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87 女子高生も姉妹と間違われる

 キューちゃんを連れて広い世界に出た。央都の行き方が分からなくて、道に迷っては旅人っぽい人に道を尋ねて、また迷って、また尋ねてを繰り返して、それで何とか樹海っぽい所の前まで来れた。明らかに手入れもされてなさそうで、どこに道があるかも分からなくて、地面が全部緑で浸食されてる。


 それに木もまるで生きてるようでウネウネした形のが一杯見える。ここを抜けたら央都に着くみたいらしいけど、熟練の冒険者でも出るのに3日はかかるって言われた。迂回路もないみたいで、本当に困ってる。


「どうしよう」


「行くしかなかろう。それにどんな魔物じゃろうと我に敵うまい」


 キューちゃんは自信満々に言ってる。寧ろ今すぐにでも戦いたそうでウズウズしてる。キューちゃんがすごいのは何となく分かるけど、私としては制服で樹海を抜けるという方が気になってる。キューちゃんもワンピ姿だし変に汚したらせっかくの思い出の服が台無しだよ。


「あれ。ちょっと待って。よくよく考えたらこんな面倒なことしなくていいんじゃない?」


「なに?」


「そうだよ。一回向こうに戻って、それからまた来たらいいんだよ」


 キューちゃんを外の世界に出して、央都に行くのに気がいってたからすっかり忘れてたよ。


 というわけで向こうに戻るまでダラダラしてた。キューちゃんの手は握ったままでね。そしたら視界がブラックアウトして、地元の森の中に戻って来てた。そんなに深くなさそうで町が見下ろせる丁度いい砂利道の中。まだ1月だから雪もそこそこ積もってるけど天気がいいからこの調子だとある程度は溶けそう。


「な、なんじゃ!? 何をした!」


「転移?」


「まさか本当に使うとはのう。それでここはどこなんじゃ?」


「私の国だよ。あっちとは別の星、になるのかな?」


「むぅ。言葉の意味を理解するのに時間が必要じゃのう」


 そういうわりにそんなに驚いてないようにも思えるけど。やっぱり長生きしてたらそういうのも経験するのかな。


 見慣れた場所だと流石に迷子にもならなくて家まで帰って来れた。町の構造とか、車に驚かれるかなって思ったけど、そもそもキューちゃんは人間社会を知らないから寧ろ興味深そうに観察してるだけだった。


 庭に入ったら瑠璃と柴助が威勢よくやってきた。他の子もいるけど知らない人を見てちょっと警戒してる。


「ぴー!」


「わふわふ!」


「な、なんじゃこやつらは! 離れんか!」


 好奇心旺盛な2匹にぴったりくっ付かれてキューちゃんがあたふたしててかわいい。


「ええい! こうなったら我が魔法で……」


「瑠璃、柴助。キューちゃんはまだそういうのに慣れてないからスキンシップはほどほどに、だよ」


 そう言ったらどっちもソッと離れてくれた。


「ちゃんと従魔を飼いならしてるとは感心じゃ。我が心中を察しての行動、良き故じゃ」


「えっと。従魔じゃなくて家族だよ?」


 前にも言われたけどそういう契約的なのはしてないし。


「なに? それではあの言いなりよう。お主、何をした?」


「何もしてないよ。皆良い子だから」


「むぅ。解せぬのう」


「皆~、私はキューちゃんとまた向こうに行ってくるからお利口さんにね~」


 そしたら皆から同時に返事がきた。猫丸だけは寝てたみたいで何も言ってなかったけど。

 それでキューちゃんとぶらぶらしながら歩いてたら、何とか異世界に行けた。

 家の近くだったから、いつもの広場だね。今日もにぎやかで多くの人がいる。

 やっぱりこうした方が早くて確実。


「今度はどこじゃ!」


 キューちゃんがまた違った所に飛ばされて慌ててる。


「ここが央都だよ~」


「ころころ景色が変わって我はいよいよ頭が混乱してきたぞ」


「ここから変わらないから大丈夫。とりあえず行こっか」


 人通りが多いからキューちゃんの手を引いて歩いていく。誰もキューちゃんを気にしてる様子はなさそう。魔族って聞いたけど見た目的にはケモミミの子の頭が角に変わっただけだから驚かないのかな。それにノイエンさんの話からしても魔族を知ってる人も少ないのかもしれない。それなら変な偏見ももたれないだろうし安心。


