第7話 職業【学生】 2
「学生、ですか……?」
ギルドに戻り、正式な登録をしてもらう為にお姉さんに全員分のギルドカードを渡したのだが、カードを見る目が俺のところで止まる。
困惑したような声音だ。出会ってからほとんど経っていないが、何故かとても貴重な出来事なのだと確信した。美人なんだし、もうちょっと色々な表情も見てみたい。
それにしても、とても強力だという姉貴の【魔法剣士】にも眉一つ動かさなかったのに、この反応。神殿やここまでの道中ではただの笑い種だったのだが、【学生】という職業は何か問題があるのだろうか。
「申し訳ありません。初めて聞く職業でしたので。恐らくユニークジョブだと思われます。裕也さん、差し支えなければ現時点で使用可能な【スキル】を教えていただけませんでしょうか」
【スキル】? ああ、さっき老神官が言っていた、職業が判明することによって得られるという能力のことだな。
「えぇと、体が軽く感じます。他には試してみないと分からないですが、耐久力なんかも上がってるかもしれません」
正直に答える。別にこれくらいなら隠すようなことじゃない。
「え、いえ。恩恵による身体能力上昇についてではなく、魔法や技、加護等の【スキル】のことです」
(何だそれ)
ギルドカードにも書かれている通り、俺の職業レベルとやらは一だ。それでももう魔法とかが使えるのか? 「炎よ!」とか叫んだら、手から火が出るのだろうか。
「裕也、あんたもしかしてまじでスキルないの? 何て言えばいいか分からないけど、頭の中に浮かばない? こう、使えて当然というか、そんな気持ちになる技の名前のリストが」
試してみて本当に火が出たら困るよな、と俺が悩んでいると、横から姉貴が爆弾発言を放つ。
(ちょっと待て。技のリスト?)
そんなもの浮かんでこないぞ。
「え、何だそれ? もしかして皆何かあんの!?」
嘘だろう? と慌てて振り向くと、全員が頷いた。
「あたしは【ファイア】とか【火炎剣】とか」
と姉貴。ファイアって魔法か!? しかも火炎剣ってすげえ格好よさそう!
「私は【ヒール】ねー。他には【瞑想】っていうのがあるわー」
と母さん。本当に僧侶っぽい!
「わしは【疾風突き】、【三連切り】じゃの」
と爺ちゃん。魔法じゃないみたいだけど、必殺技みたいなもんか? いずれにしろ羨ましい。
「僕は【気配遮断】に【忍び足】っていうのがあるよ」
親父にすら……だと?
もしかしたらと頭に手を当て念じてみるが、リストなんて浮かんでくる気配もない。
「スキルなし、ですか。非常に珍しい例です。ユニークジョブでそれは前例がありませんね」
そして若干気の毒そうな声のお姉さんに止めを刺される。出会ったときに比べると感情の起伏を感じられるが、その理由がこれじゃ全く嬉しくない。
「えっと、スキルなしってやっぱりまずいですか? あとユニークジョブっていうのは?」
「スキルというのは戦闘における切り札、戦術の要となる場合が多いので、それがないというのは、非常に不利であると言えます。またユニークジョブというのは同じ職業である人が非常に少ない、珍しい職業を指します。レアジョブや特殊職と呼ぶ人もいますね。基本的にユニークジョブといえば、独自の強力なスキルを持っているものなのですが……」
上に報告しておきましょう、と続けるお姉さん。
「あはははは! 裕也、あんた学生ってだけでも面白いのに、スキルまで無いなんて! つまり何も変わってないってことじゃない! もう、最高!」
姉貴がバンバンと背中を叩いてくる。体と心が痛いからやめてくれ。
「うふふ、笑っては可哀想よアキちゃん」
母さん、窘めているつもりなのか知らないが、思いっきりうふふって言ってるぞ。
「大丈夫です裕也さん。経験を積めば新たなスキルを覚える場合もあります。頑張ってください」
フォローありがとうお姉さん。できれば無表情で言うのやめてくれ、あまり希望が見えない。
「まぁまぁ、何にせよじゃ」
このままだと収拾がつかなくなりそうな所を、爺ちゃんがさらりと締めた。
