勇晴が雪合戦に誘われる
勇晴視点です。
『よーし。みんなで雪合戦しよー!』
いつもより冷え込んだ、冬の朝。
突然スマホにメッセージが届いた。
『今日するの?』
『そうそうー。雪溶けちゃうから、今すぐー』
いつものメンバーが登録されているグループチャット。
俺が返信しなくても、勝手に話が進んでいく。
いや、むしろチャコが勝手に話を進めている。
それに名波が律儀にメッセージを返して、適当に提案された計画が綿密なものへと変わって行った。
『じゃあ十時ぐらいに各自、理事長の家に集合ねー。来なかったら不戦敗だからねー』
『……わかった』
今まで返信していなかった鋼介がチャコのメッセージに煽られるように、参加を決めた。
……鋼介は勝負事になると目の色が変わるからな。
相変わらず勝手に進んでいくやりとりを眺めながら、ベッドの上で軽く伸びをする。
ベッドから窓を見ると、遮光カーテンの隙間から光が漏れていた。
スマホに表示されている時間は午前九時。
今日は学校が休みだから、のんびりと惰眠をむさぼっていた。
正直、まだ頭は重い。
昨日、夜遅くまで陰陽師の仕事をしていたせいだろう。
『友孝様も連れて行くからねー。陰陽師チームと妖チームに分かれて対決しよー』
『え、私チャコと一緒じゃないの?』
『心配しないで、唯ちゃん。ちゃんと手加減せずに唯ちゃんを倒しに行くから!』
『……負けない』
鋼介はあまりメッセージを送らないから、既にチャコと名波の二人でやりとりをしている状態だ。
二人のやりとりを見ていると、画面の向こうの二人がありありと想像できた。
きっとチャコはイヒヒと悪戯っぽく笑って、名波は右手に拳を作って、一人で決意を固めているのだろう。
……俺が行かなくてもいいか。
もう少し寝ていたい。
そもそも午前十時に集まって、やることが雪合戦だなんて馬鹿げている。
俺が行かなくてもみんなはわいわい楽しむだろうし、わざわざこんな寒い日に外で遊ぶ必要なんかない。
だから、『俺はやめとく』とメッセージを送ろうと画面をタップした。
けれど、ちょうどその時にチャコと名波からメッセージが届く。
『勇ちゃんは当たり前だけど陰陽師チームねー』
『勇晴君、がんばろう!』
……おい、俺は行くって言ってない。
何もメッセージを送っていない俺も既に頭数に入っているらしく、当たり前のようにチーム分けされる。
そして、やる気になっている名波から目が炎になっているアルパカのスタンプが届いた。
名波は最近、アルパカのスタンプがお気に入りらしい。
なんてことないやりとりなのに、勝手に口元が上がってしまう。
暖房の効いた暖かい寝室。
遮光カーテンが閉められた部屋はまだ薄暗く、二度寝にはもってこいだ。
なのに――。
『俺は強いぞ』
スマホの画面をタップして、メッセージを送る。
そして、ぬくぬくとした毛布と掛布団をめくり、勢いよく体を起こした。
午前十時に間に合うようにするには、少し急がないといけない。
手早くパジャマ代わりのジャージとパーカーを脱ぎ、クローゼットから服を取り出す。
『勇ちゃんなんてあっという間に雪でべしゃべしゃになるからねー』
『そっか! じゃあ着替えもいるかな?』
『んー理事長が乾かしてくれるよー。俺が瘴気で服を作ってもいいしさー』
着替え終わって、スマホを見れば、相変わらずやりとりが続いている。
それを見て、また口元が勝手に上がった。
……瘴気の服が着れるとか、最高だな。
あんなに眠たかったのに、これからのことに胸がうずうずする。
――こんな俺は最高にチョロインだ。




