表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/92

第6話 盗賊 1

「まずは腹ごしらえといこうじゃないか。俺の奢りだ。何でも好きなものを頼んでくれ」


 そう言って両手を広げる男に案内されたのは、一見するだけでお値段の方も高めと分かる佇まいのレストランだった。


 店内には綺麗に四角く加工された木製の机が規則正しく並び、それに合わせて用意された椅子の背もたれには嫌味にならない程度の彫刻が施されている。

 壁にはどこかの風景が描かれた絵画が掛けられ、天井から吊るされている照明はシャンデリア型の魔道具。一体どういう仕組なのか、僅かに空調も効いている。


「凄え……」


 その内装に思わず感嘆の言葉が漏れた。

 少なくともアルラドにはここまでのお店はなかったし、エンブラでもトップクラスなのは間違いない。

 日本であればこれに加えて洒落たBGMの流れているような店なんてザラにあるけれど、この世界でと考えればこれはとんでもないレベルだ。


 そんな店が早朝から開いているのが不思議だったが、それも目の前で若干誇らしげな顔をしているこの男が事前に頼み込んでいたからだそうだ。より正確に言うならば、この男の力ではなく彼を雇っている人物の力らしいんだが――。


「で、あんたは一体何なわけ? いきなりこんなとこに連れてこられても怪しさしか感じないんだけど」


 席に座るなり俺達全員の疑問を代弁するかのように、露骨に警戒している声音で尋ねる姉貴。

 けれどもその手にはしっかりとメニューが握られ、両目は忙しなく文字を追っている。例え目の前の男が怪しかろうが何だろうが、今からリッチな朝食を奢ってもらうというのは決定事項のようだ。


 俺達全員が無言で返事を待っていると、男は苦笑いを浮かべて姉貴の正面の席へと腰を下ろす。


「話は飯を食べてからの方がいいと思っていたんだが、そうだな。先に自己紹介くらいは済ませておこう。俺の名前はムグル。チーム《風来》の一員だ。誓って怪しい者じゃないし、あんたらに危害を加えるつもりもないぜ? 下手なことをすればチームの名に傷がつくしな。そういう訳で、よろしく」


 改めて見せられたギルドカードに示されている冒険者ランクは、俺や姉貴と同じくB。

 同ランクの冒険者なら他にも出会ったことはある。皆他の冒険者達とは一線を画す強さを持っていた。

 つまり今目の前で姉貴におすすめのメニューを教えているこの男も、相当な実績を持つ実力者ということだ。だとすればギルド職員の反応も頷ける。

 そしてそんな人物が何の意味もなく初対面の同業者に食事を奢るとは思えない。


(一応警戒しておくべきか?)


 メニューの内容を聞きながら徐々に頬を緩ませる姉貴を見ながら、俺は小さくため息を吐いた。





「――食事は楽しんでもらえたかな? そろそろ本題に入ろうか」


 運ばれてきた食後のお茶を前に、ムグルが襟元を整える。

 それを聞いて母さんたちも姿勢を正すが、姉貴だけは大きく背もたれにもたれ掛かり、ニヤついた笑みで虚空を見つめたままだ。大方さっき三皿も追加注文した、ストンプカウとやらのステーキの味の反芻でもしているんだろう。確かにとんでもなく美味かったのは間違いないが朝からよくそんなに食えるよな、と思う。


「……ええと。お嬢ちゃん、聞いてるかい?」


 微妙に崩れかけた表情で尋ねるムグルに、あー聞いてる聞いてる、と適当に手を振り替えしながら応える姉貴。お茶を運んできてくれた給仕の人を含めて全員が何とも言えない雰囲気に包まれる。


「んんっ! まあいい、話を続けよう。俺たち《風来》は三人組のチームなんだがね。今はとある人のお抱え冒険者をやっている。実を言うとこのレストランもその人の経営する店のうちの一つなのさ」


