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94 女子高生も勉強会をする

 何気ない放課後の教室。リンリンとコルちゃんと適当に過ごしてる。


「私、将来の夢が決まったよ」


「へー。異世界の翻訳者か?」


「違うよ。それもよさそうだけど。私の夢は魔法使い」


 鞄からブリキさんのお店で買った魔法棒を出してみせてみる。


「そうか、がんばれー」


 リンリンはいつになくやる気なさそうに言ってくる。むー、これは冗談だと思ってる。


「コルちゃん、私立派な魔法使いになるよ」


「えーっと、応援してます」


 この気を使われてる感満載の愛想笑いが逆に悲しい。


「本気だよ。この棒はただの棒じゃないの。異世界でブリキさんのお店で買った誰でも魔法が使える魔法棒なんだよ」


「え、マジか!」


「それはすごいですね!」


 こっちは信じてくれるんだねー。


「でも私が持っても魔法が使えなくて、だから練習しようと思ってるところ」


「そうなのか? ただの中古品じゃないん?」


 それでリンリンに魔法棒を渡したら急に棒の先から水がブシャーって飛び出てリンリンの顔に直撃した。その拍子で魔法棒も落としてる。とりあえず鞄からタオルを出して渡しておこう。


「マジで魔法が使えるんだな」


「えー、私の時は何も起きないのにー」


「コルコも試したらどう?」


「ちょっと怖いですけど」


 それでコルちゃんに魔法棒を渡してみる。また水が出たら危ないから先っぽは天井を向けておこう。それで渡したら今度は教室の中にびゅーびゅー風が吹いた。そのせいでクラスがざわついたから、コルちゃんも慌てて魔法棒を手放した。


「あれー、リンリンもコルちゃんも使えるの?」


 正直日本人としての体質が問題だと思ってたから2人も仲間だと思ったのに。


「寧ろこっちが聞きたいくらいなんだけど。これやべぇな」


「科学を超越してると思います」


 確かに持った人によって水や風が起こすのはどんなカラクリなんだろう。ていうかこれだと私だけ使えないのが益々悲しくなってくる。私の魔力はマイナスだったりするの?


「うーん。私の時は何も反応しないのにな~」


 魔法棒を振っても何も起きてない。


「何か呪文が必要なんじゃね? エクスペリアームス、とか」


「えくすぺりあーむす!」


 意気込んで言ってみたけどやっぱり何も起こらない。


「或いはわたし達が気付いてないだけで何か起こってるかもしれません」


「そうかな。何か起きてる?」


 それでリンリンとコルちゃんがじーっと私の周りを観察してくれる。そんなに見られると恥ずかしいんだけど。


「分からん。何も起きてる気がしないぞ」


「だよね」


 やっぱり私には才能がないのかな。


「専門家に聞いてみるというのは?」


「実はこれノイエンさんに買ってもらったんだけど、その時も何も起きてないって言われたんだよね」


 ノイエンさんほどの魔法使いが気付かないとも思えないし。


「ならそれを作った人に聞くしかありませんね」


「あー。その手があったね」


 やっぱりコルちゃんは色々と機転が利く。確か博士って人が作ったみたいだから、今度ノイエンさんにでも聞こうかな。


「夢が魔法使いねぇ。何するつもりなん?」


「んー、魔術学園に通う?」


「それただの転校じゃん」


「リンリンも来る?」


「仕方ないな。ノラノラを1人行かせられないしな」


 何か乗ってくれた。こういう所はさすが親友だね。


「そして魔法の才能がないと気付いて2人共泣く泣く帰ってくるんですね」


 コルちゃんの正論でリンリンと仲良く撃沈したよ。異世界に行って一発逆転の夢が潰えちゃったー。


「魔法の勉強もいいですけど、こっちの勉強も忘れてはいけませんよ。もうすぐ進級ですし、リンさんも3年生でしょう? ノラさんも異世界に(うつつ)を抜かして勉学を疎かにしてると大変ですよ」


「コルコ、やめろっ! 現実を見せないでくれ!」


「私達はヒカリさんじゃないよ!」


「……なるほど、そうですか。ならば強硬手段にでないと行けませんね」


 コルちゃんが不適に笑った。え、何が始まってるの?


