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第9話 再会 7

長年待ち望んでいたゲームの新作が発表されました!

初めはまたフェイクニュースかと疑ってしまいましたが、どうやら本当だったようです。

とても嬉しい……。

 スフィと別れてセントラルを出た時には、すでに日は殆ど落ちかかっていた。

 宿を手配してくれるという話も有耶無耶になってしまったし、ちょっとまずいかもしれない。


「とりあえずどこでもいいから泊まれる所を探そう。これだけでかい街なんだし、空いてる宿屋くらいいくらでもあるだろ」

「そうだね。ひとまず大通りに沿って探してみて、どうしても見つからなかったら手分けするというのはどうかな?」

「儂もそれでええと思うぞ」


 親父と爺ちゃんも同意してくれたことだし、じゃあそんな感じでと歩き出そうとしたところで「ちょーっと待った!」と姉貴から制止の声があがった。


「こんな大事なこと、何勝手に決めてるのよ」

「あらあら。でもそうですねえ、もう少しお話しましょう?」


 一体何だ? と思っていたら、どうやら母さんも不服があるみたいだ。

 全員今日はもう疲れたからさっさとベッドで横になりたいと考えていると思っていたので、ここでストップをかけられるとは思っていなかった。

 現状で宿を探すことより優先されることなんてない気がするんだが。


「はぁー……、何も分かっちゃいないわ。宿を探すこと自体は別にいいのよ。でも『どこでもいいから泊まれる所』? 本当にそれでいいと思ってるの? やっぱりうちの家族は母さん以外ダメダメね」

「あらあら。私もアキちゃん以外の皆にがっかりしていますよ」


 首を傾げる男三人衆に向かってやれやれと頭を振る二人。

 一体何が言いたいんだと聞いてみれば、しょうがないわねと大層尊大な態度でその真意を教えてくれた。


 曰く、ダモスはこの国の中でも王都に次ぐと言われるほどの大都市。ならばここの『最上級』を知ることは、この世界の文化の最先端を測るにいい機会である。

 それにこの街にはこれまで以上に長期の滞在をすることになるだろうから、よりしっかりとした拠点の確保は必須である、とのこと。

 要するに高いところに泊まって美味しいものを食べたいという欲望溢れる要求でしかないんだけど、確か母さんは昼間に馬車の運賃を勿体ないと言っていたような気が「あらあら、それとこれとは話が別ですよ?」……はい。


 とまあ姉貴と母さんの意見が一致している以上、俺たち男性陣の意見は三人纏めても一票分の価値もない。

 極めて公平な多数決の結果、出来るだけ高級な宿屋に泊まることが決定した。

 幸いと言っていいのかトラブルに巻き込まれ続けているせいもあって、実は懐には余裕がある。

 姉貴は何も考えていないかもしれないけれど、母さんがゴーサインを出したということはこの後購入する予定の馬車やら装備代やら何やらのことを含めても大丈夫だと判断したんだろう。


 というわけで早速その辺に歩いている人を捕まえて色々と聞いてみると、セントラルから見て北西の方角に富裕層向けの施設が充実しているエリアがあるとのこと。

 そこなら姉貴たちのお眼鏡にかなうような施設があるだろうと早速向かうことにしたんだけど、これがまた結構遠い。

 他の町ならとっくに端から端まで突っ切れるほどの距離を歩き、辺りがすっかり暗くなった頃に漸くそれらしい場所に到着した。



「こりゃ凄いな」


 ダモスという街自体が今までに見てきた街とは一線を画すのはもう分かっていたことだけど、この一角はその中でも更に特別なエリアなのが一目でわかる。

 隙間なく敷き詰められた石材によって、限りなく平坦に整えられた道。等間隔に並ぶ街灯が足元を照らし、脇に植えられた樹木が目を楽しませてくれる。


 道だけじゃなく、建物のレベルも一回り以上違う。

 窓にあたる部分にはガラスがはめ込まれ、柵や外壁にすらお洒落な模様が入っている。土地の使い方も贅沢で、一棟一棟の建物が余裕を持った間隔で並び、全ての建物にちょっとした庭や広間がついていた。

 この区画だけを見れば、現代日本のちょっとしたリゾート地と比べても遜色のないレベルだ。


「いいじゃない。これなら宿にも期待できそうだわ」

「あらあら。今日はもう遅いですけれど、後でちょっと見て回りたいですね」


 高級志向っぽい装飾品や貴金属、それに服飾関係といった商店が立ち並んでいるのを横目に姉貴と母さんもいつになくはしゃいでいる。


 そういえばこういうファンタジー世界じゃ装備品に何かしらの付与効果があったりするのが定番だけど、いまだにそういったものにはお目にかかったことがない。

 ニーラスから預かっているイヤリングなんかはいかにも『それ』っぽいんだけど、今の所何も感じたことはない。装備したら分かるのかもしれないけれど。


(人のものを勝手に身につけるのも悪いしなあ)


「あ、あれ宿屋じゃないかな?」


 考え事をしているうちに目的の建物を見つけたみたいだ。

 親父の声に顔を上げると、前方に見るからに高級そうな宿屋が立っていた。

 地上四階建て。正面玄関の周囲だけじゃなく、外壁部にまで照明用の魔道具が配置されている。玄関前は馬車が横付けできるような構造になっていて、敷地内にはその馬車を待機させておくスペースや馬小屋も完備されているみたいだ。

