探偵の役目はおわる
「犯人と被害者は友人関係にある。前述の通り部屋に入るのは容易だっただろう。
ここで被害者の部屋の鍵をポケットに忍ばせ、それと同時に果物ナイフをすり替える。
ああ、この時点で毒はもう塗ってある。後は何事も無かったかのように部屋を出る。
被害者が毒塗りナイフを使い毒が回った頃に……そうだね、彼は被害者に対して何度も電話をかけていた。恐らくはそれが毒が回ったかの確認だったのだろう。
確認の後、鍵を使って侵入。すり替えたナイフを元通りに戻し、犯行は完了……するはずだった。
ここで犯人に二つの誤算が襲いかかる。
一つ目は被害者がまだ生きていた事。電話に出られないくらいだから助けを呼んだりはできない段階、何をしても手遅れではあるけどね。それでも被害者は未だ絶命してはいなかった。
二つ目はもちろん殺人魔、そこで犯人に魔がさしてしまった事。
放っておけば被害者は死んでいただろうけど生きている。ならば殺人衝動は治らない。
衝動に身を任せてサバイバルナイフで被害者を殺す。
恐らく犯人の計画通りならばアリバイ工作も出来ていたのだろうが、計画は破綻。
故に犯人は偽装した。被害者の死や時間では無く、死因を。
ナイフを刺したまま残し、あたかも刺殺であるように偽装した。そんな所だろう。つまり……」
ここまで言って一呼吸。どういう風にいるかもわからぬ怪奇現象に向けてひとねは言い放つ。
「犯人は二宮、死因は毒殺だ」
瞬間、音が鳴った。
まるで瓦が割れるような音。
屋根あたりにはあるだろうがこの部屋に瓦はない。奇妙な音を立てるのは怪奇的なものだと相場が決まっている。
つまりは……
「おお、鬼の顔が割れているじゃないか」
一件落着である。
*
その後の展開は特筆に値しなかった。
ロープウェイの復旧、警察の到着。角野さんを通して伝えられたひとねの推理がきっかけとなり、二宮さんが逮捕された。
そうこうしているうちにチェックアウトの時間となる。
角野さん、堀さんとの別れも呆気ないものであり、俺たちは各々感想を述べながら、無事帰路につくのであった。
そして夏の休みは終わりゆく____




