95 女子高生も小さくなる
「今日の予定は、よし決めた。旅に出よう」
この前ノイエンさんに連れられて他にも沢山街があるって教えてくれたし、今日はがんばって旅に出よう。
「でも徒歩だと絶対に1日で帰れないだろうし、馬車も多分難しいよね。何かないかなー」
足が速くて融通が利いて、それでいて機転もきく。それこそ車でもないと無理?
「そうだ、ミー美に乗せてもらおう!」
異世界の山や渓流にも連れてくれたし、足の速さもかなりあるから1日でも頑張ったらいけるかも。そうと決まったら早速準備だね。動きやすい格好に着替えて、軽い食べ物にリガーに、飲み物も鞄に入れて、あとお金もだね。
準備が出来たら庭に出て早速出発だね。
「ぴー!」
瑠璃も屋根から降りてきて引っ付いてきた。最近あっちに行けてなかったし連れてあげよう。
そうこうしてたらすぐに異世界の街に転移できた。今日も賑やかで楽しそうだけど、今回は我慢して街の外に出た。確か東西南北に都があってそれぞれが央都と同じくらい発展してるってノイエンさんは言ってた。
この前行った東都もすごく発展してたし。どこに行こうかな。でも北や南って行っても具体的な場所も分からないしなぁ。そういえば、この前東都に行く途中に大きな穴がある街があったと思う。あそこに行ってみよう。というわけで街の外に出てミー美に乗って広い街道を走っていった。
「んー、気持ちい~」
ミー美のもふもふと合わさって風の涼しさが癖になる。
都の距離は空を飛んでた時はそんな時間がかかってなかったけど、地上からだとどれくらいになるのかな。とりあえず街道を進んでたらその内着くかな?
広い草原を見渡していると本当に大自然の中って感じがする。こんなに土地が余ってるのに何も建物を造らないっていうのも不思議。大体は街の中で完結してるよね。
そんな感じで街道を走ってたら人影が見えた。
「ミー美~、ちょっとスピード落としてね」
「ミー」
万一当たったら大変だからね。それでその2人組の横を通過しようと思ったけど、何かその後ろ姿に見覚えがある。片方は騎士の制服で青髪。もう片方は茶色の髪でリスの耳に尻尾が見える。
「あれ? ムツキにシャムちゃん?」
思わずミー美に止まってもらって声をかけた。
「ノラ。こんな所で会うなんて偶然」
「なんでノノムラがこんな所にいやがるですか」
とりあえずミー美から下りて2人の前に立った。どっちもキョトンとしてる。私から見たら珍しい組み合わせだし、外に居るってのも意外。
「これから遠出しようと思って。この先に大きな穴がある街があるよね? そこに行こうと思って」
「深都を目指してるんだね」
そうそう、そういう名前だった気がする。
「あんな陰気な都に行くなんてノノムラも暇でやがるです。ボクとしては央都の方が絶対にいいです。うまい物沢山あるです」
「シャムちゃんは行ったことあるの?」
「配達の商品を受け取りに何度か行ったことあるです。よくあんな所で生活しようと思うです」
へー。配達の仕事をしてたら他の都に行く機会もあるんだね。だからこの前も異動の話とかもあったんだ。
「それで2人はどうしてここを歩いてたの?」
どっちも街で仕事がありそうだけど。
「実は東都から来る予定の荷馬車が脱輪したみたいでその援助に向かってる所」
「替えの車輪を持ってないってありえねーです」
あー。だからシャムちゃんが一緒なんだね。シャムちゃんだったら物を小さくできるし。ムツキはその護衛かな?
「せっかくだから私も行っていい? 何もできないと思うけど」
どうせ特に理由もなく旅に出ただけだし。
「ノノムラは本当に暇人でやがるですね。好きにしたらいいです」
シャムちゃんの許可も貰ったから一緒に街道を歩いて行った。
「それにしてもムツキってよく仕事してるよね。一応は学生さんだよね?」
魔物がいないか外に見回りに行ったり、夜中の警備に出たりとか忙しそう。
「騎士学校って名前だけど、騎士を養成する場所だから実地訓練が殆どだよ。勉強もするけど大体が騎士としての仕事が多い」
なるほど~。研修生や養成所みたいな扱いになるのかな?