 それで鞄からおもむろに教材を取り出した。


「勉強会ですね」



 ~異世界某お嬢様宅~



「で、ぞろぞろ揃って一体何事かしら? すごーく嬉しいけど!」


 リリのお家に行ったら丁度本人が出迎えてくれた。


「うん。勉強会しようって話になって、それでどうせなら異世界でしようってなって、最終的にここに行き着いたよ」


「へー、そうなの! 楽しそうだし大歓迎よ!」


 リリが両手を合わせて嬉しそうに目を輝かせてくれる。


「リリアンナお嬢様は懐が深いねぇ。アポなしで来られてこの対応ってわたしゃ感激したわ」


「リンー? お嬢様は禁止って言ったでしょー」


「悪い悪い。手土産に家の野菜持ってきたからこれで許してって」


「えっ!? ノノの国の食べ物! 嬉しい、ありがとう!」


 リリがすっごく喜んでてかわいい。


「こちらに買ってきた果物もあります」


「こっちは皆で食べるお菓子も買ってきたよ~」


 それも一緒に渡したらリリがまたしても嬉しそうに袋を抱きかかえてた。


「わ~、こんなに沢山もらっていいのかしら?」


「うん。急に来たから」


「ありがとう! ささ、あがってあがって!」


 というわけでリリの屋敷に入らせてもらった。相変わらずメイドさんと執事さんに出迎えられてお嬢様って言われる。なるべく気にしない振りをしながらリリに付いていって部屋に入らせてもらった。


 ファンシーで洋風な部屋は前来た時と変わってない。いや、変わってる。何かバルコニーの方に黒ワンピの子が手摺に座って明後日の方角を見てる。それでこっちに気付いて振り返って驚いて手摺から落ちてた。でも何事もなかったように立ち上がってこっちに歩いてきてる。


