表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/92

第10話 再会 8

遅ればせながら、明けましておめでとうございます!

 ──へー、凄いなこの人。ひと目見ただけでレギーが【アーティファクト】だって分かるんだ。


 ──そういえば【アーティファクト】って言ってもレギーはそこまで珍しくはないタイプなんだっけ?


 ──こんな高そうなホテルに泊まる人達を相手にしてたら何度か見たことがあるんだろうな。




 とか何とか色々考えていたことが、全部纏めて吹き飛んだ。


「縮小状態!?」


 聞き間違いなんかじゃない。確かにこの人はそう言った。


「は、はい。【アーティファクト=レギオン】は所有者の意思によって、持ち運びできる程度の大きさに変形させることが可能です。この機能のみが現在の技術で再現することが不可能らしく、それ故に【アーティファクト】と認定されていると聞き及んでいま──」

「あ、ちょっと裕也!」


 悪いけど、全部聞いているのももどかしい。


 外に飛び出してレギーのもとへ駆け寄ると、近づいてきた俺にフオオオンと嬉しそうに返してくれる。

 やっぱりレギーは可愛いなあっ……と、いけないけない。


「レギー、『縮小』!」


 初めてレギーを『起動』させた時と同じように、胴体に手を当ててキーワードを口にする。

 詳しいやり方は知らないけれど、多分待機状態や起動状態になる時と同じ方法だろう。


『フオオオオン!』

「お、おおおおおお!?」


 俺の予想は当たっていたみたいで、嘶くと同時にレギーを構成する全てのパーツが鈍い光を放つ。

 そしてそれらがガチャガチャと複雑に動きながらレギーの形を組み替えていき、やがて野球ボール程のサイズの球体になった。


「凄い! 凄いぞレギー!」


 前からレギーは可愛い上に強くて優しくて頼りになると思っていたけれど、まさかこんなことまで出来るだなんて!


