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93 女子高生も東都に行く(2)

「さてと。あたしはこれから野暮用があってね。ちょいと時間を潰していてくれないかい?」


 ブリキさんのお店を出てからノイエンさんが言った。そういえば私の買い物がおまけでそっちが本命だよね。なのに先に付き合ってくれたのは嬉しいな。


「分かりました。えっと、この共鳴石があれば大丈夫なんですか?」


「ああ。あたしが自分のに魔力を注いだらそいつも光って道を示してくれる」


 そんな便利アイテムもあるんだね。


「でもいない間に転移しちゃうかもしれません」


「その時はその時さ。共鳴石の道標がないなら察して1人で帰るさ。そんじゃまた後でね」


 ノイエンさんが手をあげてどこかに行っちゃった。知らない街に1人残されちゃったけど、これからどうしようかな。とりあえず路地裏のここを出て街の方に戻ろう。そしたら時間を潰せそうなお店もあるだろうし。


 路地裏を戻っていって曲がり角を右に曲がって、あれ左だっけ? それで次を真っ直ぐ……、いや右だったかも。それで次が真っ直ぐ? あれれ?


 この路地、迷路じゃない? 街に戻れないんだけど。と思ったら出れた。けど最初に来た通りと違って人が少ない気がする。それに明かりも殆どなくて黒いレンガで出来た何階もある大きな建物ばかりが目立つ。どこも明かりが点いてない。ぽつぽつと青白い街灯があるくらい。


 完全に出る所を間違えた感。


「ちょっと怖いなぁ。誰かに聞いてみようかな」


 辺りを見回してみる。どこも似たような建物ばかりだったけど、何か通りの一角に不似合いな黒いサーカステントがポツンと立ってた。そこだけは中に明かりが点いてて黄色く光ってる。明かりが点いてるなら人がいるよね。


 そう思って中に入った。


「いらっしゃいませ」


 中は小さな個室部屋で机が1つと椅子が2個置いてある。それで向かいに1人の女の子が座って出迎えてくれた。


 薄く黄色い髪は少し長くて、前髪にピンク色のメッシュが入ってる。頭に二本の耳が見えるからケモミミの人だね。でも耳がペタッて垂れててかわいい。耳にイアーリングをしててお洒落も感じる。尻尾はちょっと見えない。


 肩を出した黒いオフショルダーを着てて、長いスカートを履いてる。率直に言って美人なお姉さん。


「なに?」


 見惚れてたらケモミミのお姉さんに睨まれちゃった。見た目は綺麗だけど目つきはちょっと怖いかもしれない。


「えっと、道に迷ったんですけど」


「じゃあ占ってあげる」


「え?」


「迷ったんでしょ? 人生という道に」


 何かすごく勘違いしてるような。でもこの様子だとこの人は占い師さん? というかケモミミさんは色んな所にいるんだね。ちょっと興味も湧いたしここは素直に従おうかな。


 とりあえず椅子に座らせてもらう。そしたらケモミミのお姉さんが手を出してきた。


「お金」


 そうだった。


「いくらですか?」


 お姉さんが指を1つ立てる。とりあえず金貨1枚出しておこう。


「……銅貨1枚」


 解釈違いだった。


「そんなに安いんですか?」


 占うだけって言ってももう少しお金取りそうだけど。


「え、安い?」


 なんか驚いてる。この人からレティちゃんと同じ匂いがしたけど黙っておこう。手持ちに銅貨がなかったから変わりに銀貨1枚出した。


「じゃあこれで」


「分かった」


 そしたらケモミミのお姉さんが机に縦長のカードを並べ始めた。全部裏側になってて白い淵に赤色に塗られた真ん中に六芒星だけが記されてる。トランプ……ではなさそう。

 それを1つに混ぜてトントンして揃えると私の前に置いた。


「運命を混ぜて」


 言われた通りにとりあえずカードをシャッフルしてみる。何度かカットしたけどけど何も言ってこない。混ぜ足りないのかな。それなら1枚ずつ並べていって混ぜ合わせよう。

 並べたけどこのカード思ったより枚数が少ない。12枚?


 それでもまだ何も言ってこない。いつまで続けたらいいんだろう?


「……まだ混ぜるの?」


「もういいの?」


「適当でいいんだけど。ここまで混ぜる人は初めて」


 そう言われたからカードを返した。これは悪い結果になりそうな気がする。

 それでケモミミのお姉さんはカードの山を机の真ん中に置いて目を瞑った。


「運命の結果はいつも正直。常にいい結果が出るとは限らない」


「うん」


「けれど運命を変えることもできる」


「ほう」


「いい結果も悪くなるかもしれない」


「そうなんだ」


「あの、別に話しかけてない」


「あー、ごめんなさい」


 占いの儀式的な何かだったのかな。それでケモミミのお姉さんは一呼吸置いてからカードの山の一番上を捲って表向きにした。


 そこには高貴そうな洋服に身を包んだ女性が涙を流してる絵が描かれてた。


「結果は《姫》。焦らずとも待てば結果は付いて来る。されど追い求めて走れば求めるものは遠くなる……これがあなたの道に対する答え」


 果報は寝て待て?


