96 女子高生も深都に行く(1)
ムツキとシャムちゃん達と別れてミー美の乗っての旅が再開した。街道を進んでたら山に入る道と街道に別れてた。丁度看板があって街道が東都、山に入る道が深都って書かれてた。目的地は深都だから山に入ろう。
傾斜のある山の中をミー美が走り続ける。道がちゃんと残ってるから迷うことはなさそう。ここの木の葉っぱは白と黒ばかりで雑草も黒い。まるでモノクロの世界に迷い込んだみたい。
砂利道の石が真っ白なせいか、周囲の黒さと相まって光ってるように感じる。闇の中にある光の道? そんな所にいる生物は私達以外誰もいない。
道が狭くなって通るのやっとの細い道。右手は草木に囲まれてるけど、反対側は崖っぷち。下の方が黒い木のせいで闇に吸い込まれそう。一応柵みたいなのはしてあるけど。
ミー美はそんな細い道でもお構いなしに走ってる。走りにくそうな所なのに今の所全然バランスも崩さなくて本当にすごい。
そんなミー美のおかげで山頂にもすぐに到着した。白黒の山の向かいにはまた大きな山がある。それで両方の山の間に挟まれた所にぽっかりと大きな穴が開いてるのが見えた。その周囲は緑もあって妙に違和感もあるけど。
「あそこだね。ミー美、行ける?」
「ミー!」
目的地がはっきり見えたからミー美が下り道を駆け下りていった。すごく早くて瑠璃も飛ばされないと私にしっかりしがみ付いてる。
それで半時間もしない内に麓にまで降りて草原の道になった。山に挟まれてて何か地元に帰ってきたみたい。白黒の木じゃなかったら完璧だったね。
ミー美がゆっくり歩いて行くと先の方に鉄の柵が奥の方までずっと続いてる。近くに行ったら柵の向こうは真っ黒な大穴が空いてる。見下ろしても地面は全然見えなくてブラックホールみたい。それに空から見た時よりもずっと大きくてびっくり。これ、学校の敷地よりも普通に広そう。
「どこから入るのかな」
一応ここで人が住んでるみたいだしどこかから入れるんだろうけど。心配してたら柵にご丁寧に矢印をしてくれてあった。これは親切。
柵に沿って進んで行ったら地面の一部が大きな四角い鉄の蓋をしてある所があった。なんとなく開きそうな感じがするから鉄の蓋の前で待機してみる。何も起こらない。
うーん。下から誰か開けてくれるとか? 屈んで石で叩いてみる。開かない。
「どうやったら開くんだろう?」
「ミー?」
「ぴー?」
ミー美と瑠璃も近くに来て鉄の蓋に乗った。そしたら蓋の前の地面が割れて地下への道が開いてた。あー、普通に乗ったらよかったんだ。
開いたから早速入らせてもらおう。
「でもミー美が入っていいのかな?」
ここで放ってもおけないし、とりあえず馬用のリードを付けて連れていこう。中はトンネルみたいになってて壁や天井は鉄で覆われてる。大穴がある方は鉄の格子がされててちょっとだけ覗けるようになってる。反対の壁側にはドアがちょこちょこ点在してて、ドアの上や前に看板が置かれてた。文字を軽く読んだら、多分お店かな?
「あの~、すみません」
偶然すれ違った人がいたから聞いてみよう。
「何だい?」
「えっと、ミー美……この子を中に入れてもよかったですか?」
その人はミー美を見てたけど特に驚いてる様子はなさそう。
「フィルミーを従魔にしてるなんて珍しいな。心配しなくても従魔なら問題ないよ」
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言ったらその人は軽く手を上げて出入口の方に行った。こっちだと魔物を連れてたら皆従魔って考えるんだね。ペットと同じ感覚なのかなぁ。
「とりあえず大丈夫そうだしこのまま行ってみようかな」
道はずっと1本道で穴の周囲を螺旋を描くみたいに下りていってる気がする。その証拠に格子の窓から覗いたらさっきより位置が低くなってる。それに時々階段があるから、きっとそう。
都っていうよりは住宅地って感じだね。五大都市じゃないからこれくらいの規模なのかな。でも、窓から下を覗いたら穴の深さもだけど、周りの窓もずーっと下の方まである。もしかして一番下まで続いてるの? それだったらとんでもないけど。
「せっかく来たんだし何か食べたいなぁ。でも初めてだしどういうお店かも分からないしなぁ。およ、あれは?」
前の方に薄黄色い髪の女の子が手提げ鞄を持って歩いてる。肩を出した黒い服、短めのスカート、何より垂れた耳に細長いもふもふした尻尾。狼の尻尾かな?
