113:陰キャを大捜索する
<星架サイド>
家から駅までの道のりを自転車で走りながら慎重に探す。電柱の後ろ、木陰、店舗の裏側。コンビニの店内も外から覗き込んで確認する。また折を見て、康生がスマホの電源を入れ直してないかと、電話してみるのも忘れない。
手分けして探していたけど、やがて全員が合流してしまう。顔を見合わせただけで、全員が戦果ナシと知れる。そしてみんな顔が真っ赤だった。少しだけ休憩を取ることにする。
「星架ちゃんの言う通り、心の問題なのかもね。横中方面にもう一度行くのが怖くなったというか。それで直前で……」
「そんな感じかなって。もちろん仮病とかじゃなくて、本当に電車乗ろうとしたら気分が悪くなったんだと思う」
アタシと春さんで推論を交わし合う。そして二人ともほぼ同じ見解で落ち着いた。ガチのヤバい急病とかではないだろう、と。少しだけ安堵。
アタシは自転車にまたがったまま、木陰で顔の汗を拭う。このハンカチ、もう拭ける所がねえや。
と、そこへ、さっきから黙っていたメグル君が近くにやって来た。
「……あの、溝口さん」
「ん?」
改まった様子でアタシの顔を見ている。そして、そのまま頭をペコリと下げた。
「以前は失礼な態度を取って、すいませんでした」
「え? あ、ああ。体育祭の帰りのことか」
「はい。その、コウちゃんから聞いたなら分かると思うんですけど……」
「うん。アタシが康生の技術を利用して金儲けしたりする輩かも知れないって思ったワケでしょ」
人は見た目じゃないって言うけどね。あれだけ傷ついた康生の傍に派手な髪色で耳にピアス穴開けてるようなんが居たら……そりゃ警戒する気持ちは分かるよ。持田クンにも同じような反応されたしな。
「そもそも僕が発端で、人のこと疑えた筋合いじゃないのに。本当にすいませんでした」
「発端?」
「え?」
「ん?」
少しの間、お互いの顔を見つめる。そんなアタシらに春さんが、口を挟む。
「多分、メグルのこと話してないんじゃないかな。康生は」
「ああ、そうか……コウちゃんは優しいもんね」
諦めたように目を伏せるメグル君。アタシは何が何やらだったけど、やがて彼は顔を上げ、自分から話してくれた。
「僕もあの中学に通ってるんですけど、コウちゃんが三年生の時、僕は一年生でした。それでクラスメイトに三年の先輩が従兄弟だって知られて……僕も自慢したくなって。コウちゃんは凄い技術者なんだよって」
悄然とした表情で話を続けるメグル君。
「それで……作ってる物を画像で見せたら、こんなの作ってどうすんの? みたいなこと言われて」
もはや泣きそうだ。
「僕、言ってしまったんです……お金になるんだぞって」
ああ、それは……
それ以上は言いにくそうなメグル君に代わって、春さんが引き継ぐ。
「当時はまだ康生も、武将は売ってなかったんだけど、非売品として売り場に飾ってたんだ。それをどうしても売って欲しいっていう、熱烈な戦国武将マニアのお客さんが居て……」
で、売ってあげたと。そしてその話を知っていたメグル君が、思わずこぼしてしまい、それが悪い拡がり方をして、転売の商材として目をつけられた。そういう事らしかった。
「……軽蔑しました、よね?」
「いや……確かに無理に張り合う必要なかったと言うか、言わせたい奴には言わせときゃ良かった話だとは思う。どうせそのクラスメイトも完成度にビビッて言った負け惜しみだろうしな」
「はい、今となってはそう思います」
「でもまあ、13歳の子にそこまで考えて立ち回れってのは酷だよ。それに何より、結局は転売しやがったヤツが一番クソなんよ」
そこは揺るがない所。それにさ、アタシも情による暴走を許してもらったけど、康生からしたら、このメグル君の失言も似たような捉え方してると思うんよね。だってアタシに話さなかったってことは、そういうことだと思うから。
「溝口さん……」
「けど、そういう事ならアタシはもう要警戒って扱いじゃないんだ?」
微妙に話題を逸らしてやる。
「はい、それはもう。だって、そんな汗だくになりながら走り回って、探してくれてる人が、コウちゃんの敵なワケないし、それに……」
「それに?」
「さっきからスマホ確認しては泣きそうな顔してるのも。どう見たって、コウちゃんのこと大好きなんだなって」
「あ……う」
思わぬ反撃。
けどメグル君は別にアタシをからかおうという意図ではないみたいだ。春さんはニヤッとしてるけど。
そんなアタシたちの様子には気付かずに、メグル君は真面目な顔で続けた。
「ここからは思い当たる場所を各々で手分けして探してみましょう」
「うん」
「もし溝口さんが見つけたら……コウちゃんの事、どうかお願いします。きっと……コウちゃんが一番見つけて欲しいのはアナタだと思うから」
その言葉を合図に、三人とも束の間の休憩から、再び灼熱の太陽の下へ戻るのだった。