 そう言って振り返るムグルに給仕の人が一礼を返す。その表情はどちらも親しげで、決して少なくはない交流があるのが伺える。


 なるほど。こんな時間に店を開けてくれていたのも、ムグルを通したオーナーからの指示だった、というわけか。


「お抱え冒険者、ですか?」


 俺が改めて店の内装を見渡していると、聞きなれない単語に親父が疑問の声をあげる。


「そ。ご存じない? 長年冒険者やってると、同じ人物からの依頼を何度も受けるなんてことがよく起こる。そんでそいつを全部完璧に遂行すれば自然と信頼関係が生まれてくる。金払いのいい依頼主に完璧な仕事をする冒険者。互いに今後共よろしくやっていきたいと考えるものさ。かと言って毎回指名依頼料を払うってのも負担になるし、ギルドとしてもリピーターは大切にしていきたい。そこで生まれたのがこの制度。双方が合意すれば定められた期間の間、ギルドに僅かな手数料を払うだけで専属扱いにしてもらえるのさね」


「へぇ~、そんな制度があったんですね」


 初めて聞く話に感心したように首を上下させる親父。


 言葉のニュアンスから何となくは想像できていたけれど、要するにその期間の間は依頼主の用心棒や傭兵みたいな扱いになるということなんだろう。

 そう言えば以前出会ったメンバー全員が獣人のチーム、《ハチェット》もヨイセンという名の商人とかなり長い付き合いのようだった。もしかしたら彼らもそのお抱え冒険者とやらだったのかもしれない。


「で、その雇い主さんなんだが迷宮都市に本店を置く傍ら、こういった地方の飲食店や雑貨屋を経営している、以前は王都にも出店していたっていう大商人様でね。今は俺以外の《風来》のメンバーは本店と彼の警護を、俺が重要な物資の輸送の護衛を担当しているというわけさ」


「それはマジで凄いな」


 以前とはいえ王都に、そして現在も迷宮都市を始めとして地方にまで手を伸ばしている大商人。この店の雰囲気や教育の行き届いた給仕の人達の様子からしても、かなりの敏腕なのだということは容易に想像がつく。Bランク冒険者を擁するチームと長期の契約を結んでいるという点だけを考えても、とんでもない財力だ。

 Bランクにもなればギルドに掲示されている高難度のクエストを受けられる上に、その報酬も破格になる。それらを加味しても尚、その商人との専属契約というのは美味しい話なんだろう。


「だろう? が、最近ちょいと問題が発生してね。例の盗賊団だ」


 そこでムグルがお茶で口を湿らせるのと同時に、姉貴がムクリと体を起こした。夢見心地の状態でも、盗賊という単語は聞き逃せなかったみたいだ。

 俺たちもそいつらのせいで迷惑を被ってるわけだしな。


「俺もBランク冒険者の端くれだ。そこいらの魔物や盗賊如きには遅れを取らない自信はある。が、今回の盗賊団はちっとばかし厄介そうだ。Cランク冒険者三人でもほとんど目立った戦果を挙げられずに全滅している。こういった場合は危険そうな場所を迂回して、極力安全を確保しながら進むってのが俺のポリシーだったんだが……」


 何となく言いたいことが分かってきた。

 ギルドでの発言からしてもムグルはかなりの慎重派のようだ。今回みたいなことがあれば迷わず危険地帯を迂回したルートを選んでいたんだろう。

 にも関わらず俺たちにこうして話を持ちかけてくるということは、それが出来ない自体に陥ったということだ。


「今運んでいる荷物が問題でね。迷宮都市まで運ばにゃならんのだが、ちょっと事情があって急を要することになった。かと言って十分に安全なルートを通れば期日を三日は過ぎる」


 そう言って俺たち全員を見渡すムグル。もう言いたいことは分かっているんだろう? とでも言いたげな顔だ。


「たかが三日と言っても商人にとっちゃ大問題だ。信用に関わる。そしてそれは俺たち《風来》にとってもだ。そこで今回に限り俺は最短のルートを選ぶことにした。緊急事態ってことで迷宮都市にいる残りの二人にもこっちに来るように連絡してな。向こうからやってくるあいつらと迷宮都市へ向かう俺。合流さえしちまえばその盗賊団相手でも何の問題はないと思うんだが、その前に俺一人で遭遇するとなるとちと分が悪い。で、そこまでの護衛をアンタがた《ファミリー》にお願いしたい」


