第18話 白い杖 6
「くそっ! ……ああ、くそっ!」
斬られた右腕から止め処なく血が流れ落ちていく。
気を抜けば今すぐにでも倒れそうなほど低下している意識を憎悪と痛みで繋ぎ止めながら、ドルンは森の中を這うようにして進んでいた。
「畜生、何で俺がこんな目に……!」
憎い。自分の思い通りにならない全てが憎い。
思い返せば自分の人生にケチが付き始めたのは、冒険者になろうとギルドの門を叩いた時からだ。
ギルドに登録する際に必須とされる、教会での神託。そこで自分に見合った【職業】と【ステータス】、そして【スキル】が貰えるはずだった。
しかしギルドからの紹介状を手に向かった先、クリスタルを前にしての儀式でドルンは何故か神託を貰えなかった。
稀に起こり得る事らしいが、原因は不明。教会の連中に言わせると『資格がない』のだそうだ。
(資格……資格ってなんだ? 俺は神託を受けてない連中の中じゃ、誰よりも強かった。誰よりも優れていた!)
そんなはずはない、もう一度やり直してくれと懇願したが教会はこれを拒否し、ドルンは無記入のギルドカードを手に冒険者ギルドへと戻ることになった。
神託を受けていない者が冒険者になることは出来ない。本人にその意志があるのなら種族、性別、年齢、所属に関わらず全てを受け入れると公言するギルドに、ドルンは受け入れてもらえなかった。
申し訳なさそうに、しかし事務的に告げる職員に思わず拳を振り上げたが、それが振り下ろされる前にドルンは周囲の冒険者に取り押さえられた。
一般人を相手に無敗を誇っていたドルンを容易く制圧する異能の集団。降り注がれる好奇と哀れみの視線に耐えられず、気がつけばドルンはギルドを飛び出していた。
その後については特に語ることはない。
荒れる心情を吐き出すように、ドルンは暴力を振るい続けた。それは今までよりもより陰湿に、そして狡猾に。
人気のない所に誘い込んだ相手から金品を巻き上げ、抵抗する人間には容赦しない。相手が重症を負おうが、治療も施さずに放置した場合も数知れず。それだけで奪った命も一桁では済まないだろう。
やがて騎士団に捕まり例の老人に出会うまで、ドルンは自分を受け入れない世界を憎み続けていた。
(漸く……漸く上手くいき始めていたってのによぉ!)
どこまでも自分勝手に、傲慢に振る舞ってきた。そしてそのことに何の疑問も抱かずに生きてきた。
誰もが彼を見ればこう言うだろう。
外道、と。
しかしドルンはそれでも、自分だけは何をしても許されるのだと信じて疑っていなかった。恨むのならば、俺をこんな道に走らせた世界を恨めと思っていた。
「とりあえずこの傷を何とかしねえと……。糞爺め、確か次は代わりの人間を寄越すって言っていたな。今度はもっと使える道具を貰――」
ぶつぶつと呟いていた言葉が強制的に止められる。
頭上に広がる枝をへし折り、葉を撒き散らしながら何か大きな物が目の前に落下してきたからだ。
巻き起こる砂埃と衝撃に思わず傷口を抑えていた手で顔を庇うと、ドルンは大きく咳き込んだ。
「畜生! 今度は何だ――って、おいおい!?」
悪態を吐きながら落下物を睨みつけると、ドルンは驚愕の声を上げた。
「こいつ、こんな所にまで飛ばされてきたってのか!?」
それは最早原型を留めてはいなかったが、間違いなく荷馬車に隠していた二体目のゴーレムの上半身だった。
例の老人から借り受けた優秀な道具。並の冒険者程度なら容易く退けていたその強さ。
ボロボロになった状態でもその迫力は失われておらず、もし完全な状態であればドルンですら杖を持たずに近寄りたくはない存在だ。
しかし今その残骸を前にしてドルンが抱いたのは怒りだった。
自分があの冒険者たちの前から上手く姿を消して、それなりに時間が経っている。目論見通り、この巨人は十分な時間稼ぎをしてくれていた。
だがそれでも、この様は何だ?