「はい、以上で登録も終わりました。これをもちまして皆様は正式に冒険者となります。以降はFランク冒険者として扱わせていただきます。こちらのランクについてですが、上はSから下はFまで七段階ございまして、皆様の実績に応じて上昇、場合により下降いたします。またクエストは自分のランクと同等の難易度しか受注できませんが、同ランク二人以上のチームを組まれた場合、一つ上のランクを受注することも可能です。その場合、事前にギルドにチーム申請を行っておいてください」
書類をトントンと机上で纏めながら、お姉さんが最後の説明をしてくれる。
「じゃあ早速クエストを受けましょうよ。あの掲示板に貼ってあるやつがそうなんでしょ?」
「はい。ですがその前に」
早速掲示板の方へ向かおうとする姉貴を止めると、お姉さんは改めて俺たちの姿を順に見渡した。
「まずは装備を整えては如何でしょうか。クエストを選ぶ際にはランクだけではなく、装備を含む現時点での戦力も重要となります。ギルド両隣にある武器屋、防具屋では割引が効きますし、もしよろしければ新人冒険者の方には、引退した冒険者の使用していた装備品を無償で提供しております」
「本当ですか!?」
確かに何のクエストを受けるにしても、素手っていうのは心許ない。着ているのもただの服だ。
それにしてもお古とはいえ、無料で装備をくれるのか。何て太っ腹なんだろう。ギルドとしては、先行投資的な目論見もあるのかもしれないが。
くれるのであれば是非にと頼むと、奥から男性の職員がやってきた。装備を保管してある場所まで案内してくれるというその職員に連れられ、ギルドの裏手に回る。
ギルドの裏には結構な広さの空き地が広がっていた。どうやらここは、冒険者たちの訓練場代わりに使われているらしい。
得物を振り回す冒険者たちの姿を横目に、空き地の片隅に建つ、小さな小屋へ向かう。
「Fランク、それも駆け出しの冒険者である君たちは、この小屋の中にあるものを全て自由に使ってもらって構わない。勿論、売却目的などは許されないがね」
職員が鍵を開けると、中には所狭しと様々な武具が乱雑に置かれていた。
「恥ずかしい話だがあまり整理もしていなくてね。性能がいいものは別の場所で保管しているからというのもあるが」
「ふむ、確かに手入れがなっておらんの」
早速鞘から出した剣の刀身を目を細めて見つつ、爺ちゃんが答えた。姉貴もその横で剣を手にとって見ている。
「剣だと真っ直ぐ振る自信がないですし、これにしようかしら」
そう言って母さんが手に取ったのは、棒の先に鉄の塊がついた武器。所謂メイスだった。
「もっと軽い武器はないかなぁ」
と、親父は奥の方でごそごそしている。
おっと、俺も自分にあったものを探さないとな。種類は勿論剣だ。
小さい頃から多少爺ちゃんに習ってるいるからというのも勿論あるが、一番の理由は格好よさだ。ファンタジーと言ったら剣。これは鉄板だろう。
勇者どころか学生だなんていうハズレ職業になってしまったが、せめて見た目だけでもビシッと決めたい。
小一時間ほど悩んだ挙句、それぞれ武器として俺と姉貴は剣、母さんがメイス、爺ちゃんが槍、親父はナイフを数本と小刀を選んだ。
防具についてはあまりいいものがなく、俺と姉貴、母さんは肘や脛、膝にプロテクターをつけるだけに留まり、爺ちゃんがちょうどサイズの合った銅製の鎧を袴姿の上から着込み、親父は革製の兜と軽鎧をそれぞれ選んだ。
ちなみに武器防具共に、最終的に爺ちゃんに目利きしてもらっている。剣なんて素人がパッと見て、どっちが優れているかなんて分かるわけがない。
「おー、それっぽいじゃん。どう裕也、似合う?」
安っぽいコスプレなんかとは違う、本来の使用用途のために作られた武具を身にまとい、上機嫌でくるりと一回転する姉貴。
どう、と言われてもな。
「あー似合う似合う。んじゃ改めてクエストを受けに行こうか痛い痛いイダイッ」
慌てて両手で姉貴の肩をタップ。ちゃんと褒めたのにアイアンクローとか、意味が分からんぞ。
何はともあれ装備も整ったので、ついでに少し整理をしていくという男性職員に礼を言って、再びギルドに戻る。
