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同級生男三人で遊ぶ日常

勇晴視点です

 チャコが突然、楽しい事をしようと言い出した。


「ねね、今日さ、レンタルDVDが半額の日だからさー、借りてきてみんなで見ようよ」

「あー?でも、もう夕方だし、そんなにいっぱい見れないだろ」


 日はとっくに傾いていて、遊べる時間は二、三時間ほどだろう。

けれど、チャコは俺のもっともな突っ込みにもめげず、イヒヒと笑った。


「泊まればいいよー。友孝様に言っとくしさー」

「賀茂先輩の家」


 チャコの安易な発言に、鋼介の顔がきらりと輝く。

……お前、どんだけ賀茂が好きなんだよ。


「突然すぎるだろ。賀茂はプライベートに踏み込まれるの嫌いそうだし」

「……そうだな。迷惑はかけたくない」

「いやいや、二人ともわかってないなー。友孝様はね、ああ見えて騒がしいの大好きだから。みんなで泊まるって言ったら、『そう』とか言って、そっけないフリして、心の中はパーティーパーティーだから」

「……ないだろ」


 式神じゃなくなってから、チャコは賀茂にも当たり前のように気安く接する。

正直、チャコの言う賀茂と俺の知っている賀茂とのギャップが凄すぎて、まったく理解できない。


「まあ細かいことはいいんだよー。さ、二人は家に電話電話。着替えは取りに行ってもいいけど、なんなら俺が作ってあげてもいいからねー」

「チャコが服を作ってくれるのか?」

「うん。サービスだよー」


 その言葉に俺はポケットからスマホを取り出して、急いで家にかけた。

瘴気で作った服を着れるなんて、そんな機会逃すわけにはいかない。

俺が電話をしている間、鋼介は未だ悩んでいるようで、眉間に皺を寄せていた。


「……でも、やっぱり突然は迷惑だろうから」

「ふーん。じゃあ別に鋼ちゃんは来なくてもいいよー。俺と勇ちゃんと友孝様とでDVD見るからねー。あーでも俺も勇ちゃんもこんなだから、友孝様、困るかも。まあでもいいよねー。友孝様が困っても別に困らないしー」


 チャコがそんな事を言いながら、なぜかふふんと胸を張る。

そんな様子を鋼介は眉間に皺を寄せたまま見ていたが、観念したように、はぁと溜息をついた。


「わかった。俺も行く。お前らが賀茂先輩に迷惑かけないように見張らないとな」

「うんうん。そうしよーそうしよー!」


 俺と同じようにポケットからスマホを取り出した鋼介を見て、チャコが嬉しそうに笑う。

これでいつも通りの展開だ。

チャコが何かを言い出し、俺が乗っかり、鋼介が監視のために結局巻き込まれる。


 家に電話した所、突然すぎると多少小言は言われたが、泊まりの許可を取った。

鋼介もなんとかなったようで、俺達の返事を聞いた後、チャコが賀茂に電話はする。

普通は先に賀茂に伝えておくべきだろうが、チャコは時々おかしいから仕方がない。


「やー、友孝様にも『突然すぎない?』って笑い声で言われたー」

「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫! きっと初体験ににやにやしてるよー」


 イヒヒと笑うチャコの言葉に俺も思わずにやっとしてしまう。


 初体験。

俺もそう。


 今まで、友人の家に泊まりに行った事なんてなかった。

なんだかひどく高い壁の向こうにあると思っていた出来事が、こうもあっさり自分にも降りかかる。

しかも、瘴気の服を着れるなんて……。





 そうして、DVDを借りる事にしたわけだが、それは各自が好きな物を借りる、なんて普通のものではなかった。

適当な番号を言って、更にクジを引いて、無差別にDVDを選ぶのだ。

その結果、俺はよくわからないB級のゾンビ物。

チャコは長編アニメの五話から八話までのDVDという絶対、見ても意味が分からないだろ、というものになった。


 でも、まあ、それはそれで笑えたので良かった。

ただ、鋼介が選んだDVDが……。


「ねね、これさ、絶対こののれんの向こうの棚だと思うんだけど」

「……そうだな」

「これってさ、制服じゃ入っちゃいけないゾーンだよねー」

「ああ」


 鋼介の選んだDVDはさりげなく隔離されていて、けれど妙な存在感を放つあっち側の棚だった。


「チャコ、やり直そう」

「えー。こういうのってやり直したらつまんなくなるんだよー。あっちのゾーンにもいろいろあるんだろうし、どれ選んだかすごい気になる」

「でも、俺達は入れないぞ」


 あっち側とこっち側を分けるのれん。

そこから少し離れた人の邪魔にならない辺りで、男三人で会議をする。


「あ、じゃあさ、先生呼んでさー、借りてもらおうよ。選んだの鋼ちゃんだし、家族責任ってことで」

「……無理だ」

「……うん。俺も言ってて、絶対無理だーって思った」

「九尾兄は『先生』だからな。注意されて終わりだな」

「だよねー」


 そもそも鋼介はDVD鑑賞にやる気がない。

俺はあっち側へ行く手段がない。

仕方がないから、やはり選び直すんだろうと思ったら、チャコがイヒヒと笑った。


「じゃあ、俺が行くよー。ちょっとトイレで姿を変えて、免許証も適当に作る。そうしたら、成人済みのカードを作れるから、あっちのゾーンにも行けるし、レンタルも余裕だもんねー」

