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第13話 護衛クエスト 2

「まずは俺たちからだな。さっきも名乗ったが改めて、俺はアクス。《ハチェット》のリーダーをやっている。得物はこの大斧だ」


 アクスは自身の背中に提げられているものを親指で指し示した。布に包まれたそれは、正面から見ても分かる程巨大だ。あれを自在に振り回せる。それだけでもとんでもない実力者なのが分かる。


 ちなみにどうやって斧を持つんだろうと思っていたら、手は人間と同じ形をしていた。


「後ろにいるうちのチームメンバーだが、お前らから見て左から順にミロナ、ダルノ、スフィだ。ミロナとダルノの得物は剣、スフィは弓だ」


 ミロナは見たところ狸の獣人だ。四人の中では一番背が低く、子供くらいの身長しかない。ダルノは猫の獣人でアクスと同じ百八十センチくらいの身長だ。アクスに紹介され、二人揃って軽く一礼をする。


 そしてスフィはこの四人の中で唯一の半獣人、猫耳を持つ女の子だった。身長はアクスより頭ひとつ分小さいくらい。他の三人と違って陽気な性格なのか、元気に手を振っている。


「俺たちの外見を何を思おうが言おうが勝手だが、指示には必ず従え。足手纏いだと判断したら躊躇なく見捨てるし、害悪だと判断したら殺す」


 言葉と同時にアクスから威圧感のようなものが放たれ、何人かがそれに反応して身動ぎした。

 物騒なリーダーだな。


「オラ、前に座ってるやつから順に続けな」


 アクスに顎で指され、一番前で足を組んで座っていた男がチッと舌打ちして立ち上がる。


 まず目を引くのはその髪型だ。紫色のモヒカンを横に撫で付けたようなそれは、この何でもありな世界でもかなり特徴的だ。身長は俺より少し高いくらいだが、ヒョロっとした体格をしている。加えて目は細く鋭く、まるで爬虫類のような印象を受ける。


「モルトン。ソロだ。アルラドには遊びに来ててな。帰るついでにこのクエストを受けようと思ってよ。得物はナイフだ。獣狩りなら任せな?」


 手を伸ばせばアクスの顔に届く距離。そんな位置で素早くナイフを振るって見せると、モルトンは席に座った。明らかに挑発している。


「むかつく奴ね。あたしに喧嘩売ってきたら潰す」


「姉貴、聞こえるから! んであいつ絶対強いから!」


 物騒なことを呟く姉貴に慌てて小声で注意する。


 少なくともソロでこのクエストの受注が出来る時点でCランク以上。加えてこの世界で『遊びに』他所の町へ行くという行為。

 もしかしたら今まで見てきた冒険者の中で一番強いかもしれない。


「次」


 アクスは特に気にした様子もなく、その後ろに向かって顎をしゃくった。

 次に立ち上がったのは二人組の男女。


「ええと、僕はスキーフです。二人だけですが、こいつとチームを組んでいます。剣を使って戦います。少しだけ攻撃魔法が使えます」


「トリズです。私も剣を使います。あと簡単な回復魔法が使えます」


 はっきり言って、これといった特徴のない二人だ。二人揃って茶髪というだけで容姿も普通、装備もそこら辺の武器屋で売っているような、何の変哲もない平均的な冒険者のものだ。


 なのだが。


「ウゼぇ……!」


「姉貴、聞こえるから! 気持ちは分かるけどさ!」


 この二人、恋人繋ぎって言うのか? 腕を組んだ上に指をからめて握り合っている。俺の見ている限り、部屋に入ってきた時からずっとだ。


 年齢=彼氏いない歴の姉貴から見て、敵以外の何者でもないだろう。

 実際さっきのモルトンを見ていた時よりもさらに目つきがやばい。


「……次」


 モルトンの挑発を意にも介していなかったアクスですら、この二人の態度には思うところがあったようだ。若干苦々しげな表情をしている気がする。こういった感情は世界を超えても共通らしい。