「こんにちは~」
「……あなたは」
「覚えてる? 東都で占ってもらったお客さん」
「覚えてる。無意味に占いをする変わった客」
ケモミミのお姉さんは相変わらずぶっきら棒に言ってくる。でも覚えててくれたのは普通に嬉しい。
「この前は自己紹介できなかったけど今度はいいですよね。私は野々村野良。こっちは瑠璃で、そっちがミー美だよ」
「ぴ!」
「ミー!」
そしたらケモミミのお姉さんはバツが悪そうに視線を外してくる。あれ?
「えっと、また会えたら名前を教えてくれる約束でしたよね?」
「覚えてたの。忘れてくれてよかったのに」
「せっかく会えたのに忘れるなんてできないよ」
「ミコッテ・フィルチャー。これで満足?」
ケモミミのお姉さんは腕を組みながらチラッとこっちを見てくる。これは嬉し過ぎて泣きそう。
「素敵な名前。ミコッちゃんって呼んでいい?」
「……好きにすれば」
ミコッちゃんは素っ気なく言ってすたすた歩いて行く。なんとなくその横を付いていく。
「なんで付いてくるの?」
「せっかく会えたからお話したいなぁって。だめ?」
「ダメじゃないけど……」
「そういえば今日は占いをしてないの?」
というか帝都でお店を開いてたしわざわざここに来るってのもちょっと不思議。
「その時の気分。元々旅しながらしてるだけだし」
そっかー。じゃああのテントも野営用だったり? それで圧縮魔法で鞄の中にしまってるって洒落てるなぁ。見た目通り大人な雰囲気があるけど何歳なんだろう。
「旅って街を転々としてるの?」
「そう。本当は村から出る気なんてなかったけど、あの子が音沙汰ないから探す羽目になった」
「あの子?」
「妹」
まさかの妹さん。
「音沙汰ないってどれくらい?」
「もう大分経つ。神祀りの帰郷祭でも帰って来なかったから流石に探そうと思った」
帰郷祭……この前フランちゃん達が言ってたケモミミの皆が帰省する行事のことかな。
「それって何か事件に巻き込まれてるんじゃ……」
「それは大丈夫。あの子はいつもあちこちフラフラしてるから。帰って来ないのは今回が初めてじゃないし」
わりと癖のある妹さんなんだなぁ。
「もし見かけたら私からも言っておくよ?」
「そう? 見た目は、そうね。灰色の髪をしてて長さはあなたと同じくらい。服装もあなたに似てた気がする。耳と尻尾は私と同じ」
「ふむふむ。名前は?」
「ミコット」
一文字違いだ。
「双子だったり?」
「よくわかったね」
名前からなんとなくだけど。
「ミコッちゃんの妹さんなら、きっと綺麗な人なんだろうね」
「かわいいよ」
ミコッちゃんがサラッと言ったよ。これは愛されてるね。
「もし会えたらこう伝えておいて。いい加減便箋の1つくらい送ってきなさいって」
「うん」
「それと私が怒ってるとも言っておいて」
「分かった」
言わないほうがいいような気もするけど。
「めちゃくちゃ怒ってるって言っておいて」
「う、うん」
顔には全然出してないけどミコッちゃんから何とも言えない気迫を感じる。愛の裏返しだと信じたい。
「そうだ。私、深都に来るの初めてなんだけどオススメのお店とかってある?」
「私も初めてなんだけど」
「えっ、そうなの?」
それには驚いちゃう。優雅に歩いてたからよく来てると思ってた。
「そもそも村から出るのも初めて。外の世界なんて知らない」
「そっかー」
それを聞いて占いの値段が銅貨1枚だったのにちょっとだけ合点がいっちゃう。
「だったらお揃いだね。じゃああそことかどう?」
丁度目に入った店を指差してみる。扉の横にガラス窓があって、窓にカラフルな文字でメニューを書いてあるのがお洒落。読めないけど。
「いらっしゃいませー」