「いや、ダメだろ」


 妖としての有能さをこんなところでいかんなく発揮しようとするチャコ。

鋼介が慌てて止めたけど、チャコはそんな鋼介を難なくやり過ごし、その言葉を実行する。

なんでだか、のれんの向こうに消えたチャコが勇者のように見えた。


「あ、勇晴君。鋼介君も。二人とも借りに来たの?」


 あっち側とこっち側を分けるのれんから少し離れた所に立っていると、今、絶対に聞こえてはいけない声が聞こえた。

思わずパッと振り向くと、隣にいた鋼介も同じような反応をしたらしい。


「え、二人ともどうしたの?」


 俺達二人の過剰反応に驚いたようで、きれいな緑色の瞳が見開かれていた。


「……名波」

「……あっち行くか?」


 とにかく。

ここから離れるべきだ。


 鋼介と目配せをしながら、道を塞ぐように名波へ近づく。

名波はそんな俺達を少しだけ眉を顰めて見た。


「なんか変だよ?」

「あー、名波は何借りたんだ? ちょっとあっちで話そうぜ」

「ああ。オススメを教えてくれ」


 名波はまだ不審げに俺達を見ていたが、結局、押されるような形でのれんに背を向けて歩き出す。

これで大丈夫だろう、と安心したのが悪かったのか……。

突然、名波がのれんの方をパッと振り向いた。


「……チャコ」


 ……。


 多分。

俺と鋼介との隙間から、チャコの事が見えているはず。

チャコの姿かたちは変わっているが、纏うモノは同じだ。

陰陽師ならよく見ればわかる。

いや、名波ならちらっと見ただけでわかってしまうのかもしれない。


 目の前で見開かれているきれいな緑色の瞳にいたたまれない気分になる。

心の中で苦さを噛み締めながら振り返ると、そこには右手にDVDを持ったまま固まっているチャコがいた。


 ……女教師か。

せめて、隠して持っていたら良かったのにな。


 俺と鋼介の後ろで、なんだか名波がそわそわと体を動かし、じっと俯く。

すると、チャコは思考が戻ってきたようで、すべてを消し去るような朗らかな顔で笑った。


「唯ちゃんもDVD借りに来たんだねー。俺達も借りてたんだよー」

「……うん」

「唯ちゃんは何借りたの? 見せて見せてー」


 人懐っこく笑いながら、こっちに近付いてくる。

……すごいな。こんな時にそんな対応できるなんて、神か。

でも、名波は相変わらず顔を上げられないようで……。


 当たり前だ。

だってチャコの右手には女教師がいる。


「はい。勇ちゃんがどうしてもって言うから借りてきてあげたよー」


 ポン、と女教師を俺へと差し出した。

そこで俺は瞬時に理解する。

ああ……こいつ、俺を生贄にするつもりなんだな、と。

そして、その瞬間、背中にバシッと痛みが走った。


「いてぇ」

「……っ勇晴君。わ、たしが言う事じゃないけど、こういうのは、その、あれだよ……!」


 ……どれだよ。


 チャコに生贄として捧げられ、名波にはすぐに俺がやったと納得され……。


 チャコはそんな俺を見て、声を出さずにごめん、と言うと、女教師を持って、のれんの向こうへと帰って行った。

そして、横を見れば鋼介がさりげなく、名波を遠くへ追いやろうとしている。

名波もここに残っていたくはないのだろう。

鋼介の言葉にじゃあね、と挨拶をしてどこかへ行った。


「……なんでこんな事になったんだろうな」


 鋼介が遠い目をして、ボソリと呟く。

本当にな、と同意しようとすると、そこへチャコが帰ってきて、えぇ!? と眉間に皺を寄せた。


「これ全部、鋼ちゃんのせい! 鋼ちゃんが選んだDVDで俺も勇ちゃんも巻き込まれ事故だよー」

「そういえばそうか」


 確かに。

なんだか一人だけ関係ないみたいに名波に接していたが、そもそも鋼介があっち側のDVDを選んだからそうなったのだ。


「ホントに詐欺師だよねー」

「いや、それを言うならチャコだってさらっと嘘をついて、勇晴を犠牲にしただろ」

「だって、巻き込まれ事故で俺だけ被害なんて嫌だよー。勇ちゃん、ホントにありがとう。勇ちゃんの普段の行いのおかげで、唯ちゃん、コンマ三秒ぐらいで信じてくれたー」

「そうだな。何の疑いもなかったな」


 名波の中で俺の位置が低すぎる。


 でも、この背中の痛みも。

バカな事をして、三人で罪をなすりつけあう今も。


 俺達なにやってるんだろうって思うと笑えてきて、ハハッて声を上げて笑った。


 こんなの全部知らない。


 ずっと、欲しくて。

でも、自分には無理なのかもしれないと思っていて。

今。それが当たり前みたいにここにある。


 ――それが本当に最高に楽しい。

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