 ムグルが俺たちにお願いしたいこと。それは迷宮都市までの道中、ムグルが仲間と合流するまでの間、一緒に荷物を守ってほしいというものだった。


「勿論合流してからも迷宮都市まで一緒に行動してくれて構わないし、その間に戦闘が発生したら追加料金も払う。迷宮都市を目指しているアンタらにとっても、悪い話じゃないと思うが?」


 ムグルの言う通り目的地が迷宮都市だというのなら是非もない。こちらにとっても正に渡りに船だ。ぐるりと皆の顔を見渡しても、全員がこの話に乗り気なのが分かる。

 まだ詳しい報酬額を提示されてもいないけれど、今俺達が求めているのは迷宮都市までの道筋と移動手段だ。これまでの話からムグルがある程度有名な冒険者で、彼自身も自分達のチームに不利益になるような行動を取るとは考えにくいという点で信用できる。いつぞやの騎士団のように途中で裏切られる心配もないだろう。


「オッケー、いいわよ。で、出発はいつにすんの?」


「おお、即断即決とはありがたいね」


 軽い調子で返事をした姉貴に、ムガルは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 かなり急いでいるみたいだし、今すぐにでも出発したそうな雰囲気だ。こちらとしてももうこの町には特に用事もないし、いつ出発してもらっても構わない。


(ダイン達のせいで、あんまりよくない評判が残ってしまったのが心残りと言えば心残りだけど……)


 こればっかりは仕方がない。人の噂も七十五日と言うし、今後何かいいことをすればその話がこの町の人達に届いて誤解が解けるかもしれない。

 俺が前向きに考えているとムグルが勢い良く立ち上がり、大仰にレストランの出入り口の方を指し示した。


「んじゃ、今から行こう」


「「「「「え?」」」」」





   ◇





『キキャアア!』


 甲高い叫び声が頭上から響くのと同時に、視界に小さな影がさす。


 思わず上を見上げると、まるで猿のような外見をした魔物が大きく開いた口から涎を撒き散らしながら、俺に向かって飛びかかってきているのが目に入った。

 体長は五十センチくらい。突き出された細い腕の先端には鋭く尖った爪が生え揃っている。あれに引っ掻かれでもしたらかなり痛そうだ。けれども――。


「残念だったな!」


 その長さじゃ俺に届かない。

 慌てることなく剣を構えて、猿の落ちてくる軌道上にその刀身を突き出す。


『キギャ!?』


 猿の腕と突き出された剣。圧倒的にリーチの長い剣の方が猿の胴体に先に届くのは明白だ。

 猿もそのことを悟ったんだろう。その切っ先から逃れようと空中で必死に足掻くような仕草を見せていたが、当然落下の軌道を変えるなんてことは出来ず、そのまま胴体を串刺しにされた。


『キギャアアアッッッ!』


 肉と骨を突き破る嫌な感覚が手に伝わり、それと同時に猿が苦悶の声を上げる。


「……ふっ!」


 せめて少しでも早く楽にしてやろうと素早く剣を振り抜くと、猿が地面に落下するよりも早くその首を刎ね飛ばす。


「うし、いっちょ上がり!」


 続く戦闘に備えて顔をあげるともう大丈夫だよ、と手を振る親父の姿が目に入った。その声に緊張を解き、改めて周囲の様子を確認する。


 周囲を森に囲まれた、二頭引きの馬車が二台は並んで通れそうな幅の道。この世界ではかなり大きめな街道だと思うそこには、ついさっき俺が倒した奴と似たような体躯の猿達の死骸が散乱している。