「おー、嬢ちゃんじゃねーか。久し振りだな」


 丁度、鳥頭の店長さんの店の前を通ったら声をかけてくれた。今日も真っ赤なリガーを箱から溢れそうなくらいに売ってる。


「こんにちは。今日も新鮮なリガーで一杯だね」


「ははっ、これしか扱ってないから鮮度には絶対の自信があるんだ。ここのリガーを食べたら他で売ってるリガーなんて食えないぞ」


 確かにここで売ってるリガーは本当に美味しい。瑠璃がずっと飽きずに食べてくれてるのがその証拠。


「せっかくですから少し買っていこうかな。リガー2つ貰っていいですか?」


「毎度! 280オンスだ!」


 異世界用の財布から銀貨3枚取り出して渡した。それで銅貨2枚を返してくれる。


「どれにしよっかなー。キューちゃんはどれがいい?」


「我には区別が分からん。どれも同じじゃろう」


「えー、全然違うよー。これとか他より大きいし、こっちは赤くて味が濃そう」


 試しに見せてみるけどキューちゃんは特段感慨もなさそう。食べるのはあまり興味がないのかな。そういえばずっと洞窟生活で食事はどうしてたんだろう。


「そっちは嬢ちゃんの妹か?」


 鳥頭の店長さんがポツリと言った。まさか姉妹と間違われるなんて。


「んな訳なかろう! この角が見て分からぬか!」


「それは見て分かる」


「なら何故間違う!?」


「長年の勘って奴だ」


 鳥頭の店長さんが腕を組んでドヤ顔してる。でもそう言ってくれるのは地味に嬉しい。今までそういう風に言われたこともなかったし。


「そうなんだよ。血は繋がってないんだけど、私の大事な妹だよ」


「だと思ったぜ! よし、ならリガーを1つサービスしてやろう!」


「嬉しい。ありがと~」


 リガーを3つ貰って手を振ってから鳥頭の店長さんと別れた。通りをとぼとぼ歩いてたけど、キューちゃんは何か不機嫌そう。


「何故あんな嘘を言ったのじゃ」


「妹って思ったから?」


「我は思っておらぬ!」


「それに冗談でもああ言った方が喜んでるくれるかなーって思ったから。リガー食べる?」


 リガーを1つキューちゃんに渡したけど、まだ何か納得してないようでぶつぶつ言ってた。冗談はあんまり好きじゃない方なのかな。んー、どういう風にしたら喜んでくれるんだろう。


「ここに切り目を入れたら食べれるよ。そのままだと柔らかくて食べられないの。でも今はナイフも持ってないから食べられないの」


「なら何故渡したんじゃ!」


「んー。その場のノリ?」


「……お主の思考が段々と分からなくなってきたぞ。いや、元からか。仕方あるまい」


 そしたらキューちゃんが人差し指を横にピッて振ったらリガーの頭が切れた。おー、流石は魔力過多の種族。こんなのもお手の元なんだね。


「私のも切ってもらっていい?」


「やれやれ。ほれ」


 シュバッて感じに切れた。それでリガーの汁が零れる前に軽く飲む。うん、甘くて美味しい。


 でもキューちゃんはリガーを見たまま食べそうになかった。あれ、もしかしてリガー嫌いだったのかな。


「美味しいよ?」


「今まで食事なんてしてこなかったから勝手が分からん」


「それで生きられるの?」


「魔族は魔力が生命活動の源じゃ。空気中の魔元素さえ吸収できれば食わずとも生きられる」


 そうなんだ。それが長寿の秘訣なのかな。でもそれはそれで勿体ない気もする。


「だったら初めての食事だね。きっと気に入ってくれると思うよ」


 キューちゃんはコクリと頷いてから私と同じように汁を吸った。それでゴクッて喉を鳴らしたから何となく見てる。お味は?