「ノノムラノラ。よく来たな。好きに寛ぐといいぞ」


 相変わらず尊大な態度な上に、どう考えてもこのお屋敷はリリのお家なんだけど。疑問に思ってリリを見たら苦笑してた。


「帰る所がないって聞いたから、それなら家に来るって誘って、それで居候してる感じなの。色々と無作法も多くて教えるのが大変だけどね」


 まさかのリリの家で居候してるなんて。確かにここはお嬢様宅だし、キューちゃんには色々と荷が重そう。


「キューちゃん、久し振り~」


「ようやく我と共にいる決心がついたか。感心感心じゃ!」


 1人で高笑いして今日も元気そう。


「えーっと、この子もノラノラの知り合いか?」


「そうだよ。コキューなんとか、キューちゃん」


「コキュートス・ヘルヘイムって何度言えば分かるのじゃ!」


 やっぱり言ってくれた。ちゃんと覚えてるけど私が言ったら絶対に名乗ってくれないからね。


「そうか。私は如月燐。ま、よろしく」


「空井琥瑠です。よろしくお願いしますね」


「うむ。寛大な我は其方らの名を覚えてやろう」


 今回はすんなり終わってよかった。そんな感じで早速皆で机を囲む感じになった。キューちゃんだけはベッドの上で胡坐かいてこっち見てるだけだけど。


「皆で勉強するのよね? 丁度私も魔術理論の予習しようと思ってたから丁度よかったわ」


「それならよかった。今日は勉強だからお遊びは禁止だよ」


 本当は遊びたいけど禁止。うん、自制できる自信はないけど。


「ですよ、リンさん? 分かってますか?」


「何で私に言うし!」


「真っ先に飽きたと言うのが見えてますので」


「今回は絶対に言わないからな」


 リンリンそれフラグだと思うけど大丈夫かな。


 というわけで皆で仲良く勉強を始める。かりかりってペンをなぞる音だけするけど、この音を聞いてたら妙に集中できたりする。


 リリの方を見たら辞書みたいに分厚い教科書を開いて、小さな文字がびっしり書かれてるのを見ながら別の問題集っぽいのを解いてる。なんか難しそう。


「リリルさんは頭がよさそうですね」


 コルちゃんが手を止めて聞いてる。


「え? ないないない! 私なんて魔法使いとしてまだまだだし!」


「そうですか? 1人でちゃんと予習してるというのはすごいと思いますよ」


 コルちゃんがちらっとリンリンの方を見て言ってるけど、本人は口笛吹いて誤魔化してる。


「やっぱり学園の授業って難しい?」


 この前一度受けたけど内容を半分も理解できなかったし。


「授業内容は難しいとは思わないけど……」


「けど?」


「この先も魔法を使った何かを目標するなら今のままだとダメって思ってるだけだから」


 それを聞いたら何か思わず拍手したくなっちゃった。リンリンも乗ってくれた。


「いやいや! そんな褒められるほどじゃないから! ただ何となくそうした方がいいって思ってるだけだから!」


「ふふ、きっとリリルさんなら大物の魔法使いになれるでしょうね」


 確かに。やっぱり魔法使いを目指すならこれくらい研鑽を重ねないといけないんだね。私みたいにフワッとしてたらダメなんだと思う。


「やれやれ。人間は面倒じゃのう。そんな文字だらけの紙を見なければ満足に魔法も使えんとはのう。やはり我ほど優れていないとダメなのじゃろう」


 キューちゃんが高みの見物っぽく言ってくる。


「ていうかヘイム。あなたフェルラ先生から課題言われてたでしょ。せっかくだしやっておきなさいよ」


「嫌じゃ! 何故我があんな鬼ばばぁの言うことを聞かなければならんのじゃ!」


 何か腕を組んでそっぽ向いてる。これはこの前の魔法決闘の時の一件を根に持ってる気がする。


「なぁ、ノラノラ。あの、ヘイムだっけ? あの子って小学生なのか?」


 リンリンが小声で聞いて来る。その気持ちはすごく分かる。


「あの子がこの前話した死神ちゃんだよ。千年くらい生きてるそうだけど」


「マジかよ。完全に中身子供じゃん」


「彼女でも入学できるというのは魔術学園の懐の広さが伺えますね」


 人と関わってなかったから普通の常識がなかっただけ、と信じたい。


「聞こえておるぞ! 我を怒らせるとどうなるか分かっておるのか!」


 キューちゃんはベッドから降りてぷんぷん怒ってる。これくらいなら許容範囲。


「いいか、ヘイム。一度サボり癖が付くとそれは一生付き纏う。今からでも遅くないから頑張りな」


 リンリンが妙に説得力あり気に話してる。


「ほら、リンもこう言ってるしやりなさい」


「嫌じゃ! 我は勉強なんぞしたくない!」


「仕方ないわねぇ」


 リリがリンリンに目で合図して立ち上がると2人でキューちゃんの腕を掴んで引きずってきてる。


「は、離すのじゃ! 我は死神ぞ! 勉強なんぞせんでも賢いのじゃ!」


「なるほど。では賢い死神さんならこんな課題も簡単ですよね」


 コルちゃんも追い討ちと言わんばかりに黒い笑顔を見せてる。キューちゃんも自分の発言の失態に絶句してる。段々とかわいそうになってきた。


「キューちゃん、勉強頑張ったらお菓子あげるから頑張ろう」


「本当か!」


「うん。だけどちゃんと課題をしないとあげないよ」


「ぐ、ぐぬぬ。分かったのじゃ」


 それでキューちゃんも渋々椅子に座って課題に取り掛かってくれた。

 なんか勉強会というよりキューちゃんの家庭教師みたいになってるような気もしなくもないけど、とりあえず私も頑張ろう。

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