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エピローグ

 裕也が目覚めた翌日の昼過ぎ。

 再びギルドの執務室に集まった一行の前に広がっていたのは、青く輝く魔法陣だった。


 既に発動に必要な魔力は十分に蓄えられ、今はスラフとナッシュが最後の点検をしている。昨日よりは幾分か綺麗になった執務室の中で忙しそうに動く二人を前に、晃奈たちも念の為にと荷物の確認を始める中、裕也はレーテルと別れの挨拶をしていた。


「じゃあ行ってきます、って言うのは変ですかね? 前にも言いましたけど、ニーラスさんの件、積極的に探したりは出来ないですよ?」


「大丈夫です。周囲の精霊達の輝きが更に増しているのが見えます。貴方ならばいつかきっと巡り合えるはずです」


「そう言われても、よく分からないんですが」


 普段は裕也の目に見えない精霊。

 その輝きが増していると言われても今いちピンとこなかったが、エルフである彼女がそう言うのだから間違いではないのだろう。


 妖精郷の外に出たエルフというのは、大抵が自分の種族を隠して生活しているという話を聞いた。何もしなくてもこっちに気づいたエルフが話しかけてきてくれたら楽なんだけど、と裕也が頬を掻きながら考えていると、レーテルはそっと両手でその手を包み込んできた。


「安心してください。貴方は貴方の思うとおりに行動すればいい。精霊達もそれを望んでいるはずです」


 室内灯の僅かな明かりと、魔法陣が放つ青い輝き。その二つがレーテルのシミ一つない白い肌と、曇りのない金髪を幻想的に照らし、ただでさえ整った彼女の容姿を更に美しく映し出す。


 自分の手を握りしめた美女が目の前で優しく微笑むのを見て裕也は思わず赤面したが、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。


「ええと、出来るだけ頑張り――ぐえっ!?」


「いつまでやってんのよ。セリー相手にも散々やったでしょ。スラフさん、もう準備出来た? そろそろ出発したいんだけど」


 不機嫌そうな晃奈に襟元を後ろから引っ張られ、思わずレーテルの手を離す裕也。


 もう少し握っていたかったなぁ、と残念そうにレーテルの方を向くが、向こうは特にそうは思っていないようだ。「お気をつけて」と手を振る姿に、全く未練は感じられない。


「ほら、さっさとこっち来る!」


 肩を落として晃奈に引き摺られる裕也を、他の家族は苦笑いで迎えた。


「皆さん、この度は本当にお世話になりました。皆さんの活躍は向こうのギルドにも伝えてありますので、丁重にもてなしてくれるはずです」


 点検も終わり、益々輝きの増した魔法陣の上に立つ一家に向けて、スラフが言葉を投げかける。


「そうだ思い出した! ドラゴン! ドラゴンの装備が貰えるのよね!?」


「ええ、その筈です」


 かつて裕也達が倒したドラゴン。その死体はエンブラのギルドに引き取られ、そこから作られた装備品の幾つかは裕也達が譲り受けることになっている。

 目に見えてテンションの上がっていく晃奈の様子に溜息を吐きながら、裕也も最後の確認を終え、魔法陣の上に立つ。


「スラフさん、ナッシュさん、それにレーテルさんも。こちらこそ本当にお世話になりました」


「いえ、こちらこそ。あ、そうだ。今更ですが、この魔方陣のことは他言無用でお願いしますね?」


「はい、それは勿論」


 《ファミリー》を代表して進士が挨拶をするとスラフがそれに答え、ナッシュが魔法陣に両手を翳す。


 次いで魔法陣の輝きが目も開けていられないほど強くなり、やがて光が収まるとそこにはもう《ファミリー》の姿は見当たらなかった。


「無事、発動しました」


「よかった。そう言えば、彼らは王都に向かうと言っていましたね。アルラドからエンブラへ……この先も最短ルートを通るつもりでしょうか?」


 しかもよりによって何で王都なんかに、と今更のように疑問の声をあげるスラフ。


「分かりません。ですが、彼らならば大丈夫でしょう。そこらの賊や魔物に正面切って遅れを取ることもありますまい」


「それはそうですが、あれほどの力を持ちながら、何を求めているんでしょうかね? 田舎から出稼ぎに来ていると言う割には、そこまで金銭に執着しているようにも見えませんでした」


「かなりの頻度で資料室を利用していたとも聞きますが……」


 使い終わった魔法陣を隠しながら談笑するスラフとナッシュ。

 答えの出ない会話に口を挟んだのは、隣に立っていたレーテルだった。


「……地位、名誉、金銭。そのどれでもないでしょう」


 普段全くと言っていいほど自ら人の会話には入ってこない彼女の言葉に、思わず二人の手が止まる。

 裕也達は知らないことだが、彼女がこの場にいるのも彼女自身の希望によるものだった。二人の知る限り、彼女が冒険者の見送りなどしたことは今までに一度もない。


「或いは、彼らの望むものはこの国では見つからないかもしれません」


 誰に聞かせるというわけでもなく言葉を続けるレーテラに、唖然とした顔を向けるスラフとナッシュ。

 しかし彼女は二人の視線を無視し、確信を持って告げる。


「しかし、それでも彼らは必ず辿り着くでしょう。目指すものの、その先に」


 まるで見えない何かがそこに浮かんでいるかのように、彼女の瞳は輝きを失った魔法陣に向けられたままだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


感想やメッセージをくれた方、何よりの励みになりました。


これにて漸く二章完結まで書きなおすことが出来ました。

三章もできるだけ早く書けるよう頑張りたいと思います。


これからもファミリーファミリーをよろしくお願いします。

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