第14話 ダモス散策1 4
先日様々なゲームの新作やリメイクが大量に発表されましたが、一定の年代を狙い撃ちにしているとしか思えない!
時間が! 時間が足りない……!!
斎蔵が財布に忍ばせていたドッペルゲンガーは、戦闘時の人型のものと比べて耐久性の面で著しく劣っている。意図的に破壊しようと思えば、子供でも簡単に壊せてしまえる程度だ。
その一方で、術者へ送られる情報の精度は本来のそれと比べても遜色はなく、位置情報に至っては上回ってすらいるほどだ。
そして今回、その反応が消える最後の瞬間に斎蔵に送られてきたのは『一瞬のうちにすり潰された』という情報だった。
(地表への影響も全く見られん。単純に地下道を崩落させた、という感じではないのう)
反応の消えた場所の真上に立ち少し強めに地面を叩いてみるが、返ってくるのは硬い反応のみ。
掘り返してみれば何か手がかりが見つかるかもしれないが、流石に大通りのど真ん中に穴を開けるような真似は許されないだろう。
一応念のためにと《ベステラード・ファミリー》の面々に相談してみたが、案の定全員からそれは無理だと返された。
「俺等はそんな権限持ってないからなあ。気持ちは分かるけど、勝手なことしたらギルドにも領主にも怒られる」
「この場にボスがいてくれれば何とかなったかもしれないけどな」
「ここ最近ダンジョンに潜りっぱなしなんだよ。そろそろ帰ってきてもいい頃なのに」
そう言いながら悔しそうに話す面々に、斎蔵は「ボス?」と首を傾げた。
「それは《ベステラード・ファミリー》の頭領のことかの?」
「頭領って……。ああ、そうだよ。《獣王》って聞いたことあるだろ? うちの今代の頭なんだ」
「《獣王》……」
そう呼ばれる凄腕の冒険者が《ベステラード・ファミリー》にいることは聞いた覚えがある。
しかしまさかその長だとは思っていなかった。
冒険者の中でも有名な集団のトップに立つ器。
腕が立つだけではなく、さぞかし立派な御仁なのだろうと斎蔵が思っていると、メヤがパンパンと手のひらを打ち鳴らした。
「これ以上ここでこうしていても仕方ないだろう。ヒルムとレントはギルドと姉さんに報告。オットーとココはさっきの家に戻って他に手がかりがないか探してきな」
オットーと、彼が応援にと呼んできた三人の冒険者がその指示に了解の意を示す。
彼らが人々の好奇の目をかき分けながら姿を消したところで、メヤは斎蔵の方へ向き直った。
「さてと、それでサイゾーさんには悪いんだけどあたしと一緒に……」
「もう一つの手がかりの方、じゃな」
心得とるよ、と頷くと、斎蔵は少年の方に仕掛け直したもう一つの【ドッペルゲンガー】の方へと意識を飛ばす。
「ふむ。かなり距離が離れてしまっておるが、何とか辿れそうじゃの」
【ドッペルゲンガー】は術者から離れれば離れるほど精細さを欠き、やがてスキルが解除されて宙へと霧散してしまう。
現在少年がいる場所は、操作こそできないものの反応を追うだけなら問題ない位置だった。
(とは言え、これ以上離れられると消えてしまう可能性もあったのう。こちらももっと鍛えねばならんか)
背負った槍を一瞥し、「することが多いのう」と軽くため息を吐く。
「何してんです? 早く行きましょう」
「おお、すまんすまん」
◇
「反応はこの辺りからじゃ」
歩き続けることしばらく。
斎蔵が少年に仕掛けを施した場所から更に進み、ダモスを囲む壁のすぐ近くまで来て二人は足を止めた。
ここに来るまでに大通りからは遠く離れ、この先は袋小路なのではないかとすら思われる細い小路をいくつも通り抜けてきた。
目的地の近くになってからはメヤの方に心当たりがあったのか、逆に道案内をしてくれた。
もし斎蔵一人だけならば、場所は分かってもそこまでの経路が分からず、もっと時間がかかっていただろう。
「なのじゃが……ここは一体?」
困惑する斎蔵の目の前にあるのは、歪な形に盛り上がった土の塊としか形容できないもの。
大きさは高さ二メートル、横三メートルほど。
側面は平らではなく、まるで子供が作った粘土細工のように不規則に凸凹としている。
そしてそんな物体が、見渡す限りこの周辺一帯にずらりと並んで広がっているのだ。
側にまで近づいて見てみると内側は空洞になっているらしく、それぞれ一箇所ずつ中に入るための小さな穴が開いている。
そのうちの一つを斎蔵が覗き込むと、ボロ布に包まって横になっている子供の姿が目に入った。
「っ! メヤ殿!!」
「静かに。ここは彼らの家なんだよ、サイゾーさん。そしてダモスの負の面でもある」
思わず振り返った斎蔵の目に入ったのは、鎮痛な面持ちで家だという建造物を見て回るメヤ。
彼女はこの場所に詳しいようで、慣れた様子で建物の間を縫って行く。
「迷宮都市ダモス。世界有数の大きさを誇るダンジョンを擁する、ジダルア王国第二の大都市。こう言えば聞こえはいいけどね」
横を歩く斎蔵が黙って続きを促すと、メヤは苦々しい表情で話し始めた。
「一攫千金、成り上がり……。皆が夢を求めてこの街にやってくる。そして人が集まれば出会いがあり、子供を授かることも少なくない。当然それは冒険者にもいえることさ」
そこまで言われて斎蔵も察しがついた。
先程寝ていた子供も、そして今も時々こちらを探るように見つめる無数の視線も。
「そう。ここは事情があって捨てられたり、保護者がダンジョンに潜って死んでいった子供たちの吹き溜まりなのさ。とりあえず土を操作するスキルで家らしきものを大量に作ったはいいが、それ以上は手が回らなくて殆ど手つかずで放置されたまま。内側の問題も解決しきっていないのに、今度は他所からの移民で頭を悩ませるだなんてお笑い草だ」
行政側にも事情があるのだろう。決してわざと無視しているわけではないと信じたい。
しかし現実問題として、問題は目の前に広がっている。
(こればかりは、どうしようもないのう)
どれだけ強い力を手に入れようと、この世の理を逸脱しているとしか思えない技能を使えるようになろうとも、個人がどうにかできるレベルの問題ではない。
メヤは愚痴を吐き出すように色々と話してくれたが、斎蔵はそれに返す言葉を待たなかった。
やがてどちらとなく無言になり、目的の場所の目の前に付いたことを斎蔵が手で示す。
「……ここかい」
周りと比べても、取りててて特徴のない土の塊のような家。
その中から斎蔵の【ドッペルゲンガー】の反応が届いてきている。
そしてゴソゴソと動く人の気配も。
「邪魔するよ」
さてどうするかと斎蔵が考えていると、メヤは一切の躊躇なくその中に向かって声をかけた。
慌ててそれを追うようにして二人一緒にその扉もない入り口から中を覗き込むと、件の少年が驚いた顔でこちらを見返してきている。
「……え? え?」
どうやら事態を理解できていない様子だが、メヤはそんなこと知ったことではないと笑みを浮かべていた。
「よう。さっきぶりだねえ、こそ泥君」
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