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97 女子高生も深都に行く(2)

 深都の螺旋回廊をぐるぐる降りて行ってる。大分下の方まで来たけどまだまだ先は長そう。暗くなってきたから、廊下には光る石が壁に付いてる。瑠璃は飛び疲れたみたいでミー美に乗って楽してる。


「これ、どこまで続くんだろう?」


「さぁ?」


 ミコッちゃんに聞いたら素っ気無い返事がくる。でもずっと一緒にいてくれるのは嫌われてないからだと信じてる。


「この様子だとあの子はいなさそうね。帰ろうかな」


 ミコッちゃんが振り返ろうとしたけど、丁度先の方で壁がピカピカ光ってる所があって思わず手を掴んじゃう。


「見て見て。あそこで何かしてるよ。せっかくだし行ってみない?」


 洞窟みたいな入り口になっててお化け屋敷みたいで楽しそう。ミコッちゃんも見てくれたけど表情は変わってない。


「私は別に興味ない」


「お金なら出すから。ここまで来たんだし記念に行こうよ~」


「そんなに行きたいなら1人で行ったら?」


「私はミコッちゃんと一緒がいいな。もっと仲良くなりたいていうのかな」


 ミコッちゃんは私の方をじーっと見てきたけど、最終的に小さく溜息を吐いた。


「そこ行ったら帰るから」


「やった~」


 というわけで早速近くに行ってみた。洞窟の入り口付近には光る石がいくつも壁に埋めてあって光ってる。看板もあるけど文字は読めない。そうっと中を覗いてみるけど真っ暗。


「いらっしゃいませ」


 急に声をかけられてちょっとだけびっくりした。丁度入って真横の所にカウンターがあって、おじいさんが立ってた。これは驚く。


「わくわく洞窟探検へようこそ。あなたも宝箱を探してみませんか?」


「宝箱?」


 お化け屋敷っぽいのを想像してたけど急にポップな言葉が出て来て逆に気が抜けちゃう。


「はい。ここは深都の住人が暇つぶしで穴を掘った痕跡場所です。すみません、今のは冗談です。元々居住地を増やす為に掘った所ですが思ったよりも岩盤が固くうまくスペースを確保できずに撤退されたので、何とか利用しようと遊び場にしたわけです。この中は無数の道がありまして、中にはいくつも宝箱があります。参加される方にはこの鍵をお渡しして中の宝箱を1つだけ開けられるようになってます。もちろん、中身は持ち帰ってくださって構いません」


 おじいさんが金色に光った鍵を見せてくれる。お化け屋敷じゃないみたいだけど、それはそれで面白そう。


「迷路だと道に迷ったりしませんか?」


 こんなに暗い所で奥の方まで進んだら来た道を戻って来れなさそう。


「そこはご安心ください。各地に上に繋がる階段が点在していますので帰りたくなればそちらをご利用して頂ければ安全に戻ってこれます。もちろん、来た道を戻ってくれても構いませんよ」


 おじいさんが笑いながら言ってくれる。それはベテランでないと難しそう。


「じゃあ入ってみます。えっと、値段はいくらですか?」


「鍵1つで1000オンスとなります」


 それでチラッとミコッちゃんの方を見てみる。そしたら気付いて首を振ってた。いらないって意味だよね。


「じゃあ1つください」


「お買い上げありがとうございます。よい旅を」


 金の鍵を貸してくれて、それと明かりのランタンも貸してくれた。これは洞窟探検だね。早速奥の方に歩いてみよう。そう思ったら早速3つに道が別れてる。


「どこがいいと思う?」


「どこでも」


「うーん。そうだ、ミコッちゃんの占いで決めたら確実じゃない?」


「……毎回それしてたら日が変わる」


 それもそうだった。とりあえず適当に左側に選んで進んでみる。そしたらすぐに行き止まりになって、そこに木でできた宝箱が置いてあった。棺おけみたいで予想より結構大きい。

 ていうか見つかるの早い。


「開ける?」


 ミコッちゃんが聞いてくる。確か鍵は1度しか使えないからこれを開けたらもう終わりなんだよね。ここで終わったらミコッちゃんとの時間もなくなるし何とか誤魔化そう。


「私の勘だと木でできた宝箱の中身はそんなに大したことないと思う。もっと豪華なのが奥に隠されてると思うよ」


「そういうものなの?」


「ぴー?」


「ミー?」


 私もよく分かってないけど共感は得られそうになかったみたい。でもミコッちゃんは特に気にしてなさそうだったから普通に引き返してくれた。別れ道の所に戻って今度は真ん中を選んでみる。そしたら長い道が続いた。