 次に立ち上がったのも二人組だったが、今度は二人とも男だ。

 一人は赤髪のスポーツ刈にニカッとした笑みを浮かべた、全身を重鎧で固めた大男。もう一人は妙に脂ぎっている濃緑色の長髪をした猫背の男だ。


「ルードだ。さっきのカップルさんと同じように、こいつと二人だけでチームを組んでる。おおっと誤解しないでくれよ? 俺達は別に恋人同士ってわけじゃないからな。俺は剣も使うが、どちらかといえば盾を使って時間稼ぎする方が得意だな。よろしく頼むぜ。ほら、お前も挨拶」


 ルードと名乗った大男は見た目に通りに明るい性格らしい。気さくな感じに自己紹介を済ませると、隣の相方に順番を譲る。


「ヴィラル……弓」


 が、猫背の方はそれだけ言うと、さっさと座ってしまった。


(……え? 終わり?)


「相方が無愛想ですまねぇな。これでも腕は確かなんで、勘弁してくれ」


 どうやら片方が極端に無愛想なのを大男がフォローする、というのがこの二人のスタイルのようだ。おどけたように肩をすくめるその仕草には、慣れが感じられた。


「構わねぇよ、次」


 ルードが席につくと同時にアクスが顎をしゃくる。


(ん? 次って、俺達か!)


 構えていなかったのは俺だけだったらしく、他の皆が立ち上がるのに慌てて続く。


(やばい……。何て言おう)


 大概こういうのは、他の人が喋っているのを参考にしながら自分の番が来るまでに考えておくものだが、今回は他の人の様子を観察するのに夢中で何も考えていなかった。


 俺が必死に頭のなかで文章を組み立てている間に、他の皆は姉貴を皮切りに自己紹介を始めてしまう。


「晃奈よ。チーム《ファミリー》のリーダーをやっているわ。得意武器は剣。あとは攻撃魔法がちょこっとね」


「加奈子です。武器はメイスです。少しだけ回復魔法が使えます」


「進士です。武器はナイフです」


「斎蔵。槍じゃ」


「ええと、裕也です。姉貴と同じで剣を使います」


 結局当たり障りのない、平凡な挨拶になってしまった。他の皆も似たようなものだったが。


「近接ばかりか。偏ったチームだな」


 アクスが考え込むような素振りを見せる。


 言われてみれば確かに俺たちのチームは基本的に全員で突撃して、全員で相手を殴っている気がする。

 唯一姉貴が攻撃魔法を使えるけれど、それでもやっぱり前衛だ。母さんも回復役のはずなのに、前線でメイスを振り回しているイメージがある。


(脳筋チーム……)


 あまり嬉しくないフレーズが頭に浮かび、それを慌てて振り払う。今度布陣を考えなおすよう。場合によっては家族会議で提案する必要があるかもしれない。


「まあいい。次、お前で最後だ」


 アクスの言葉に危機感を憶えたのは俺だけだったらしく、他の家族は皆のんびりとした様子だ。


 全員が席につき、アクスに指された最後の一人が立ち上がる。


「ニーラスだ。精霊術による後方支援を得意としている」


 《ハチェット》のメンバーと同じようなフード付きのローブで身を包んでいる上に、口元も布で覆っているので顔もよく分からない。声から判断するに若い男なんだけど、分かることと言えばそれだけだ。


「精霊術ってなんだ?」


 おまけに話の内容もよく分からなかった。姉貴なら知っているかもと思い、小声で聞いてみる。


「資料室で読んだ本に書いてあったんだけど、スキルの一種みたいなものよ。魔法と大して変わらないみたい。ただ、川が近くにあったら水属性、みたいにその場の環境に即した属性でしか攻撃できない上に使い手が少ないから、詳しくは分かってないんだって」


 その本にもそこまでしか載ってなかったわ、と続ける姉貴。未知のスキルの使い手が目の前にいるのに、あまり興味はなさそうだ。


 最後の自己紹介を終えたニーラスが座ると、アクスがぐるりと全員を見渡す。


「出発は明日の七時だ。時間までに北門前に集合しろ。依頼人が提供してくれるのは最低限の食事だけだ。日程は八日程になるから、必要だと思う物資は各自で用意しな」


 これで打ち合わせは終わりらしい。ヨイセン親子と《ハチェット》のメンバー、そしてナッシュが退室すると、他のメンバーも各々退室していく。


「八日となると結構長いわね。色々買っておきましょ」


「そうだな。ポーションももうちょっと買っておいた方がいいだろうし」


 それに続いて部屋を出ながら、俺たちは買い物の予定を話し合う。

 道中何が起こるか分からないし、もうこの町に戻ることはないかもしれない。色々と準備しなきゃな。




   ◇




「何ですか、その大荷物!? え、本当に出て行っちゃうんですか? しかも今日!」


 翌日。いつもより早い朝食を食べ終え、この町に来てから色々と増えた荷物も全部持ち、店主のおっさんに今までお世話になったお礼を言っていると、偶々近くを通りかかったセリーに発見された。


