84 女子高生も異世界で年を越す
大晦日。今日で一年が終わる最後の日。そんな特別な日でも時間の進み方は変わらなくて、もう夜の7時を過ぎてる。そろそろ、行こうかな。いつもよりお洒落をして鞄を持って部屋を出た。
台所を通り過ぎるて居間を通るとお母さんとお父さんとおじいちゃんが寛いでて、今年の紅白を見てる。
「あら、ノラ。でかけるの?」
お母さんが気付いたいたい。
「うん。友達の所に行ってくる」
「そう。外も暗いし気をつけるのよ」
「大丈夫。こっちじゃないから」
今年は異世界で年を越すって決めてる。だから多分大丈夫。私の言葉の意味を理解してなくて、お母さんとお父さんが疑問そうな顔をしてる。おじいちゃんだけは察して笑ってた。
「瑠璃~、は寝てるのかぁ」
瑠璃は猫丸と柴助の間に挟まってすやすや眠ってる。その近くにはこん子とたぬ坊も寛いでた。一緒に行こうかなって思ったけど無理矢理起こすのはかわいそうかな。そっとしてあげよう。
「それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
家を出たら外は真っ暗。冬至だからお日様もすっかり沈んでる。雪もぽつぽつ降ってるけどそんなに積もってはない。ミー美が気になって小屋をそうっと開けたら、おじいちゃんが持ってきてくれた藁の中でぐっすり眠ってる。よかった、これで心置きなく行けるかな。
向こうに着くまでは町を歩いてよう。どこも電気が付いてて賑わってるのが分かる。ご近所さんの家に車が沢山停まってたりするのを見ると息子さんとかが帰ってるのかな。
息が白くなっては消える。寒いけど、こうして雪を見ると冬が来てそれで終わるんだなって実感する。そうやって考えてたら景色が変わった。ばいばい、私の世界。次は来年になってからだね。
いつも通り異世界の街に来たけど何か今日はちょっと雰囲気が違う。何か騎士の人があちこちで歩いてて見回りをしてたり警備してるように見えた。普通の人も歩いてるけどあんまり見ない。
「あっ、ノラ」
そしたら丁度ムツキが私の方に寄ってきた。そっか、騎士だからムツキもそうなるのかー。
「ムツキだ~。何か今日は騎士の人が沢山だね」
「うん。この時期は帰省する人が多いからその為に警備を強化してるの。店や家に空き巣が入ったら大変だから」
そういえばレティちゃん達も帰ってるから店も閉まってるんだね。そう考えたら確かに閉まってる店は多そう。
「ノラはこれからどこに行くの?」
「特に考えてないけど、でも誰かと過ごしたいなぁって思ってるな。今日は私の国で一年の終わりが来て、もう少ししたら新しい年が来るの。だから新年をこっちで迎えよーって思って来たんだよ」
「それは素敵」
「ムツキは……仕事で忙しいよね」
せっかくだからムツキとも一緒に年を越したかったけど、今回は無理そう。
「多分大丈夫。ちょっと聞いて来る」
そしたらムツキがちょっと偉そうな騎士の人の方に行って何かを話してる。少ししたらこっちに戻って来た。
「うん、いけた。今日はフリーだよ」
「そんな簡単にいけるの?」
「騎士の人でもこの時期は帰る人もいるし、それに変な人は早々に出ないから。私も特にすることがなかったから警備をしてようと思ってただけだから」
「そっか。ありがとう、ムツキ」
私の為にそこまでしてくれたのは素直に嬉しい。お礼にハグをしてあげよう。ぎゅー。
「の、ノラ……。さすがにそれは恥ずかしい、よ」
「感謝の気持ちだよー。そうだ、せっかくだからリリも呼んでみるね」
呼び子笛を吹いたら鳥さんが飛んできたから、その紙にアラビア文字みたいなのを書いてみた。
「ムツキ。門ってこの字で合ってる?」
「うん、大丈夫」
よかった。前にリリとムツキに習ったかいがあったね。後は私の名前も添えて届けてもらうだけ。
10分もしない内にリリが広場にやって来てくれた。
「ノノー! 会いたかったわぁ!」
リリが飛びつくように抱きついてくる。相変わらず友好的だねー。私もハグを返しておこう。
「来てくれてありがとう、リリ。今日は私の国で年の終わりだからこっちで皆と過ごそうと思ってた所なんだよ」
「そんな大事な日によかったの?」
「うん。せっかくだから異世界で年を越すのも悪くないかなって思って」
これで皆に自慢できるからね。そしたらリリもムツキも嬉しそうに笑ってくれた。
「だったらノノを最大限に楽しませないとね。任せて!」
リリはいつになく張り切ってる。やる気満々だなー。でもその前に。
「実は皆で食べたい物があるんだ。せっかくだから一緒に食べよう」
そしたらリリとムツキはちょっと首を傾げてたけど頷いてくれた。とりあえず材料はあるけど作る所が必要だなー。この近くで作れる所って行ったら……。
目に入ったのは街の酒屋さん。厨房、借りても大丈夫かなぁ。忙しさ具合を見て判断しよう。それで店を開けた。
「いらっしゃいませ! わ、ノリャお姉ちゃんだぁ!」
店を開けたらセリーちゃんが腰に抱き付いてきた。今日はよく抱き付かれるな~。でもあんまり抱きついてたら鴉頭の店員さんに怒られそうと思ったけど、今日に限っては何も言ってこない。というか何か静か?