扉を潜りクエストが貼られている掲示板に近づくと、他にも何人かの冒険者がクエストを選んでいた。
掲示板にはメモ用紙のような小さな紙が大量に貼られており、その一つずつに依頼内容や報酬などが書かれている。掲示板の半分くらいはその紙で埋まっているのだが、もう半分は木板に依頼内容が書かれたものがぶら下げられていた。
「受けたいクエストがあったら剥がしてそのまま受付に持って行くみたいね。木板のやつは何かしら」
それを受けるつもりなのか、他の冒険者が紙を剥がして受付に向かうのを見ながら姉貴が言う。
「きっと恒常的なクエストよ。いちいち書いて貼りなおすのは面倒なんでしょう」
それに答えたのは木板を読んでいた母さん。俺も後ろから覗き込むと『薬草の採取』『ピグーの肉の買取』など、確かによく出されそうな内容の依頼ばかりだ。
「なるほど。んじゃ俺達も選ぼうか」
と、一家揃って掲示板の前に陣取る。
(何々、『ブラックレイブンの討伐、Eランク』、聞いたことない名前だな。『大型生物の目撃情報捜査、Cランク』、受けることすらできない。他には……)
そんな感じに各々がバラバラに依頼書を見つめ始めてから数分後。
「何かいいのあった?」
あまりに誰も何も言葉を発しないので、思わず聞いてみたのだが。
「え? 何かピンと来ないし。母さんか父さんが選んでるんじゃないの?」
と姉貴は母さんと親父に振り。
「あらあら。そう言われても私たちのランクでは受けられるものは限られてきますし、ちょっと難しいですねえ」
「ごめん。書いてあることは分かるんだけど、ほとんどの単語の意味が理解できなくて」
「わしもじゃ。『グリーンスライムの討伐』と書かれておっても、それが何なのか、さっぱり分からん」
(やっぱりか)
文字は読める。読めるのだが、それが何を指しているのかがさっぱり分からないのだ。
グリーンスライムという単語くらいならまだいい。何となくだが緑色の粘性生物だろうという予想はつく。だがそれがどこにいるのか。仮にその生息している地名を教えて貰ったとしても、それはどこなのか。圧倒的に知識が不足しているのだ。
特にこの手の知識に疎い爺ちゃんと親父なんて、チンプンカンプンだろう。
「どうする? 手間だけど一個一個受付の人に聞いて――」
このままでは埒が明かない。そう思って俺が提案しようとすると、すぐ後ろから「グワッハッハッハ」と大きな笑い声が響いた。
「何だお前ら? そんなことも知らねえなんてどこの田舎者だ? 装備も貧弱だし、見たところ家族連れの新人みてぇだが、一攫千金でも狙ってんのか? 一家揃って冒険者だなんて、どれだけ金に困ってるんだよ!」
後ろを振り向く。そこに立っていたのは、下はズボンに上は鉄製の胸当てだけという半裸の大男だった。
身長は目算で二メートル弱。ただでかいだけでなく、全身を引き締まった筋肉が覆っている。ボディービルダーの大会にでも出たら、優勝を総なめにしそうだ。
「ザインだ」
「戻ってきていたのか?」
「Cランクになって、よその町に行ったはずじゃあ」
ザインという名前らしい大男の笑い声のせいで、注目が集まってしまった。何人かの冒険者がこっちを見て、ひそひそと話している。
ザインは俺たちを見てひとしきり笑うと、何かいいことに気が付いたように顔を歪ませた。
「ほぅ、たまには戻ってきてみるもんだな。女共の見た目はいいじゃねぇか。家族皆でなんておままごとはやめて、俺とチームを組まねぇか? 昼間は俺のクエストの手伝いをするだけでいいし、分からねえことは夜に宿でたっぷり教えてやるぞ?」
(こんなこと言うやつ、本当にいるんだ)
あまりにも典型的な小悪党的台詞に、ある種感動すら覚える。
セクハラ発言をかまされた当の姉貴と母さんすら、怒りより驚きの方が勝ったのだろう。ポカンとした表情で固まったままだ。
さて、ここまではいい。
これだけならば、ちょっときつめの言葉でお引取り願うだけで済んだ。が、こともあろうに奴は何を思ったのか、固まったままの姉貴の腰に手を回したのだ。
(あ、馬鹿!)
