Death Game: The Truth Step(デスゲーム:ザ・ステップ・オブ・トゥルース)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、学園の謎について迫っていく——
生き残るのは真の才能がある人間のみ
誰が生きて誰が死ぬのか完全オリジナル作品
《Death of the Academia》をお楽しみください
こうしてアーサーたちとともに、I組の生徒は学園へ戻った。
ストリクスの容態はひとまず落ち着いたが、依然として予断を許さず、寮の自室で静養するほかなかった——
「さっき、私が術を掛けたから大丈夫だと思うけど、また同じような事があったら、ゼフィリー君かヴェイル君が、力を貸してあげてね……」
「分かりました」
「オッス……」
やっぱりおかしい……アーサーの言ってた通り、ストリクス君が危険な状態になった理由を、誰も疑問に思ってない……
——それが”普通”だと思い込まされてるみたいだ
「アラリック、少し良いかな?」
アーサーは迷っていた。しかし、二度とこの違和感に気付ける人間に会えないかもしれない。
——そう思った彼は意を決して声を掛ける。
「……丁度よかった。僕も貴方と話せたらと思っていたところです——」
他の生徒を教室へ戻し、アーサーはアラリックの寮の部屋で、改めて話を切り出す。
「……単刀直入に聞きたい。君は、どこまで真実を知ってるの?」
「……この学園の異常と、真の黒幕に関しては……ある程度、目星がついています」
淡々と答えたアラリックは、一呼吸置き、静かに話を続けた。
「それよりも、術の緩さには安心しました。呪いを掛けられているとは言え、自分の過去と、学園の謎について踏み込めるのですから」
「……いや。ティオル達は平然を装ってるだけで、学園から帰ったら——俺達は死ぬと思う」
本当は死にたくない、けれど何処か受け入れているような掠れた声で、アーサーは言った。
「貴方達に死なれるのは困る……出来る限り生きてください。そうしたら……僕が責任を持って全てを解放します」
「頼もしいね……倒せることも、解放出来るのも分からないのに、前を向いて歩く姿は美しい」
アーサーは続ける。自分も希望を捨てないように、ゆっくりと……
「———約束して、アラリック。何か困って、誰にも話せないほど苦しんだら、君を一番に考えてくれてる人間に、助けを求めて挑戦し続けることを……忘れないでね」
「また会えたら、名前を聞きたいです。いつか再び、話せることを夢見て——」
数時間後——
ようやく合流した、グランとフラーナが教壇に立って口を開いた。
「リゼルド達から、授業が終わったと聞いたので、この先はいつも通り、俺達が仕切らせてもらう」
「ストリクスさんが、体調を崩したと聞きましたが何があったのでしょう……」
「あの……!ストリクスが、実は——」
「風邪を引きました。おそらく属性を得た反動かと思われます」
アラリックがヴェイルの言葉に被せるように、間を与えず話を遮る。
「ルルナ先生からは、ストリクスの看病を……ヴェイルと、僕に一任されました。ですから、ご心配には及びません」
その冷静な態度に、ヴェイルは内心で引っかかりを覚えた。
——何故、“呪い”の話をしてはいけないのか。
その理由を、彼はまだ知らない。
「そうなのですか……ルルナ先生」
「そ、そうです。二人はその場に居合わせていましたし……適任だと思って」
ルルナの言い方は、明らかに動揺しているようだったが、フラーナは、それ以上言及することは無かった。
「実戦は、今日を含めて四日後の昼。各自訓練を怠らぬように……以上、解散」
「じゃあ。帰りましょっか〜」
リゼルドが一歩前に出て、空間に浮かぶ魔法陣を展開する。
それはアーサーたち、学園の外から来た者たち専用の“出口”だった。
「じゃあ、皆、実戦まで気を抜かずにね?」
ルルナが軽く手を振り、ティオルとクレヴァスが無言で続いた。
アーサーは扉の前で立ち止まり、ちらりとアラリックを見つめた。——その目は、言葉にできない訴えを宿していた。
アラリックは静かに頷き、無言の意思を返す。
「必ず大丈夫」と言うように——
空は曇り、どこか薄暗い午後。
特訓をする気にもなれなかったヴェイルは、寮の自室でひとり考え込んでいた。
なんで、アラリックは呪いの話を拒んだんだ……? 呪いって、そもそも何なんだ。学園に、何か異常でも……
——異常。謎。
……あれ? 俺達は……なんで“デスゲーム”なんてやってるんだ?
その瞬間だった。
体の奥から、灼けるような熱が突き上げ、呼吸が乱れる。
「……っ、ぐ……!」
これは、ストリクスの時と同じ。
ヴェイルは咄嗟に、ルルナがやっていた方法を思い出し、自身の中に属性術を逆流させるように流し込んだ。
「はぁ……はぁ……いきなり、なんだよ……」
荒い息を整える間もなく、視界が歪み始めた。
音が遠のき、まるで世界が引き延ばされるような感覚の中、突如として“見たことのない記憶”が、映像のように流れ込んでくる——
『これより、面接を始める。まずこの学園に入ろうと思った理由を聞かせてくれ』
そこには、グランがいた。 そして、自分の姿も。
『おう! 俺には歳の離れた妹と弟がいる。うちは裕福じゃねぇから、強くなって、家族を楽させてやりたいんだ!』
記憶の光景が切り替わる。
倒れ伏した自分。その周囲に立つグラン、フラーナ。何かを話し合っている。
『この状態にして術を掛ければ、気付かれることはあるまい……』
『これが、世界のための“選別”なのですね……』
紫色に染まる、禍々しい術式。
——やめろ。
必死に声を張るが、記憶の中の自分には届かない。腕を伸ばしても、ただ空を掴むだけ。
「やめろっ……!」
気がつくと、そこは寮の扉の前だった。
呼吸が乱れ、心臓の鼓動がひどくうるさい。
「……今のは……。もし、あの記憶が本当に起こったことだとしたら……ソニントは……!」
膝が震える。吐き気に似た不安に押しつぶされそうになりながら、ヴェイルは深く息を吸い込んだ。
「……とにかく、アラリックに伝えないと……! あいつらに、全部吐かせて、尋問して、解放して……!」
動くしかなかった。
この手に何ができるかもわからない。だが、それでも——やるべきことは見えていた。
ヴェイルは扉を勢いよく開けて、走り出した。
何が何だか分からない。けれど、自分が今、生きる理由を手にしたような、気がしていた。
アラリックは、解散した時にレンリーを連れて特訓へ行ってた。……でも俺が思い当たる場所がコロシアムしか無い……
それでも走り続けろ……!