店を見たらガラガラで客所か、鴉頭の店員さんも狼頭の大将さんすら居なかった。
「クーロとたいしょーはきせいで居ないんだよー」
あの人達も帰ってるんだね。そう考えたら本当に人は出払ってるんだ。でもこれは丁度いいかも?
「セリーちゃん、実は厨房を貸して欲しいんだけどいいかな? 一緒に食べたいものがあるの」
「ノリャお姉ちゃんの!? 食べた~い!」
というわけで小さな大将代理さんの許可も得られたし、早速調理をしよう。まずは手を洗って鞄から材料を取り出していく。料理って言ってもそんなに手間はかからない。というか私が料理できないから手間のかからないように出来たものばかり買ってきたし。
「それでノリャお姉ちゃんは何を作るの?」
並べた材料を見てセリーちゃんが首を傾げる。
「年越し蕎麦だよ」
「年越し蕎麦?」
リリが知らずに首を横にしてる。ムツキも疑問符を浮かべてる。
「私の国だと年の終わりにこれを食べて新年に備えるんだよ。何か縁起物の食べ物って言ってたかな」
「へ~、それは良さそうね」
「うん。是非食べたい」
そう言ってくれたから、これは料理を頑張らないとね。って言っても蕎麦に入れる海老天は既に揚げたのを買ってあるし、かまぼこと葱は軽く切るだけだし、蕎麦も茹でるだけ。味付けも天下の出汁の素さんと醤油とみりんがあれば多分大丈夫。
それでお鍋を借りて水を入れて、セリーちゃんとリリに火の魔法を使ってもらって水を沸騰させてもらう。その間に出汁の素と醤油とみりんも混ぜて、後は隠し味に何か欲しいなぁ。そうだ、七味を入れたら美味しくなるし、こっちの辛味と言えばマンダース。それを借りてちょっとだけ入れてみた。
後は蕎麦をぐつぐつ茹でて、軽く味見をしたけど辛すぎなくて大丈夫そう。麺が柔らかくなり過ぎない内に丼に移して、最後に具材を盛り合わせたら完成。
それをテーブルに運んでみんなで食べることになった。けどよく考えたらこっちにはスプーンやフォークしかないんだった。大変!
慌てて鞄を漁ったら割り箸が10個くらい出てきた。そういえばもしもの時の為に入れてたの忘れてたよ。それを皆に渡してみる。
「ノノ、これは?」
「お箸だよ。私の国だとご飯はそれで食べるんだよ」
「へぇ」
それで割り箸を割ったけど何か変に割れた。うん、失敗。私のを見てみんなも割ってる。リリもムツキも綺麗に割れてる。セリーちゃんは力が入らなくて代わりにムツキが割ってた。これまた綺麗に。うん、私もムツキにお願いすればよかった。
「それじゃあ頂きまーす」
年越し蕎麦実食……ってなったんだけど、やっぱり皆お箸の使い方が分からなくて困ってる。
「えっとね、親指をこうして、人差し指と中指でこうやって動かして食べるんだよ」
「えっ、むずかしくない!? なにこれ!?」
「……無理」
「ノリャお姉ちゃんのご飯が食べれないよー」
私は子供の時からこれで慣れてたけど、やっぱりお箸って使いにくい物なんだね。
「食べにくかったらいつも使ってるのでも大丈夫だよ」
私もスープ飲むのにスプーンを使うし。そう言ったらセリーちゃんとムツキはいつも使ってるのに戻してた。でもリリだけ頑張ってお箸で麺をすくおうとしてる。指がプルプルしてて健気でかわいいな~。
「リリも無理しなくていいよ?」
「せ、せっかくなんだからノノの国の食べ方で味わいたいわ!」
なんという探究心。そこまで言われたら嬉しいね。とりあえずリリには持ち方を教えながらゆっくり食べてもらおう。
とりあえずスープを1口飲んでみる。マンダースを入れたからどうなるかなって思ったけど、良い感じに辛くて体が温まる味。それに出汁の素と醤油は普段から食べ慣れてるからやっぱり安心する。
「おいしい。何か懐かしい味」
「分かるわ。何だか心が温まる味がする」
「ノリャお姉ちゃんの料理おいしい!」
よかった、皆からも好評みたいで安心。これで皆にも縁起が渡ればいいな。
スマホで時間を見たらまだ8時。年を越すにはまだ時間はあるね。
「ノノ。この後って予定はある?」
「ないよ~」
年越し蕎麦も食べたからとりあえず満足。
「でもノラがこんな時間にこっちに来るなんて珍しい」
確かにそうかも。いつもは昼間が殆どだし。
「今日はちょっと悪い子になって遅くまで起きてるんだよ~」
なんとなく日が変わるまで起きていたいよね。
「今は人もいないし央都で遊べる所も限られてるわね」
「私は皆とお喋りしてるだけで楽しいよ」
「この時間は星がきれーだよ!」
セリーちゃんが言った。そういえば前にリリと一緒に見た星砕きも夜だった気がする。