「騎士は給料もよさそうでやがるです」
「私はまだ学生だからそんなにだよ?」
ちゃんとお金ももらえてるみたい。感覚的に魔術学園の方が魅力的に映ってたけど、こういう実情を聞くと魔法を勉強するのは家庭が裕福じゃないと難しそう。
そんな感じでお喋りしてたら街道の先の方で大きな馬車が道端で止まってた。前には馬さんが3匹繋がれてる。
近くに行ったら男の人が3人困った様子で話をしてた。1人は騎士っぽい格好で、もう1人はローブにマントをしてるから魔法使い? 護衛さんかな。
「頼まれて替えの車輪届けに来ました」
ムツキが頭を下げて話してる。
「おー、もう来てくれたんですね。助かります!」
早速シャムちゃんがランドセルの鞄を開けて中から小さなタイヤを取り出してそれを地面に置いた。少ししてから元の大きさに戻ってる。
「これで何とか街にまでいけます。ありがとうございます」
「今日は馬車1台でやがるですか。いつもより少ないです」
中には一杯荷物を積んであるけどこれで少ない方なんだ。
「はい。今回は魔道具が主なので貴重品なので早く到着できるように調整していましたから。急いだあまりに脱輪するとは本当に情けない限りです」
男の人が頭を掻きながら笑ってる。魔道具は東都から仕入れてるんだね。
車輪の替えは順調に進んでて、特に問題はなさそう。そう思ってたけど男の人が難しい顔をして荷台の方を見てる。
「どうしたんですか?」
なんとなく聞いてみる。
「いや、大したことじゃないんだけどな。ただ、ちょっと杞憂というかさ」
言ってる意味が分からなくて首を傾げるしかできない。そしたら男の人が荷台の上に乗せてある布で包んだものを解いた。そこには白くて丸い卵があった。
「脱輪してる間に偶然オオクサドリが近くに来てな。それで珍しいこともあるなって話してたら、飛んで行ったんだがよく見たら卵を落としててよ」
「オオクサドリ?」
私には分からない単語ばかり。そしたらムツキが横から顔を出してきた。
「珍しい渡り鳥。個体数が少なくて巣を持たないので知られてる。緑色の毛はまるで草のようだからそう名付けられてる」
ムツキの解説を聞いてようやく納得できた。
「それは確かにやべーです。その大きさからしてその卵はもうすぐ孵化するです。そうなったら雛鳥は死んじまうです」
「どうして?」
「巣を持つ鳥なら雛は餌は親が持ってくれるです。でもオオクサドリのように巣を持たない鳥は生まれてすぐ親の教育がはじまるです。それこそ飛び方や獲物の捕まえ方。それを覚えられなかったら飛び方も分からずにどうしようもねーです」
子は親を見て育つがそのままの意味ってことなんだね。そう考えたらこの卵が孵化したら雛ちゃんがすぐに死んじゃう。それは大変だ!
でもこの場で空を飛べるのは瑠璃だけだし……。そうだ。
「これを親に届けないと。シャムちゃん」
「ノノムラ、何考えてやがるです?」
「私を小さくできる?」
それを聞いたらシャムちゃんが大袈裟に驚いてた。大袈裟じゃないかもしれないけど。
「なっ、何言ってやがるです!」
「私が小さくなって瑠璃の背中に乗って飛んだら見つけられるかもしれないでしょ?」
普段の大きさだと瑠璃も運べないけど、それなら問題なさそう。
「確かに圧縮魔法と軽量魔法を使えばできねーこともないですけど……」
「ノラ、危ないよ。魔法が解けたら落ちる」
ムツキが心配して声をかけてくれる。きっとそれも本心だろうけど、でもこのまま新しく生まれる命が死んじゃうのはもっと辛い。
「大丈夫。無理だと思ったら戻るから。シャムちゃん、お願い」
シャムちゃんは戸惑ってる感じだったけど、最後には黙って魔法を使ってくれた。本当に身体がどんどん小さくなっていく。皆が巨人さんになってすごく大きい。小人さんの気持ちが少し分かったかもしれない。
「ぴー!」
瑠璃がすぐにそばに来てくれたからその背中に乗った。男の人も黙って頷いて瑠璃に卵を渡してくれる。
「効果は1時間くらいでやがるです。ノノムラ、絶対に無理するなです」
「分かった。ミー美、戻って来るまで待っててね」
「ミー」
時間がないから早速瑠璃に飛んでもらった。小さくなったせいか、瑠璃が本当に立派なドラゴンさんに見える。とりあえず落ちないように頭の方にしがみついてよう。
ていうか風が結構きつくて気を抜くと本当に飛ばされそう。少しでも身体を低くしないと。
辺りを見回してみるけどどこにも緑色の鳥さんはいない。結構時間も経ってるみたいだしかなり遠くに行ってるのかな。そうだったら本当に厳しい。
でも休憩する為に地上にも降りるみたいだし希望はあると信じたい。
「ぴー!」
瑠璃が大きく鳴いた。それで目を凝らしたら遠くに緑色のもふもふした鳥さんが翼をばさばささせて飛んでるのが見える。思った以上に毛先が綺麗で本当に草が揺れてるみたいだった。
「きっとあれだよ!」
「ぴ!」
それで瑠璃が急いでくれたんだけど、そんな時になんか急に暗くなった。何事かと思ったら急に突風が吹いた。私達の上を大きな鳥さんが駆け抜けたみたい。
あまりの風の強さに瑠璃もバランスを崩して横に流されていっちゃう。それでも踏ん張ってくれて何とか飛んでくれてる。けど巨大な鳥さんは一匹や二匹じゃなくて無数いる。おかげで風が強くなるばかり。オオクサドリさんとの距離が開いちゃう。
「瑠璃がんばって!」
私にできるのは応援するだけ。瑠璃は何も言わずに小さな翼を縦に広げて、身体の向きも傾けていった。わわ、落ちちゃう。でも風の抵抗がさっきよりも少ないような。もしかして身体を曲げてうまく逃がしてる?
離れた距離がどんどん近くになる。それでやっとオオクサドリさんの真横にまでやってこれた。
「ぐえっ!?」
瑠璃が卵を見せたらすごい間抜けな声で鳴いてた。やっぱり気付いてなかったんだね。
瑠璃が卵を返そうとするとオオクサドリさんが嘴で卵を挟んでそれを懐の毛の中にいれた。卵が見えなくなったからポケットみたいになってる部分があるのかな。
「ぐえーぐえー」
オオクサドリさんはずっと鳴きながら飛び去った。
「今度は卵落としちゃだめだよー」
小さくなっていくその背中に向かって手を振る。間に合って本当によかった。これで生まれてきた子供も安心だね。
これも全部瑠璃のおかげだね。
「瑠璃もありがとう。すごくかっこよかったよ」
「ぴ!」
ドヤ顔で言ってるのが何となく伝わる。こういう所はまだまだ子供だけどね。




