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プロローグ

 一閃。


 闇夜に銀色の輝きが走り、頭部を失った男の首から鮮血が吹き上がる。

 自らに降りかかる赤い雨を避ける素振りすら見せず、その男は恍惚の笑みを浮かべていた。


「これだ。これこそが、俺の望んでいたものだ……!」


 頭部を失い、血を撒き散らしながら崩れ落ちる死体。ビクビクと痙攣するその様子を上機嫌で眺めていた男だったが、やがてその顔が不機嫌そうに歪む。


「いや、こんな雑魚じゃ駄目だ。次はもう少し、強そうなやつを狙おう」


 呟き、懐から取り出した何かをボリボリと咀嚼する。

 まるで一仕事終えた後に一服するかのような心地で男がそれを行っていると、不意に男の立っていた路地裏が灯りに照らされた。


「おい、そこの貴様! こんな時間に何をやっている!」


 左手にカンテラを持ち、周囲を照らしながら近づいてきたのは、この町の警備兵だった。

 時刻はとうに深夜を回っている。そんな時間に路地裏に一人佇む男に不信感を覚えたのか、右手は剣の柄に添えられていた。


(気を抜きすぎたか)


 最近どこぞの町の騎士団が魔物にやられてほぼ全滅したおかげで、この周辺地域の治安が悪くなり、非情に過ごしやすい環境になっていた。

 それがまさか警備兵風情に見つかってしまうとは。


「おい、聞いているのか!?」


 男が小さく溜息をついている間にも警備兵は路地裏に入り込み、やがてランタンの灯りが男と、その足元に倒れ伏す死体を照らし出す。


「なっ! まさかケネットか? おい、貴様がやったのか!」


 どうやら警備兵はこの死体と生前、面識があったようだ。男が何も答えないでいると、カンテラを地面に投げ捨てると同時に抜剣する。


「ふん、警備兵か。こいつよりは多少マシなんだろうな」


 それを一瞥しながら、男は再び懐から取り出した何かを口に含んだ。

 その言いように彼が犯人だと確信したのだろう。警備兵は気合の声を発すると、男に斬りかかる。

 それを見ても男は余裕の表情を崩すことなく、口の中のものをゆっくりと嚥下した。


「お前、弱いな」


 翌朝。アルラドの南方にある小さな町タスヴォで、町の警備兵を合わせ、六人の斬殺死体が発見された。

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