210:ギャルに代案を出した
「うわあ、可愛い」
小さな星架さんが沢山。赤ん坊の頃から、幼児期まで。一枚一枚、眺める度に頬が緩んでいく。僕の顔をモチモチと触ることの多い星架さんだけど、写真の中の彼女の方がよほど柔らかそうなほっぺをしている。
僕は隣に座る星架さんの頬を優しく撫でてみる。柔らかいは柔らかいけど、綺麗な卵型のせいか、余計なお肉はない。残念。
僕の表情から言いたいことを汲み取ったらしい星架さんがムッとして。
「アンタ、やっぱりそういう趣味があったりしないよね?」
「ま、まだ言いますか。また揉みますよ」
売り言葉に買い言葉。だけど今はタイミングが悪い。さっき我慢すると言ったばかりだったのに。
「……も、揉みたいの?」
「な、なしです。失言でした」
心持ち、胸を突き出すようにしてくれた星架さんには申し訳ないけど、またピンク時空に戻っていては、いつまで経っても本題が進まない。
「それで、鎌呉の写真は……」
「こっちにある気がするわ。旅行とかイベントの時の写真をまとめてるっぽい」
星架さんが新しく広げた3冊目がビンゴの気配。さっきまで僕が見てたのは、お家の中や病院が多かった。多分カテゴリー別にして、こっちは星架さんにあまり見せないように除けてたんだろうな。
「んー……あ! これじゃね?」
僕も彼女の手元を覗き込む。
そこには、今より幾らか若く見える麗華さんと誠秀さん(美男美女カップルだ)、そして麗華さんが押すベビーカーの中、丸いお顔の赤ちゃん。
「ああ、やっぱアタシ、赤ん坊の頃だし」
覚えてるワケねえじゃん、と悪態気味に。
「これは……有名な寺の周辺ですね。観光名所にもなってます」
母方のじいちゃん家からも、そこそこ近い。
「これ作れるかな?」
水色に近いような淡い青。割とハッキリした紫。2つ組み合わせられたら、さぞ綺麗だろう。
僕は紫陽花のドライフラワーをスマホで検索。が、そこで悲しい事実を知る。
「梅雨時期の青系色のものはドライフラワー化が難しいようです」
花によって、向き不向きがあるのは知ってたけど。運が悪い。
「ええ? あー、ホントだ。けど秋に咲くヤツは出来るんね。ああ、けど」
緑が強すぎて、コレジャナイ感が。お互いに渋い顔を見合わせて、
「しょうがないかあ。他の候補探す?」
星架さんが後ろ髪を引かれながらも、といった声音で言う。だけど僕はしばし黙考。うーん。折角、麗華さんの好きな花で、家族の思い出もあるのに。そう考えるとすぐさま代替案へと気持ちを切り替えられない。星架さんも口ではそう言ったけど、やっぱりまだ諦めきれてない様子だし。
「あ」
そうか。そうだよね。なにもドライフラワーに拘る必要はないんだ。
「どった? なんか良いアイデア閃いた?」
僕は頷いて、
「花そのものじゃなくなってしまいますけど……ちぎり絵の要領で、折り紙を花びらサイズにするんです。あとは筆で少し色味とかつけてあげれば」
思いついたアイデアをザッと話す。聞いてるうちに星架さんの表情がみるみる明るくなって、聞き終わると何度も首を縦に振った。
「良いじゃん、良いじゃん! ちぎり絵も経験してるし、意外と上手くやれそう!」
「いわゆる紙で作る造花ということですね。紫陽花という案自体は変えないで、素材を変えてしまおうという」
「うん! 良いアイデア!」
抱き着いてこようとして、寸での所で僕の言葉を思い出したのか、手を繋ぐにとどめた星架さん。彼女の天真爛漫な甘えん坊ぶりを妨げてしまっているのは心苦しいけど……正直助かったという気持ち。さっきもそうだったけど、本当に最近の星架さんのスキンシップは始まると歯止めが効かない感じになってるからね。
「でもさ、あと4日。花びら作りと、ケーキ作り。間に合うかな?」
どっちも星架さんにとっては不慣れな作業。確かに不安は残る。だけど。
「……きっと大丈夫ですよ。だってほら、僕たちには心強い味方がいるじゃないですか」
「え? ああ。千佳たちにまた手伝ってもらうってことか」
「ええ。頼っちゃいましょう」
以前の僕だったら、でも悪いしと遠慮が先に来てたハズだけど。あの二人なら頼っても嫌がられたりしないって、素直に信じられる。もちろん、また何かお礼を考えるけどね。
「花びらの方は洞口さんが、ちぎり絵の経験を活かしてくれるでしょうし」
「ケーキ作りの方は、雛のお菓子作りの経験を頼りにさせてもらうと」
二人、口端を緩めて頷き合う。一人で無理なら、二人で。二人で無理なら、みんなで。僕たちはそれで良いんだ。