 突然の襲撃だったけれど、親父が直前に察知してくれていたお陰もあって難なく切り抜けることができた。もし完全に囲まれていたら、もっと苦戦していたかもしれない。


「キャットエイプの群れさね。本来あまり人を襲うような性質じゃないんだが、腹でも減ってイライラしていたのかね?」


 思い思いに武器の血糊を払ったりしている皆を眺めながらそんなことを考えていると、背後から声をかけられた。

 剣を鞘に戻して後ろを振り返ると声の主――ムグルが緊急停車していた馬車の横にもたれかかるようにして立っている。


「ムグルさん、あんたも少しは戦ってくれよ」


 思わず愚痴をこぼすと、ムグルは両手で前髪をかき上げ大仰に天を仰いだ。


「おいおい、俺も馬車を守るために全力で周囲を警戒していたんだぜ。たまたまこっちに魔物が寄ってこなかったからと言って、まるでサボっているような言い方はよしてくれ」


 まあ、その言い分も分かる。

 前方から接近してきていた魔物の群れを迎撃するために、俺達一家は全員が馬車の前に飛び出していた。そうなると当然、残された人員だけで後方や左右の警戒をしなければならない。

 この一行の中で戦闘要員は俺達ファミリーとムグルだけなのだから、彼が警戒役に徹するのは当然だ。


 けれども返り血一つ、どころか剣を抜いてすらいない様子を前にして非難の目を向けてしまうのは仕方がないことだと思う。そして何よりこの配置を提案したのは、目の前で笑みを浮かべているこの男自身なのだ。


「そう怖い顔をしなさんな。お陰で馬車も積荷も傷一つ付いちゃいない。やっぱりアンタらに頼んで正解だったよ。つい最近Bランクになったばかりとは思えない実力だ」


「はあ、それはどうも」


 わざと気のない声で返したのに、何故かムグルはウインクを送ってきた。癪だけどそこそこ顔の整っているムグルがやると結構様になっているのは確かだ。けれども。


(……男にウインクなんかされても全然嬉しくない)


 こんな時はさっさと視線を切るに限る。


 ムグルからの仕事の依頼を受けてから一週間。既に二つの村と一つの町を通過しているけれど、未だに彼がまともに戦っている姿を見たことがない。


(そりゃ確かにあいつが雇い主で、俺たちはその護衛だけどさ)


 初めのうちは、仮にもBランクの冒険者だろ? と何度も文句を言っていたが、彼のこんな性格にももう大分慣れてきた。このやり取りも、もう何度繰り返したか分からないくらいだ。真面目に相手するだけ損だ。

 そんな事を考えているうちにムグルも御者と話し込み始めてしまったので、さっさと魔石だけ回収して馬車に戻ることにする。道の上に残った死体は端の方にでもどけておけば大丈夫だろう。





「――さて、もう少し進んだら野営の準備をしようかね。雲の様子からして、そろそろ一雨来そうな雰囲気だ」


 再び馬車が動き出して数時間。皆が思い思いに荷台で寛いでいると、ムグルが御者台から幌をめくって顔を覗き込ませてきた。

 それを聞いて馬車後方の空を見上げると、沈みかけた陽の光を遮るようにして大きな黒い雲が近づいてきているのが見える。


「ええ~、もう少しで次の村なんでしょ? 雨が降るんなら尚更屋根のある所で寝たいんだけど」


「おいおい嬢ちゃん、一応この馬車にも屋根はついてるじゃないか。多少の雨で雨漏りするほど安物じゃないぜ? それにそろそろ馬も休ませてやらにゃ」


 姉貴の提案に苦笑いを浮かべると、ムグルは再び御者台に戻ってしまった。ムグルの言うことも最もだと思ったのか、姉貴もそれ以上は何も言わず黙ってゴロリと横になる。


 ムグルに強化スキルをかけられている二頭の馬に引かれた荷馬車は、以前ヨイセンさんの護衛の時に乗っていたものよりも遥かに大きい。積荷も全てマジックバッグの上位互換であるマジックボックスと呼ばれる箱型の魔道具に収められ、必要最小限のスペースしか占有していない。お陰で空いた空間に家族全員が乗り込めている。

