167:ギャルと映画を観た
劇場版「マジクル」の上演プログラムに合わせて映画館入りすると、思ったより館内は空いていた。お盆休み二日目、帰省中の人が多いんだろうか。或いは、もう上映期間も終了間際だし、興味のある人たちは既に観終わっているということか。いずれにせよ。
「ラッキーだね」
という星架さんの感想に同意。
受付でお金を払って、ポップコーンとオレンジジュースも2人分購入。1万円使い切るくらいの気持ちでいる僕に星架さんは少し気遣わしげな視線。
だけど実は何を隠そう、臨時収入のアテが出来たのだ。昨日あれから家に帰ってパソコンを立ち上げると、レジンアートを購入したいという主旨のメールを頂戴していたのに気付いたんだ。
というような説明をすると、
「へえ! 良かったじゃん! 動画見て連絡くれたんかな?」
少し興奮した星架さんが隣の席で体を揺らした。我が事のように喜んでくれている。
「はい。たぶん星架さんの誘導から来てくれた人だと思います」
コツコツと女性ウケしそうなアイテムの紹介、この間のちぎり絵や木彫りの製作映像もアップした。テロップが地味に手間暇かかったけど、中々に新鮮な体験で楽しくもあった。
そしてそれらを見てくれた人の大半は、恐らく星架さんのツイスタや動画内の言及などで存在を知ってくれた方々。人気読者モデルは伊達じゃない。
「本当にありがとうございます」
「いやいや。いくら誘導したって、アンタが良いモノ作ってなかったらスルーされるだけだから」
まあそれはそうだろうけど。星架さんが作ったモノなら、推し活ということで、多少クオリティに目を瞑ってでも買ってくれるかも知れないけど、僕はただの先生だ。むしろ先生なのにしょぼいモノを並べてたら、反感買うまである。
ということは、星架さんのフォロワーさんの何人かのお眼鏡にはかなったという事で、少なからず自信に思って良いのかも。
「でもアタシも動画見たけど、レジンアクセと木彫りの動物が一番良さげな反応だったよねえ」
「はい。視聴数に対するグッド率が高いのはそこら辺ですね。一番高いのは以前オーダーメイドを受けたレジンテーブル。圧倒的でした」
「ああ、あれな。メッチャ綺麗だったもんな……あんなんも作れんのね」
チラリと上目遣い。星架さん、欲しいみたいだ。
「星架さんの誕生日に作ってプレゼントしましょうか?」
「マジ!? ありがとう!」
「ふふ」
結構な量のレジン液が要るから、お金はかかるんだけど、一年に一度の誕生日プレゼントだからね。それにウチは幸い木工屋だから、液を流し込む型に使うコンパネや角材は廉価で手に入る。大量仕入れ値だからね。
……僕もいつか製作所を継いだ時には、こういう値段交渉もしなくちゃいけないんだよね。家族を養うためには、いつまでも弱虫なこと言ってられないから。
「……ん? どった?」
「あ、いえ」
思わず星架さんを凝視してしまった。家族。気が早い……ってこともないよね。30年後も一緒に居ようと言ってくれてる人なんだから。
テーブル。星空とかにしようかな。積層の中に多段に星を散らして、アーチ状に架けて……
「あ、康生、始まりそうだよ」
一瞬、状況も忘れて製作所に心が飛んで行きかけてた。危ない危ない。今はデート中なんだから。
星架さんの言葉通り、照明が落ちていき、シアタールーム内があっという間に暗くなる。と、星架さんが肘掛けを跳ね上げ、ヒップアタックを仕掛けてきた。1.5席分くらいのスペースにギュウギュウに密着して座ってる状態。
「えい」
僕も大胆に彼女の腰を抱いた。さらにくっつく。肩はともかく、二の腕ですら女の子は柔らかいなあ、なんて少し変態チックなことを思ってしまう。
やがてブザーが鳴る。
「テカリンピックを思い出しますね」
「やめて」
噴き出しながら抗議するという器用な芸当を披露してくれた。
映画がいよいよ始まる。
物語はどうやらマジクルの世界で、魔法少女時代から10年以上が経過した時間軸のようだ。マジクルは子供の頃に観たけど、細部はあまり覚えてない。キャラクターも少し怪しい。映画の前に復習でウキペディアに目を通して、アニメ公式サイトも覗いておいたけど……
「おお、みんな大きくなってる」
小声で囁く星架さん。
「はい」
誰が誰か分かるように、髪色とかはそのままだ。
物語は進んでいく。意外や意外、どうやらクルルちゃんと、その幼馴染のラブストーリーみたいだ。幼馴染なんて居たかな? と星架さんに目で訊ねると、
「モブレベルで一回出てた記憶が」
との回答。流石にそのレベルは覚えてないや。
本編で悪の怪人たちから地球を守った英雄の少女たち。だけど、平和になると途端に、兵器人間という扱いになっていたらしく、皆すごく苦労したみたいだ。魔法少女の力が失われてもなお、偏見や恐怖は消えていない。
そんな世界で、クルルちゃんと幼馴染クンは愛し合う。だけど幼馴染クンのお母さんに仲を反対され、二人は逃げるように別天地へ。最後は海辺の小さな家で、ひっそりと暮らす描写で締めくくられた。
スタッフロールが流れ始める。これで終わりか。
あー、うーん、これは。賛否両論も頷ける内容だった。