そうだ、もともとこいつがもっと強ければ、自分は右腕を失わずに済んだ。こんな目に合わずに済んだ!
「っこの! 役立たずがぁっ!!」
怒りに任せて、その残骸を蹴り飛ばす。
外装は全面的に焼き爛れ、下半身はなく、四肢のうち唯一残っている右腕も肘関節がおかしな方向に曲がっている。だがそんな状態でもゴーレムはびくとも揺るがず、それが益々ドルンを苛立たせた。
「っ! このっ! 畜生っ! 舐めやがって!!」
右腕の痛みを忘れ、ゴーレムの頭部に向かって何度も何度も足を振り下ろす。
しかし失われた血の影響は誤魔化せない。隻腕であることも相まって程なくしてバランスを崩すと、勢いよくその場に倒れこむ。
「がっ……! くそっ……!」
倒れ込んだ拍子に再び戻ってきた右腕の痛みに、思わず蹲ってしまう。
(……落ち着けっ! こんなことをしている場合じゃねえ)
だがその痛みは、激高していたドルンの頭を適度に冷やすことに成功していた。
(そうだ。こいつが負けたってことは、あの冒険者共が俺を追ってくるかもしれねえってことだ。ある程度距離は開いているはずだが、あいつらには【スキル】がある。どんな手段を持ってるか分かったもんじゃねえ)
自分は神託も受けていないし、スキルも持ってはいない。だからこそ分かる。連中のヤバさ、理不尽さが。
逃げなくてはならない。もっと遠くへ。連中が諦めるくらい遠くへ。
ドルンは口から溢れていた唾液の泡を拭い、急いで立ち上がろうとし――何かが自分の頭上に影を落としているのに気がついた。
「……は?」
それは吹き飛ばされ、ガラクタ同然となったはずのゴーレムの右腕だった。まるで最後の力を振り絞るようにして、焼き爛れた関節部を強引に動かし、呆けたように上を見上げるドルンに狙いを定めている。
――自身の前で動くもの。自身に攻撃を加えるもの。即ち、敵と認識すべきものに。
「待っ――」
一瞬遅れて自分の置かれている状況に思い至ったドルンであったが、それは余りにも遅すぎた。
振り下ろされる巨大な拳を前に反射的に左腕で頭を庇い――何の抵抗もなく叩き潰される。
『――……』
静寂が周囲を包む。
周りにはもう、動くものはいない。ゴーレムが敵と認識する存在はいない。
やがてゴーレムが自身の右拳の下、地面に生じた大きな罅と赤黒い液溜まりを確認すると、その赤い単眼から力尽きたように光が消えた。
◆
「ちょっとお爺ちゃん! しっかりしてよ! 聞こえてるの!?」
「そう耳元で怒鳴らんでも聞こえとる。晃奈、お主もう少し人に対して優しく出来んのかの?」
爺ちゃんが倒れたのは魔力の使い過ぎが原因だった。
元々一体分身を作るだけでもしんどそうにしていたのに、それを消すこともなく三体目を作り出したんだ。加えてその三体目と一緒になっての大立ち回り。
元々魔力の低かった爺ちゃんには負担が大きすぎたらしい。
「あたしはいつでも誰にでも優しいわよ。ほら、もうすぐ馬車に着くから中で休んでてよね」
「いや、それには及ばんかの」
弱々しく笑う爺ちゃんに、両サイドから肩を貸していた俺と姉貴は思わず顔を見合わせた。
臆面もなく自分は優しいと言い切った姉貴にも驚愕だけど、爺ちゃんの強がりも程があるだろ。
俺は何度も魔力欠乏症にかかっているので、その辛さがよく分かる。あれはとてもしんどいし、魔力を回復させるポーションを飲んだからと言って直ぐに治るものでもない。
時間をかけてゆっくりと休むしかないのだ。
「いくら爺ちゃんでも、そりゃ無茶だと思うぜ? とりあえず座ってポーションでも飲みなって」
そうこうしているうちに馬車の荷台横へと到着する。
最後に助け出した二人の女の人は爺ちゃんより先に運び込んだのだけれども、その時の確認じゃ荷台の中のスペースもポーションの予備にもまだ余裕があった。
とりあえず中に声をかけて幌を捲ろうとすると、それより先に爺ちゃんがゆっくりと前方を指さす。