「ミコッちゃんは妹さんを探して旅に出たんだよね?」


「そう」


「ミコッちゃんがこんなに会いたがってるのに連絡も来ないなんて、妹さんは結構出歩くのが好きな感じ?」


「昔はそうでもなかった。1度だけ央都に連れて行ったことがあるけど、多分あれから外に憧れるようになったのかも」


「そうなんだ~」


 普段は素っ気無いミコッちゃんだけど妹さんのことだとわりと話してくれる気がする。


「でも外には魔物もいるでしょ? 1人だと危なくない?」


「私もそう言った。けどあの子は言うこと聞かなくて、それに影で色々と頑張ってたみたい。知らない間に武器の使い方を覚えてた」


 余程知らない街に憧れたのかな。


「もうずっと顔を見てない。私、嫌われてるのかな」


 表情は変わってないのにミコッちゃんがズーンって落ち込んでるオーラが見えたよ。一瞬だけヒカリさんがフラッシュバックしたけど。


「だったら占ってみたら? 私の時みたいにうまくいけば大丈夫じゃない?」


「無理」


「どうして?」


「もし嫌われてるって出たら立ち直れない」


 なんとなくだけどミコッちゃんはヒカリさんと仲良くなれそうな気がしたよ。確かに身内で嫌われてるって結果になったら辛いかも。


「前に一度だけしたことあるんだけど」


「うん」


「その時は最悪の結果だった」


 もう既にしてたみたい。これはトラウマになっても仕方ない。


「げ、元気出して、ミコッちゃん! 占いだからそんな日もあるよ!」


「その翌日にあの子は村を出て行った」


 ミコッちゃんから魂が抜けそうなくらい悲痛な叫びがひしひし伝わってくるよ。


「私、嫌われてるんだろうね」


 すごい自虐になってて虚ろな目になってる。余程気にしてるみたい。


「私の知り合いにも姉妹がいるんだけど、その子もお姉ちゃんには結構口がきついんだよね。でもそれは照れくさかったりしての裏返しだからで、実際は全然嫌いじゃなくて寧ろ仲がいいって感じだったよ」


「そう?」


「きっとそう」


「そっか」


 そしたらミコッちゃんが口を少しだけ緩めてくれた。一先ずは安心、なのかな。


「あなたって不思議な人。ここまで自分の話をしたのは久し振り」


 それは仲良くなれたって思っていいのかな。


「あの子も、あなたくらい素直だったらよかったのに」


 ミコッちゃんちょっとだけ頬を膨らましててかわいい。大人お姉さんと思ってたけどもしかして思ったより年が近いのかな。


「ねぇねぇ。ミコッちゃんって何歳?」


「唐突ね。17だけど?」


 まさかの1つ違い。想像以上の若さだよ。


「私は16だよ。なんか親近感~」


「そうだったのね。普通に年上と思ってたけど」


 私が? 私ってそんなに大人に見えるのかな。


「あ、見て。また別れ道。どこにする?」


 今度は5つもあっていよいよ迷路感が出てきた。


「そうね。じゃあこうしよう」


 そしたらミコッちゃんがタロットカードを鞄から出した。まさかの占いって思ったけどその中から5枚だけ抜き取って私に裏向きで見せてくる。


「私の中で番号を割り振ったから選んで。そこにする」


 なるほど、その手があったね。それでババぬきみたいに一枚だけ引いた。そこにローブを着た杖を持った人が映ってる。


「魔術師ね。4番だから右から2つ目の所」


 そんな感じで別れ道になるたびにこの方法でどんどん奥に進んでいった。

 洞窟の中は迷路っていってただけあって本当に広い。かなり歩いたのに全然一番奥に付きそうにないし。


「ミコッちゃんはここを出たら次はどこに行くの?」


「さぁね。占いの結果次第」


 そういうのも占えるんだ。結構万能だね。


 それで歩いてたらついに行き止まりに辿り着いた。そこには金色に光る大きな宝箱がドーンって置いてある。これは絶対に当たりが入ってるやつ。ミコッちゃんを見たら無言で頷いてくれたから、鍵穴に鍵を差し込んだ。それでクルッと回したらカチッて音がして宝箱が勝手に開く。


 中に入ってたのは……鍵?


「鍵だよね」


「うん」


 宝箱を開けるのに使ったのよりはずっと大きくて、どちらかというと杖にも思える灰色の鍵がぽつんと置いてある。


「まだ続くのかな」


「あの人は一度きりって言ったけど」


 ミコッちゃんの言う通り、宝箱の鍵穴のサイズは小さくてここに入ってる鍵は使えなさそう。それに使った鍵も抜けそうにないから探検はお終いな気がする。とりあえず鍵だけはもらっておこう。


「帰ろっか」


「そうね」


 近くに階段があったからあがったら広いホールになってた。人も結構いて、所々に岩でできた遊び場みたいなのがある。掘り起こす前にうまく削って形を整えたのかな。公園にある生物の形をした滑り台みたいなのとか、岩でできた小屋も見える。


「ノラ」


 急に名前を呼ばれたからミコッちゃんの方を見た。そしたら私の頭をやさしく撫でてくる。

 ちょっと状況が理解できなくて動けない。距離が近くてミコッちゃんから良い匂いがする。


「またね」


「うっ、うん。また会おうね。ミコッちゃん」


 ミコッちゃんは私から離れて手をあげてその場を後にしていく。ミコッちゃんにあんな風にされるなんて予想してなかったから、なんか胸がドキドキするんだけど。

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