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一時の終わり
見張り塔の頂上で、オレは雲に覆われた夜空を見上げた。
花の季節が近いとはいえ、風はまだ冷たい。
「ご主人様~」
すっかり量の減ったスライムが、足元に寄ってきた。
「よく帰ってきた」
「えへ~」
ぷるぷる震える。
「ご主人様のお顔~、晴れときどき曇りです~」
「……そりゃオレは人殺しだ。これからはもう、快晴は望めない」
黒くて重いしこりが、胸のうちにへばりついているような感覚が、ずっと消えない。
「後悔してますか~?」
「いや」
「えへへ~」
また、ぷるぷる震える。
「オレは、人間として大切なものを捨てた」
「はい~」
「嬉しそうだな」
「だって~」
オレの足にすり寄ってくる。
「代わりに~、別のものを~、ご主人様は手に入れました~」
「そうか」
「それはそれで~、とっても~、大切なものです~」
「……そうか」
藍と灰に塗り潰された天を仰ぐ。
「素敵な空です~」
「曇ってるぞ」
「でも、素敵な空です~」
「そうだな」