「なんならお前だけでもいいぜ、どうだ?」
「へぇ、あなたはここに書いてあることについて詳しいんですか?」
ことさら丁寧な口調。にこやかな笑み。ただし目の奥は笑っていない。
「おお。Bランク以上のクエストについては知らないことも多いけどな。ここにある依頼書ぐらいなら任せておけ」
姉貴の態度に脈ありと見たのか、少し語調が柔らかく、表情もだらしなくなっている。
(ザインさーん、逃げたほうがいいっすよー。それ、噴火直前の火山だから)
内心で忠告するが、仮に察したとしても、もう手遅れだ。
以心伝心。危険を察知した俺たち家族が一斉に二人から距離を取るのと同時に、振り向きざまの姉貴のアッパーがザインのわき腹に突き刺さった。
鈍く重い音と同時に屈み込みかけた頭部を、今度はフックで殴り飛ばす。どんな力で殴りつけたのか、グルリと独楽のようにその巨体が一回転する。
意識が朦朧としているのだろう。そのまま虚ろな瞳で倒れ込みかけたザインの右腕を捻りあげた上で、止めとばかりに床に叩きつけると、姉貴は獰猛な笑みを浮かべた。
「じゃあ早速教えてもらおうかしら。Fランクで受注できるやつを片っ端から説明しなさい。丁寧に、ゆっくりとね」
「あ……が、このアマ……!」
「聞こえなかった?」
叩きつけられた衝撃で意識が覚醒したのか、反抗的な態度を取るザインだったが、姉貴が掴んだままの腕をさらに捻り始めると悲鳴をあげ始めた。
「分かった! やる、やります! だからそれ以上はやめてくれ!」
騒ぎを見ていた周囲の冒険者たちが、唖然とした表情で姉貴を見ている。
そりゃそうだ。どう見ても冒険者成り立ての女の子が、少なくとも名前は知られている程度に実績のある冒険者を、一方的に痛めつけているのだ。
「そ、それじゃあ読むぞ……」
開放されたザインは捻りあげられていた右手を押さえながら、姉貴の横に立って依頼書の内容を詳しく説明しつつ読み始めた。
薬草の採集、落し物の捜索、エトセトラ。聞いている限りでは、今の俺たちでも簡単にこなせそうな内容のものばかりだ。しかし報酬が安い。どれも五ドルク前後だ。所持金がゼロの俺たちとしては、もう少し実入りのいいものが知りたい。
「だめね。Fランクのじゃ報酬が少ない。チームを組んだらもう一つ上のが受けられるんでしょう? 次はEのを読み上げなさい」
姉貴の命令に黙って従い、ザインは一つ上のEランク対象のクエストを読み上げ始めた。
EランクになるとFランクと比べグリーンスライム、ブラックレイブンなど魔物の討伐依頼が多くなっている。そしてその分報酬も二十ドルク前後と少し高い。
「ふぅん、二十あればいいわね。今日中に八回分こなせば、またあの宿屋には泊まれるわ」
「アキちゃん、ちょっと待ちなさい。ねえザインさん、でしたっけ? ドラドラコの討伐っていうのは何ランクからでしょうか」
母さんが話しかけると、ザインはビクリと体を震わせた。恐らく母さんも姉貴並みに強いと思ったんだろう。怯えた様子で問いに答える。
「ド、ドラドラコか? あいつは基本的にDランクだ。群れも作らねぇし」
姉貴が全力で殴ればワンパンで倒せるレベルでDランクか。ということは、最悪Dまでのクエストならそこまで危険ではないって考えてもいい。
そもそもCランク冒険者らしいザインを、不意打ち気味とはいえ簡単にあしらったんだ。姉貴の実力は相当だろう。
「じゃあ安心じゃないか?」
「そうねぇ、私も大丈夫だとは思うわ」
「そうだね。油断して囲まれたりしなければ……」
「腕がなるのぉ」
俺の言葉に全員が頷く。
「決まりね! あ、あんたもう行っていいわよ。でも次にまたくだらないこと言ってきたら、次は本気でヤるから」
ヤの字に当てはまる漢字が気になるところだけど、それよりもあれで本気じゃなかったのかという驚きの方が大きい。
ザインも同じことを思ったのか、顔を青ざめさせると右腕を押さえながらそそくさとギルドを出て行った。
