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助けを求める声

「プギー、プギー!」

 2階の通路を歩いていると、外から甲高い鳴き声が聞こえてきた。

 オレは手近な窓から身を乗り出す。

 曇り空の合間に、申し訳程度に陽光が覗いている。

 昼にはまだ早い頃合だ。


「……何だ? 二足歩行の豚が1匹、城門に向かってきてるぞ」

 あんな風体の魔物は、1種族しかいない。

 オークだ。

 ゴブリンと同じく、この大陸の各地に生息している。


「切羽詰った様子で走ってたな。行ってみるか」

 オレはやや足早に、広間に顔を出す。

 奥からちょうど、黒衣をはためかせてヌイがやってきた。


「ヌイ、今……」

「うん」

 ヌイはわかってる、と頷きつつ、質素な玉座に腰を下ろす。

 ややあって、広間にオークが転がり込んできた。

 ミッケも一緒だ。

 階段あたりで合流したのだろう。


「プギー、プギー!」

 オレには相変わらず、何を言っているのかさっぱりだ。

 仕方がない、オークの様子でも観察しよう。


 麻布を服代わりに纏っているが、擦り切れてボロボロだ。

 よく見れば4本指のひづめも泥だらけ、表情も必死で、しきりに何かをヌイに訴えている。

 いやまあ、豚顔の表情なんてわからないから、あくまで推測だ。

 というか鳴き声が地味に可愛いな。


「ん、今から行く。あなたは休んでて」

 そう言って、ヌイが立ち上がった。


「どうしたんだ?」

「この城から南西のほうに、オークの集落がある。そこに人間の軍隊が向かってるから、助けてほしいって」

「何だって? いや、だがヌイが直々に出向くのか?」

 オレの疑問に、横からミッケが口を挟んできた。

「ヌイ様の邪魔をしないの。こうして助けを求められることは、たまにあるのよ」

「そうなのか。しかし……」


 うーむ、いいのか?

 魔物の王が単身、前線まで出撃するなんて。

 オレが言うのも何だが、万が一があったらどうするんだ。

 オレの表情をどう解釈したのか、ヌイが首を傾げた。


「ジロー、一緒に行く?」

「ヌイ様!?」

 ミッケが血相を変える。

 いや、オレだって驚いた。

 これから人間と戦おうってときに、人間のオレを連れて行っていいのか?

 町に出かけるのとは、わけが違うんだぞ。


「だいじょうぶ」

「でも、ヌイ様」

「心配しないで」

「……はい」

 まだ不満そうだったが、言っても無駄と悟ったのか、ミッケがくるりとオレに向き直る。


「そういうわけだから、さっさと上に行きなさい」

「あ、ああ……って、オレに拒否権はないのか?」

「ヌイ様のお誘いを断るっての?」

「いやあ楽しみだな」

 ミッケのヤツ、ヌイが絡むと豹変しやがる。


「こっち」

 ヌイに先導され、オレも歩き出す。

「いってらっしゃいませ、ヌイ様。ついでにジローも」

「いってくる」

「……行ってくる」


 ちらりと振り返ると、ミッケがオークを連れて広間から出て行くところだった。

 どこかで休ませるつもりだろう。

 背中に「プギー」と鳴き声が届く。

 何とはなしに、大事なものを託された気分にさせられた。


 3階まで上り、通路の奥まった一角。

 ヌイと連れ立って木製の扉を潜る。

 オレは目を見張った。


「……これは転送の魔法? 転送陣、か?」

「うん」

 石床に、複雑な紋様の魔方陣が描かれていた。

 大きくはない。

 身を寄せ合えば、3、4人は乗れるかもしれない程度だ。


「転送陣しかないな。窓もない。これ専用の部屋か」

「ここから、大陸各地の転送陣に繋がってる」

「便利なもんだな……。転送の永続魔法なんて、書物でも見たことがない」

「たぶん、人間には作れない。すごい量の魔力が必要」

「そうかよ……。乗ればいいんだな?」

「ん」


 2人して転送陣に乗ると、ヌイは杖尻で、石床をこつこつと叩き始めた。

「何してるんだ?」

「魔力を流し込みながら、床を叩いてる」

「そりゃ見ればわかるが……」

「叩いた回数で、行き先が決まる。南西の転送陣は、8回」

「そんな仕組みなのか……。うお!」

 床が、いや転送陣が光り出した。

「飛ぶ」

「ちょ、ちょっと待て。心の準備が――あ?」


 部屋に光が満ちたかと思うと、次の瞬間には見慣れない場所に立っていた。

「飛んだ」

 ……。

「行こう、ジロー。……どうしたの?」


 一瞬の出来事でぽかんとしているオレを、ヌイは不思議そうに眺めた。

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