「まだ引く?」


 ケモミミのお姉さんが聞いてきた。


「引いていいの?」


「いいよ」


 そう言われたら引きたくなるから引いてみた。場に出たのは大きな2本の角を持った2本足で立つ怪物みたいなカード。


「《魔王》。あなたが進む未来に困難が待ち受けている。試練とも言える。乗り越えるのは難しいかもしれない。別の道に進むべきかもしれない。けれどその先にあなたが求める答えはある……これが結果」


 なんだか一気に不穏な感じになったんだけど。これなら引かない方がマシだったのかな。


「まだ引く?」


「まだ引いていいの?」


「うん」


 というわけで引いてみた。次に出たのが剣と盾を持った男性のカードだった。


「《勇者》。あなたは困難に打ち勝った。あなたは輝かしい未来を手にして幸せを手に入れた。その幸せこそがなによりあなたが望んだもの……これが結果」


 なんか勇者が魔王を倒したみたいになってるけど大丈夫なのかな。私の人生の困難はどこに行ったんだろう。


「まだ引く?」


「これって占いだよね?」


「そう」


 次引いたらどうなるんだろう。この調子だと敵が現れてまた物語が始まりそう。


「これくらいでいいかな。ありがとう」


「ん」


 ケモミミのお姉さんはカードを裏側にして戻してた。結局何の占いかはよく分からなかったけど。


「ちょっと気になったんだけどいい?」


「どうぞ」


「勇者ってこの国に存在するの?」


 私の中ではゲームや漫画だけの存在だって思ってたから異世界でも出てくるとは思わなかった。


「多分、いない」


「多分?」


「このカードは勇者物語っていう本をモチーフにして作ってあるから」


 それでケモミミのお姉さんがカードを一枚ずつ並べて見せてくれた。どれもそれぞれ違った人や動物、魔物が映ってた。それぞれ何か教えてくれて、《勇者》《姫》《魔術師》《騎士》《聖女》《冒険者》《魔王》《ドラゴン》《スライム》《オーク》《死神》《狼》の12枚からなるそう。


「占いの仕方も色々あって勇者サイドと魔王サイドを分けて占う方法に12枚全部使った占いもある。他にも11枚で輪にして余った1枚を取ったり、上下反転させて意味を変える占いもある」


 こういうの見たことある。タロット占いかな?


「へー。でも本をモチーフにしてなら勇者はいないんじゃない?」


「元々この話は実話とも言われてる。けど大昔過ぎて証明できない」


 なるほどー。今度異世界の本屋さんで探してみようかな。


「ねぇ、また占ってもらってもいい? 今度はさっきと違うやり方で」


「いいけど……。そんなに占って欲しいものがあるの?」


「そういう訳じゃないんだけど、お姉さんの占いをもっと見てみたいっていうのかな」


「ふーん。あなたって変わってるね」


「そう?」


「そう」


 ケモミミのお姉さんが素っ気なく言ってくる。やっぱり何度も占うのは迷惑だったのかな。

 なんとなくケモミミのお姉さんを見たら耳がぴこぴこ動いてた。さっきよりも。

 なんでだろう?


「お姉さんは占いが好き?」


「嫌いだったら仕事にしないと思うけど……」


 それもそうだった。


 カードを混ぜて一枚ずつ並べてくれてる。今度はどんな占いなのかな。


「次は何を占って欲しいの?」


 ぶっきら棒に聞いてくる。


「じゃあ、お姉さんとの今後の関係」


 そしたらカードを並べる手が止まったんだけど。なんで?


「そんなの占ってどうするの?」


「だって気になるー。今日限りだったらちょっと寂しい」


「あなたって変わってるって言われるでしょ?」


 それはあんまり否定できないかもしれない。ケモミミのお姉さんは軽く溜息を吐いたけどカードを並べ始めた。


「別にいいけど。結果は期待しない方がいいよ」


 それでカードをピラミッド状に並べてあった。それで2枚のカードが余ったからそれを私とお姉さんの前に置いた。


「それがお互いの占いの結果になる」


「うん。見てもいい?」


「どうぞ」


 それで捲ったらそこには祈りを捧げてる女性の姿があった。さっき聞いたばかりだから覚えてる。確か《聖女》のカード。


 それでケモミミのお姉さんもカードを表にしてた。そこにはもふもふした獣さんのカードが映ってる。こっちは《狼》だったよね。でもカードが私の方を向いてるから逆向きになってる?


「それでこの結果はどういう意味?」


 聞いてみたけどお姉さんはカードをじーっと見たまま動かない。


「お姉さん?」


「なに?」


「えっと、占いの結果なんだけど……」


「今日はもうお終い。調子が悪い」


「それは大変! 送っていくよ?」


「いや、別に。本当大丈夫だから」


 ケモミミのお姉さんがさっきからこっちを見てくれない。なんで?


「もしかして悪い結果だった? それで気を使ってくれてる?」


「そういう意味じゃないけど……」


「うーん?」


 歯切れ悪い返事ばかりでケモミミのお姉さんの言いたいことが分からない。


「聖女は愛情、親愛、保護を意味する。対して狼は孤高、離反、決別を意味する」


「うん」


「でも狼が反転してるから意味が変わる。つまり……」


「つまり?」


「あなたは私に好意を抱いて……私はそれを受け入れる」


 ほうほう。それは何だか聞いてていい感じの結果だと思う。


「悪くない結果だと思うけど、何か思う所があった?」


「少なくともあなたとはまたどこかで会う。それも、あなたが喜んで」


「えっと。それの何がダメなんですか?」


 普通にまた再会できるなら素敵だと思えるけど。


「私はそういうの興味ない。占いは今度こそ終わり」


 ケモミミのお姉さんはカードを片付け出してぶっきら棒に言った。この様子だと何を話しても答えてくれなさそう。


「占ってくれてありがとう。そうだ、お名前聞いてもいいですか?」


「もし、また会えたならその時教えてあげる」


「分かった。また会えるの楽しみにしてるね」


 ケモミミのお姉さんは頬杖を付いて視線を外してる。会って間もないし仕方ないよね。でも占いの結果が本当ならきっと運命が導いてくれるって信じてる。


 そう思ったらまた1つ楽しみが増えた。


 あ。道を聞くの忘れてた。ま、いっか。

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