まぁ、衆人環視の前で二周り以上小さい女の子にボコボコにされたんだ。さっさと逃げ出したい気持ちはよく分かる。俺はもう慣れたけどね。
俺たちは木板に書かれていた『グリーンスライムの討伐』を受けることに決め、受付に向かった。
受付はどこも混んでいたが、相変わらずというか、いつものお姉さんの所だけ他に比べて列が短かったのでそこへ向かう。
「チームを組まれるのですね。グリーンスライムでしたら町の南門の先にある森の入り口付近によく出没します。それと皆様はこれが初クエストということですので、クエストを受ける際の注意事項を簡単に説明させていただきます」
お姉さんによると魔物の討伐記録は目に見えては書き込まれないが、ギルドカードに情報としてきちんと記録されるらしい。ゆえにギルドカードは常に肌身離さず付けておくべきだと。クエスト達成の報告は、ギルドでその記録を確認することで達成されるそうだ。つまり他人が倒した魔物の死体や魔石だけ持ってきてもだめというわけだ。
魔石というのは魔物の核で、基本的に心臓付近に存在しているらしい。半透明の石のような外見で、内に秘められた魔力によって輝いているそうだ。
どんな魔物でもこれを砕けば大ダメージを与えれることができ極端に弱体化するらしいが、魔石はその他の部位に比べて高価なので、必要がなければ破壊は控えた方がいいそうだ。また極稀にだが、魔石を取り出すか破壊してしまうと霧散するタイプの魔物もいるので、そういった場合は欲しい部位があるなら先に剥ぎ取った方がいいらしい。
最後に、クエストを受けていない魔物を討伐した場合、ギルドに戻ってから該当のクエストを受注、報告しても構わないそうだ。そのため適当に町の外で狩りを行い、帰ってから関連クエストを探す、というスタイルの冒険者もいるらしい。勿論自分のランクに見合ったクエストしか受けられないため、どんなに頑張って上位のランクの魔物を倒しても、その場合は魔石と素材の買い取りだけで終わるそうだ。
「ではチームの登録をさせていただきます。皆様のギルドカードをお見せください。リーダーはどなたでしょうか」
「あたし!」
(言うと思った)
「え?」
ほぼ条件反射で叫んだ姉貴に親父が驚いた顔を向けている。
いやまぁ、確かに家族で登録するのなら親父がリーダーになるのが普通な気もするが、姉貴は絶対譲らないだろうな。
そんな様子を気にする素振りもなく俺達の渡したギルドカードと見比べながら書類を埋めていっていたお姉さんが、最後の欄になったところで顔を上げた。
「最後にですが、チーム名はお決まりですか?」
さすがにこれは姉貴ですら考えていなかったようで、全員で顔を突き合わせ、急遽その場で話し合いを始めることにする。
「チーム名、格好いいのがいいわね」
「うーん、分かりやすいのが一番じゃないかしら?」
「《チーム帯刀》っていうのはどうかな」
「進士、お前センスないのぉ……」
「デビルアキぶふぉ! 冗談です! ごめんなさい!」
後ろに並んでいる冒険者が迷惑そうな顔をしているが、こればかりは許して欲しい。
今後地球に帰るまではずっと使っていく名前だ。早々変えれるようなものじゃないだろうし、本当なら一晩くらいかけてじっくり考えたいくらいだ。
あれでもないこれでもないと、長い間話し合う。
諦めて別の受付の列に並びなおした冒険者の数も分からなくなった頃、ようやく意見が纏まり、リーダーとして姉貴がお姉さんの前に立つ。
「お決まりでしょうか」
待たせてごめん、お姉さん。
無表情の中に怒りが見えるような気がするのは、俺の罪悪感故にだろうか。
周囲に並んでいた冒険者なんて露骨にようやくか、といった表情を向けてきている。
そんな周囲の感情を全て無視し、姉貴は堂々と言い放った。
これから始まる冒険者としての、俺たち家族のチームの名を。
「ええ、決まったわ。チーム名は《ファミリー》よ」