「うまい……」


「うん」


「うまいぞ!」


 キューちゃんが目をきらきらさせて私の方を見てくる。じじくさいと思ったけどやっぱり歳相応なんじゃないかな。これはナデナデしたくなるけど怒られそうだし我慢しよう。


「美味しいよね」


「うむ! これは気に入った! ノノムラノラ、お主を褒めてやろう!」


 腰に手を置いて尊大な態度を取ってるけど傍目から見たら背伸びしてる子供にしか見えない。やっぱり見た目の要素って大きい気がする。


「だったらもう1つ美味しいのを教えてあげるね」


 丁度噴水広場に来てたからそのまま東側へと歩いて行った。その通りを歩いてたら木の家で出来た素敵なパン屋さんがある。今日もきっと焼いてると信じたい。


 扉を開けたらエプロン姿のシロちゃんが窯からプレートを取り出してる所だった。


「キタキタキツネです! あっ、ノララ!」


「キタキタキツネ~。パンを買いに来たよ~」


「アリガトキツネです! 丁度新作のパンが焼けた所なのです!」


 それで机に置いたプレートを見たらそこに星型のパンがいくつも並んでた。カラースプレーチョコみたいなのがまぶしてあって見た目も可愛くて美味しそう。


「星虫から取った蜜を中に詰め込んだパンです! 今度の購買に売ろうと思ってるのです!」


 今もちゃんと購買で稼いででしっかりしてるんだね。新作も研究してるのはシロちゃんのパン好きも相変わらずで安心する。


「それでそちらのお客様はノララの妹さんだったりです?」


 シロちゃんがキューちゃんを見て首を傾げてる。まさかのここでも間違われるなんて。余程似てるのかな。髪の色も違うんだけど。


「そうなんだよ、実は……」


「妹ではないぞ。断じてな」


 冗談でまた妹だよって言おうと思ったけど先に釘をさされちゃった。


「この子はキューちゃんだよー」


「違うわい! 我はコキュートス・ヘルヘイムだと何度言えば分かる!」


 隣でぷんぷん怒ってるけど、全然怖くないんだけど。寧ろかわいい。


「そうでしたか! 私はモコ・シロイロと言います! よろしくです!」


 シロちゃんがペコリとお辞儀をしてくれてるけど、キューちゃんは腕を組んだままそっぽを向いてる。


「駄目だよ、キューちゃん。相手が自己紹介してるのにちゃんと向き合わないと。そんな態度してたらキューちゃんのパン抜きにするよ?」


「そ、それは困るのじゃ」


「だったらこっちもよろしくして? ちゃんとシロちゃんの方を向いて」


「よ、よろしくなのじゃ」


 キューちゃんは慣れてなさそうに小声でボソッと言った。でもシロちゃんはしっかりと聞こえてたみたいでヨロシクキツネしてくれてよかった。


「それじゃあ早速このパン売ってもらってもいい? 2つ欲しいんだけどいくらかな?」


「そんな! ノララにはよくしてもらってるからお金なんていいのです!」


「ダメだよ。ちゃんとお金取らないと。親しき仲にも礼儀ありって言葉が私の国にあるくらいなんだから」


 それで財布から金貨1枚を取り出したらシロちゃんは受け取ってくれた。おつりはよかったんだけど、シロちゃんはしっかりと2人分を計算しておつりを払ってくれた。


 それで熱々のパンを紙に包んで貰って受け取った。その1つをキューちゃんに渡して早速食べさせてもらおう。


「頂きます」


 パクッて一口食べたらすごく甘-い風味が口の中に広がった。パンの中を見たら黄色いジャムみたいなのがびっしりと入ってて、しかも結構トロトロ。ジャムと思ったけど、これ口の中に入ると何か舌の上で溶けていく。パンも柔らかくて殆ど噛まずに食べれる。


「すごく美味しい。これなら購買でも大好評すると思うよ」


「やったです!」


 正直美味しいからもう1つ食べたいけど体重が怖くなるから我慢しよう。


「キューちゃん、どう?」


 声がしないから見たら何かパンを1口齧った状態で硬直してる。あれ、もしかして口に合わなかったのかな。


「う……」


「う?」


「うまいのじゃ! なんじゃこれは!? どうやって作ったのじゃ!?」


 キューちゃんがパンを片手にシロちゃんに詰め寄ってる。うん、よかった。美味し過ぎて固まってたんだね。


「これはうまいのじゃ。こんなうまいのを知らずに生きてたとは人生の半分くらい損してたのじゃ」


 うまいうまい言って食べてる姿を見たら何かシャムちゃんを思い出す。2人並べて美味しいのを食べさせたら良い画になりそうな気がしてきた。それでキューちゃんは満足してくれたみたいでペロッとパンを完食してた。


「ごちそうさま。本当においしかったよ。また来るね」


「はい! いつでも待ってるのです!」


 それでシロちゃんの店を出て街を歩く。お腹も一杯になったし何か満足してきた。そういえばどこを目指してるんだっけ?