「——ここか……」
息が上がり、五階の標識を見つけ、辺りを見渡すと第一授業後の、最弱王決定戦(キング•オブ•ザ•ウィーク)で見たことのある景色だった。
「合ってる……みたいだな」
呼吸を整えて、扉を開ける。
——稽古場には、予想通りアラリックがいた。レンリーに剣術を教え込んでいる姿は、真剣そのものだった。
「あれ? ヴェイルさんもアラリックさんと稽古しますか?」
「いや。俺は……」
……迷ってる場合じゃない。黙ってたら、レンリーだっていつか……!
「……悪いなレンリー。そうじゃねぇんだ……アラリックに話したいことがあって……すぐ終わらせるからちょっと良いか?」
「わ、分かりました。アラリックさんが良ければ」
「頼む、アラリック。緊急事態だ——」
アラリックが剣を鞘に収めて、ヴェイルの元へ足を運ぶ。
不思議そうな顔をしながらも、レンリーは一人で再び剣技の訓練を始めた。
「一度呼吸を整えろ。まだ乱れているぞ」
「悪い。少し急いでたから」
アラリックが諭し、ヴェイルは落ち着いて、深呼吸をした。
「その様子だと、話す場所はストリクスの部屋が良いだろう……」
「分かるのか!」
やっぱり、アラリックも本当に記憶を取り戻してたのか……!
今までの挙動から、「信じて良かった」と深く安堵した——
「入るぞ、ストリクス」
扉を開けて、覗き込むと少し呼吸は荒く横になっている、ストリクスの姿があった。
「あぁ……お前達か」
「体の具合は、どうだ」
「ルルナ氏の応急処置が上手く効いていて、大分楽にはなっている」
体を無理矢理、起こそうとするストリクスに焦ってヴェイルが静止する。
「無理して起きなくて良い。横のままで良いから話を聞いてくれ」
ヴェイルの咄嗟な焦りで、ゆっくりと体を戻すストリクス。
一呼吸つくと、二人が何を言いたいか分かるかのように、言葉を紡ぐ。
「分かるさ……お前達二人が立っているなら、目星は付く」
「……やはり、貴様に掛けられている呪いが発動したのは——」
「この学園の謎……すなわち空白だった、入学前の記憶を取り戻した。という訳だ」
「それで、俺達は少しでも早く、あいつらの蛮行を止めなきゃならねぇ! その為に自白させる必要がある」
「落ち着け、ヴェイル。今貴様一人で飛び出したところで、何も変わらない」
「お前は落ち着き過ぎてる……! それになんで、記憶が戻った時に誰にも言わなかったんだ!」
「貴様らには、二度と理解できないことだ……たった一人で孤独に、謎に気づいて、誰にも……誰にも吐き出せない苦痛が……!」
初めて怒りに任せて、話すアラリック。
彼の記憶では、シークレットチャレンジで、剣を交えたアズレインも脅しを受けている状態で、必死に助けを求めていた。
それでもアラリックは、何も出来ずに傍観し続けた過去。
“ソニントが死ぬ”というのが分かっていながら、誰にも打ち明けなかった罪。
「別に、被害者面をするつもりはない……それに今は、支えてくれる存在もある。だからいつまでも下を向いている訳には、行かないと思った」
「ソニントは死に、僕も消されかけたのは憶測だけど、属性の偏りだ」
「属性の……?」
「I組は土属性二人、火属性四人で振り分けられていた。
そして現状は僕を抜いて四人。土属性二人はそのままで、火属性が二人に変わった。おそらくII組でも似たようなことが今後起こるかもしれないな……」
ヴェイルは驚愕した表情を浮かべて、アラリックは怒りに溢れた表情で俯いていた。
暫しの沈黙が、三人に考える時間を与える。
「——それでも……それでも俺は納得出来ない。そんな、くだらない理由で人を殺して、自分はのうのうと生きて……やっぱり俺は——」
怒りと悲しみに震える声でヴェイルは続ける。
「俺は……対人戦が始まる前に全生徒の前で、全て吐かせる。それが無理ならその場で全員を解放。それも無理なら、真っ向から叩き潰す……!」
ヴェイルの言葉に、決意に満ち溢れる表情に、揺らぎはなかった。
「アラリック! 頼む……」
ヴェイルはアラリックの肩を掴んで、問いかける。
ストリクスも、当事者としてアラリックを見守っていた。
元々、アラリックもグラン達に宣戦布告をした手前、絶好のチャンスと思っていた。
このチャンスを逃せば二度と真実を知ることは出来ない。
——アラリックは、ようやく口を開いた。
「了解した……貴様らとは利害が一致している……」
「なら……!」
「しかし、入念な準備が必要だ。——まずは、契約書と証人を用意しろ」
こうして、舞台は大きく動くことになる——
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