エピローグ
「ほら裕也! そっちに行ったわよ!」
『グギャギャッ!』
死を撒き散らす刃の暴風域から逃れたドラドラコが一匹、必死な形相でこっちに向かってくる。
「俺一応病み上がりだぜ? もうちょっと休ませてくれよ」
姉貴よりは与し易いと思ったのか、ドラドラコはそのまま俺に向かって飛びかかってきた。勢い良く顔面に振り下ろされてくる前足を根元から斬り飛ばし、返す刀で首を刎ねる。
「あんたが寝込んでいる間の宿代に食費その他諸々、誰が稼いでたと思ってるの? さっさと王都に向かいたいのに、アルラドに戻っちゃってるし。とにかく今日は母さん達は休み。その間にあたし達で少しでもお金を稼ぐのよ」
「迷惑かけたのは分かってるって。何度も謝ってるだろ」
「はい、ブブー。それが間違ってんのよ」
俺が倒れたドラドラコから魔石を剥ぎ取っている間に姉貴は最後のスライムを倒し、周囲に危険がないかを確認すると傍に近寄ってきた。
「どうしたんだ?」
そのまま魔石についた血を拭っていると、いきなり頭に拳骨が振り下ろされる。
「痛ぇ!」
本人はコツンとやったつもりかも知れないが、低く鈍い音とともに激痛が走り、思わず目に涙が浮かぶ。
「やっぱりまだ分かってなかったわね。あのね、謝る必要なんてこれっぽっちもないの。まだ分からない?」
うおぉ、と呻きながら殴られた箇所を抑えて蹲っていると、しゃがみ込んだ姉貴が視線を合わせてきた。その顔には困っているような、からかうような笑みを浮かべている。
「あぁ、そうだったな」
その表情には見覚えがあった。
幼いころ、俺はよく姉貴を困らせていた。文句を言われ、時には暴力も振るわれたけど、最後にはいつも助けてくれた姉貴。
そんな姉貴に、俺はいつもこう言っていた。
「ありがとう」
「分かればいいのよ」
満足げに、記憶の中にあるのと同じ笑みを浮かべて、姉貴はクルリと回転しながら立ち上がる。
「さ、次行くわよ」
魔石の回収を終え、先を歩く姉貴を追いかけながら、俺の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
「そうだな。家族だもんな」