 表に看板が置かれてなければ、大金持ちの邸宅と勘違いしていたかもしれない。


「だ、大丈夫なのかなあ。とんでもなく高そうだけど……」

「……セリーには悪いけど《銀の稲穂亭》とは比べる気にもなれないな、これ」

「何ビビってんのよ? とりあえず部屋が空いてるかどうかと値段だけ聞いてみましょ。それにいざとなったらこっちにはこれがあるんだし」


 建物の威容を目の前に心配する親父に、姉貴がスフィに貰ったカードをピラピラと振って見せる。

 スフィの言う『色々と融通が効く』というのがどこまでを指しているのかは分からないのに、何でそんなに自信満々なんだろう。


 謎の自信を胸に先陣を切って歩く姉貴に付いていくと、案の定フロントで「申し訳ありません」とお断りの言葉を告げられた。

 なんでも部屋自体は空いているけれどこの宿に泊まるには事前の予約が必須、加えて身元の確かな人しか受け入れていないのだそうだ。


(ま、そりゃそうか)


 どう考えてもこんな場所に泊まっているのは、貴族のような身分のお高い方々か一部の超お金持ちの人だけだ。

 多少羽振りが良さそうでも、正体のよく分からない人間を同じ場所に招き入れたくはないだろう。

 防犯上の理由から考えても当然だ。


「申し訳ありませんが……」


 一通りの説明の後に受付の人が再びそう言って頭を下げるのと同時に、少し離れた場所にいた従業員がゆっくり近づいてくる。

 受付の人と同じ制服を着ているけれどその服の上からも分かるほどがっしりとした体格で、腰には剣を提げている。おそらくこの宿屋の警備員も兼ねているんだろう。

 向こうからすれば俺たちはこの街の人間ですらない、一介の冒険者だ。

 受付の対応に難癖をつけたり暴れたりするのを警戒したのかもしれない。


 こういう時に一番心配になるのは姉貴の機嫌なんだが、今日の姉貴は心に余裕があるようだ。

 鷹揚な態度で頷くと、懐から例のカードを取り出して見せた。


「それは残念だわ。ところでこのカード、ちょっとお世話してあげた《ベステラード・ファミリー》のメンバーに貰ったものなんだけど」

「……確認させていただいてよろしいでしょうか」


 カードに描かれたエンブレムを目にした途端、受付の人の目の色が変わった。

 半信半疑だったけど、スフィが所属しているのは本当に有名なところだったみたいだ。この様子だと、このカードを見せるだけで融通を利かせてもらえるっていうのも本当っぽい。

 なんだけど……。


(めちゃくちゃ警戒してないか?)


 姉貴からカードを受け取ると、さっきの警備員と二人揃って目を細め、角度を変えながら吟味している。

 確かにぱっと見、何の変哲もないただの紙製のカードだ。

 ホログラム処理なんて技術がこの世界にあるわけがないし、透かしが入っているわけでもない。やろうと思えばいくらでも偽造できそうだし、実際にそういった事例があったのかもしれない。

 だとしたら一体どうやって真贋を判定するのだろうと思っていたら、警備員の手の中でカードに描かれたエンブレムが仄かに白い輝きを発し始めた。


「これは……、大変失礼致しました。こちらはお返しします。このサインはスフィ様のものですね。すぐに部屋をご用意させていただきます」


 一体どういう原理で光ったのかは謎だけど、とにかく疑いは晴れたみたいだ。

 滞在日数がどれだけになるか分からないので料金は日払いにできないかと親父が交渉している間、奥から出てきた別の従業員たちが荷物を全部持ってくれた。


「あー、ありがとう。あ、このバッグは自分で持つので大丈夫です。あと表に一頭馬型の魔道具を待たせているんですけど、あの子は連れて入っても大丈夫ですかね?」


 流石に貴重品が入っているマジックバッグだけは自分で持つことにして、レギーについて聞いてみる。

 セントラルや冒険者ギルドに連れて入った時には注目を集めはしたけれど、特に何かを指摘されることはなかった。

 とはいえこういう少し格式の高い場所ではレギーのような存在はどういった扱いになるのか分からなかったので、念のために外で待っていてもらっていたんだが。


(球体状態になってもらったら、ちょっと大きな荷物ってことで押し通せないかな)


「馬型の魔道具、ですか? それはあちらに見える【アーティファクト】でしょうか?」


 むしろ最初から球体状態で転がして来てしまったほうがよかったんじゃないだろうかと考えていると、従業員の人が少し困惑した顔で窓の外を指し示した。

 言われた方向に視線を向けると、レギーが窓の向こうからこっちを覗き込んでいるのが見える。

 特に指示もないまま長いこと外で待たせてしまっているので、中の様子が気になったのかもしれない。


「あ、はい。そうです。あの子です」

「申し訳ありませんが当ホテル内では【アーティファクト=レギオン】の待機、及び起動状態での運用をお断りさせていただいております。縮小状態で持ち運びいただき、使用される際には敷地外で起動していただきますようお願い致します」




「……はい?」

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