「じゃあ皆で見に行こう?」
「そうね。丁度食べ終わったし。ご馳走様」
「美味しかった。ご馳走様」
「ごちそうさまだよ~」
「こちらこそ、ありがとう」
お皿も洗って酒場を後にしたら外は結構暗くなってる。群青色の夜空が暗くて綺麗。
星が見える所ってなって外壁の階段を登った所にあるベンチに腰を下ろした。
「ここ、懐かしいなぁ」
「ここでセリーちゃんと一緒に履歴書を作ったんだよね」
「うんっ! それでノリャおねえちゃんのおかげであのお店で働けるようになったの!」
確か鳥頭の店長さんの前でセリーちゃんが必死に仕事を探してて、それで私が誘ったんだっけ。なんだかすごく昔に感じるなぁ。思い返せば異世界に来て色んなことをした。
魔術学園の授業に参加したり、色んなお店に行って色んな人と出会って、騎士学校にも行ったなぁ。天球塔に登って、生誕祭に参加して、異世界の渓流にも行った。
一年とは思えないくらい、人に動物と知り合った。今までの私だと考えられないくらい壮絶な一年、だったと思う。毎日が楽しくて、退屈しなくて、時間があっという間に過ぎていくんだよね。
「あっ! 零れ星!」
リリが指を差した。その先には大きなキラキラがどこかに落ちていくのが見えた。星砕きとはまた違うのかな。暗いおかげでその輝きがまるで月明かりのように青白く照らし続けてる。
願い事は……いいかな。私の願いはもう叶ってる。こうして皆とお話できるだけで満足だから。
それから他愛のない話をして、思い出話をしたりしてたら時間はどんどん過ぎていった。スマホを見たらもう11時半を過ぎてる。現実世界で除夜の鐘が鳴り出す頃。
「そろそろ移動しよっか」
それで立とうと思ったんだけどセリーちゃんがすやすや寝てて、私の肩に寄りかかってる。これは起こしたくないなぁ。そしたらムツキがセリーちゃんを抱っこしてくれた。
「孤児院まで連れて行くよ」
「私も行くよ」
「ううん。もう遅いしノラは先に行っていいよ」
行くって言ってもどこに行こう。それにこのままだとどこかでお泊りしないと駄目なような。
「それなら私の家に来る?」
リリの嬉しい提案。
「ありがとう。それじゃあお邪魔するね。ムツキ、またね」
「うん。また」
ムツキと手を振って別れた。結構暗いからムツキの姿もすぐに見えなくなっちゃう。
「私達も行こっか」
「そうね」
リリと2人きりで街を歩いてた。出店の前を通ってもどこにも人はいなかった。皆帰ってるのか、それとも時間が遅いからかは分からないけど。
いつも歩く道はどこも静か時々徘徊してる騎士の人と出会うくらい。幸い私達は不審者って思われなかった。
ぽつぽつと歩いてるけど会話はなかった。でもそれが嫌とは思わない。こういう時間も心地いい。リリが掌を上にしてそれで輝く球体みたいなのを出してくれた。昔、夏祭りでしてくれた光る魔法? おかげで道もよく見える。
私は今、異世界を歩いてる。隣には異世界の友人を連れて。思えば不思議。普通なら絶対にあり得ないのに。ずっと夢や空想でしかないと思ってた。それが今は現実にある。
「ノノ?」
足が止まったからリリが心配して振り返ってくれた。
「リリ、ありがとう」
「急にどうしたの?」
「うん。あの時、リリと出会って私の異世界での日常が始まったから。毎日がきらきらした日を送れてるから。そのお礼、かな?」
「ふふ。それを言うなら私だってそうよ。こっちでの友達なんて殆どいなかったのに、ノノと出会ったおかげで私の毎日も変わったから。だから、私もありがとう」
何か改まってお礼を言われるのはちょっと照れくさい。リリも同じみたいで顔を赤くしてる。私は今どんな顔をしてるんだろう。きっと恥ずかしい顔をしてるんだろうけど、見られるのがリリならいいかな。
スマホを見たらもう0時を過ぎてた。いつの間にか年を越してたみたい。カウントダウンはしなかったけど、こういう年の越し方もいいかも。
「リリ、あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「それもノノの国の挨拶? だったら私も。おめでとう。こちらこそ、よろしくね」
私がお辞儀をしたらリリもお嬢様らしい丁寧なお辞儀をしてくれた。何だかお互い他人行儀っぽくて暗い路地の中で一杯笑っちゃった。
これでようやく1年目が終了しました! 初投稿からの期間も1年と1月と考えると感慨深いです。
きっと、こうして読んでくれている方がいなければ復帰してまた書こうとなっていなかったと思います。というわけで次回から2年目です! お楽しみください!