「いやそうはならないでしょ。つくづくファンタジーね」

「あの質量はどこへいったんじゃ? 今の状態よりも大きな部品もあったはずじゃが……」


 追いかけて来たらしい姉貴と爺ちゃんが後ろで何か言っているけれど、二人にはレギーの凄さが分からないんだろうか。

 その声からは称賛よりも呆れの色のほうが強く感じられる気がする。


「まあ色々と便利になったのは間違いなさそうね。それよりさっさと部屋に行くわよ」


 小さくなったレギーは見た目から想像できる重さ通りで、難なく片手で持ち上げることができた。

 これならポケットに入れて持ち運ぶこともできそうだ。

 世界中で大流行していたポケットなモンスターのゲームみたいなことも出来るかもしれない……って。


「ぐえっ!?」


 レギーを持った状態で色々と考え事をしていたら、急に首元に衝撃が走った。

 次いで地面から足が離れ、バタバタと情けなく宙を掻く。


 衝撃の原因は勿論姉貴。

 必死に首を振って振り返ると、首元を掴んで持ち上げられている。


「ちょっ、姉貴! 閉まっ、苦しっ!」

「ほっといたらいつまでもニヤけてるからよ。母さん達もう行っちゃったじゃない」


 流石に降ろしてはもらえたけれど、腕を掴んで引き摺られるようにしてホテルの中へ戻る。

 受付の人が驚いた顔でこっちの方を見ているだけで、確かに他の人達の姿も荷物も見えない。


「分かった! 悪かったって! 謝るから手も離してくれ!」


 名前は分からないけどこれ絶対プロレスか何かの技だ。

 完全に極まってて動かせない上にめちゃくちゃ痛い。

 一縷の望みをかけて後ろにいる爺ちゃんに助けを求めるが、返ってきたのは小さな溜息と憐れむような視線だけだった。


「静かにしなさいよ。迷惑でしょ」


 今まさに最も迷惑な目に合ってるのは俺だと思うんだが。

 それでも部屋に入るまでは無言で大人しく引き摺られていった俺を誰か褒めてほしい。




   ◇




「って、凄いなこの部屋!」

「だよね。僕も驚いたよ」


 先に着いていた親父が大きく頷いているが、連れてこられたのは日本にいた頃にもこんな高級な所に泊まった経験はない、っていうレベルの部屋だった。


 入り口から続く廊下を抜けると、大部屋が二つにその更に奥には小部屋が三つ。

 大部屋には暖炉にテーブル、大きなソファが用意されていて、大人数でもゆったり寛げるようになっている。

 小部屋の方にはそれぞれ二台ずつベッドが備え付けられている他に、小さな机や椅子が置かれていた。この部屋だけでも修学旅行の時に泊まったビジネスホテルよりも広そうだ。

 調度品も高そうなものが並んでいて、日本では見たこともない不思議な意匠の置物が置いてある。


 面白くなって部屋の中を探検していたら、入口の方から鈴の音が響いてきた。


「ルームサービスもあるみたいだから、さっき簡単に頼んでおいたんだよ。もう来たのかな」

「はいはい。今出ますねー」


 親父と母さんが念の為に覗き窓から外の様子を確認した後扉を開けると、食事の載せられたカートが置かれているのが見えた。

 食べ終わったらカートに食器を戻して、付属のベルを鳴らせばいいらしい。


「異世界舐めてたわ。めちゃくちゃ快適じゃない」

「めちゃくちゃお金かかってそうだけどな」


 湯気の立っている温かい食事を全員で一心不乱にかきこんで、食後のお茶も楽しんだところで姉貴が気持ちよさそうに身体を伸ばす。

 実際この空間だけを取ってみれば、日本で生まれ育った俺たちが何一つ不満のない生活を送れる文明レベルなのだ。


「見てよこれ。これも魔道具みたいね。全然仕組みも分かんないけど、もう魔道具だからって言っておけば何でも許されそうだわ」


 照明用は当然として、水が湧き出すものや、温風や冷風が出てくるもの。この部屋に入る扉にも鍵の役目を果たす魔道具が使用されている。

 火を出したり光ったりといった単純な構造のものならいざ知らず、魔道具というのは基本的に高価だ。

 日本の家電と比べても遜色のない性能のものなんて、一体いくらするのか検討もつかない。


「しかもお風呂も付いてるじゃない。シャワーまで!」


 大喜びで「あたしが最初に入るから」と、脱衣所に消えていく姉貴を見送って俺はこっそりと親父に聞いてみた。


「で、ぶっちゃけ幾らくらいなんだ? ここ」

「一人一泊百ドルク……」

「あれ? そんなものなんか?」


 この世界での通貨の単位であるドルク。

 そして一ドルクで大体百円前後の価値がある、というのが俺の勝手な脳内換算だ。

 日本と比べれば需要と供給も全く異なるので厳密には正しくないかもしれないけど、買い物なんかは大体その感覚でやってきた。

 それに照らし合わせると、ここのお値段は一人一泊一万円。

 このクラスの部屋でと考えるとかなり、というか破格の安さな気がするんだが。


「違うよ!? スフィさんから貰ったあのカードのおかげで、ここまで安くしてもらえたんだ。本当なら千ドルク以上するみたいだよ」

「千!? それはまた……」


 一泊十万円!

 日本でもそんなホテルは中々ないだろう。流石にそんな値段ではいくら懐に余裕があると言っても気軽には泊まれない。

 まさにスフィ様々だ。


「にしても、あのカード一枚見せるだけで十分の一以下にまで安くなるのか」


 件の《ベステラード・ファミリー》っていうのは、想像以上にとんでもない集まりみたいだ。

 もし俺たちがこのまま長期宿泊すれば、宿屋側にとってとんでもない負担になるな。


「偶然だけどこのホテル、《ベステラード・ファミリー》と提携しているみたいでね。何日泊まってもこの値段でいいって言われたよ」

「へえー」


 冒険者とホテルが提携? メンバーがここで寝泊まりしているんだろうか?