 俺たちに懐いているのは知っていたし、セリーにも挨拶をしておきたかったので丁度いいと思っていたら、何故かこっちを睨みつけてくる。何で怒ってるんだ?


「いいじゃねぇかセリー。冒険者ってのはそういうもんだ。縁があればまた会える。お前だって分かってるだろう?」


 不機嫌なセリーを宥めるようにおっさんがその頭に手を置いたが、セリーはそれを乱暴に振り払った。予想外の反抗におっさんが驚いていると、セリーはうわーん、と叫んでそのまま走り去ってしまった。


「せっかくの門出だってのに悪いな。許してやってくれ。あいつがここまで客に懐いたのなんて初めてなんだ。ところで確かにその大荷物は何なんだ?」


「ほとんど保存食と水です。道中何があるか分かりませんので」


 親父がさも家族の総意みたいな口ぶりで話しているが、実際は女性陣のごり押しである。

 ある程度保存が効くとはいえ、ここまで食料が必要だろうか? 俺はもうちょっとポーションが欲しかった。


「いや、そういう意味じゃないんだ。ああ、そういやあんたらは最近この町で冒険者を始めたんだったな。確かにこの時期じゃマジックバッグは手に入らんよなぁ」


「マジックバッグ?」


 うんうんと頷くおっさんに聞き返す。初めて聞く言葉だ。


「知らねえのか? 魔道具の一種でな。見た目の何倍も物をしまえる便利な袋よ。この町にはめったに流れてこねえけど、見つけたら買っておいて損はねえぞ。物入れてるだけで魔力を喰うけどな。小さいものならそこまで高くねぇし、エンブラなら売ってるんじゃねぇか?」


 それは便利だ。見つけたらぜひ欲しい。


 店の外にまで見送りに出てくれたおっさんに手を振り、集合場所である町の北門に向かう。もう見慣れた景色だけど、人通りが少ないせいか、いつもとは違う雰囲気だ。


 余裕を持って行動したはずだが集合場所に着いたのは俺達が最後だったらしく、既に他の冒険者達は全員幌馬車の周囲で待機していた。

 俺たちが来たことに気がつくと、その中にいたアクスが近づいてくる。出会った時と同様にフードで顔を隠したアクスは、まるで何かを警戒するかのように小声で話しかけてきた。


「来たか。これで全員揃ったな。配置を説明するぞ。先頭の馬車は俺とミロナ、モルトンにルードとヴィラルがつく。二台目にはダルノとスキーフ、トリズ、カナコ、シンシ、ニーラスだ。三台目、最後尾にはスフィとユーヤ、アキコ、サイゾー。基本的にはこれで行く。夜警のメンバーは別にローテーションを組んで回す。分かったらとっとと準備しろ。もう出発するぞ」


 アクスが手で合図を送ると、集まっていた全員がそれぞれの担当する馬車に別れていく。


 とりあえず担当する馬車に向かおうとすると、爺ちゃんが苦笑しながら話しかけてきた。


「ある程度はチーム毎に纏められておるようじゃが、流石にわしらは家族全員で同じ配置とはならんかったのう」


「一番人数の多いチームだし、そこは仕方ないんじゃないか?」


 アクスハチェットはヨイセンさんとも信頼関係があるようだし、護衛クエストにも慣れている感じだ。そのメンバーを各馬車に振り分けたい気持ちも、戦力を均一化させたい気持ちも分かる。分かるんだけど。


(姉貴と一緒の馬車か……)


 エンブラまで八日間。暇だからって余計なことを仕出かさないかが心配だ。

 荷物は荷台の空いている場所に自由に置いていいみたいだ。各チームとも、それぞれの担当する幌馬車に次々と荷物を放り込んでいる。


(?)