そこに立っていたのは槍の石突を地面に突き立て、未だ不動の姿勢で周囲を警戒している銀色の騎士だ。
戦闘は終わり、近くにいた他の盗賊と奴らの切り札だったゴーレムも全員倒した。よっぽど変わった習性を持っていない限り、あの戦いの騒ぎを聞いて近寄ってくる生物もいないと思う。
にも関わらずこの銀色の騎士がまだ残っているのは、爺ちゃんが万が一のことを警戒しているからだ。どんな時でも決して油断せず、どんなに体調が悪くなろうと己の役割は最後まで果たそうとしているからだ。
術者の内面を映し出しているかのようなその毅然とした姿に、改めて爺ちゃんは凄いなと思っていると、不意に銀色の騎士の輪郭がドロリと崩れだす。
爺ちゃんが指さした時にスキルを解除したんだろう。銀色の騎士は、役目は終えたとばかりにあっさりと宙に溶けるようにして消えていく。
「うむ。少しはマシになったかの」
そのちょっとグロテスクな消え方に何とも言えない表情をしていると、爺ちゃんは俺と姉貴の支えもなくしっかりと立ち上がった。
さっきまでよりも声に張りがあるし、心なしか顔色も良くなった気がする。
俺も【魔力剣】を使った時に経験したことがあるけれど、発動している間中魔力を消費するスキルを解除すると、それまで永続的にかかっていた負担が急になくなるので多少体調がよくなるのだ。
決して失った魔力や体力が戻ってきているわけじゃないので楽観視は出来ないが、自力で動けそうな様子なので安心する。
姉貴ももう大丈夫だと判断したのか、それ以上は爺ちゃんを心配する素振りもなく馬車の中へと声をかけた。
事態の終息を告げられると、ついさっきまで遠慮がちに開かれていた幌が大きく捲り上げられ、中にいる全員の姿が見えるようになる。ゴーレムに括り付けられていた四人はまだ横になっているけれど、それ以外の人は全員が立ち上がれるようになるまで回復したみたいだ。
口々に述べられる感謝の言葉に、思わず謝りそうになるのを必死に抑える。
コダール村のことを思うとまだ少し後悔が胸に残っているけれど、当事者である彼女たちはしっかりと前を向いている。そのことが嬉しくて申し訳なくて、けれどもそれを表現する言葉もなくて、思わず言葉に詰まってしまう。
そんな彼女たちの話によればコダール村で攫われた人も、それ以外の場所から攫われてきた人もここにいるので全員らしい。
だとすれば俺たちが出来ることはもう多くはない。
彼女たちを無事にディサイの町まで連れて行く。ただそれだけだ。
コダール村の人はほとんどがそこに何らかの知り合いがいるらしく、そうでない人もそこまで行ければ後は自分で何とか出来ると言う。
ムグルも言っていたけれど、幸いこの辺りを収める領主はかなりまともな人らしく、その影響下にあるディサイの町ならば悪いようにはされないだろう。
唯一の懸念は一人逃げ出したドルンの行方だけど、それも今後派遣されてくる騎士団に任せればいい。
子分もゴーレムも失い、本人はひどい手傷を負っている。聞いていた通り神託も受けていないみたいだったし、あれなら例え普通の人でも早々遅れをとることはないはずだ。
「本当にありがとうございます。ですからそんな顔しないでください。命があれば何とでもなるんですから」
「え、ちょ、ちょっと?」
一体俺はどんな顔をしていたのだろうか。
荷台にいる人の中で一番近くにいたお姉さんに追加で何本かポーションを渡そうと近づくと、何故か助け出したはずの俺の方が慰められように頭を撫でられてしまった。
気恥ずかしいけれど振り払うのも何だか悪い気がする。
「……それにしても母さん達、まだなの? こっちはもうとっくに解決しちゃってるんですけど」
「これ以上攫われた人がおらんと言うのなら、もうすぐではないかの?」
木製の檻越しに伸ばされた手に為すがままにされていると、後方から若干不機嫌そうな姉貴の声が響く。
(あれ? もしかして若干じゃなくて……かなり機嫌悪い?)
