表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/92

第8話 再会 6

この杖、3本必要なんですか!?


お空は怖いところです。

 あらまあ凄いわねえ、と母さんだけは何故か感心しているが、俺たち四人はその出で立ちに完全に圧倒されていた。

 親父と爺ちゃんなんて「何でこの人こんな格好しているの?」と、疑問と衝撃がごちゃまぜになった表情で口を半開きにしている。

 日本のエンタメ知識から、こういう奇抜なファッションにある程度の耐性がある俺や姉貴ですら内心全力で引いているのだから、その反応も仕方がない。


 それにしても見れば見るほど異質な格好だ。

 冒険者というのは誰も彼もがコスプレ会場にしかいないような格好をしているが、この人はその中でも頭一つ飛び抜けている。

 明らかに日常生活を送る上で支障があるし、狩りや採取といった冒険者的な活動をする際にも不便極まりないように見える。


 おそらく全身を覆うこの布や装飾品は全部強力な魔道具であるとか、この人の職業やスキルの特性上に必要な格好であるといった何か特別な理由があるんだろう。


「エミール、どういうつもりだい?」

「いや、それが事情を話したら姉さんに連れていけって言われて……」

「……僕の知り合いってだけじゃ、信頼はされないってことかい?」


 そう言えばこんなにファンタジー溢れる世界なのにビキニアーマー姿の人は見かけないな、なんてどうでもいい事に思考を飛ばしていたら、妙に不機嫌そうなスフィがエミールに食って掛かっていた。

 どうもこの変な人がやって来たことが気に入らないみたいだ。仲が悪いのか?


「ちょっと裕也、周り周り!」

「何だ?」


 ちょいちょいと脇腹を突いてくる姉貴に促されるままに周囲を見渡す。

 するといつの間にかさっきまでチラチラと俺たちのテーブルに視線を送っていた人たちどころか、近くの席で飲食をしていた人の姿までもが見えなくなっている。


「これは……」


 このフロアから人がいなくなったわけじゃない。

 けれども誰もが俺たちから距離を取り、出来るだけ関わりたくないという空気が伝わってくる。

 原因がこの人にあるのは明らかだ。


(もしかしてとんでもない嫌われ者なのか?)


 そうこうしているうちにエミールがスフィの隣に座り、そのさらに隣に例の人が腰を下ろした。


「えー、ちょっとごたついてしまってすみませんです。それじゃあ早速ですがチーム《ファミリー》の皆さん、さっき賊から取り返した品を渡してもらっていいですかね?」


 俺たちが今最も気にしているのが何なのかは分かっているだろうに、席につくなり話を進めるエミール。

 連れてきた張本人の癖に、隣に座る人物について紹介してくれるどころか、触れようともしない。


「……さっきも言ったけど、ちゃんと証人のいる場所でなら返すわよ。ここまで来て何でギルドの職員の一人や二人くらい、ちゃっちゃと連れてこないわけ? そこのカウンターにでも声をかければ一発でしょ?」


 向こうに説明する気がない以上こっちも無視すると決めたのか、姉貴がフードコートエリアの反対側に向かって顎をしゃくる。

 かなり規模は大きいけれど、そこで行われている活動に他所の冒険者ギルドとの違いはないように見えた。

 依頼の受注や達成報告。その他にもギルドに用がある冒険者はカウンターにいる職員に声をかけ、ギルドはその内容に応じて適切な者が対応にあたる。

 ちょっと特殊な例だけど、お願いすれば今回のような件にも対応してくれるだろう。


(っていうかそもそも本当にこれがギルドからの盗品なら、何も言わなくても向こうから人を寄越してもおかしくない気がするんだが)


「あー、証人云々に関しては大丈夫だ……です。今からここで起きることは全て正式にギルドの監督の元に行われたことになるので」


 そこでようやくエミールが例の人の方に視線をやり、同時にスフィが不満げに鼻を鳴らす。


「ええと、つまりこの人はギルドの職員さんなんですか?」

「んー、何と言ったらいいのか……。厳密に言えば違うんですが……。いやそういう感じでいいのか? ええと、はい。そう思ってもらって大丈夫です」


 嘘でしょう!? と言わんばかりの表情で質問する親父の言葉を、若干怪しい面はあるものの肯定するエミール。

 スフィも否定はしていないし、すぐ近くに他の人や本物のギルド職員が働いている場所で嘘をつくこともないだろう。

 つまり、さっきから自分のことについて俺たちが話している間も口一つ開かないこの妙な格好の人物は、本当にギルド関係者らしいということだ。嘘でしょう!?


