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ギャルの自転車を直したら懐かれた【8月25日・第1巻発売予定】  作者: 生姜寧也


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112/225

112:陰キャが行方不明になった

 <星架サイド>



 事態が急転したのは、翌日の午後だった。アタシがそろそろ康生の様子を見に、製作所に行こうと靴を履いてる、ちょうどその時だった。


 アタシの携帯に着信。画面を見ると春さん(何度か沓澤家にお邪魔するうちに番号交換した)の名前。珍しい、というか電話が掛かってくるのは初めてだった。


「もしもし」


「星架ちゃん! そっちに康生行ってない?」


 挨拶も無しに、いきなり息せき切った質問。面食らってしまう。ただその尋常ではない様子に、アタシもすぐに何かイレギュラーが起きたのだろうと悟る。


「いや、来てない。康生、どうしたの?」


「今朝、用事で出かけたハズなんだけど、向こうには行ってないみたいで、それで!」


「え!?」


 まとまりを欠いた春さんの言葉。だけど要点だけは拾えた。つまり行方不明……ということか!?


「スマホは? 繋がらないの?」


「いや、電源が入ってないの。切ったのか充電が無くなったのか……と、とにかく星架ちゃんもすぐウチに来て!」


「わ、わかった!」


 大慌てで玄関を飛び出す。出かける直前だったのが幸いだった。

 エレベーターが上がってくるのも待てず、マンションの階段を駆けおりる。そのままの勢いで駐輪場へ駆けこむと、即座に自転車にまたがった。


「康生……」


 ハンドルを握る手が汗で滑りそうだ。車輪が回転するたび、アタシの頭を良くない言葉がグルグル回る。蒸発。事故。あるいは……


「ないから! あるワケないから!」


 たっぷりと愛情を注いでる家族がいる。好きなモノづくりだってまだまだこれからだ。あと……アタシだって居るじゃん。大事にするって、親友だって言ってくれたじゃん。そんなアタシを残して居なくなるような、薄情な子じゃないよ。


 大丈夫、大丈夫。


 でも。昨日、やっぱり目を離すべきじゃなかったのかな。もっと一緒にいてあげた方が良かったのかな。雨が降る前に帰った方が良いって言われて、すんなり受け入れずに、迷惑承知でいっそ泊まるべきだったのか。一人になりたいのかな、とか遠慮せずに、やっぱり踏み込むべきだったのか。


 いや、今さら悔いても仕方ない。起こった事は変えられない。今できることは、一刻も早く沓澤家に合流して、状況を把握することだ。焦るな。短慮を起こすな。

 そう自分に言い聞かせながら、アタシはスターブリッジ号を酷使した。












 チャイムを鳴らす前に、既に玄関扉が開けっ放しで、そこからちょうど芳樹さんが出てくるところだった。パッと目が合うと、軽く会釈をして、そのまま家の裏手に消える。車を取りに行ったんだと思う。


「星架ちゃん!」


 芳樹さんの後に出てきた春さん。彼女のこんな焦った顔は初めて見た。


「取り敢えず中で詳しいこと説明するから上がって」


「うん」


 春さんに続いてリビングに入ると、明菜さんも娘と同じような顔で座っていた。その隣、何故かメグル君も居た。旧交を温めるような間柄でもないので、お互いに軽く目礼のような物で挨拶とする。


「星架ちゃん、来てくれたんだね」


「はい。こんにちは。それで明菜さん……康生は」


「それがね。この子のお父さん、つまり康生の叔父さんなんだけど……」


 明菜さんは隣に座るメグル君の肩に軽く手を置く。


「その人が今、横中で開かれてる、鼻の頭テカリンピックの予選に出てるんだけど、その応援に康生も行くことになってたの」


 鼻の頭テカリンピックが鬼ほど気になるけど、今はそれどころじゃない。意志の力で強引に聞き流す。


「けど二時間以上前ね。その叔父さんのスマホに、康生から体調不良で行けなくなったってメッセがあったらしいの」


「……それで僕たちも心配してコウちゃんに電話してみたんですけど、繋がらなくて。それに待ってても全然帰って来ないから」


 明菜さんに続いて春さん、メグル君が状況を説明してくれる。


「警察とか」


 二時間半くらい帰らないだけで大袈裟とも思うけど、体調不良も絡んでるなら楽観視はマズイ。特にこの時期、熱中症で命を落とす人だっているんだから。


「今はまだ。主人に横中まで車で行って、駅とかで倒れてないか見てきてもらって。春たちが今から、沢見川駅から家までの道を捜索に出かけるところだったの」


「でも体調不良って言っても、昨日もゴロゴロ言うだけで結局雨も降らなかったし、また風邪ってこともないよね……星架ちゃんから見て、何かおかしな所とかなかった?」


 探るような春さんの目。今思えば、横中東に康生が行くと言った時、彼女が泣きそうな顔をしてたのは、例のトラウマを心配してのことだったんだろう。それでも信じて送り出した……までは良いけど、翌日にこの有様。家族も体調不良と、心理的なファクターの両面から疑ってるのか。そしてそれはアタシも同じで……


「ハッキリと断言は出来ませんけど、もしかすると心の問題かも。その、実は昨日、康生、アタシに話してくれたんです。中学時代のこと」


 と打ち明けた。


「……っ!」


 三人とも目を見開いて驚いていた。やっぱりアレを話してもらえるのは相当特別なことなんだな。


「昨日、横中東で元クラスメイトの二人と会ったのがキッカケで」


 そうしてアタシは昨日の顛末を(時間もないし手短に)話した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 康生くんに何があったのか! どうか無事なのを祈ってます [一言] この後の展開がどうなるか! これで過去のトラウマとの決別につながる何かになればいいのですが
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