どうやら肝心な所に間に合わないどころか、未だに連絡もない親父たちにかなり苛立っているみたいだ。
誰かに待たされるというのが嫌いなのは知っているけれど、親父たちだってわざと遅れているわけじゃないだろうし、もう少し寛容な心で待ってもいいんじゃないだろうか。
(日が落ちる前までにディサイの町に着きたいのは分かるけれど、先に出発するわけにもいかないし……。確か親父たちが向かった方角とはちょっと違うんだよなあ)
とうとう足踏みの音すら聞こえてきた背後の姉貴に、何と言って気を静めてもらおうかと考えていると、不意に俺の頭を撫でるお姉さんの手が止まった。
飽きたのか気が済んだのかは分からないけれど、それなら普通手を離すはずだ。依然頭の上に置かれたままの手に疑問を覚えてお姉さんの表情を見てみると、その視線は俺ではなく更に背後へと向けられている。
「?」
一瞬、苛ついている姉貴の悪鬼のような顔に驚いているのだろうかとも思ったけれど、どうやら違うみたいだ。お姉さんだけでなく、ついさっきまで笑顔を浮かべていたはずの他の皆も凍りついたような表情で全員が同じ方向を見つめている。
そこから感じられるのは恐怖と困惑。
――悲劇を克服し、前を向いて歩き出そうとしている人たちをこんな表情にするものが背後にいる。
「……裕也」
小さく、けれど最大限の警戒を込めた姉貴の呼びかけに俺はゆっくりと背後を振り向いた。
「……何だ、あれ」
◆
裕也の見つめる先。両手に剣を携えた晃奈と槍を構える斎蔵の更に向こう、大破した二台目の馬車の荷台の横に、赤黒い球体が浮かんでいる。
大きさは直径十センチメートル程だろうか。普通ならば裕也や荷台にいる女性たちとの距離からして、そう簡単には気付けないサイズだ。
だがその赤い球体は普通ではなかった。裕也たちから見てその更に奥、倒れ伏した盗賊たちの死体から赤い筋が幾本も立ち昇り、その球体に向かって宙を流れてきている。
(もしかしてあれ、血か?)
死体の傷口から、地面に流れ出た血溜まりから。裕也がその正体に気付くと同時に、赤い筋が爆発的に増殖する。
その光景にあっけにとられている間に死体は木乃伊のように干からび、血溜まりも消え失せた。
赤い筋は瞬く間に球体に取り込まれ、その量に比例するように球体の体積が増幅していく。
(盗賊たちの血を吸収した!?)
嫌な予感がする。
何処から現れたのか。何がしたいのか。
眼前に浮かぶ球体の正体に全く心当たりはないが、どう考えても「いいもの」ではない。
やがて球体の直径は一メートル程にも及び、そこで漸く肥大化が止まった。時々波打つようにその表面が揺れる様は、まるで無重力空間に浮かぶ水球のようだ。
『オ、オオオオオオッ……!』
そしてその場にいる全員が最大級の警戒をもって見守る中、突然その赤い球体が声を発した。
魔物や動物が発する鳴き声とは違う。むしろ人間の呻き声に近いもの。
それを前にいつでも動き出せるようにと晃奈と斎蔵が僅かに腰を落とした瞬間、赤い球体の表面が一際大きく波打った。
「ひっ……!」
その悍ましさに、誰かが恐怖の声を上げる。
無理もない、と裕也は思った。自分とて夜中に一人で見ていたら、絶対に叫び声を上げていただろう。
何故ならゴポリゴポリと音を立てる赤い球体の表面には、無数の人の顔が浮かび上がってきたからだ。
その顔に共通しているのは苦悶の表情。それらが一斉に口を開き、身の毛もよだつような声を上げる。
『アアアアアアッ』
『痛イッ、痛イッ!』
『何デ俺ガコンナ目ニッ』
『畜生。ドルンノ野郎、俺達ヲ見捨テヤガッタナッ!』
その声に、反射的に気が付いた。今の声は裕也が斬った盗賊たちのものだ。
もしかしてあれは盗賊たちの怨念が生み出した化け物なんだろうか? それともこの世界にはああいう魔物が存在するのだろうか?