 流石に野営時には男性陣が外に設営したテントで過ごすことにしているが、一人二人が横になる程度なら問題ない広さだ。


 その後少し進むと運良く道の脇に開けた空間を見つけたので、今夜はそこで野営をすることに。何度も繰り返すと手慣れたもので、皆が特に確認を取り合うこともなく黙々と準備を進めていく。男性陣と馬用のテントを張り終え、御者の人が配ってくれた保存食を食べ終える頃には周囲はすっかり暗く、そして頭上には真っ黒な雲が広がっていた。


「おーっと危ない。ギリギリセーフって奴だな、これは」


 ムグルの呟きと同時にポツリポツリと雨が降り始め、あっという間に大粒の雨へと変化する。


「風もあるし、夜明けまでにはおさまるだろ。次の村じゃ特に用はないし、急げるだけ急ぎたい。明日は日の出とともに出発することにしようかね」


 慌ててテントに飛び込んだ俺たちにそう告げると、ムグルはさっさと横になってしまった。外で馬の様子を見ていた御者の人もそれでは私も失礼しますと横になり、二人共程なくして寝息を立て始める。短い時間に少しでも体を休めるためか、それともただ単に夜に何かをする習慣がないのか、すこぶる寝付きがいい。


「じゃあ爺ちゃん達もおやすみ」


 そんな二人を横目に、最初の番を任された俺は爺ちゃんと親父に声をかけると一人で外に出た。


 周囲に広がる森の木々は鬱蒼と生い茂り、天候のせいもあってほとんど遠くまで見通すことが出来ない。ムグルの話だともう村は目と鼻の先だということなので、滅多に魔物は現れないらしい。地球でもそうだったが、餌が十分に確保できるのなら、わざわざ人里に近づくような動物はほとんどいないんだろう。それでも、警戒するに越したことはない。


「地球と違ってガチで殺しに来るからなあ……」


 出会ってしまえば即殺し合いという名の戦闘が始める。それが魔物という存在だ。どんなに姿形が違ってもその一点においては共通の性質を持つ。

 よく食用にされているウサギに似た小型の魔物、ピグーですらそうなのだ。中には例外もいるとは聞いたことがあるが、まるで遺伝子に『出会った人間を襲え』とでも刻まれてるのではないかとすら疑ってしまう。


「ま、考えても仕方ないか」


 ここは異世界。何度も思うが、地球の常識は通用しないのだ。


 近くの木陰に入って雨を避けながら進行方向の道の先を見つめる。今は暗闇しか見えないけれど、あの先にはエンブラから迷宮都市までの間にある三つの村のうちの最後、コダールの村がある。

 遅くても昼前には到着、軽い休憩を兼ねて昼ごはんを食べたら、そのまますぐに出発する予定だ。そうすれば残るはたった一つの町だけ。ムグルの話によればこのペースなら明々後日には迷宮都市ダモスに到着出来る。


(迷宮都市……!)


 その名を思い浮かべる度に胸が高まる。

 勿論最大の目的は地球へ帰るための手がかりを探すこと、情報収集だ。


 けれどもダンジョン、そして迷宮。ファンタジー世界においてはお約束とも言えるこの代物に、ワクワクしない男子なんていないと断言できる。俺自身、遊園地なんかにあった小さな迷路に、何度も何度も挑戦したものだ。

 あれとは違ってもっと複雑で、命の危険もあるということも十分に理解している。それでもこの衝動を止めることなんてできやしない。

 原因も理由も分からないけれど、折角こんな世界に来たんだ。早く帰りたいと思う一方で、出来るだけ堪能してから帰りたいという気持ちも捨てられない。


(……早く朝にならないかな)


 その夜、俺はそんな呑気なことを考えながら交代の時間になってムグルが声をかけてくるまで、背後の木にもたれ掛かり周囲を警戒し続けた。


 若干の気の緩みを自覚しながらも、何の不安も抱かず――その行為を後悔することになるとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