 ふと、その様子に違和感を憶えた。出発を急ぎたい気持ちは分かる。それにしても慌ただし過ぎはしないだろうか。


「せっかちだな。そんなに急ぐのか?」


 別に町を出るのに時間制限があるわけでもあるまいし。


「ニュフフ。それはね、なるべくハイエナ野郎に感づかれないようにするためさ」


 どうやら独り言が聞かれていたらしい。

 すぐ横から声をかけてきたのは俺達と同じ配置になった《ハチェット》の弓使い。猫耳半獣人のスフィだった。


「あ、スフィさん。よろしくお願いします。ハイエナ野郎っていうのは何ですか?」


 俺より若干位置の低いその視線に目を合わせ、一礼する。

 急に声をかけられてびっくりしたが、何とか丁寧に対応出来ただろうか。これから八日間は同じ馬車だし、第一印象ってのは大事だ。


「スフィでいいよ。よろしく。ハイエナ野郎っていうのは、僕達冒険者の近くについて回って、無償で安全に旅をしようって輩のことさ。注意しようにも別に悪さをしているわけじゃないからね。出発を急いでいるのは、門の近くでモタモタして奴らに気付かれる可能性を少しでも小さくするためさ」


 そう言うとフワリと馬車の幌の上に飛び上がり、音もなく着地した。

 おぉ、身軽だ。流石猫。でも語尾はニャじゃないんだな。そこはちょっと残念。


「あぁそうだ。君達お人よしそうだから忠告しておくけど、そいつらに何があっても決して助けに行っちゃいけないよ。普段ならともかく、今僕達はヨイセンさんの護衛を請け負ってるんだ。いいね?」


 優先すべきは依頼人。関係ない人は見捨てろ、っていうことか。


 理屈は分かるけれど、即答は出来ない。どう返事しようかと困っていると、最初から聞く気がなかったのか、スフィは幌の上に寝転がってしまい、姿が見えなくなってしまった。

 自由だな。そんなところも猫っぽい。


「あやつの言う通りじゃ。余計な危険を背負い込むでない。迷うようならば、判断はわしが下す。それよりほれ、お客さんじゃ」


 肩を叩いてきた爺ちゃんが示した方を見ると、セリーが大きく手を振りながらこっちに向かって走ってきているのが見えた。何か布製の物を頭上で振り回している。


 何だ? お別れの挨拶か?


「ユーヤさーん! これ! 貸します!」


「わぷっ!」


 至近距離まで走りよるなり、その手に持っていた物を投げつけられた。

 まさかそんな攻撃が飛んでくるとは思っていなかったので、思いっきり顔で受けてしまう。結構痛いぞ。


(何だこれ。袋か?)


 結構な勢いで顔に叩きつけられたそれを手にとって見る。


 生地は麻だろうか。ナップサック程度の大きさに、縛り口に小さな半透明の石が縫い付けてある。これってもしかして。


「マジックバッグです。昔お父さんが買ってくれたんですけど、私使えないし……貸します! ですからいつか返しに来てください! 行ってらっしゃい!」


「あ、ちょっと!」


 全力で走ってきたのだろう。息を荒らげ、顔を真っ赤にしたセリーは、出会った時と同じように喋るだけ喋ると、元来た方向に走り去っていった。


(まだ何も返事していないのに)


 貸すと言われても、この町に戻ってくる保証はない。俺の周りの女の人は、どうして人の話を聞かないのだろう。


「ま、日本に帰る前に一度くらい戻ってきてもいいかもね。予定じゃその頃には才能溢れるこのあたしが、どんなところにでも瞬間移動できるスキルを覚えてるはずだから」


 マジックバッグを抱えたまま呆然としていると、姉貴が困ったような笑顔を浮かべながら御者台の方に歩いていく。


(何だその予定……)


「最後尾! 何グズグズしてやがる! 出発するぞ!」


 姉貴の根拠ゼロの壮大なプランに呆れていると、前方から痺れを切らしたアクスの怒鳴り声が聞こえてきた。


 そんな大声を出してたら、ハイエナ野郎ってのに気付かれちゃうんじゃないの?

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