引っ掛かったように感じたから……」
この子は、何も覚えていないけど、心のどこかで、ちゃんと記憶に残ってるんだ……
「名前は……“団長の名が『ルキウス』。そして、騎士団の名前が――」
その時、リゼルドの口から突如——
「はっくしょん!」
思わず出たその音は、無意識の拒絶だったのかもしれない。何かを遮るように、洞窟の空気が一瞬にして揺れた。
暫く沈黙が続いた後――アラリックは、突然のリゼルドのくしゃみの意図が分かってしまった。
その瞬間、アラリックの瞳に怒りと焦りが混ざる。
「貴方は……ルキウスのことを知っているんですか! 彼は今どこに!?」
両肩を強く握られ、痛みに耐えながら聞き届ける。今までのアラリックとは、別人のように振舞う彼に、僕は必死に諭した。
「お、落ち着いて……! ちゃんと、ゆっくり話そう」
そして、我に返ったアラリックは、落胆するように頭を抱えた。
「……思い出せないんです。昔の記憶は、まるで霧の中にあって。唯一、母と弟がいたことだけが、残っている。でも、それ以上を無理に思い出そうとすると……頭が割れるように痛むんです。まだ、呪いが残っているのでしょうか……」
今にも、泣いてしまいそうに瞳を揺らして、リゼルドの心に訴えかけてくる。
息を呑んだリゼルドは、目を伏せてゆっくりと、言葉を返した。
「今、僕が君に言えるのは“いつか全てが分かる時が来る”ごめんね……本当は知っていることは話してあげたい。だけど、一度自分の心で、目で、確かめてほしいから……」
伏せていた目をゆっくりと上げて、アラリックの瞳をしっかりと見ながら、出来る限りの形で、言葉を作った。
そしてアラリックは、「そうですか……」と言うように、深いため息と、仕方がないような瞳をしていた。
その表情に、罪悪感を募らせながら……
「じゃあ、二つ目の質問に答えて貰っても良いですか? 今後もし、同じ境遇の人間が現れないで、一人で全員を動かさなくてはならなくなった時、どうしたら、指揮をしっかり取れるようになるのでしょう……」
この子は、どこまでも見抜いている……偶然かもしれない、くしゃみも。
そして、アーサーがリーダーではなく、僕が前線へ立つ人間だと……気付いている。
「正直、指揮を取るのは簡単だ。第一授業の立ち振る舞いにもよるけど、“指揮官”というのは、それ相応の実力と、他者からの絶大な信頼が鍵になる」
アラリックの瞳は、どこか遠い記憶を見ているような目をしていた。
リゼルドの言葉を続けるように、何かを思い出している様子だった。
「相応の実力と、絶大な信頼……」
アラリックの記憶の中に、一つの情景が呼び覚まされる――
視界は木漏れ日のように揺れていた。そこは、遠い昔見たことのある作戦会議室だった。
鼻をくすぐったのは、懐かしい、温かな木の香り。
会議室は広く、けれど威圧感はなかった。天井は高く、木目の模様が顔のように見えて面白い。
壁には、その騎士団を象徴する旗がかけられ、中央には大きな円卓が日の光のように、輝いていた。
そして、扉の開く音と人の声が同時に聞こえて振り返る。
「隊長!次の貧民街の救助金、予算が足りません!」
「隊長、報告です! 東の洞窟から再び凶悪なモンスターが、レビアス街に向かっているとのこと!」
忙しなく、扉が開閉される音が響き、騎士達の次々と報告を持ち込んでいた。
甲冑の擦れる音、急ぎ足の靴音、書類をめくる音。
鋼のように冷たい声、眼差しを兼ね備えた声が、部屋を支配した。
「レビアス街の住人の避難を。支援班には追加の人員を送る。モンスターの討伐は、街に被害が及ぶ前に――私が片付けよう」
そして、隊長は立ち上がり、自分の目の前に腕が伸びた。
――その瞬間、見ていた風景が、温かい木々から、青白い洞窟の中へと戻っていた。
「アラリック、大丈夫?」
「今の……声は……」
第一授業後に姿を現して、第二授業の時に、倒れそうな自分を鼓舞した時の、優しい声。
取り乱していた姿とは一変――少し表情が柔らかくなったアラリックは、リゼルドに誇らしげに言い放った。
「相応の実力と、他者からの絶大な信頼……今よりももっと、獲得して必ず貴方達を助けてあげますよ」
その言葉に、突如目頭が熱くなり、アラリックの頭を強引に胸に預けた。
「何ですか? いきなり……」
「ううん……ただ、こうしてみたかっただけ」
アラリックの頭を優しく撫でる。本人もそこまで嫌がることなく受け入れてくれた。
「不思議ですね……昔も誰かに、この温かいぬくもりの中で、似た経験がある気がします」
「そっか――」
こうして――時計の針は、ティオル達との決闘に時間が戻り、彼は呪いを受けながらも、刃を振るっていくのだ――
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