窓の近くに歩いていったら店主の人が厨房にある鉄板で何かを焼いてて良い匂いがしてくる。瑠璃も興味津々で覗いてる。
「ミコッちゃんは何食べたい?」
「……じゃあ三実刺しタンゴ」
「三実刺しタンゴ4つくださーい」
「毎度ー!」
店主の人が大声で言って調理に取り掛かってくれた。
「同じでよかったの?」
「実はあんまり文字が読めなくて。このメニューも何て書いてあるか分からないの」
簡単な単語なら分かるけど、こういう風になってくると全然駄目なんだよね。
「ふーん。別にいいけど」
「おまちー!」
店主が窓から手を出して紙袋を渡してくれた。すごく早くてびっくり。
「4つで1000オンスだ」
金貨1枚渡した。
「毎度ありー!」
袋に入ってる串を取ってみる。串に色違いの丸い団子が3つ付いてる。団子というよりは肉団子? 黒い透明のソースいい感じにツヤを出してて、焦げ目が美味しそう。
それで1つをミコッちゃんに渡して、残り2本を瑠璃とミー美にあげる。ミー美も瑠璃も美味しそうに食べてる。
私も食べようと思ったらミコッちゃんが肩を叩いてきて、それで私の左手に銀貨3枚置いた。
「別にいいよ?」
「そうもいかない。借りは作りたくないから」
あまり気にしないけど、ミコッちゃんはしっかりしてるなぁ。でも4つで1000なら、1つ250だと思うけど。
「おつりはいらない。この前の占いで余分にもらってるから」
顔に出てたみたいで言われちゃった。そう言われたら言葉に甘えておこう。
それで早速串焼きを食べよう。一番前の赤い肉団子を食べる。大きいから1口ではいけなかった。
「美味しい~」
カラフルな見た目とは裏腹に結構コッテリしてる。それに団子の中に小さな木の実が入ってるみたいで後味に木の実の汁が広がって、団子の味がより深くなってる。黒いソースも独特の味がしていい感じ。
ミコッちゃんは黙々と食べてて表情も変わってないけど、微妙に耳と尻尾が動いてるから何となく今の気持ちは分かる。
「1つ気になったんだけどいい?」
「どうぞ」
「ミコッちゃんって旅をしてるんだよね。それだとその格好は動きにくくないの?」
スカートって見た目より動きにくいし、肌も出してたら森の中を歩くのも大変そう。
「まぁ、うん」
何か歯切れが悪い。
「ミコッちゃん?」
「私の話はいいよ」
「そっか。じゃあ私の話をするね。ここから西に行った所に央都って所があるんだけど、そこにも美味しい店や楽しい場所が沢山あるの。よかったら来たら? ミコッちゃんと同じ種族の人もいるから、もしかしたら妹さんのことを知ってる人がいるかも」
本当は私が会いたいだけなんて言えないけど。
「そう。考えておく」
「なんなら央都で働いたらどう? 占い屋さんはいないと思うからきっと繁盛できるよ」
そう言ったらミコッちゃんの耳がピクッて動いた。
「本当?」
いつもなら興味なさそうな態度なのに今回に限って私の方を見て真面目に聞いて来る。
「私がそう思ってるだけで保証はないんだけど」
「もしそうならそれも悪くないかもしれない」
「うん。もしその時が来たら広報とか手伝うよ。央都には知り合いもいるから」
「あなたって本当変わってるね。どうして他人にそこまで出来るの?」
ミコッちゃんが真顔で言ってる。きっとそれくらい私の言動がおかしかったのかもしれない。さっきのお金のやりとりからしてもミコッちゃんは私とは逆のタイプだろうし、余計かも。
「もう他人じゃないよ。だって名前も知ってるし、こうして一緒に食べ歩きもしてるし。本当に他人ならそんなことしないでしょ?」
そしたらミコッちゃんは少しだけ口元を緩めてくれた。
「そうね。そうかもね」
って言ってくれた。少しだけ心の距離が近付いたみたいで嬉しいな。




