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劣等感

「……」

 目が覚めた。

 上半身を起こす。

 額に手をやると、べったりと汗が滲んでいた。


 窓から外を見上げる。

 暗い。

 まだ夜明けにはしばらくかかりそうだ。

 ゴブリンたちのいびきを除けば、周囲は静かなものだった。


「ふ……」

 重苦しい息を吐き出す。

 喉がからからだったが、起き上がる気になれず、オレは自分の膝に突っ伏した。


「未だに、くだらない夢を見るとは……」

 乾いた笑いがこぼれる。

 つまりはそういうことだ。

 オレは何年も前から、成長していない。


 尊大な態度で外面を取り繕い、優越感を求め感じることで、内面の自尊心を維持し続ける。

 歪んだ小心者の人間。


 知識の量で上回るのが心地良い。

 知識をひけらかすのが心地良い。

 人に教えてやるのが心地良い。


 心底くだらない。

 くだらないが、やめれば自尊心が崩れる。

 つぎはぎに形あわせをしたものが、跡形もなく壊れてしまう。

「……理屈を言えば、人間には自尊心が必要だ。生きていくうえで、必ず」


 自尊心ってのはつまるところ、自分を認め、肯定してやれる心のことだ。

 自信や誇りに直結するものだ。


 例えば、親や教師に褒められること。

 競争で友達に勝つこと。

 美しい恋人を得ること。

 地位や財力を得ること。

 そういったものの積み重ねだ。


「だから、まあ――オレばっかりが、くだらないわけじゃないんだ」

 言い訳じみた言葉を漏らしつつ、脳裏にミッケの顔を思い浮かべる。

 勝ち気で、真っ直ぐな金色の瞳。

 そのくせ面倒見のいい性格。


「くそ……」

 オレは自分の髪を、ぐしゃぐしゃにかき混ぜた。


 認めざるを得ない。

 結局のところ、あいつは裏表がないんだ。

 だからあいつが強く見えるとしたら、それは表のみならず、裏まで強いんだ。


 ミッケと自分を対比して、オレは劣等感に苛まれる。

 羨ましかった。

 今となっては、オレにはどうやっても手に入らない類の強さ。


「結局のところ、何も変わらない……。オレはこうなんだから、それを認めるしかない。そのうえで、上手くやっていくしかない」

 ないものねだりは意味がない。

 わかっている。

 だからミッケと接するときは、劣等感などおくびにも出さない。


 そりゃあ力では敵わない。

 それは相手の専門分野だ。

 譲ってやろう。


 だが知識と知恵、魔法ではオレのほうが優位だ。

 オレはミッケが相手でも、かろうじて、自分に自信を持つことができる。


「……」

 次に、ヌイの顔を思い浮かべる。

 無表情だが、無感情ってわけじゃない。

 大きな瞳は、磨き上げられた黒曜石のような美しさがある。


 知識欲が盛んで、しかも知識を語り合う相手に飢えているせいか、大抵が素直だ。

 時折、可愛らしい面も見せるせいか、魔王であることを忘れそうになる。

 もし出来のいい妹などがいたら、あんな感じかもしれない。


「最初は、何を考えているのかわからないヤツだったが……」

 もっと教えてとせがむヌイの姿を思い返すと、微笑ましかった。

 不思議と心が落ち着いてきた。


 ……寝直そう。

 今日くらいは、夜明けを過ぎても気にするまい。

「自分を好きになれるヤツってのが、オレには信じられない……」

 もごもごと呟くと、オレは頭から麻布を被った。


 二度目の眠りはすぐにやってきた。

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