表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルの自転車を直したら懐かれた【8月25日・第1巻発売予定】  作者: 生姜寧也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/225

140:ギャルと祝福された

 翌日。14時に家を出るために、準備を進めていた。

 星架さんにモールデートの時に選んでもらった、パープルに黄色い星が幾つか散っている(僕にしては)派手めなシャツを着て、下は膝サポーターを着けて、膝小僧を覆った。その上からお気に入りの黒のカーゴパンツ。

 よし、服はバッチリ。


「っとと」


 日焼け止めクリームを忘れるところだった。今日から塗る習慣をつけようと決めたんだった。

 30年後への投資。ただでさえ容姿の面では全く釣り合いが取れてないのに、将来的な更なる劣化を看過するのは怠慢というヤツだよね。星架さんが30年後まで一緒に居るつもりで考えてくれてるんだから、僕も出来ることはしておかないと。


 ペタペタと白いクリームを塗り伸ばして、よしオッケー。爪先で地面をトントン蹴って、おろしたての靴を足に馴染ませる。心機一転、お付き合い初日である昨日から履き始めたんだけど、まだまだ硬いね。


「いってきます!」


 元気が漲ってる。踊るように玄関を飛び出し、自転車に跨った。今日は本当に調子が良い。どこまででも走れそうな気がしていた。


 …………


 ……そしてそれは気のせいだった。


「ごめんね~、沓澤クン」


「ふひゅー。こひゅー。らい、じょう、ぶ」


 ウソだ。まず大丈夫って言えてないし。

 後部座席の重井さんは、気遣わしげに僕の横顔を覗うけど、僕は知っている。その口の中にソフトキャンディが入っていることを。いや、良いけどね。もう今更、数グラム増えたところで誤差だし。あ、でも最近2キロ太ったとか聞いた覚えが。


 暑さと絶望感で、フラッと眩暈がした。

 星架さんのマンションに辿り着いた頃には僕の方が2キロ痩せたんじゃないかってくらいの疲弊具合だった。


 リビングにお邪魔すると、いきなり麗華れいかさんと目が合った。あ、今日は御在宅か……って、え? 聞いてない。僕と星架さん、今から「お付き合い始めました宣言」するんだよね? その場にお母さんまで居るなんて。まずは子供たちだけの報告会で、場慣れしてから親御さんたちへの挨拶、という順序で考えてたのに。いきなり計算が崩れてしまった。


「お、お邪魔します」


「はい、いらっしゃい」


 目尻に皺を寄せ、優しく微笑みながら挨拶を返してくれる。あ、そっか。そう言えば、星架さんから聞いてるんだったな。だからお付き合いの事実自体は、もう把握されてる。

 知られてる上で、改めてご挨拶って形か。ならそこまでは……いや、それはそれで、やっぱり緊張してしまう。


「ほら、硬いよ」


 星架さんが僕の腕をポンポンと叩いた。そのままソファーに促される。


「大丈夫だから。反対とかされないから」


 隣に座りながら、そっと囁いて安心させてくれる。そ、そんなに硬くなってるかな。

 取り敢えず、僕は頂いた紅茶をグッと飲んで、大きく息を吐いた。会の始まりの前に、今日お呼びだてした理由、つまり僕らの交際スタートのご報告をする手筈になってる。


 隣を見ると、星架さんが力強く頷いてくれた。

 よし、気負わず行こう。この場に居る全員、僕たちの味方なんだから。


「えっと……本日皆さんにお集まり頂いたのは」

「アタシたち付き合うことになったから」


 ほあ!?


「知ってる」


「おめでとう」


「やっぱそうなんだ~」


 ぬあ!?


「まあ、このタイミングで改まって集まってくれとか、雛ですら察するか」


 そ、それはそうかも知れないけど、こんなに軽く済まされる感じなの? 


「雛ですらってのは酷いよ~」


 重井さんが抗議の声を上げるけど、顔は笑っていた。そしてそのまま、


「おめでとう、星架。私はそんなに恋愛相談されてなかったけど、それでも上手くいけば良いなあって、ずっと応援してたよ~」


 そんな祝辞をくれた。


「ウチがその分、恋愛相談されまくりだったけどな。まあなんせ、この朴念仁が掴めない掴めない」


「あいたっ」


 ソファーの斜め向かい側から洞口さんが足を伸ばしてきて、僕の爪先を蹴った。


「まあでもクッツーにも色々事情があって、恋愛どころじゃなかったのも今なら分かるけどな。それでも友達の段階で星架の事すげえ大事にしてたし、コイツなら任せられるなって思ってた」


 僕を真っすぐ見て、優しく笑う洞口さん。そこに麗華さんも同調する。


「……そうね。康生クン、本当に良い子だから。星架も星架で落ち着きが出てきて、成長して……素敵な恋をしてるんでしょうね」


 何か、こみ上げる物を抑えるような声音だった。そっか。男親のことばかりおもんぱかってたけど、母親だって何も感じないハズないんだよね。思えばウチの母さんも、そうだったし。

 なんだか、しんみりとした気持ちになってしまう。ややもすると泣きそうだ。


「おめでとう、二人とも。応援する」


「おめでとさん。お似合いだと思うぜ」


 僕と星架さんは互いに顔を見合わせて笑った。そして前を向き直して、


「ありがとう!」

「ありがとうございます!」


 大きな声で感謝を伝えた。なんのてらいもない、心からの感謝を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 学校メンバーだから先の話?になっちゃうだろうけど「バキヴァー」名付け親の園田さんもどんな反応するか気になりますな 祝福はしてくれるでしょうけどちょっとだけ悪乗りした冷やかしもセット来そうな感…
[良い点] お肌のケアを気にするようになった康生くん 30年たっても見劣りしないようまさに自分磨きをしていますね そして親友たち、母親に報告する二人 祝福しつつ洞口さんのちょっとした仕返しが 本当に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