「それで魔術学園とはいつ行くのじゃ?」


 そうだ、魔術学園だった。なんか食べ歩きしてたせいですっかり目的を忘れてたよ。


 それで今度は寄り道をせずに魔術学園に行った。校門前には生徒が木のアーチの中に入っていくのがぽつぽつ見えた。大分時間も立ってるし授業も始まってるんだろうね。とりあえず校庭に向かって歩いていこう。


「ここが魔術学園か。想像通り貧相な所じゃ。見る人間も大したことなかろう」


 すれ違う人を見てはそんなこと言ってる。


「やっぱり魔族ってそんなにすごいの?」


「当然じゃ。我が魔力の総量は余程魔法の才に恵まれた人間でなければ追いつけなかろう。それほど生まれながらにして基礎魔力に差があるのじゃ」


「へー」


「じゃからこのような所に我を連れたとて、無駄じゃと思うぞ。すぐに天下を取ってしまうじゃろう」


「それもいいんじゃない? 頑張ったらそれだけ色んな人から声をかけてくれるだろうし、皆もキューちゃんを認めてくれると思うよ」


「なるほど……。我が力を見せ付ける手前、ここの人間を配下にするのも悪くなかろうて」


 なんか納得して頷いてる。よく分からないけど目標が出来たなら良い事だよね。それで学園の廊下を歩いてたら見慣れた金髪の親友がこっちに走ってきて手を振ってくれた。


「リリー、こんー」


「ノノ! 会いたかったわ!」


 とりあえず軽くハイタッチをして挨拶的な感じにしてみる。


「キューちゃん、紹介するね。この子は私の親友のリリだよ」


「えっ、もしかしてこの子ってノノの妹だったり!?」


 二度あることは三度あるかぁ。私が何かを言う前にキューちゃんが全力で否定してた。


「そっ、そうよね。私はリリアンナ・リリルよ。よろしくね」


「うむ」


 キューちゃんがまた腕を組んで尊大な態度をしてる。うーん、これは常識から勉強した方がいいのかもしれない。


「キューちゃん、相手が自己紹介してくれたらこっちも名乗るのが礼儀だよ」


「ならばお主がすればよい」


「分かった。リリ、この子はキューキュー星からやってきたキューちゃ……」


「コキュートス・ヘルヘイム。この名を覚えておけ」


 私が言い終える前に名乗ってくれた。よかった。


「うん、覚えた。それでノノ、今日はどんな用で来たの? あ、もしかしてフェルラ先生に用事だったり? それなら邪魔したら悪いわね」


「ううん。大丈夫だよ。実はリリにお願いがあるの」


「いいよ。何かしら?」


「キューちゃんはこれから魔術学園に通うからその間面倒を見てあげて欲しいんだ」


 キューちゃんの肩を掴んで前に出してみる。本人はすごく嫌そうな顔をしてたけど。


「ええっ!? まさかの!?」


「うん。右も左も分からないと思うから授業とかサポートしてあげて欲しいなぁって」


「私はいいけど、こんな小さい子が学園に通うの?」


 リリがちらっとキューちゃんを見て呟いた。それを聞いたキューちゃんがまたしても不機嫌な顔になってる。


「誰が小さいじゃ! 我は千年を生きた死神じゃぞ!」


「はいはい。私も小さい頃そういう妄想したわ」


 リリもそういうのした時期があったんだ。


「本当じゃぞ! なんならこの場で試してやろうか? 我が魔力を全て解放して……」


「キューちゃん。それしたら二度と美味しい物食べれなくなるけどいい?」


「そ、それは困るのじゃ」


「だったら約束。ここにいる間は人に危害を加えちゃ駄目。そしたら美味しいの沢山ご馳走してあげる」


「分かったのじゃ。我は寛容じゃからな。その辺の人間になど興味はないのじゃ」


 分かってくれたみたいで一安心。


「それじゃあリリ、後はよろしくね」


 私だと授業の履修科目とかこっちのやり方が分からないからベテランさんに任せるのがいいよね。素人は素直に退散だよ。


「待て! ノノムラノラ! 我を置いていくと言うのか!」


「ノノ、もう行っちゃうの!? もう少しお喋りしたいんだけど!」


 息ピッタリで引き止められたんだけど。それで2人が目を合わせて何か握手してる。私の見えない所で一瞬で友情が芽生えたよ。

 でもこれなら私がいなくともきっと大丈夫だよね。

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