 まあ何にしても、俺達にとってはありがたい話だ。


 そのままダラダラと話をしているうちに姉貴が風呂からあがり、次に母さん。俺、爺ちゃん、親父の順でお風呂に入る。


 全員が髪も乾かし終わって人心地つくと、大部屋に置いてあるテーブルを囲むようにして椅子に座った。


「あらあら、皆さん準備はよさそうですね? では第十四回、異世界家族会議を始めたいと思います」


 そして母さんの開会の宣言とともに始まる家族会議。


(もう十四回か。アルラドで最初にやったのが懐かしく感じるな)


 前にも似たようなことを考えた気がするけれど、こうして改めて開催回数を突きつけられると、この世界に来てかなりの時間が経ったのを実感させられる。

 新しい町に到着した時は絶対として、家族全員でしっかりと話し合うべき問題が発生した場合にしか開いてないんだけどな。


「え、もう十四回になるの?」

「そう簡単に帰れるとは思ってなかったけれど、ここまで手がかりがないって言うのも考えものだよね」

「じゃがこの街はこの国の中で二番目に大きい都市なんじゃろう? 確かに人も物も多そうじゃし、何かしら情報は掴めると期待してええと思うがのう」


 爺ちゃんの言う通り、このダモスがジダルア王国で二番目に大きいと言われている街だ。

 ここで一切何の手がかりも見つからなければ、もう残るは王都くらいしかあてがない。


「あらあら、そのあたりも踏まえてこの街での行動指針を決めていきましょうか。まず第一に地球に帰るための情報の収集ですが、これはギルドの資料の他に、街に来ている他所の人達からも聞き込みをするということでいいですね」


 そう。これが当初姉貴の「ダンジョン行きたいからダモスに行きたい」という私欲丸出しの意見が採用された最大の理由でもある。

 インターネットなんて便利なものがないこの世界で情報を集めるには、情報の記録されている資料を読むか人から話を聞くしかない。

 この迷宮都市ダモスには王国中、ひいては諸外国からも様々な人が訪れているらしいのだ。聞いたことのない地方の伝承や噂話から、思いがけない手がかりが得られるかもしれない。


「あー、それと情報っていうならあれもそろそろ調べてみない? 幸いここにはでっかい神殿もあるみたいだし」

「……三聖教、か」


 もし仮にこの異世界転移がテンプレ通りに神様的な存在の仕業なら、真っ先に調べなきゃいけない場所だっていうのは分かってはいるんだよ?

 実際に過去の家族会議でもその案は上がってはいたんだ。

 けれども宗教関連っていうのは非常に難しい。現代の地球でも色々と問題が多いのに、価値観の全く異なるこの異世界ではより慎重になるべきだってその時は決まった。


(あのレネゲス司祭みたいなのがいっぱいいても、めんどくさいしな)


「そうねえ、確かにこのまま後回しにし続けるわけにもいきませんしねえ」

「むう、ええ機会かもしれんがの。じゃがこれまで通り慎重にというのは変わらんぞ。それも他に一切手がかりが見つかりそうになければ、という条件でなら儂も賛成じゃ」

「オッケー。じゃあ、そんな感じで。他に何かある?」


 こうして家族会議は日付が変わるまで続けられ、ダモスでの当面の活動指針が決められた。


 まずは当初予定していたダンジョン探索は後回し。というよりも何か特別な事情が発生しない限りは行わない。

 あの入り口を見た時に何かを感じ取ったのか、この決定には姉貴も何も言わなかった。


 次に主にギルドの資料、街にあるかもしれない図書館で文献をあさり、冒険者や商人から情報を探る。

 これは今まで通り手分けして行われることになった。そっちの方が断然効率がいいしな。


 三聖教に関しては決して勝手に関わらないこと。どのようなアプローチをしていくかは改めて家族会議で話し合う。


 そして最後に。


「武器よ、武器! ドラゴンの素材を扱える職人を探さないとね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