「気をつけて。あいつ多分、あの中から出てきた」
その異様に全員が息を呑む中、晃奈の呟きが耳に届く。
そこで漸く気が付いた。球体の直下、晃奈の視線の先に真っ二つに折れた白い杖が転がっていることに。
「あの杖って確か……」
制御装置、とドルンはそう呼んでいた。だから裕也はそれがあのゴーレムを操作する魔道具なのだと思っていた。
だがよく思い返してみれば、それは違う。それはドルンが杖を破壊する際に言っていた言葉だ。
(そうだ。ドルンは最初、あのゴーレムのことを何と呼んでいた?)
記憶が蘇る。
状況から「その言葉」がゴーレムのことを指していたのだと思っていた。そしてその後にドルン自身が否定したように、「それ」がドルンの勘違いだったのだと思っていた。
(じゃあもしかして……!?)
その正体に裕也が思い至り愕然とした瞬間、森の奥から赤い紐のようなものが数本飛んでくる。
その紐もまた、盗賊たちから発生したものと同じように球体に突き刺さると、勢いよく吸い込まれていく。そしてほんの僅か、更に体積を増した球体の表面に浮かんでいた無数の顔が消え失せると、代わりに一際大きな顔が浮かび上がった。
それは忘れようのない顔だ。
この事件の元凶にして盗賊たちの首領。世の中の全てが自分の思い通りになるべきだと、そうならないのは世の中のほうがおかしいのだと、最後までそう信じていた男。
「……ドルン」
それを見て直感的に悟った。ドルンはもう死んだのだと。
それが大量の失血によるものなのか、それとも森の奥で魔物にでも襲われたのかは分からない。
本来ならばこれで事件は終わっていたのだろう。
首謀者は死に、協力していた子分たちも残っていない。加奈子達の向かった先の状況は分からないが、彼とその一味によって再びあのような惨劇が引き起こされることはもうないのだから。
だが事はそう簡単ではないようだ。少なくとも今眼の前で進行しているこの異常な事態をどうにかしない限りこの事件は終わらないのだと、その場にいた全員が理解していた。
『アアアアアアアアッ! 畜生ッ! 飼イ主様ニ牙ヲ剥キヤガッテェッ! 何ガ【アーティファクト】ダッ!』
一際大きく吠えたドルンの顔が、次々と怨嗟の言葉を吐き出し続ける。
【アーティファクト】、そうドルンは呼んでいた。それがゴーレムのことを指すのだとドルン自身を含め、その場にいた全員がそう勘違いしていた。
だがそれは違う。
ゴーレムを制御するために杖があったのではなく、杖こそが本体だったのだ。
ドルンが副次的なものだと思っていた力。死者の血液を操作するこの力こそが、真の能力だったのだ。
赤い球体の表面に浮かんでいたドルンの顔が消え失せる。同時にその姿が変形し、異形の人型の骸骨を形作っていく。
大きく釣り上がった眼孔に、牙と見紛うほど長く発達した犬歯。
手足と胴体は異様に細長く、爪は名剣のように鋭利な印象を受ける。
「【アーティファクト=……」
改めて、その名を口にする。
最初に聞いたときは、単に格好をつけているだけだと思っていた。だがその姿を目の間にして成る程、と思う。
確かにこれは、そう呼ぶに相応しい名前だと。
「……吸血鬼】!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話、第3章最終決戦開始です。
3章のプロローグでちらっとだけ出てきたこの能力こそが本体でした。老人からちゃんと説明を受けていないドルンは、この力を威嚇&ゴーレムの燃料に使うものだと勘違いしています……。
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