 とはいえエミールの話が本当なら、何も躊躇うことはない。

 全員が頷いたのを確認すると、マジックバッグから小袋を取り出し姉貴に渡す。


「はい、これよ。ちゃんと確認してちょうだい」


 ピンポン球サイズの赤い魔石。

 姉貴が袋の中にあったそれを机の上に置くと、エミールの横にいた例の人物が手を伸ばし、その真贋を確かめるかのように覗き込む。


 時間にして数十秒。

 やがてその人物が軽く頷いたのを見て、妙に緊迫していた空気が少しだけ和らいだ。


「……確かに。間違いなくギルドから奪われた品みたいですね。ではもう一つの方もお願いします」



(………………はい?)



 ──一体何の話だ? こいつは一体何を言っているんだ?


 俺だけじゃない。

 姉貴も母さんも爺ちゃんも親父も。

 間違いなく、俺たち全員が同じことを思った。


 そしてそんな俺達の動揺が伝わったんだろう。幾分表情の和らいでいたエミールの動きがピタリと止まり、スフィの目が見開かれる。


「えーと、もしかして取り返したのってこれだけ、ですか? 一個だけ?」


 嘘だろおい、と小声で呟くエミールには悪いが、こっちだって今更そんなこと言われても知らんがなという気持ちだ。

 いや確かに、あの場で確認すらしなかったのは俺たちも悪かったのかもしれないけどさ。


「あらあら、奪われたというのはこの魔石一個だけではなかったのですか?」

「ニュフ、実はもう一つ。それとほぼ同じ規格の魔石が盗まれていたんだけど。……これは失敗したね。けれどあの場で取り逃した賊はいなかったはずだし……」

「本当か!? 本当に一個しか取り返してないのか? 嘘じゃないよな?」

「あ? 嘘なんか吐くわけないでしょ」


 若干顔を青褪めさせながら、魔石を握ったままの人物と俺たちにと交互に視線を彷徨わせるエミールに、姉貴の目に一瞬で剣呑な色が宿る。


「なあ、こいつはこのダモスって街にとってマジで大切なものなんだ。ギルドからもちゃんと謝礼は支払われるからさ!」

「あんた、もしかしてあたし達を疑ってるの?」

「エミール、よせ!」


(まずい!)


 この空気はよくない。

 そう思った途端、例の人物がガタリと音を立てながら勢いよく立ち上がると俺たちに対して一礼し、魔石を持ったまま早足に立ち去ってしまった。


「……何あれ?」


 その突拍子もない行動に毒気が抜かれたのか、姉貴が小さく溜息をつく。


「あー、すんません。熱くなっちゃいました。皆さんしばらくはこの街にいるんですよね? お詫びについてはまた後日、ギルドからの謝礼もその時ってことでお願いします。そんじゃスフィさん、俺も行ってきますんで」


 エミールも頭が冷えて気恥ずかしくなったのか、そそくさとさっきの人物の後を追う。


「ニュフ、悪いね。あの子はうちの中でも一番の新人でね。ちょっと色々あって、はりきり過ぎちゃってるのさ」


 そう言って立ち上がると、スフィは懐から一枚のカードを差し出してきた。


「ニュフフ。お詫びといってはなんだけど、これをあげるよ。この街でこれを見せれば、色々と融通が効くはずさ」


 カードの表にはスフィの名前が、裏面には《ベステラード・ファミリー》のエンブレムとやらが刻まれている。


「ユーヤ、アキナ。それに《ファミリー》の皆さんも、また会えて嬉しかった。これから先、僕は《ベステラード・ファミリー》で面白おかしく生きていってやるつもりさ。何かあったらいつでも訪ねてきてくれ」


 そう言ってニカリと笑ったスフィも席を離れ、やがて周囲に僅かな喧騒が戻ってきた。


 窓の外から見える空の色は、いつの間にか真っ黒になっている。かなり長い時間話し込んでしまっていたみたいだ。


「……それじゃあ、僕たちも行こうか?」


 劇的な再会から結構重い話に続いた割に、ひどくあっさりとした解散だな、と思いながら親父の声に続いて席を立つ。


 なにはともあれようやく迷宮都市にまで来れたんだ。

 明日からもまた忙しくなるだろうし、今日は早めに寝るとしよう。


「ふむ、そう言えば宿の件はどうなったんじゃ?」


「「「「あ」」」」

スフィ「そう言えば何で来なかったんだい? (エミールに伝言を頼んだはずだけど)」

ダルノ「……何の話だ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