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ギャルの自転車を直したら懐かれた【8月25日・第1巻発売予定】  作者: 生姜寧也


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218/225

218:ギャルの親友達が最高だった

 星架さんから『もう戻って良いよ』というレインが飛んできたのは、スーパーで買い物をして、イートインでアイスを食べている最中だった。メッセを見た僕はカップアイスの中身をパクパクと急いで食べきり、容器とスプーンを近くのゴミ箱に捨てて店を出る。


 外でカートを回収してた顔馴染みの店員さんと目が合った。今日はこっちが一人だからか、少し怪訝な顔をされた。まさか彼も、今から僕がいつも一緒に来店する女の子のご家庭の一大岐路に立ち会いに行くとは想像さえしないだろうな。


 徒歩1分は伊達ではなく、少し早歩きをすると、あっという間に戻れた。預かっていた鍵で、ロックを順に解錠して、マンションの7階へ。707号室まで行くと、


「あ」


 スーツ姿の男性と、黒とピンクのツートンヘア、まん丸ボディの女の子の三人組が、部屋の前にいた。


「おう、クッツー。出てたのか?」


「こんにちは。誠秀さんも、重井さんも」


 取り敢えず挨拶を交わして、僕は手に持ったエコバッグを掲げてみせる。


「ジュース、足りないかと思って。買い出しでした」


 少しおどけたように言いながら、僕はさりげなく誠秀さんの顔色を窺う。ポーカーフェイスが上手い人なので、隠されると本当に分からないけど……うん、少しだけ緊張してるようにも見える。


 3人はちょうど玄関前に到着したところだったらしい。もちろん誠秀さんも鍵を持ってるハズだけど、何となく僕が開けることにした。

 ドアを全開にして、廊下側からノブを持ったまま三人に先を譲る。


「……」


「おじさ~ん?」


 早く料理が見たいのだろう重井さんが急かすけど、誠秀さんは軽く固まっている。

 これは……洞口さんと話してた、背中を押してやるターンか? とか思ってると、


「ほら! おじさん! 気合い入れろよ、男だろ!」


 その洞口さんが、バシーンと音が出るほどの強さで、スーツの背中を叩いた。ええ!? 背中を押す(物理)なの?


「いたた」


 たたらを踏んで、玄関に足を踏み入れた誠秀さん。いやホント強すぎでしょ、洞口さん。怖いものとか無いの?


 と、そこで。


「康生くん? おかえり。ありがとうね」


 解錠の音を聞きつけ、リビングから迎えに来てくれたんだろう。麗華さんが現れ、夫妻はマトモに正面から見つめ合うことになった。

 

「あ」

「あ」


 ほとんど同時に単音を発した二人。誠秀さんとしては、リビングに入る前に一呼吸するつもりだったんだろうな。麗華さんにしても、まだ予定時刻まで20分以上もあるから、心の準備が定まる前だったんじゃなかろうか。


「……」


「……」


 沈黙が横たわる。


「おばさん、こんにちは~。あ~良い匂い」


 重井さんも強い。なんでこのグループの面子はこんなに粒揃いなの。いや、彼女の場合、食欲ファーストがいついかなる時もブレないだけか。


「あ、うん。こんにちは。千佳ちゃんも…………せ、誠秀さんも」


「あ、ああ」


 ただ食いしん坊時空が上手いこと作用したらしく、二人がぎこちないながらも言葉を交わした。

 というか。僕はその現場は見てないけど、キャンプの朝も会って少し話したんじゃないの? なんで経験値リセットされてるのさ? とか少し思ってしまう。


「……入ろうぜ、取り敢えず」


 洞口さんの提案に、全員、玄関先で立ちっぱなしの状況に意識が行った。大いに賛成だ。暑いし。

 リビングに入ると星架さんも、参加者が勢揃いでやって来たことに驚いて、口を半開きにした。

 

 料理を温め直し、予定時刻より早いけど、会が始まる。ソファーテーブルに外部者3人。椅子テーブルの方に溝口家3人という形で別れた。さりげなく星架さんが誘導して、夫婦を同じテーブルに着かせたんだ。


「それでは~。本日はお招きいただきありがとうございま~す。誠秀おじさんと、麗華おばさんの仲直りを祝して……かんぱ~い」


 重井さんが挨拶するのか……

 普通に聞いてなかった。いや、みんなポカンとしてるから、独断か。すごい度胸だ。ていうか仲直りは、まだここからなんだけど? 誠秀さんも麗華さんも苦笑してる。毒気と緊張が一気に抜けたみたいだ。


 たまに「雛は天使だから」と星架さんが評することがあるんだけど、案外ホントかも知れないな。天真爛漫な愛嬌と、それが愛され許されるキャラクター性。彼女だけの才能だよね。そして、この大一番でも彼女は彼女。狙ったというより、自分も何かで貢献したいと考えたんだろうな。そしてそういう所が微笑ましさを誘って、空気を和ませるんだ。


「あはは。雛、ナイスだぜ! ほれ、かんぱ~い!」


 乗っかった洞口さんが、僕のグラスにいきなり自分のグラスをぶつけた。中に入ってるブドウジュースが危険な水位まで波打つ。


「おっととと」


 僕が慌てて口をつける。その姿を見て、


「クッツー、サラリーマンみてえ」


 と当の洞口さんに笑われる。釣られて皆も笑ってくれて……場の緊張が更に一段と弛緩したのだった。

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― 新着の感想 ―
雛よくやった。
[良い点] 雛がやるんだ(笑)
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